悪の皇女の幸福論 。どうぞ、お幸せになるならご勝手に。

ごろごろみかん。

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1.皇女の責務

片方の忍耐で成り立つ生活

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私とルミエールは、互いに魔力が高かった。
だから、縁談がまとめられた。

隣国ツァウバーリヒトでは、既に国民平均魔力値の低下が問題視されていて、エリセリュン皇国は同じ轍を踏まないように対策を取ったのだ。

だから、この婚約はどうしても解消することはできなかったし、離縁なんてもっと無理。

私の唯一のこころの拠り所は、魔道具の鑑定だった。

私は、魔力量が豊富な割に五属性のうち、一属性しか使えないという、ある意味で落ちこぼれな皇女だった。
エリセリュン皇国の民なら、二属性から三属性は使えて当たり前だ。

それなのに、その皇女が火属性しか使えない。

しかも、私の火属性は、炎を生み出す、というよりも【爆発】だった。

火魔法などではない。もはや爆発魔法である。

そんなもの、使い道も限られる。
何より爆発する魔法など、危険極まりない。

私は、豊富な魔力量があるのに技量が追いついていない、いわゆる残念な皇女だった。



身動ぎすると、冷たい感覚に意識を引き戻それる。

腕には、金属のブレスレットが嵌っている。

これは先日鑑定していた魔道具だ。
鑑定が終わったので、検証がてら腕に嵌めていたのだった。

これが私の元に届けられた経緯は、神殿からの依頼にある。
神殿に、管理不明の魔道具が届けられたのだ。
そして、魔道具に詳しい私に鑑定依頼が来た。

元皇女であり、公爵夫人の私が職業婦人のような真似をすることに、ルミエールは何度も文句を言った。

それはもはや、嫌味だった。

『きみはいいよな。好きなことをして金を貰ってるんだろ?楽な仕事だよな。羨ましいよ』

何を言われているのか、一瞬理解が追いつかなかった。
人間、驚くとほんとうに頭が真っ白になるのたと、初めて私は知った。

私の趣味は、魔道具鑑定および魔道具の作成だ。

だから、魔道具を鑑定する作業は確かに楽しい。それで利益を得ているのも事実。

だけど、好きな仕事だからといって、それがイコール楽というわけではない。

楽をして金を貰っている?
楽をして利を得ている?

(楽なんかじゃ、ないわよ……!)

難しい作業の時は徹夜することも多いし、納期だって決まっている。

魔法学院の入学試験はパスしているものの、在籍経験のない私は、知識不足なことも多い。

魔法学院に入学しなかった理由は、私の置かれた環境にあった。
入学しなかったのではなく、できなかったのだ。お父様の理解を得られなかった。

そのため、私は魔法学院で学べていない。
知識不足を補うためには、方々から書物を取り寄せて、ああでもないこうでもないと必死に机に齧り付くしかないのだ。

楽な仕事ではない。
正直、得られる対価と、作業量は釣り合わない。

そもそも、神殿からの依頼なのだからほぼボランティアみたいなものだ。大金が得られはずがない。
だから、誰もやりたがらず私のところに回ってくる。

なぜやるのか、と聞かれたら──

そんなの、楽しいからに決まっている。
好きだから、やっているのだ。

そうとしか答えられない。
好きじゃなきゃ、続けていない。

彼の嫌味交じりの声に、無言を貫くことはできず、案の定揉めた。

だけどそれでも、私は彼の言葉に、【魔道具鑑定】という仕事を馬鹿にされたように感じたし──それ以上に、とてつもなく悔しかったのだ。

その悔しさは今も尚、昨日の事のように思い出せる。


この魔道具の効果は先日確認済だ。
これを使えば──私は、私が定めた皇女の責務をはたせる。

(火が強い。引導を渡すなら早くしないと)

覚悟は決めた。
腐っても、私はルミエールの妻だ。
彼が道を踏み外そうとしているのなら──それ止めるのもまた、妻の務めだろう。

ケホ、とちいさく咳をしたところで、視界の先に揺らめく影を見た。蜃気楼かと思ったけれど、それは紛れもなくひとだった。

(ひと──)

咄嗟に、腕に嵌めた魔道具に触れる。
いざとなったら、これで。

そのひとは、男性のようだ。
炎の中にいるというのに黒いローブを羽織り、フードを深く被っていて顔は見えない。

(ツァウバーリヒト国の……)

一瞬、焦りが背を駆け抜けたが、そのひとは何をするでなく、そこに立っている。
まるで亡霊のように。

(……人間、よね?)

若干不安になったところで、目前の扉が開かれた。

飛び出すように出てきたのは、ヘレナだ。
扉のすぐそばにいた私に、彼女はとんでもなく驚いたようだった。

「きゃっ!?」

飛び退るヘレナを後からでてきた旦那様が抱きしめる。旦那様は私に気がつくと、ホッとしたように私を呼んだ。

「マイン……!こんなところにいたのか。ちょうど良かった!」

先程の会話が、私に聞かれていたとは露ほども思っていないのだろう。
希望を見出した目で、ルミエールが私を見る。

ルミエールは外面がいい。
淡い金髪に、穏やかに見えるはちみつ色の瞳が、そう印象づけるのだろう。

私は、それに微笑みを浮かべた。
もう、下手に出るつもりなんて毛頭なかった。

「軽々しく私の名前を呼ばないでください」

ルミエールは、私を見下している。どうとでもできると思っているから、警戒すらしないのだ。


──彼は、知っているはずなのに。

私が魔法学院の試験に合格していることを。
魔道具鑑定が趣味で、それらの知識が豊富であることを。

私は腕の魔道具に触れた。
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