だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第四章・興国の王女

369.魔物の行進2

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「どうやら、帝都近郊に出現する魔物が増えてるらしくて。私も戦う事にしたの」
「お前がか? …………そうか。我がどう言っても、お前は決してその意思を曲げぬのじゃろう。ならば我から言う事など──……いや。一つ、あるか」

 小さな手のひらが、私のマントをぎゅっと掴んだ。

「どうか、息災であってくれ。我はもう大切な誰かが目の前で傷つく姿を見たくない。決して、お前に誰かを重ねて見ている訳ではなく…………我がお前に傷ついて欲しくないと、心からそう願っておるだけじゃ」

 ナトラがあまりにも切なげな表情をするものだから。
 私の膝はいつの間にか曲げられていて、気がつけばこの手はナトラの頭の上に置かれていた。

「ふふ、心配してくれてありがとう。皆に心配かけたくないから、怪我しないように気をつけるね」
「本当に気をつけるのじゃな?」

 敵の攻撃を受ける前に全て殺してしまえば、怪我だってしないよね?
 魔物達には悪いけど、皆に心配をかける訳にはいかないし……そもそも、その存在の所為で世界各地で大小様々な被害が出ている。
 ならば、全て殺してしまってもいいわよね? 
 あちらも生きる為にやっている事なんだろうけど、そんなの私からすればどうでもいい話。
 私は私らしく──他者の一生も尊厳も全て踏み躙って、その命と心を氷のように砕いていくだけだ。

「ねぇ、おねぇちゃんが魔物共の相手をしに行くって本当なの? そんなの他の奴等に任せておけばいいじゃん。おねぇちゃんが薄氷を踏む必要ある?」
「……君はナトラのお気に入りだから、下手に死なれると僕が困るんだけど」

 シュヴァルツとクロノまで、わざわざ喧嘩を中断してまでこちらに駆け寄って来た。
 何故か私が戦う事に不満を零す彼等に、何と返したものかと悩んでいた時。後ろから誰かに抱き締められて。
 その時視界の端でキラキラと輝き目を引く綺麗な髪と、ふわりと漂う不思議な香りから、それが誰かはすぐに分かった。

「シルフ、用事は済んだの?」
「うん。部下への仕事の割り振りは済んだから、これで、何か用事でも無い限り基本的にはアミィの傍にいられるよ」

 ふふふ。と上機嫌に笑うシルフを見て、緊張感が少し解れる。

「そっか。でもごめんね、私今からちょっと戦いに行ってくるから。シルフ達は暫くお留守番しててくれるかな」
「あれ、アミィってばこの前のボク達の話を何も理解してない?」
「えっ?」

 気配的には師匠もいるみたいだったので、二人いる前提で話を進めたところ、どうやらビンゴだったらしい。
 少し離れた所から、師匠の声も聞こえて来た。

「基本的には何も出来ませんが……俺達だって姫さんを守る盾ぐらいにはなれますよ。だからせめて傍に置いて下さいな」
「そうそう。エンヴィーの言う通りだよ。ボク達には、この戦いをどうにかする事もましてや介入する事も難しい。だけど、飛んで来た火の粉からアミィを守る事ぐらいならボク達にだって出来る」

 だから、とシルフと師匠はその綺麗な声とかっこいい声を重ねた。

「どうか、一人で抱え込まないで。何でもいい……ボク達を頼っておくれ」
「俺達を──姫さんを心配する奴等の事を、少しぐらい信じてくれませんか?」

 その言葉を聞き、周りを見渡すと……皆がこちらをじっと見ていて、目が合うと小さく頷いた。
 まるで、シルフ達の言葉に同意するかのように。
 誰にも怪我をして欲しくないと私が思うように、皆だって私に怪我をして欲しくないと思うらしい。
 どこかむず痒い気持ちになりながらも、私は皆の優しさに甘えてしまった。

「……──皆、お願い。どうか私と一緒に戦って欲しいの」

 そう告げると。
 どうしてか、皆が嬉しそうに笑った。


♢♢


「どうした、レオナード。お前から僕の所を訪ねるなど、珍しい事もあったものだ」
「……フリードル殿下に、折り入ってお願いしたい事がありまして」
「願い? 世迷言であれば斬り捨てるが……まあいい。手短に話せ」
「ありがとうございます」

