だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

文字の大きさ
515 / 866
第五章・帝国の王女

465.プレゼントの多様性4

しおりを挟む
 ……うん? でも、ケイリオルさんから前世の知識に関する言及をされた事がないってことは……そのチート魔眼の力すらも跳ね返しているのかしら、私達転生者の精神防犯組織セキュリティは。
 本当に訳が分からないわ。どう考えても、私達が転生者だからって理由だけじゃ説明がつかないじゃないの、こんなの。

「──だからこそ、あんな常時発動型の広域魔眼を使いこなせるあいつの頭はおかしいんだよな。その効果範囲は操れるだろうが、下手すりゃとんでもない情報量が一気に頭の中に流れ込んで来るんだ。並大抵の頭じゃ処理しきれねぇ筈なのによ」

 あいつはなんで、脳の破壊オーバーヒートを免れてんだ? と、アンヘルは気だるげな瞳でケイリオルさんをひと睨みして、呟いた。
 世の中には知恵熱なんてものもある。頭を使い過ぎると熱が出たりするものなのに、常に夥しい量の情報が頭に流れ込んでくるケイリオルさんが平然としているのは、かなりおかしい。
 仮に、実は人間じゃないとか言われても納得出来ないぐらいにはおかしい。
 それぐらい、アンヘルの話が確かならケイリオルさんが獲得する事になる情報量は膨大なのだ。

「ミカリアはなんか知らねぇのか? おまえも帝国とは関わりあるだろ」
「この国との関わりがあるのはここ数年だけだよ。これまでは部下に任せてたし」
「使えねー」
「本当に失礼だね君は」

 緩いやり取りを見ながら、思考を巡らせる。
 私は、あまりにもケイリオルさんの事を知らない。
 前世のゲームで得た情報はとても少なく、今世で得た情報も表面的なものだけ。最近になって、ようやく好きな食べ物や好きな本のジャンルを聞けたけど……それでも全然彼を知らない。
 皇帝の側近でありながらも私に良くしてくれた、恩人のようなものなのに。

 ……知りたい。ケイリオルさんの事が。
 どうして私に良くしてくれるのか。どうしてあんな男に絶対服従なのか。
 どんな些細な事でもいい。どうしてかは分からないけど、私は彼を知らなければならない気がするんだ。

「──ごめん、私、ちょっと用事が……っ」

 ケイリオルさんの元に向かおうと体を動かしたら、「ちょっと待ってくれ」とアンヘルに腕を掴まれた。

「これ、王女様にやるよ。プレゼントにもならないようなつまらん物だが……多分、俺より王女様が持ってる方がいいと思って」
「……絵本?」

 アンヘルから渡された絵本はなんとも古めかしい製法──時代にして五百年程前に流行していた、羊皮紙を用いた特徴的な本だった。
 その表紙には旧ディーヒ語で『おやすみ、きゅうけつき』と書かれていた。

「とある吸血鬼一族が一人を遺して滅ぶまでの過程が描かれた絵本だ。──まあ、つまり。あのお茶会の時の王女様の妄想の答え合わせが出来るやつだよ」
「えっ!?」

 この絵本が、アンヘルの出生に関する唯一にして重大な書物って事?!
 年季の入った絵本を掴む手が震える。いちアンディザファンとして、そして彼の知人の一人として、こんな重大な場面に立ち会えた事が嬉しいのだ。

「王女様に言われた通り、一回何かないかって屋敷中を探し回ったんだが……そしたら母親の部屋の寝台ベッドの床板に隠されてたんだよ、それが。それと一緒に手紙もあったけど、母親曰く『吸血鬼達の過ちを後世に伝えたい』から絵本を描いたらしい」

 恐る恐る、ペラペラとページを捲る。するとあるページで手が止まった。

 〈───滅びの未来を知ったひとりの母親は、どうか我が子だけは生き残って欲しいと願い、禁忌を冒しました。〉
 〈───『ごめんね。こんなおかあさんでごめんね。あなたを苦しめる酷いおかあさんでごめんね。それでも、あなたにだけは生きてほしいの。こんな汚くて狭い世界の中で死んだりせず、美しく広い世界を自由に生きてほしいの。』〉
 〈───『こんなおかあさんを恨んでね。嫌いになってね。どうか、こんな方法でしかあなたを守れないおかあさんを、許さないでね。大好きよ。何よりも愛おしい──……おかあさんだけの“天使”』〉
 〈───母親は、まだ生まれて間もない我が子に、泣きながら何度も謝りました。〉

