弱輩者の第三王子~僕なんかに執政できるんですかね。~

拙糸

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第三章 騎士学校、留学(?)編

第19話 届け、思い②

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「そうですよね? ………シーナ・ハイヘルン先生。」
「………………………タイト…。」

シーナはうつむき、唇を噛み締めていた。

「しかも、その職業斡旋先は、全て共通のところでした。名前は確か、“帝国軍ナスル領警備隊”だったとか。」
「…………!」

シーナは、汗を流していた。

「まさか、就職先を斡旋してやっただろうとか後で卒業生に圧力をかけて、自分の目的のために利用するとか、そんなことを考えていたわけじゃないですよね?」
「…………………。」

さあ、どう出る?

「……………確かに、あなたの言うとおり、私は彼らの職業斡旋をして、全員ナスル警備につかせようとしたわ。でもね、当然なのよ。この資料をスクリーンに映してくれない?」

一枚の紙を手渡す。

「………………っ! これは。」

スクリーンにばっと映し出される。

「そう。以前から議会の議題に上がっていたんだけど、ナスル領の警備を担当させるのは、ここの警備人数だけ他の地域よりも極端に少ないからなのよ。サガミも知ってるハズなんだけどな。」
「ちっ………。」

これは想定外だ。まさか、議会の紋章付きの紙を提示できるとは。奴ら、帝国議会を乗っ取ったな? 果たしてそれに皇帝が気づいているのかすら怪しくなってきたぞ。

「それに、私の出身はナスルなのよ。勿論、自分の出身だからと優先的に人手を回した訳ではないわよ。だって、そんなことをしたら犯罪になっちゃうもんね。」

ウフフフフ! とシーナは笑っていた。くそっ、まだ足りない。決定的な証拠が、まだ足りない!
ううっ、またしても負けてしまうのか? やはり自分は、弱い奴だ………。

「ちょっと待ったぁ!」
「「!!!!」」

観衆がみな驚く。

「………………あ、アレク!?」
「…………………………」

シーナは、追い詰められた表情をしている。そうか、シーナはアレクにも口封じの呪文をかけていたんだっけ。どうやら、それが解けたみたいだね。
アレクは、ゆっくりとした足取りで壇上へ上がってきた。

「みんな、さっきの試験では恐ろしい思いをさせてしまって、本当にすまなかった。」

そのセリフに、生徒達はみなゾッとしていた。あのヤンキーが? 嘘だろ? と。

「この前ホスロ先生の前で思い切り悪態をついてしまったのだが、俺はそんなことを出来るほどの器量を持つ男じゃなかったんだ。」
「どういうこと?」

僕は、アレクに問いかける。

「もう何年も前の話だ。自分の力や器に限界を感じ、後に継ぐことになる公爵の地位に、嫌気がさしたんだ。それで、家の陰で泣いていた。そしたら、ある男が俺に話しかけてきたんだ。そのときの話を、俺の得意な“記憶の呪文”でみんなに聞かせる。」

アレクは手を合わせて魔法陣を召喚し、そこに自身の記憶を映し出した。
実にきれいな魔法陣だった。

『……何故……何故、俺は思う通りにできない………何故魔法がうまく扱えない……何故剣の腕も上がらない……俺は、どうすれば…。』
『……………強く…………………なりたいですか?』
『! 誰だ!?』
『そう警戒する必要はないですよ…………私はあなたにチャンスを与えるつもりでやってきました。』

後ろを振り向く。立っていたのは、黒フードを被った男。

『一体、何が目的なんだ?』
『目的? だから言ったでしょう。あなたを助けに来たって。』

黒フードの男は、俺の目の前でお辞儀した。

『私は、〈ムーン〉のカルメンという者です。あなたの父上も、私の力を借りて、あそこまでの剣士に成長しました。』
『…なんだって?』
『おお、食い付きましたねェ。』

奴は、俺の周りを魔法で包み込んだ。

『どうですか? 望めば、あなたはこの世界の全ての名声を、我が物に出来るのですよ?』

奴は、炎を使って俺に様々な幻覚を見せてきた。
俺は、もう奴に魅せられていた。

『……名声を、我が物に……。』
『ええ、ただし、条件があります。』

男は、パッと飛び立ち、俺に深紅の宝石を見せた。

『これは、“パワーストーン”と呼ばれる石の一種です。これをあなたに持っていただきます。そして私は、側であなたがその石によってどれだけの力を得るのかを、観察させてほしいのです。どうです? 悪い話じゃないでしょう?』

「………………〈ムーン〉のカルメン。奴は、ハッキリそう言いました。タイト王子、これが僕の体験した記憶の一つ目です。それに…。」

彼は、決定的な証拠を叩きつけた。“記憶”という証拠を。

それは、記憶がハッキリしている時のアレクと、シーナの会話だった。

『え? 俺を帝国軍に就職させるだって?』
『ええ。悪い話じゃないでしょ?』
『だけど、俺なんかに…。』
『大丈夫よ。私たち、〈ムーン〉の力を利用すればね。』
『………!? まさか、〈ムーン〉ってあんた………!?』
『そうね。私たちは、この国を征服して、新たなる国を造るのが目的なの。あなたに力を貸し与えたのも、最終的にはその力を利用するため。ああ、誰かに訴えようとしても無駄よ。指導者様の魔力は最強レベルだからね。』

