561 / 866
第五章・帝国の王女
507.Main Story:Others
しおりを挟む
(──俺、なんでこんな所にいるんだろ)
ある日の夕暮れ時。
カイル・ディ・ハミルは、皿に盛られたステーキ肉を頬張りよく味わった後に飲み込んでは、その香りが乗った息を大きく吐き出した。
そこはフォーロイト帝国が王城にある広間。いくつものテーブルが等間隔に置かれ、その上には美食の数々が所狭しと並ぶ。
そう、これなるは親善交流における一つ目のイベント。
歓迎の意を込めた食事会──という名の立食パーティー。それがこの催しである。
ここには、信心深い帝国貴族達や他国からの貴賓、そして帝国側の本交流の責任者達などが集まっていた。
どうやらこの男もその一人のようで。
(兄貴に頼まれなかったらこんな場所来なかったっつの……てかこの肉マジでうめぇ。おかわりしていいかな)
嫌々来たとばかりの表情を作る割に、この男、しっかりと立食パーティーを楽しんでいる。
何を隠そう、カイルは兄でありハミルディーヒ国王でもあるキールステンより、神々の愛し子の祖国の代表者としてこの交流に関わるよう言いつけられていたのだ。
その為、本来この場にいる筈のないこの男が、こうして立食を楽しんで気を紛らわす羽目になったのである。
もぐもぐと、彼が頬を垂らしながら美食を堪能していると、
「やっと見つけたぜ、変人王子」
「んぐっ! アンヘル?! なんでここにいんの!?」
正装に身を包んだアンヘルが、息苦しそうに胸ぐらを弄りながら現れた。
思いもよらぬ人物の登場に、カイルは食べていた肉を喉に詰まらせかける。慌てて危機を脱し、彼はアンヘルに問う。
「いやっ、マジでなんでいるんだよアンヘル……お前関係ないじゃん……」
「おまえの兄から頼まれたんだよ。弟だけじゃ心配だから、俺も代表者になれってな。聖職者が集まる場所に吸血鬼を寄越すとか愚鈍の極みだろ」
「なんか申し訳ございません」
アンヘルは分かりやすく不機嫌だったのだが、その後ふと立食の中のスイーツゾーンを発見し、目にも止まらぬ早さで彼は姿を消した。
そしてカイルの元にとんぼ返りしたかと思えば、その手には山盛りのスイーツが。それらの甘い力によってアンヘルの機嫌は回復し、カイルはほっと胸を撫で下ろした。
「新しいワインはいかがですか?」
「ああどうも。赤はあります?」
「はい、こちらに。お連れ様のぶんもどうぞ」
「ありがとうございます」
眼鏡をかけた給仕が、カイルとアンヘルのグラスが空になっていた事に気づき、自然とグラスを交換する。
給仕が傍を離れると彼等は赤ワインに喉を鳴らした。
「気が利く給仕がいたもんだ。ここのワインはスイーツともよく合う」
「よく俺達のグラスが空になったのに気づいた……な……」
給仕の仕事ぶりを思い返したカイルの表情が、僅かに固まる。
(んんー? さっきの給仕の声……そういえばなんかすげぇ聞き覚えがあるような……)
記憶を探り、カイルは一つの答えに辿り着いた。
(あ、サラだ。あの穏やかナチュラルイケボはサラの声優の──……ってぇええええ?! サラ?!)
