13 / 17
目的は目前
しおりを挟む待ち合わせ場所についたはいいものの人が多すぎてどこにルアヴィスがいるか分からない。
あの仮面は目立つだろうし、かと言って仮面をとってくるのも考えにくい。ルアヴィスはどんな格好でここに来るのかしら………。
石壁に背を寄せて人の行き交うところを見ていると、ふいに。本当に突然腕を引かれた。驚きすぎて思わずそちらを見ると、しかし相手の顔はわからなかった。恐らく男性だとは思うが彼はローブを羽織り、フードを深く被っていたからだ。明らかな不審者である。だけど私は直ぐに彼が誰か気がついた。
「ルア………っ!」
しかし声をかけようとすればすぐにローブの袖で口を塞がれる。何でもいいがこいつ私の口塞ぎすぎじゃないかしら。
「んんっ………!」
「名前を呼ぶな。バレたらどうする」
それは理解したから早く手を離して欲しい。私はルアヴィスの手を振り払うと、彼を睨みつけた。
「それは分かったから、無闇矢鱈に触れないでくれるかしら」
「それは悪かった」
あら、意外。あっさり謝るルアヴィスに私は僅かに拍子抜けした。だけどすぐに目的を思い出す。
「ルア……、…ルーでいいのよね?」
「ルー?」
「だって名前呼べないなら他の呼び方をするしかないじゃない。別に呼び方はなんでもいいのよ、あなたが誰か分かれば」
言えば、ルアヴィスは僅かに迷った素振りをするとほんの少しフードを持ち上げた。白いフードから見えたのは彼の夜色の髪と、少し戸惑いが現れる瞳だった。
私にしか見えないようにめくられたフードは、しかしすぐに下ろされてしまった。だけどそれで十分である。
私はにこりと笑うと、早速目的の場所に向かうことにした。
セイリーンの館。
それはもう夜が目前だからか、早々に開店準備を始めていた。これなら一番乗りで入れそうだ。私はルアヴィスほど深刻ではないが無闇矢鱈に顔を見せていいことなどない。私もまたルアヴィスのようにフードを被ると入口へと向かって歩き始めた。
薄々周りの建物外から予想がついていたのか、ルアヴィスが声をかけてきた。
「は?いや、入るとか言わないよな」
「そのまさかよ」
「嘘だろ?」
「嘘だと思う?」
私はちらりとルアヴィスを振り返って笑った。ルアヴィスの顔は見えないがその声から彼がとても困惑しているのが分かる。
「言ったでしょ、協力してって」
「いや…………いや、でもあんた夫人だよな」
思い出したように言うルアヴィスに、私は笑って答える。開店準備は終わり、店は綺麗にライトアップされていた。あたりは既に暗い。
「用がある子がいるのよ」
「………あんたが?この店に?ここ………娼館だよな?」
「あらご存知だったの」
「そりゃあ………」
煮え切らないルアヴィスの様子に私は下から覗き込むように彼の顔を見た。こういう時身長差は便利だ。俯いていたルアヴィスの顔は下から見ればはっきり見えた。
「…………あら」
「っ!」
ルアヴィスの顔は、夜闇においても分かるほどに赤かった。目元を赤く染めたルアヴィスは突然覗き込んできた私に驚いたのかローブの裾を払うようにして距離をとる。私は意外なルアヴィスの反応に、思わず聞いてしまった。
「あなた、童貞?随分可愛い反応するのね」
「うるさい!」
私の指摘はどうやら当たりだったらしく、ルアヴィスはどこか上擦った声になりながらも怒鳴り返してきた。娼館の玄関は目前である。
87
あなたにおすすめの小説
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる