だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

文字の大きさ
764 / 866
第五章・帝国の王女

677.Main Story:Ameless

しおりを挟む
「……おはぎと大きな猫ちゃんがいる……」

 目が覚めたら、枕元にはおはぎとシュヴァルツが在った。おもむろに鎮座する、お皿に置かれた四つのおはぎ。そして、添い寝するような形で眠りにつく大きな猫ちゃんことシュヴァルツ。こちらは、何やらいつもとは違う髪型や服装のように見受けられる。
 状況証拠的にはシュヴァルツがおはぎを持ってきたものと考えられるが、そもそもこの世界におはぎは存在しない。

「おはぎの神様でもいたんだろう。うん。そうだそうに違いない。トイレの神様だっているんだもん。おはぎの神様だっているよ。うんうん」

 起きたばかりなのでまだ頭が起きていないようだ。頭を目覚めさせる為にもとりあえず、おはぎを一つ手に取りパクッと頬張る。仮に毒が入ってても、腐っていても、私には効かない。ならばひとまず食べてみるべきだろう。

「ん~~~~っ! この絶妙な加減のつぶあん! 深みのある味! 広がるあんこの風味! 美味しい~~っ!!」

 どうやらおはぎの神様はおはぎの匠らしい。まさかこの世界で、前世での大好物を食べられる日が来ようとは!

「……あるのがいけないの! おはぎがあったら! 食べちゃうに決まってるじゃない!」

 もしゃもしゃとおはぎを頬張り、空いた手でとろけそうな頬を押さえてくねくねと暴れる。──おはぎはあと二つ。相変わらず得体が知れないものの、美味しいおはぎに罪は無い。もし異物混入したものだったとしても、絶品おはぎを食べて体調を崩すなら本望だ。
 そうして朝から絶品おはぎに舌鼓を打つ私に、満を持してあの男がツッコミを入れる。

「──アミレスよォ、こんな朝早くから何を騒いでんだ……?」
「あ。おはようシュヴァルツ。前も言ったけど勝手に人の寝台ベッドに潜り込まないでね。狭くなるから」
「ハイハイ、おはようさん。で、お前さんはどうしてだらしない顔で騒いでいたんだ? もしや、ようやくオレサマの魅力に気づいたか」

 魅力……? 何やら珍しい格好をしているみたいだけど、イメチェン? 大学デビュー?

「オイなんだその釈然としない態度は。今のオレサマを見て何も思わねェのかよ」

 のそりと起き上がり、シュヴァルツは拗ねた様子で不満を言い募る。寝台ベッドの上で膝を立てて座り、彼は真正面からこちらをじっと見つめてきた。

「いつもと違う雰囲気だね。普段から格好良いけど、今日も格好良いよ」
「っ、お、おう……オレサマはいつでも美麗だからな、当然だ」

 自分から聞いておいて何よその反応。大きなアホ毛がくるくる動いてるけど、これは喜んでくれていると思っていいのかしら。いや、そもそもどうしてアホ毛が自立してるの??

「随分と長い間魔界にいたみたいだけど、やっぱり仕事が忙しかったの?」
「男と寝台ベッドを共にしておいてすぐ仕事の話とか色気が無ェなァ…………お前さんらしいが。そーだよ、仕事が立て込んでたんだ」
「そうなんだ、お仕事お疲れ様。ところでその格好は……?」
「会議に服装規定ドレスコードがあるもんで、これはその為にあつらえた正装だ」

 へぇ。と嘆息が溢れる。

「ちなみに私は枕元にあった好物のスイーツに興奮していたんだ」
「スイーツ……? あの黒くて丸いよくわからんヤツか。お前さん、アレ食ったのか? あんな得体の知れないものを?」
「おはぎにつみはないもん」

 信じられないとばかりに目を見開かないでほしい。

「……コイツ、本ッ当に危機感が無ェ……もう駄目だ。これは一生モノの悪癖だ…………」

 正装に身を包みお化粧までしているシュヴァルツが、なんともしわしわの顔になってしまった。


 ♢♢♢♢


「──シュヴァルツ。着替えるからあっち向いてて」

 シャツのボタンに指をかけたところで、未だに私の寝台ベッドの上でゴロゴロしている男の存在を思い出した。追い出そうにも、多分この気まぐれ魔王さまは大人しく従ってはくれない。なのでとりあえず壁の方を向いておくよう伝えたのだが……。

