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第四章・興国の王女
365.嵐は突然訪れる2
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「ぼくもそれに関しては同意見だよ。魔物の行進が起きるとしてもまだ先だと思ってたんだが……」
(──まだ魔界の扉は完全に開ききってはいない筈だ。なのに何で、魔界の魔物共がもう人間界に出てきてやがるんだ?)
内心困惑する悪魔は、必死にその原因を探した。一体何故、本来よりもずっと早く魔物達による人間界への侵略が始まったのか。
考えを巡らせ、悩み、そして彼は一つの答えに辿り着く。
(魔界の扉…………そうか、まさか!?)
何かに気がついたシュヴァルツは勢いよくクロノを睨み、
「……──ッおいクロノ! お前まさかっ、人間界に来る時また魔界の扉を通って来たんじゃねぇだろうな!?」
猫を被る事も忘れ、大きな口でそう叫んだ。
黒の竜が暫く魔界にいたと聞いているアミレス達はそこでハッと息を呑み、何かを察したように目を丸くしていた。
そして、当のクロノはというと。
「当たり前だろう。それ以外にどうやって魔界と人間界を行き来するって言うんだ」
何馬鹿な事言ってんだよ。とでも言いたげな呆れた表情で、クロノはため息をついた。
その時の部屋の空気は最悪だった。
冷え切っていて、澱んでいて。流石のナトラもこれには気づいたらしく、「兄上の所為じゃよ」とクロノを見上げてぽつりと零した。それがどうにも不服なようで、クロノは「えっ」と驚きを漏らす。
クロノの言い分を聞いて、悪魔の推測は確信に変わる。声にならない叫び声をあげながら、彼は頭を抱えた。
(あ~~~~~~~~っ、もうどう考えてもコイツの所為じゃねェか! コイツが人間界と魔界を行き来する為に勝手に扉を開いて、それで黒の竜が通れるぐらい魔界の扉が開かれたのなら、そりゃァもう全開だろうな!! 魔物の行進だって前倒しになるわクソが!!)
元より魔物の行進は彼の管理下にない侵略行為であり、悪魔とて魔界の扉の様子からその発生時期を大まかに予測する事しか出来なかった。
何故ならこの侵略は魔物達が食糧を求めて本能のままに人間を襲いに行くものであって、魔界による侵略ではないから。
なので、この食糧と本能の為だけの侵略行為を今の彼が止める事は出来ず、もし仮にそれが起きたとしても……ある制約の一項目によって未だそれらに縛られる羽目になっているこの悪魔には、何も出来ないのだ。
故に、悪魔は焦燥感を覚える。彼が思っていた時期よりも早く、ギリギリ間に合わないタイミングで始まったその厄介な侵略行為から──どうやってアミレスを守ったものかと。
「魔物の行進……魔界の魔物共が人間界に侵攻して、世界規模で人間を襲うやつか。また面倒な事しやがって……魔界で大人しくしておけばいいのに」
「シルフさん、全然素を隠せてないっすよ。まーでもそれには同意だな。何で大人しくしててくれないのかねぇ、魔物ってやつは」
「魔界の事なんて心底どうでもいいからボクも知らないよ。ああもう、なんでよりにもよって魔物の行進が今発生するんだよ!」
魔界の住人から相当迷惑をかけられてきたのか、シルフは苛立ちを隠そうともせず悪態をつく。
だが、どうやら理由はそれだけではないようで……。
「魔物の行進は魔界によるものですので、我々が介入しては精霊界と魔界と妖精界の間で定められた相互不干渉の制約に抵触してしまいます。姫君をお守りすると誓った傍から、まさかこのような面倒事が発生するとは」
「もし本当に、魔物の行進が今しがた発生したのだとしても、そう易々と帝都までその波が来る事はないと思うんだが……」
シルフの憤りの理由を察してどこか説明口調で語ったフィンに、おずおずとマクベスタは意見を投げかけた。
それに軽く頷き、フィンは続ける。
「確かにこの国は白の山脈より最も近い地域が妖精の祝福を受けた者達の地域であり、周辺諸国と比べても魔物の群れが主要都市に到達する可能性は低いでしょう」
しかし、と彼が話を引っ張ろうとした時。シュヴァルツがそれに割って入った。