 休む間もなく書類に目を通してはそれを処理するを繰り返し、同時進行で魔物の行進イースター対策班での次の施策についても処理を進める。
 戦場に赴いた父上に代わり諸作業や統帥権を担う僕は、自分で言う事でもないがそれはもう多忙を極めていた。
 そこに、突然この男が現れた。まあ……事前に僕を訪ねる旨の報せは来ていたから、完璧に突然という訳ではないのだが。
 レオナードが自ら僕の元を訪ねてくるなど珍しい。あの表情からして、相当重要な用件のようだが。

「フリードル殿下。近頃、帝都近郊の魔物の数が急増していると聞きました。なのでここで一つ提案なのですが──俺を、軍師として使って下さい。戦闘面では全く役に立ちませんが……ディジェル領で暮らして来た為、俺もある程度、魔物との集団戦の采配でしたら心得があります。きっと、お役に立てる事でしょう」

 正直、願ってもない提案だった。
 僕はどちらかと言えば戦場で剣を振る方が性に合っている。だがそれでは此度の魔物の行進イースターにおける指揮官が不在となる為、こうして裏方仕事に徹していたのだが──。

「テンディジェルの頭脳を帝国の為に使えと。お前はそう言うのか」

 これまで、頑なにその頭脳を領地の為だけに使って来た一族が……ここに来て突然、帝国の為にそれを使うと宣った。
 それも、歴代テンディジェル一族の中でも指折りの優秀さとの呼び声高き、あのレオナードが。

「はい。どうぞ、俺をお使い下さい。王女で──……この国の為ならば、俺は焼き切れるその時までこの頭を駆使してみせます」
「そうか。ならばその提案受け入れよう。僕の名で、お前を一時的に我が対策班の軍師とする事を発表する。戦場に赴き現地で指示を出すのであれば、お前の所の護衛騎士も連れて行くがいい。こちらで話は通しておこう」
「感謝致します。帝国の未来を守るべく、尽力致します」

 以前、僕の十五歳の誕生パーティーで顔を合わせた時とは比べ物にならないぐらい、顔つきが変わっていた。
 明確な目標が出来たのか、はたまた自分に自信が持てるようになったのか。
 レオナードの変化の理由は分からないが……おどおどしてはこちらの顔色を窺ってばかりだったあの男が、こうもハッキリと自分の意見を主張し、自ら何をすべきか考え行動に移すようになったのは素直に喜ばしい事だ。
 これが、いずれ来る僕の治世にも良い影響を齎すといいのだが。

「ジェーン、お前も聞いていただろう。今すぐ帝都近郊で魔物討伐にあたっている者達に通達しろ。『ここから先は、テンディジェルの次期当主が全軍を指揮する。我が国を守るべく彼の指示に従うように』──と」
「は、御意のままに。我が君マイ・マスター

 レオナードが部屋から出た後。
 どうせ身を潜めて話を聞いていたのであろうジェーンに向け、指示を飛ばす。するとどこからともなくジェーンが現れ、瞬く間にまた姿を消した。
 ……さて。ならば、僕も戦いに出ようか。
 日中の間だけでも兵達の手伝いをしてやらないと。いくら鍛え抜かれた兵達とは言えども、四六時中気を休める暇もなく戦っていればすぐにガタが来てしまうだろうからな。

「この国の皇太子として、僕は成すべき事を成すまでだ」

 魔剣極夜を手に、僕は仕事を放ったらかしにして執務室を後にする。
 仕事なんてものは夜中にやればいい。日中のうちに魔物を減らせるだけ減らしておけば、夜間に警戒にあたる兵達の負担も減るだろうからな。
 下手に無理をされて、その結果死なれでもしたらそれは統帥権を委ねられた僕の責任となってしまう。それは、避けねば。

 家紋の入ったマントを翻し、城の中を悠然と進む。
 すれ違った者達に僕も戦場に出る事を告げると、誰もが目を丸くして言葉を失っていた。
 皇太子たる僕にもし万が一の事があれば……などと考えているらしい。
 その全てに「問題無い」とだけ返して、僕は帝都の外──……青い草原が美しく、今や魔物達が跋扈するその平地へと赴いた。
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