「…………あ? お前、悪魔が傍にいるってのに着替えるとか、いくらなんでも馬鹿じゃねェの?」
「だからあっち向いてって言ってるんだけど」

 今日のシュヴァルツはなんともご機嫌斜めだ。彼はおもむろに寝台ベッドから降り、目と鼻の先までやって来るやいなや、眉尻を吊り上げてこちらを見下ろした。
 こうして全身を見て改めて思うが、今日のシュヴァルツはいつもの蠱惑的な妖艶さが影を潜め、打って変わって耽美的な清楚さが“圧倒的美オーラ”を絶えず放っている。──つまり、とんでもない視界の暴力で、少し緊張するのだ。
 慣れているとはいえ変わり種で来られては、流石の私も動揺するというもの。あまり直視できないな、と視線を逸らしたところで顎を掴まれてしまった。

「なァ。お前さんは忘れているかもしれんが……オレサマはお前のことが好きなんだよ、アミレス。好いた女が目の前で服を脱ぐってのに何もしないでいてやれる程、オレサマは善い・・じゃねェ」
「っ!」

 彼の前髪と私のそれがくしゃりと絡まる。暗闇の中で輝く紫水晶アメジストのような瞳が、私の視界を埋め尽くす。

「誘ってるのなら、勿論乗るぜ? この場で今すぐお前のことを抱いて、悪魔を煽ったことを後悔させてやるさ」
「……っ耳元で、喋らない、で……!」
「耳、弱ェの? ……ふーん。へェ。そっかァ、お前は耳が弱いのかァ」

 ちがう。貴方が吐息を過分に含むいやらしい声を出すから。だからちょっぴり驚いただけ。全然……ぜんぜん、耳が弱くなんてないし。だからそんな風に愉悦に満ちた顔しても、無駄なんだからね。

「──愛してる」
「ひぁっ」

 変な声出た。へんなこえでた!
 突然告げられた愛の言葉と、明らかな悪意を感じる過剰な美声。これに耐えられる女子などそういなかろうて。

「…………お前、マジで……っ、ふざけるのも大概にしろよ……こっちがどれだけ我慢してやってることか……! 抱き潰すぞテメェ……っ」

 額に手を当て、牙の隙間からフーッ、と震える息を漏らし、ギラついた瞳で彼はこちらを凝視する。
 なんでセクハラ被害者の私が怒られてるの? 本当に意味わからないんですけど!? ──というか。これ、やばいやつだ。経験が無い私でもわかる。これは、今から彼に狩られるたべられるやつだ。
 …………。逃げっ──

「逃すかよ」
「あぁぁぁぁぁ…………っ」

 わたしは、にげられなかった!
 肩をがっしりと掴まれ、腰を抱かれては、非力な私にはどうすることもできない。このまま私は、シュヴァルツにあんなことやこんなことをされてしまうのだろうか。フリードルからもなんとか守り抜いた貞操が、ついに失われてしまうのだろうか。

「や、やだっ……! こわい……っ!!」

 半端な知識しかない私にとって、その行為は恐怖の象徴のようなものなのだ。
 気持ちいいとか幸せになるだとか愛と夢の物語ラブロマンスはそう言うけれど、私は自分がそう・・なった・・・未来を想像できない。誰かの温もりを知ってしまえば、私は二度とそれを忘れられなくなる。それが怖くてたまらない。
 未来で失うことばかりを恐れ、現在の快楽と幸福を喜べなくなる。それが分かりきっているからこそ、せめて『はじめては好きな人と』シたいと、神様の言葉を胸に生きてきた。
 好きな人とシて、おかしくなるのなら──きっとそれは幸せなことだから。

「────。……何も、しねェから。だから……頼む、泣くな」

 言って、シュヴァルツは背を曲げた。腰に回していた手も体側にぶらりと落とし、怯えた表情を隠すように私の肩に顔を埋める。

「……本当に? えっちなこと、しない?」
「シてもいいなら、するけど」
「だめ。ぜったいだめ」
「……ん。じゃあ何もしない。しないから、拒絶だけは、しないでくれ」

 そして、シュヴァルツはのそりと起き上がる。随分と覇気が無い様子で縋るようにこちらを見下ろし、彼は一歩下がって距離を取った。

「──頭、冷やして来るから。安心して着替えろ」

 言葉を挟む暇もなく、シュヴァルツは姿を消した。
 ……私の未熟さが、また、彼を傷つけてしまったのだろうか。そんな後悔が胸の奥で渦巻き、お腹の辺りをチクチクと刺される。

「…………でも、私には……まだ早いもの。いったいどうすればよかったの……?」

 ボタンに指をかけ、呟く。
 ねぇ神様。私、どうすればよかったの? どうすれば、シュヴァルツを傷つけずに貞操を守れたのかな。
 わかんない、わかんないよ。ねぇ、神様……こういうものは、どう受け止めたらいいの……?
しおりを挟む
感想 101

あなたにおすすめの小説

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜

ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。 イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。 8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。 ※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。

処理中です...