「魔物自体はこの世界のどこにでもいる。魔界の魔物共が出てきた影響──魔界の扉が完全に開いて魔界特有の魔力が人間界に溢れ出た影響で、元々この世界にいる魔物共まで活動が活発になるんだ。だから、白の山脈から離れた場所だからって一概に安全とは言いきれないよ」
「そうなのか……確かにそこらの森や草原にも魔物は出没するが、まさかそれが魔物の行進の影響で活発になるなんて」
(──オセロマイトは、大丈夫だろうか)
オセロマイト王国は白の山脈からも離れた土地にあるものの、同時に海に面しており百年樹と呼ばれる大樹の下には魔物の巣窟がある。
故に、却ってそこらを彷徨く魔物達が活発になる事の方が彼にとっての大きな不安となるのだ。
「……あの。シルフ様に聞きたい事があるのですが、いいですか」
「何だ、アル──じゃなかった……ルティ。とりあえず言ってみろ」
「では。その魔物の行進なのですが、どれぐらいの期間続くのでしょうか?」
「詳しい期間や、そもそもの理由をボクは知らない。ただ、前回のそれはだいたい十年ぐらい続いてたんじゃないかな。世界規模でかなりの数の人間が減ったから少しばかり記憶に残っているよ」
「十年……!?」
その長すぎる期間に彼等は息を呑む。
十年もの間絶えず白の山脈より魔物達が溢れ出し、周辺諸国に雪崩込んでいたのだと想像し……その場にいた人間達は絶句した。
「魔物の行進に参加する魔物共に、大した目的なんてないよ。腹が減ったから──それだけの理由で、アイツ等は食べ物欲しさに人間界へと侵攻するんだ」
シュヴァルツの発言に精霊達ですら言葉を失った時、クロノが記憶を探るように口を開いた。
「……そう言えば、魔界は相当な食糧難だったな。どこもかしこも荒れ果てていたし、自然なんて血なまぐさい川や湖や、鬱蒼とした森しかなかったよ」
(荒れ果ててたのはお前が暴れ回ったからだけどな)
「自然が無い……魔界とは、そんなにも寂しい世界じゃったのか?」
「うん。僕が見た限り、自然も無ければ温かみも無い世界だった。自然だけじゃなくて、家畜なんかもほとんど育たない環境だから、本当に食糧問題が深刻みたいだったよ」
(ヒトが数十年かけて必死こいて作った牧畜環境をぶっ潰しやがったのはお前だけどな)
クロノが話す度に、シュヴァルツは額に浮かぶ青筋を増やす。
かなり他人事のように話すクロノだったが、魔界の食糧問題や荒廃した土地の多さに自身が大きく関わっている──というか、ほぼ自身の仕業である事には何故か気づかないらしい。
(──まだ魔界の扉は完全に開ききってはいない筈だ。なのに何で、魔界の魔物共がもう人間界に出てきてやがるんだ?)
内心困惑する悪魔は、必死にその原因を探した。一体何故、本来よりもずっと早く魔物達による人間界への侵略が始まったのか。
考えを巡らせ、悩み、そして彼は一つの答えに辿り着く。
(魔界の扉…………そうか、まさか!?)
何かに気がついたシュヴァルツは勢いよくクロノを睨み、
「……──ッおいクロノ! お前まさかっ、人間界に来る時また魔界の扉を通って来たんじゃねぇだろうな!?」
猫を被る事も忘れ、大きな口でそう叫んだ。
黒の竜が暫く魔界にいたと聞いているアミレス達はそこでハッと息を呑み、何かを察したように目を丸くしていた。
そして、当のクロノはというと。
「当たり前だろう。それ以外にどうやって魔界と人間界を行き来するって言うんだ」
何馬鹿な事言ってんだよ。とでも言いたげな呆れた表情で、クロノはため息をついた。
その時の部屋の空気は最悪だった。
冷え切っていて、澱んでいて。流石のナトラもこれには気づいたらしく、「兄上の所為じゃよ」とクロノを見上げてぽつりと零した。それがどうにも不服なようで、クロノは「えっ」と驚きを漏らす。
クロノの言い分を聞いて、悪魔の推測は確信に変わる。声にならない叫び声をあげながら、彼は頭を抱えた。
(あ~~~~~~~~っ、もうどう考えてもコイツの所為じゃねェか! コイツが人間界と魔界を行き来する為に勝手に扉を開いて、それで黒の竜が通れるぐらい魔界の扉が開かれたのなら、そりゃァもう全開だろうな!! 魔物の行進だって前倒しになるわクソが!!)
元より魔物の行進は彼の管理下にない侵略行為であり、悪魔とて魔界の扉の様子からその発生時期を大まかに予測する事しか出来なかった。
何故ならこの侵略は魔物達が食糧を求めて本能のままに人間を襲いに行くものであって、魔界による侵略ではないから。
なので、この食糧と本能の為だけの侵略行為を今の彼が止める事は出来ず、もし仮にそれが起きたとしても……ある制約の一項目によって未だそれらに縛られる羽目になっているこの悪魔には、何も出来ないのだ。
故に、悪魔は焦燥感を覚える。彼が思っていた時期よりも早く、ギリギリ間に合わないタイミングで始まったその厄介な侵略行為から──どうやってアミレスを守ったものかと。
「魔物の行進……魔界の魔物共が人間界に侵攻して、世界規模で人間を襲うやつか。また面倒な事しやがって……魔界で大人しくしておけばいいのに」
「シルフさん、全然素を隠せてないっすよ。まーでもそれには同意だな。何で大人しくしててくれないのかねぇ、魔物ってやつは」
「魔界の事なんて心底どうでもいいからボクも知らないよ。ああもう、なんでよりにもよって魔物の行進が今発生するんだよ!」
魔界の住人から相当迷惑をかけられてきたのか、シルフは苛立ちを隠そうともせず悪態をつく。
だが、どうやら理由はそれだけではないようで……。
「魔物の行進は魔界によるものですので、我々が介入しては精霊界と魔界と妖精界の間で定められた相互不干渉の制約に抵触してしまいます。姫君をお守りすると誓った傍から、まさかこのような面倒事が発生するとは」
「もし本当に、魔物の行進が今しがた発生したのだとしても、そう易々と帝都までその波が来る事はないと思うんだが……」
シルフの憤りの理由を察してどこか説明口調で語ったフィンに、おずおずとマクベスタは意見を投げかけた。
それに軽く頷き、フィンは続ける。
「確かにこの国は白の山脈より最も近い地域が妖精の祝福を受けた者達の地域であり、周辺諸国と比べても魔物の群れが主要都市に到達する可能性は低いでしょう」
しかし、と彼が話を引っ張ろうとした時。シュヴァルツがそれに割って入った。
「魔物自体はこの世界のどこにでもいる。魔界の魔物共が出てきた影響──魔界の扉が完全に開いて魔界特有の魔力が人間界に溢れ出た影響で、元々この世界にいる魔物共まで活動が活発になるんだ。だから、白の山脈から離れた場所だからって一概に安全とは言いきれないよ」
「そうなのか……確かにそこらの森や草原にも魔物は出没するが、まさかそれが魔物の行進の影響で活発になるなんて」
(──オセロマイトは、大丈夫だろうか)
オセロマイト王国は白の山脈からも離れた土地にあるものの、同時に海に面しており百年樹と呼ばれる大樹の下には魔物の巣窟がある。
故に、却ってそこらを彷徨く魔物達が活発になる事の方が彼にとっての大きな不安となるのだ。
「……あの。シルフ様に聞きたい事があるのですが、いいですか」
「何だ、アル──じゃなかった……ルティ。とりあえず言ってみろ」
「では。その魔物の行進なのですが、どれぐらいの期間続くのでしょうか?」
「詳しい期間や、そもそもの理由をボクは知らない。ただ、前回のそれはだいたい十年ぐらい続いてたんじゃないかな。世界規模でかなりの数の人間が減ったから少しばかり記憶に残っているよ」
「十年……!?」
その長すぎる期間に彼等は息を呑む。
十年もの間絶えず白の山脈より魔物達が溢れ出し、周辺諸国に雪崩込んでいたのだと想像し……その場にいた人間達は絶句した。
「魔物の行進に参加する魔物共に、大した目的なんてないよ。腹が減ったから──それだけの理由で、アイツ等は食べ物欲しさに人間界へと侵攻するんだ」
シュヴァルツの発言に精霊達ですら言葉を失った時、クロノが記憶を探るように口を開いた。
「……そう言えば、魔界は相当な食糧難だったな。どこもかしこも荒れ果てていたし、自然なんて血なまぐさい川や湖や、鬱蒼とした森しかなかったよ」
(荒れ果ててたのはお前が暴れ回ったからだけどな)
「自然が無い……魔界とは、そんなにも寂しい世界じゃったのか?」
「うん。僕が見た限り、自然も無ければ温かみも無い世界だった。自然だけじゃなくて、家畜なんかもほとんど育たない環境だから、本当に食糧問題が深刻みたいだったよ」
(ヒトが数十年かけて必死こいて作った牧畜環境をぶっ潰しやがったのはお前だけどな)
クロノが話す度に、シュヴァルツは額に浮かぶ青筋を増やす。
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