王子様の呪い

ごろごろみかん。

文字の大きさ
2 / 6

大広間 (2)

しおりを挟む
「リデル………だと?」

第二王子が困惑した声を出す。それにリーゼロッテはにっこりと笑った。自分の隣にリデルを立たせると、第二王子とリデルの顔を見比べる。リデルはリーゼロッテとは違い亜麻色の髪が真っ直ぐ伸びたサラサラの髪の持ち主である。サファイアのような翡翠色の瞳は濡れているように輝いていて、キャサリンとは違う魅力がある。リデルはカイゼルを見るとすぐに泣きそうな顔になった。リーゼロッテが説明をする。

「今お伝えしたとおり、我々の婚約はただの婚約ではなく、契約。つまり我が公爵家との婚約は継続していただく必要があります」

「何が言いたい?なぜわざわざリデルを?お前は何を企んでいる!リーゼロッテ!」

「気安くお名前を呼ばないでくださる?わたくしたち、もう婚約者じゃないのだから」

「は…………!?」

カイゼルの目が大きく開かれる。彼の紫色の瞳を見ながら、リーゼロッテはリデルの背中を押した。

「リデルは今、妊娠してるかもしれないんです」

「何だと…………!?」

それにはさしものカイゼルも驚いたのか、驚きの声を上げた。キャサリンに至ってはその顔が青ざめている。公爵家の娘と子爵家の養女、どちらが妃に相応しいかと言われれ前者に軍配があがるのは当然だ。リデルは泣きながらかカイゼルに縋った。広間はとんだド修羅場に包まれていた。周りの貴族は驚いたように息を飲むもの、面白そうにこちらを見ているもの、かかわり合いになりたくないとばかりに視線を逸らすもの、他者多様だった。

「あなたの子ですよ、カイゼル様」

リーゼロッテが言うと、カイゼルはそれにハッとしてようにリデルを突き飛ばした。たたらをふむリデルをリーゼロッテが支える。妊婦を突き飛ばすとはどこまでクズなのか。リーゼロッテはカイゼルを睨んだ。この妹は困ったところが多くリーゼロッテも好きではなかったが、それでも妹である。妊婦の彼女を突き飛ばしたカイゼルはありえないほどのクズと認定された。

「知らない!!そんなの、その女がついた嘘かもしれないだろ!」

「そ、そうよ!カイゼル様はそんなことされないんだから!」

慌てたようにキャサリンも声を続ける。ハッピーな思考回路の持ち主で何よりだが、彼らは知らないのだろうか。リデルはリーゼロッテの妹であり、リーゼロッテはカイゼルの婚約者だったということを。

「馬鹿にするのも大概になさって?リデルはわたくしの妹で、そしてわたくしはあなたの婚約者だったのですわよ?カイゼル様」

「は?そ、それがどうした………」

明らかにうろたえている様子のカイゼル。それにリーゼロッテはうっそりと笑って扇で口元を隠した。お前とはもう話したくないと言わんばかりの拒否体制だ。しかしそれに気づけるようなカイゼルではない。

「わたくしが何も知らないとでも?」

「…………」

カイゼルが驚いたように息を飲む。いつしか広間は水を打ったように静かになっていた。

「去年の聖夜の夜、夜会の後でリデルと中抜けしましたわね。わたくし知ってますのよ、なんて言ったってわたくしの家で行われたことですし」

「そ、それは…………」

「わたくしが見たと言っているのにまだ嘘だと言い張るのですか?屋敷の使用人にも目撃者はいるのに?………ああ、あの夜会にいた時の方もおそらく知ってるわね。気になるようでしたら再度あの時の参加者をお呼び立ていたしますか?幸い、我が家がホストでしたので招集をかけるのは簡単ですわ」

リーゼロッテがそこまで言うと、カイゼルは顔を青ざめさせた。そう、カイゼルは知っているのだ。酔っていなかったしもちろん覚えている。リデルとの一夜のことをしっかりと覚えていたのだ。カイゼルにしてみたらいつものようにただの火遊びのつもりだった。リデルも慣れているようだったし…………そこまで考えた時はっとしてカイゼルはリデルに罵倒するように言った。