 絵本と呼ぶにはあまりにも暗く、心にズシンとのしかかる重い話だった。だけど、それは間違いなく……たった一人の子供への母親の愛情が溢れたものであった。

「…………そっか。私の妄想、意外と合ってたんだね」
「俺もびっくりしたさ。まさか本当に、母親が俺を思って偽装工作をしてたなんてな」

 アンヘルは日傘をくるくると回しながら、なんてことないように話す。

「──お母さんの事、恨んでる?」
「ん? 別に……当時の事はほとんど覚えてないし。寧ろ感謝してるかもな」
「感謝?」
「俺、なんでこんなにスイーツが好きなのか分からなかったんだよ。魔導具作りが好きなのは、それしか存在価値の証明手段が無かったからってのは分かってたが……スイーツの方はまだ確信に至らなくてな」

 肩を竦めたかと思えば少し間を置いて、

「『あなたは小さい頃から甘いものが好きだったから、おかあさんのとっておきのレシピも書いておきます』──って、手紙に書いてあってさ。俺がスイーツ愛好家になったのは母親が頻繁に甘いものを作ってくれてたからだ、って確信出来た。今の俺があるのは、顔も名前も思い出せない母親のお陰だったんだ」

 だから感謝してる。と彼は柔らかく微笑んだ。
 アンヘルの中で納得のいく結論が出たのなら。これ以上、外野である私がとやかく言うのは野暮だろう。

「それが分かったから、俺にはもうその絵本は必要ない。だったら、母親の望み通り馬鹿な吸血鬼の事を後世に伝えるべきと思ってな。だから王女様にあげる事にしたんだ」

 つまり私にこれを正式に書籍化して出版して欲しい……って事かしら。
 まあ私に出来るのはシャンパー商会への口利きぐらいだけどね。でもこういった、過去の真実が分かる系の暴露本は需要があるだろうし、ホリミエラ氏に後で話を持ち掛けてみようかな。

「そういう事なら任せて。絵本、ありがたく貰うわね」
「あと……なんか良さげな魔導兵器アーティファクトを後でこっそりフォーロイトに送るか。王女様の誕生日のプレゼントって事で、なんか……役立ててくれ」
「ハミルディーヒ王室との約束とかは大丈夫なの?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。俺に文句言う資格なんて王家あいつらには無いから。引き止めて悪かったな、もう行っていいぞ」

 流石は旧ハミルディーヒ王国──アイデンディッヒ共和国時代から彼の国に仕える由緒正しき家門。
 その歴史だけで言えばハミルディーヒ王国よりも長く、ハミルディーヒ王国における最たる功臣と言えばデリアルドに他ならない。そう、ゲームでカイルをして言わしめただけはある。
しおりを挟む
感想 101

あなたにおすすめの小説

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される

中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。 実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。 それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。 ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。 目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。 すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。 抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……? 傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに たっぷり愛され甘やかされるお話。 このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。 修正をしながら順次更新していきます。 また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。 もし御覧頂けた際にはご注意ください。 ※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

【完結】島流しされた役立たず王女ですがサバイバルしている間に最強皇帝に溺愛されてました!

●やきいもほくほく●
恋愛
──目が覚めると海の上だった!? 「メイジー・ド・シールカイズ、あなたを国外に追放するわ!」 長年、虐げられてきた『役立たず王女』メイジーは異母姉妹であるジャシンスに嵌められて島流しにされている最中に前世の記憶を取り戻す。 前世でも家族に裏切られて死んだメイジーは諦めて死のうとするものの、最後まで足掻こうと決意する。 奮起したメイジーはなりふり構わず生き残るために行動をする。 そして……メイジーが辿り着いた島にいたのは島民に神様と祀られるガブリエーレだった。 この出会いがメイジーの運命を大きく変える!? 言葉が通じないため食われそうになり、生け贄にされそうになり、海に流されそうになり、死にかけながらもサバイバル生活を開始する。 ガブリエーレの世話をしつつ、メイジーは〝あるもの〟を見つけて成り上がりを決意。 ガブリエーレに振り回されつつ、彼の〝本来の姿〟を知ったメイジーは──。 これは気弱で争いに負けた王女が逞しく島で生き抜き、神様と運を味方につけて無双する爽快ストーリー!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

処理中です...