無能な婚約者はいりません

ごろごろみかん。

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婚約者が無能です

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こいつ、無能だ。

そう思ったのは私がわずか13歳の時だっただろうか。確かあれは、登城する私に兄から大切な資料を託された時のことだった。兄から父に、今日執務で使う資料を父が忘れてしまったから私に届けて欲しいと言ってきたのだ。兄はその時なにか用事がなにかがあって行かなかった気がする。如何せん記憶は曖昧なので、あまりはっきりとは覚えていない。ただ、ひとつ確定的なのはあの時私が自分の婚約者に遭遇したということだ。
元々婚約者との仲を深めるために週に一度登城していた私は、当然のように慣れた足取りで城内を歩いていたように思う。多分。何度も言うが記憶がかなり曖昧なのだ。何年前の話かしら?今私が16歳だから3年前………。ふわっと覚えてはいるがしっかりとは思い出せないのも仕方ないと思う。だって、3年も前の話なのだし。何事も3年は耐えるべき、という言葉があった気がする。だけど耐えて思った。
私、やっぱりこいつとの婚約を破棄したい…………!!

婚約者に会う前にまずお父様に用事を済ませようと歩いていた私は、偶然自分の婚約者とばったり鉢あった。広い城内なのにこんなこともあるのだと驚いた覚えがある。

会って婚約者は、まず私の手に目を向けた。

「それ、俺が渡しといてやるよ」

確かに婚約者はそう言った。
相手は王子様だし、雑事を任せるのもどうかと気が咎めたが、本人が言うのだからまあいいかと渡した。
それが全ての始まりだったのだ。
ちょっと行ってくる、と声をかけてふらりと消えた王子の親切さに少し驚きながらも狼狽えていると、すぐに王子は戻ってきた。そして、婚約者としての時間、まあお茶を飲むだけなのだけど。その時間を過ごした。

それが明らかになったのは次の日の夕方だった。
血相を変えた父親が自室にノックもせずに自室に入ってきて、さすがの私も驚いた。
いくら身内といえど礼儀というものがある。あまりの無作法さに言葉を失った。そんな私に、父親は怒鳴るように言った。いや、怒鳴ったのだ。

「ルティカーナ!お前、推量軍事請求書をどこやった!」

「すいりょう………?」

難しい言葉の羅列が続いて私は目を丸くした。あと、いつになく怒り心頭の父親に驚いたのもある。
私が黙っていると、父親は隠していると思ったのか、苛立たしそうに言った。こんなに怒っている父親を見たのは初めてで、少し涙ぐんでしまった。

「ルトゥースがお前に預けた書類だ!お前、あれを私に渡さなかっただろう!あれをどうした?」

ルトゥースとは兄の名前だ。
兄に預けられたといえばひとつしかない。私はあ、も小さく呟いて父親に答えた。

「あれなら、リヴェルト様に………」

「リヴェルト様!?なんで殿下がそんなものを………だいたい殿下に雑用をお任せするなど無礼きわまりないだろう!それに殿下からは何も受け取っていない!お前、まさか無くしたからと言って嘘を言ってるんじゃないだろうな?」

「言ってません!本当よ、お父様。昨日偶然リヴェルト様と会って………」

「昨日はそもそも交楽会の日だっただろう」

交楽会とは、週に一度リヴェルト様とお会いする時間のことだ。わざわざ名前をつけなくても茶会でいいのに、と私は常に思っていた。なんというか、いちいち仰々しい。王族だから仕方ないのかもしれないが、婚約者とただ会うだけの内輪の約束なのに、なぜそんな名前が必要なのか私にはわからなかった。

「その前に会ったんです!」

「全く…………お前という娘は。嘘をつくだけでなく、殿下に渡し、あまつさえ殿下が無くされただと!?嘘も休み休み言いなさい。全く、こんな娘が次期王子妃とは嘆かわしい……」

「………………」

私はむっつり黙り込んだ。これ以上何を言っても私が駄々を捏ねているとしか思われないだろう。信じて貰えないことがすごく悔しくて、リヴェルト様への怒りを抱いた。ちゃんと渡してくれるって言ったのに!渡ってないじゃない!どういうことなのよ!
しかも怒られるのは私。確かに任せた私も悪かったのかもしれないけれど、渡すって言ったのは王子本人なのよ?しかもそう言われたら一臣下である私が断れるはずがないじゃない!
私は面倒なことが嫌いだ。争いも好みないし、権力争いとかもいちばん苦手な代物だ。王子妃に決まった時だって内心は~~~~~~~!?って思いながらニコニコ恐縮です、とか言ってたけど。内心は絶対いや!!!!だったもの。そんなことを言ったら不敬だって分かるから言わなかったけれど。
だから今回も黙って王子の言う通りにしていたのに………私が悪いの!?
理不尽に怒られた苦しさと信じて貰えなかった悲しみで感情がぐちゃぐちゃになった私は、次の交楽会の日、リヴェルト様にそれとなく聞いてみた。

「以前リヴェルト様にお渡ししたあの、書類なのですが………」

平穏を好み、波風立たせずに生きるのが私のモットーであり、私の信条でもあるのに確信をつく発言してしまった。私は人生でこれ以上ないというほど心臓が波打つのを感じた。謝られる?いや、ちゃんと渡したって言われるかも………。だったらそれをお父様にお伝えして………とか考えていた私に告げられたのは思わぬ言葉だった。

「何それ。そんなの渡されたっけ」

「…………」

こいつ無能だ。そう思った瞬間だった。


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