「いい加減にしろ!!その女が俺以外の男をくわえこんだ可能性だって大いにある!そうだ、お前らはハメようとしてるんだろ!俺を!この、無礼者めが!」

「無礼者はお前だ!控えろ、カイゼル!!」

その時、劈くような静かな声が広間にひびいた。気がつけば人の波が割れていて、その間から厳かな衣装を身につけた男がやってくる。ひと目で分かった。国王陛下だ。この騒ぎに誰かしらが国王に使いを出したのだろう。先程退出したばかりの国王はかなり焦って戻ってきたようで珍しくその髪が乱れていた。国王は急ぎ足でリーゼロッテたちの近くまで来ると、自分の息子であるカイゼルを睨みつけた。

「デストロイ公爵家の娘と勝手に婚約を破談しようとするなど…………!この馬鹿めが…………!」

唸るような低い罵声を浴びさせられて、カイゼルは硬直した。同じくキャサリンもその顔は蒼白だ。リデルだけがしおらしく俯いていた。だけど姉のリーゼロッテは知っている。リデルのこれは演技で内心はキャサリンのことをざまぁみろとでも思ってるのだろう。リデルは王子妃になりたいようだったから。しかしこの国の王子はカイゼルだけ。王太子は既に結婚してしまっている。
去年の聖夜の夜会で仕掛けたのもおそらくリデルだろう。それにホイホイと乗った王子はどうしようもない馬鹿だが。

「王妃の最愛の息子と思ってこれまで大目に見ていたが…………これ程とはな……………!カイゼル、お前のような馬鹿息子はこのリームヴ王国の王族には要らん!!お前の王位継承権をこの場において、国王の権限により剥奪する!」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので、元婚約者の兄(無愛想な公爵様)と結婚します

ニャーゴ
恋愛
伯爵令嬢のエレナは、社交界で完璧な令嬢と評されるも、婚約者である王太子が突然**「君とは結婚できない。真実の愛を見つけた」**と婚約破棄を告げる。 王太子の隣には、彼の新しい恋人として庶民出身の美少女が。 「うわ、テンプレ展開すぎない?」とエレナは内心で呆れるが、王家の意向には逆らえず破談を受け入れるしかない。 しかしその直後、王太子の兄である公爵アルベルトが「俺と結婚しろ」と突如求婚。 無愛想で冷徹と噂されるアルベルトだったが、実はエレナにずっと想いを寄せていた。 婚約破棄されたことで彼女を手に入れるチャンスが巡ってきたとばかりに、強引に結婚へ持ち込もうとする。 「なんでこんな展開になるの!?』と戸惑うエレナだが、意外にもアルベルトは不器用ながらも優しく、次第に惹かれていく—— だが、その矢先、王太子が突然「やっぱり君が良かった」と復縁を申し出てきて……!?

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

令嬢が婚約破棄をした数年後、ひとつの和平が成立しました。

夢草 蝶
恋愛
 公爵の妹・フューシャの目の前に、婚約者の恋人が現れ、フューシャは婚約破棄を決意する。  そして、婚約破棄をして一週間も経たないうちに、とある人物が突撃してきた。

王太子殿下が欲しいのなら、どうぞどうぞ。

基本二度寝
恋愛
貴族が集まる舞踏会。 王太子の側に侍る妹。 あの子、何をしでかすのかしら。

悪役令嬢ですが、今日も元婚約者とヒロインにざまぁされました(なお、全員私を溺愛しています)

ほーみ
恋愛
「レティシア・エルフォード! お前との婚約は破棄する!」  王太子アレクシス・ヴォルフェンがそう宣言した瞬間、広間はざわめいた。私は静かに紅茶を口にしながら、その言葉を聞き流す。どうやら、今日もまた「ざまぁ」される日らしい。  ここは王宮の舞踏会場。華やかな装飾と甘い香りが漂う中、私はまたしても断罪劇の主役に据えられていた。目の前では、王太子が優雅に微笑みながら、私に婚約破棄を突きつけている。その隣には、栗色の髪をふわりと揺らした少女――リリア・エヴァンスが涙ぐんでいた。

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ

猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。 当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。 それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。 そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。 美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。 「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」 『・・・・オメエの嫁だよ』 執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?

【完結短編】真実の愛を見つけたとして雑な離婚を強行した国王の末路は?

ジャン・幸田
恋愛
真実の愛を見つけたとして政略結婚をした新妻を追い出した国王の末路は、本人以外はハッピーになったかもしれない。

処理中です...