慌てて先程の給仕を目で追う。会場中をぐるりと見渡し、ようやく捉えたその姿を穴が空く程見つめる。
後ろに流された艶のある黒髪に、分厚い眼鏡。給仕の横顔を見て、カイルは確信した。
(間違いない、アイツはサラだ! 首元のドスケベセクシー黒子を見れたら確定出来るんだが、給仕ってだけにしっかり着込んでるからそれは難しいか……)
悔しげに眉尻を下げ、また一口ワインを含む。
(つーか、サラが給仕の真似事をやってるってことはもしかして潜入捜査中ってこと? はぇ~~、アイツも大変だなぁ……)
なんとも小並感溢れる感想である。
そうして間抜けな顔でワインを嗜むカイルと、黙々とスイーツを堪能するアンヘルの元に、またぞろ一人の美男子が接近する。
「ハミルディーヒ王国の代表者も来るとは聞いていたが、まさかお前だったとは」
「マクべスタ! 今日も最高にかっこいいな!」
「そうか、ありがとう」
正装に身を包んだマクべスタが現れると、カイルの機嫌が途端に良くなった。
しかしマクべスタは相変わらずの塩対応。聞き慣れたのだろう、彼はカイルからの賛辞を軽く受け流した。
「お久しぶりです、デリアルド伯爵」
「あー……王女様の友達か。じゃあ久しぶりだな」
アンヘルの暢気な言い回しにマクべスタは僅かに眉を顰め、
「はい。またお会い出来て光栄です」
わざとらしい笑みを浮かべた。しかしその裏で、
(……──オレの影とは、そんなにも薄いのか)
マクべスタは物憂げなため息を零す。
彼等は何度か顔を合わせているし、言葉も交わしている。それなのに顔も名前も覚えられていない事に彼は驚いたのだ。
「てかさ、マクべスタったら今日はいつもより気合い入ってるみたいだけど……もしかして何かあったり?」
「なんだっていいだろう、別に」
「そんな返事じゃあ、何かあるって言ってるようなモンだぜ?」
「…………」
推しカプの尊みを察知したオタクが持ち前のスキルを活かして詰め寄ったところ、マクべスタは観念した様子で口を開いた。
「──今朝アミレスに用事があって東宮に行ったんだが、どうにも彼女はこの食事会の為にと念入りに準備しているらしくて……それで、結局ナトラから門前払いをくらったんだ」
「はっはーん? だから、アミレスが気合い入れてドレスアップするなら俺も! って思って実行に移したってわけか~~」
「……お前の想像に任せる」
強引に話を切り上げ、マクべスタは通りすがりの給仕から白ワインを受け取った。
その顰め面から彼が恥ずかしさを無理やり隠そうとしている事が見て取れる。その所為か、カイルはにんまりと満面の笑みを作り、そんな二人の様子を眺めていたアンヘルは星雲を携えた猫のような面持ちとなっていた。
ある日の夕暮れ時。
カイル・ディ・ハミルは、皿に盛られたステーキ肉を頬張りよく味わった後に飲み込んでは、その香りが乗った息を大きく吐き出した。
そこはフォーロイト帝国が王城にある広間。いくつものテーブルが等間隔に置かれ、その上には美食の数々が所狭しと並ぶ。
そう、これなるは親善交流における一つ目のイベント。
歓迎の意を込めた食事会──という名の立食パーティー。それがこの催しである。
ここには、信心深い帝国貴族達や他国からの貴賓、そして帝国側の本交流の責任者達などが集まっていた。
どうやらこの男もその一人のようで。
(兄貴に頼まれなかったらこんな場所来なかったっつの……てかこの肉マジでうめぇ。おかわりしていいかな)
嫌々来たとばかりの表情を作る割に、この男、しっかりと立食パーティーを楽しんでいる。
何を隠そう、カイルは兄でありハミルディーヒ国王でもあるキールステンより、神々の愛し子の祖国の代表者としてこの交流に関わるよう言いつけられていたのだ。
その為、本来この場にいる筈のないこの男が、こうして立食を楽しんで気を紛らわす羽目になったのである。
もぐもぐと、彼が頬を垂らしながら美食を堪能していると、
「やっと見つけたぜ、変人王子」
「んぐっ! アンヘル?! なんでここにいんの!?」
正装に身を包んだアンヘルが、息苦しそうに胸ぐらを弄りながら現れた。
思いもよらぬ人物の登場に、カイルは食べていた肉を喉に詰まらせかける。慌てて危機を脱し、彼はアンヘルに問う。
「いやっ、マジでなんでいるんだよアンヘル……お前関係ないじゃん……」
「おまえの兄から頼まれたんだよ。弟だけじゃ心配だから、俺も代表者になれってな。聖職者が集まる場所に吸血鬼を寄越すとか愚鈍の極みだろ」
「なんか申し訳ございません」
アンヘルは分かりやすく不機嫌だったのだが、その後ふと立食の中のスイーツゾーンを発見し、目にも止まらぬ早さで彼は姿を消した。
そしてカイルの元にとんぼ返りしたかと思えば、その手には山盛りのスイーツが。それらの甘い力によってアンヘルの機嫌は回復し、カイルはほっと胸を撫で下ろした。
「新しいワインはいかがですか?」
「ああどうも。赤はあります?」
「はい、こちらに。お連れ様のぶんもどうぞ」
「ありがとうございます」
眼鏡をかけた給仕が、カイルとアンヘルのグラスが空になっていた事に気づき、自然とグラスを交換する。
給仕が傍を離れると彼等は赤ワインに喉を鳴らした。
「気が利く給仕がいたもんだ。ここのワインはスイーツともよく合う」
「よく俺達のグラスが空になったのに気づいた……な……」
給仕の仕事ぶりを思い返したカイルの表情が、僅かに固まる。
(んんー? さっきの給仕の声……そういえばなんかすげぇ聞き覚えがあるような……)
記憶を探り、カイルは一つの答えに辿り着いた。
(あ、サラだ。あの穏やかナチュラルイケボはサラの声優の──……ってぇええええ?! サラ?!)
慌てて先程の給仕を目で追う。会場中をぐるりと見渡し、ようやく捉えたその姿を穴が空く程見つめる。
後ろに流された艶のある黒髪に、分厚い眼鏡。給仕の横顔を見て、カイルは確信した。
(間違いない、アイツはサラだ! 首元のドスケベセクシー黒子を見れたら確定出来るんだが、給仕ってだけにしっかり着込んでるからそれは難しいか……)
悔しげに眉尻を下げ、また一口ワインを含む。
(つーか、サラが給仕の真似事をやってるってことはもしかして潜入捜査中ってこと? はぇ~~、アイツも大変だなぁ……)
なんとも小並感溢れる感想である。
そうして間抜けな顔でワインを嗜むカイルと、黙々とスイーツを堪能するアンヘルの元に、またぞろ一人の美男子が接近する。
「ハミルディーヒ王国の代表者も来るとは聞いていたが、まさかお前だったとは」
「マクべスタ! 今日も最高にかっこいいな!」
「そうか、ありがとう」
正装に身を包んだマクべスタが現れると、カイルの機嫌が途端に良くなった。
しかしマクべスタは相変わらずの塩対応。聞き慣れたのだろう、彼はカイルからの賛辞を軽く受け流した。
「お久しぶりです、デリアルド伯爵」
「あー……王女様の友達か。じゃあ久しぶりだな」
アンヘルの暢気な言い回しにマクべスタは僅かに眉を顰め、
「はい。またお会い出来て光栄です」
わざとらしい笑みを浮かべた。しかしその裏で、
(……──オレの影とは、そんなにも薄いのか)
マクべスタは物憂げなため息を零す。
彼等は何度か顔を合わせているし、言葉も交わしている。それなのに顔も名前も覚えられていない事に彼は驚いたのだ。
「てかさ、マクべスタったら今日はいつもより気合い入ってるみたいだけど……もしかして何かあったり?」
「なんだっていいだろう、別に」
「そんな返事じゃあ、何かあるって言ってるようなモンだぜ?」
「…………」
推しカプの尊みを察知したオタクが持ち前のスキルを活かして詰め寄ったところ、マクべスタは観念した様子で口を開いた。
「──今朝アミレスに用事があって東宮に行ったんだが、どうにも彼女はこの食事会の為にと念入りに準備しているらしくて……それで、結局ナトラから門前払いをくらったんだ」
「はっはーん? だから、アミレスが気合い入れてドレスアップするなら俺も! って思って実行に移したってわけか~~」
「……お前の想像に任せる」
強引に話を切り上げ、マクべスタは通りすがりの給仕から白ワインを受け取った。
その顰め面から彼が恥ずかしさを無理やり隠そうとしている事が見て取れる。その所為か、カイルはにんまりと満面の笑みを作り、そんな二人の様子を眺めていたアンヘルは星雲を携えた猫のような面持ちとなっていた。
14
あなたにおすすめの小説
【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~
千堂みくま
ファンタジー
異世界に幼なじみと一緒に召喚された17歳の莉乃。なぜか体がペンギンの雛(?)になっており、変な鳥だと城から追い出されてしまう。しかし森の中でイケメン公爵様に拾われ、ペットとして大切に飼われる事になった。公爵家でイケメン兄弟と一緒に暮らしていたが、魔物が減ったり、瘴気が薄くなったりと不思議な事件が次々と起こる。どうやら謎のペンギンもどきには重大な秘密があるようで……? ※恋愛要素あるけど進行はゆっくり目。※ファンタジーなので冒険したりします。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。
櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。
兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。
ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。
私も脳筋ってこと!?
それはイヤ!!
前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。
ゆるく軽いラブコメ目指しています。
最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。
小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる