ナスル戦記

拙糸

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中編

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ナスル国王ジヴィアに背中を押され、サガミは馬にまたがり、ズール帝国へとその道を急いだ。結局ついたのは、次の日の朝だった。





「な、なんだ…これは……」


帝国領土に一歩足を踏み入れると、すぐそこに死体の山が見えた。国王の言っていた“見せしめ”だろうと、サガミは考えた。だが、その考えもこの後の場面を見て変わった。

仲間同士が、打ち合いをしているのである。頭のキレるサガミは、すぐにその様子から察した。


(まさか、政権分裂が本当だったとは…)


執権室で話した後、帰り際にジヴィアから聞いた話を、サガミは思い出す。


『もしやもしれぬが、内紛が起きている可能性がある。行くときは気を付けてな。』


一体、何を争っているのだろうか。考えてはみたが思い付かなかったため、地元の人に話を聞くことにした。近くに宿屋があったので、寄るついでに話を聞いた。それによると、こういうことらしい。

事の発端は、先代のズール帝が亡くなった後の皇位継承だった。穏健派の兄と、好戦派の弟に別れて軍を割り、国を真っ二つに分けて戦うことになったそうだ。これには国民も呆れ果て、他国へと居を移す人々も多数でたらしい。

よって、国内の基盤がスッカスカになり、今回の小国合併策に出たらしい。発案者は好戦派の弟。兄は、隣国と協力してそれを止めようとしているそうだ。これを聞き、サガミはまずは穏健派の主力である兄に会うことにした。





「おぉ、でっけぇ……」


帝国の城は、予想のはるか数十倍大きかった。ものものしい警備をする兵士の横を抜け、城へと入っていく。ボディチェックもされた。相当警戒しているようだ。

話をすると、すぐに中に通してくれた。通された謁見の間でひざまづき、次期皇帝候補を待つ。

すると


「大変長らくお待たせして申し訳ない…!」


駆け足で入ってきた。相当忙しいようだ。無理もないだろう。


「まあ、そんなところで畏まらずに…さあ、頭をおあげください。」


帝国の人間は堅物ばかりだと勝手に思っていたために、ここまで物腰柔らかな事に驚いてしまった。


「私はナスル王国の外交官を務めております、メィビン・サガミです。以後、お見知りおきを。」

「ご丁寧に有難うございます。ご存知かとは思いますが、ズール帝国第一皇太子、ハーシー・ズールと言います。まぁ、こんなところではなんですから、私の執務室でお話をしましょう。」


とても優しそうな人でよかったと、サガミはこの時思った。穏健派と言っても、もう少しガミガミくる人かと勝手に想像していたから、とても驚いた。





執務室の中は、書類で溢れかえっていた。後始末などで大変なのだろう。


「散らかってて申し訳ない…さあ、こちらにお掛けください。」


言われるままに、ソファに腰かける。これは、帝国伝統の家具らしいのだが…凄いフカフカしている。


「えっと、それじゃあ順序立てて、これまで我が国で話し合われたこととその方針をお話ししますね。」


会議の内容と、国王の意見を、皇太子へと伝える。


「なるほど……あなた方も反対派ですか。」

「ええ。大変申し訳ありません。」

「いえいえ。もともとこれを計画したのは弟なので、お気になさらないでください。」


そう言われて、一安心する。そして、本題を切り出す。


「単刀直入に申し上げます。私たちにも、あなたのお手伝いをさせてください。」

「それは、我々の側につき、弟討伐に協力するということですね?」

「はい。」


言葉は悪いが、今のナスル王国にとって、兄の側について支援し、恩を売るというチャンスを逃すわけにはいかない。今協力すれば、独立を保てる可能性が少しでも増加するのだ。だが、それを聞いて皇太子は黙り込んでしまった。そして、手で顔を覆い、笑い始める。


「ふふふ……あなた方の肚の内が見え見えですよ。大丈夫です。心配しなくとも、我々はあなたの領土を奪うつもりはありません。」

「あらら、ばれちゃいましたか。」


すぐ顔に出る癖は直した方がいいかもしれないな。


「これから、よろしくお願いします。」

「こちらこそ、ナスル軍が味方についてくれるのは、ものすごく心強いです。」


両手でガシッと、手をつないだ。こうして、ナスル・北ズール条約が締結された。





国に帰り、ジヴィアに報告すると、


「おお!それは真か!!ようやった、ようやった…」


国王は、泣きながら手柄を称えてくれた。サガミは、これ程嬉しい事はないと思った。


翌日、議会決定を経て、正式に条約が締結された。これからは、ハーシー第一皇太子率いる北ズールを助けていくことになる。


「さすが、サガミ様だ。素晴らしい手腕であるなぁ。」

「ふっ。甘すぎるぞ、サガミ殿。」


意見は様々であったが、受け入れられた。こうして、今日から手助けをすることになった。

大陸中心部を真っ二つに分けた大戦争は、加わったナスル軍の奮闘により、北ズールが優勢に進んでいった。彼らが築き上げてきた戦法が帝国軍を圧倒し、余裕の勝利を飾っていったのである。連日の勝利に北ズールは湧き、ナスル国内でも、ナスル軍と国王、そして目上の相手にも怖じけずに交渉し、成功したサガミに対し、たくさんの歓声が寄せられた。





夜、サガミはハーシーに城へと呼び出された。執務室に入ると、窓辺で考え事をしていた。どうしたのだろう。


「あの、皇太子様。」

「あ、サガミ殿。どうぞこちらへ」


この前座った席へと案内された。


「あなた方の協力のおかげで、我々は大躍進することができました。本当に有難うございます。」


ハーシーは、ペコペコと頭を下げる。


「いやいや、そんな。私は話し合いをしただけですよ。それに、まだまだこれからじゃないですか。」

「そうですよね。何が起きるか分かりませんもんね…」


ため息をつき、また窓辺へと歩く。


「どう…されたのですか?」

「いや、なに……ちょっと心配になっただけです。」


そういうと、内ポケットからなにかを取り出した。


「サガミ殿、これをあなたにお預けします。」

「?…これは…」


キューブ状の物体。何かロックが掛かっているようだ。


「これから先、この戦いにピンチが起きたときに中身を開けてください。」

「ピンチ?」


ピンチも何も、この戦いは北ズールの圧勝だろうと考えているサガミには、この時全く想像できなかった。


「まあ、もしもですから。その時に使ってくださいね。……さぁさ、こんな話ばっかりしててもお酒が不味くなるだけです。さあ、乾杯しましょう。」


そうしてサガミ達は、酒を酌み交わし、一晩を過ごした。サガミは、そのあとの記憶がなかった。気付くと、朝になっていた。

…大陸を揺るがした、事件の起きた朝である。
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