薄気味悪い高笑いとともに、俺の意識は消えていった。

「う、嘘よ。どうせこれはあなた方の仕組んだものでしょ!? 知ってるんだから!!」
「残念だけど、シーナ。この証拠はニセモノなんかじゃない。魔法痕を見れば、ハッキリするはずだよ。今彼が使役している魔法陣は、まさしく彼のものだ。それに、指導者の魔法陣の模様も、この記憶にはハッキリと映っている。確か、君たちの指導者の魔法陣は、他に造ろうとも造ることのできない、唯一無二の紋様だったよね。それに、使役者の魔法痕が唯一無二だということを証明したのは、シーナ。君の授業だ。まさか、君の指導が君を切り崩す最大の切り札になろうとは、思いもしなかっただろうね。」
「何を言って……私は!…………っ!」
「そんな授業なんてしたことない、かな? そりゃあそうだよね。君、シーナじゃないもんね。」
「………………!!!???」

あそこに見えるシーナがニセモノだということに、全員がまたざわめきだす。

「………………でも、今私が使っているのは、紛れもない私の魔法陣よ。」
「そう。紛れもない、だ。おかしいな? 魔法を二属性扱うダブルユーザーなら、二つの模様があるはずなのに、なんで一つの魔法陣だけで複数も扱えちゃうのかな? ああ、そっか。それが隠匿魔法を張ったニセモノなら、ありえちゃうかな?」
「………………そう。そこまで見破っているんだ。」
「うん。君の正体は、ナスル大戦で死亡したと思われていた、ハーシー・ズール。つまり、ズール帝のお兄さんだね?」

「なんだって? ハーシー様が?」
「嘘よ。お隠れになったはずじゃ。」

今の状況を全く理解していない人が、たくさんいる。それも仕方ない。

「…そうだよ。確かに私は、ハーシー・ズールだ。」
「なぜ、あなた程聡明な人が、〈ムーン〉なんかに加わったの?」
「残念だけど、今は話せない。…逃げさせてもらうからねっ!」

ボンッ!

大量の白煙が辺りを包む。ハーシー・ズールの姿は、もう無かった。

「………………よし、とりあえず、僕たちの勝利だ!!」
「「ワーーッッ!!」」

生徒たちが、一斉に歓声を上げた。
その様子を見たホスロが、僕にこっそりと話しかけてくる。

「あの、なぜ生徒みんな喜んでいるのですかな? みな状況が理解できていなかったのでは?」
「サクラ、だよ。実はね…」

ホスロに、今回の芝居について全て説明した。
事前に、教員たちを通して、生徒たち全員に全てを説明し、今回相手に悟られないように、上手く芝居をしてもらったのだ。

「なるほど…私も騙されましたな!」

アッハッハ!とホスロが笑う。
アレクが、僕たちの方に歩いてきた。

「これまでの無礼を、お許しください。」
「いや、いいんだよ。君みたいな誠実な人が騎士になったら、ジョンネルさんもきっと喜ぶだろうね。これからも、頑張ってよ。」
「はい!」

アレクと、ガッチリと握手を交わした。
ちなみに、本物のシーナは、普段使わない倉庫に縛られているのを、なんとか僕たちで発見した。今回の事件での負傷者は、一人も出なかった。
こうして、僕の短い留学は、幕を閉じたのだった。



数日後、僕は荷物をまとめて、ロール街道を戻った。

「だけんどもよぉ、帝国の学校で不祥事がおきるたぁ、兄ちゃんもビックリじゃねぇんが?」

馬の手綱をとる行商が、僕に聞いてくる。

「そうですね。でも、おかげで楽しかったですよ。」
「そうけ? なんらえらい変わった人じゃのぉ。」

行きと同じように、荷台に揺られながら馬車は進む。ジャンター平原に差す日の光が、やけに眩しかった。
ただ、一つだけ行きと違うのが……。

「おお、今日はやけに天気がいいな。」
「そうですな。こんな日は、オムレツが美味しいですぞ。」
「ホスロ殿、天気と全く関係がないかと…。」

ジーク兄さんやホスロ、それにマージがいることだった。
みんな、やりきった楽しそうな顔をしていた。

「ほんれ、もうすぐタールランドの首都ダモスに着くぞぉ。」
「おお、本当だ。城壁があんなに目の前まで…。」
「ズール帝国に比べて、やはり低いですね。タイト殿、あとでかさ増し工事をした方がよろしいかと。」
「そんなお金があるわけないでしょ?」
「…あっ! タイト様、部屋に付き次第二十件の文書の回答と、法律公布の手続書、その他諸々たくさん仕事がたまっておりますからな! やるんですぞ!」
「あーもう、分かったよ!」
「アッハッハ! タイト、大変だなぁ!」
「ジーク様も、お仕事があるんですぞ!」

やっぱり、みんなと一緒が一番だな。僕は、改めてそう思うのだった。

第三章 完
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