王妃の鑑

ごろごろみかん。

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彼はーーー。
アルは、私の言葉にどこか諦めたような顔で笑った。

何笑ってるのよ。何が楽しいの。私は、私は。本当なら、彼を許したくない。でも、もういい。魔術とはいえ、もう一度やり直した十六年で、彼という人の本質を、知ったから。彼がやったことは許せないし、許したくない。でも、そんな彼を作り上げてしまった責任は私にもある。

「………いっそ、きみを監禁すれば良かった」

「………ふふ、最悪ですわね」

一瞬、本気で鳥肌が立った。もし前の状況で監禁などされていたら、きっと私は狂っていただろう。
どこで、間違ってしまったのか。どこから、おかしくなってしまったのか。彼が、アルが壊れる前に、私が支えてあげればよかったのか。
ノアの言葉を思い出す。これはきっと、仮定だけど。

ーーーアルは知ってしまったのだろう。

母の不貞と思っていたことが、それは事実ではなかった。もしかして、私の不貞も誤解なのではないか、と彼は考えた。だけどその時には既に私との関係は壊れていたのだろう。
きっと、アルは見掛け倒しの人なのだと思う。私は彼を神聖視しすぎて、気づかなかった。アルも、ただの人で。人間なのだと。当たり前なことに気が付かなったんだわ。
私たち、二人揃って馬鹿で、そして相性が悪い。例えるならマイナスとマイナスをかけると、それはプラスになるけれど、きっと私たちの場合は逆なのだろう。

私たちはお互い別々にいれば、普通の人間なのだろう。きっと迷うこともなかったたのかもしれない。
だけど、私と彼がパートナーになることによって、その計算は崩れる。
私は彼を『かっこいい王子様』としか見ていなかったし、きっと彼も私を『何も知らないお姫様』としか見ていなかった。だからこそ私は王子様としての彼以外を見ようとしなかったし、彼は私を深く信用しなかった。

「さようなら。今度あった時は、その時は殺します」

「………ネア。すまなかった」

すまないで済んだら、軍警はいないのよ。王子様。
そう心の中で付け加えて、私はその場から立ち去った。既に、真夜中だってけれど構わない。手荷物を確認すれば、城を出る前に持ってきていた装飾具があった。これを売ればしばらくは何とかなるだろう。

空を見上げる。そこには月が浮かんでいた。
これで、良かったのかしら。ねえ、ノア。

「………それにしても、一発殴ってやりたいわね、ノアは」

突然現れたかと思いきや、突然私を元の世界に戻すという。もっと説明を早くしろだとか、理解する時間が欲しかったとか、言いたいことは沢山ある。おまけにこちらの世界のノアとは初対面ときた。
………もう、どうすればいいのよ。

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