弱輩者の第三王子~僕なんかに執政できるんですかね。~

拙糸

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第五章 決戦、第二次〈ムーン〉制圧作戦編

第4話 自身を見つめる、鏡

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図書館を出ると、目の前に馬車が停めてあった。僕が手配したものだが、中に乗っているのは、ホスロ………ではなく、自由に動けないホスロの代わりに、僕の補佐官の代理をやってくれている、マージだ。
中に乗り込むと同時に、マージが騎手に合図をだし、帝都の石畳を車輪がガタゴトと踏みしめながら発車した。僕は、収穫は?と聞いてきたマージに、図書館内でガリアーヌ病に関する詳しい文献がなかったことと、中で会った青いローブを身に纏った男について伝えた。そうですか……と顔をしかめた後、青ローブの男について、訪ねてきた。

「そういえば、タイト殿の仰っている青ローブの男は、左胸に小さなリボンを着けていませんでしたか?」
「リボン? そういえば、紅白二色のリボンを着けていたような………。」

男の像を、思い出してみる。やはり印象に残っているのは、あの青いローブ。そして、周りに漂って見えた不思議なオーラだ。まるで祈祷師のような帽子を被る彼の左胸には、確かに紅白のリボンを着けていたような気がする。
僕の覚えている範囲で男の像を答えると、うーん。まさか………と言いながら、一人で何か呟き始めた。

「マージ。もしかして、その男の事、知ってるの?」

その返事には、少し自信がなさそうだったが、どこか確信しているようでもあった。

「タイト殿は、“神聖なる人々”について、ご存知ですか?」
「えっと確か、祈祷師とか薬師とかで、ガリアーヌ病の治癒に当たっている人々を指す言葉だっけ?」
「そうですね、確かに今は、その意味で用いられることが一般的ですが、かつては違った意味で使われていたんですよ。」
「へぇ………違った意味、かぁ。」
「もっとも、僕も話をチョロっと聞いただけなので、完璧に知っているわけじゃないんですけどね…。確か、もう二十年位前になりますね。“神聖なる人々”の講義を聞いたのは。」



二十年前、私は貴族である父から様々な恩恵を受けて生活していました。その頃の私は、貴族としての振る舞いや基礎は叩き込まれたものの、世界を知らない子供でした。父、カタル・アイザップが、帝国において男爵位を授かっており、私もその家督を引き継ぐ予定だったからです。

[へえ。じゃあ、どこで今持っている沢山の知識を学んだの?]

そうですね、ある人との出会いが、私の人生の針を大きく動かしたような気がしました。私が18の頃です。
帝国の中央宮殿で、私は父の付き添いで貴族の会合に参加していました。ただ、私の性格を知っているタイト様ならもうお察しかもしれませんが、私にとっては非常に退屈だったのです。

[ふふふ、じゃあ、その場を抜け出したんだね。]

父が他の貴族に挨拶をしている間に、私はこっそりと抜け出しました。外に出て、私の体を吹き抜ける風が、妙に心地よいものだったのを覚えています。頭の後ろで腕を組み、広場を歩き回りました。露店が立ち並び、人々の活気が溢れている様子を見ながら、私は何だか嬉しかったです。今思えば、私の父が騎士として帝国にお仕えしていた時期もあったので、父が帝国を守っているんだ、と考えたのでしょうね。
そのまま露店が立ち並ぶ大通りの裏道に目をやると、ボロボロの服を着た人々が、目も当てられない位に痩せほそっていたのも、また私にとってはとても印象的でした。

そんな時でした。広場の隅で、沢山の子供達が、一人の男を取り囲んでいたのを見つけたのは。どうやらその男は、大きな石板に文字を書き、小さな子供達に教えていたようでした。当時は、まだ学校という組織はなく、武勲中心主義の帝国では、学問は二の次でした。よって、私も教育は現在の水準と比べて低い部分しか習っていません。だから、子供達皆が、真剣に耳を傾けて聴いているのを見て、私も話を聞きたくなりました。

「よいかな、皆? 今日は“神々とギフト”について話をしよう。」

子供達は、はーいと大きく返事をしました。

「君たちは、成人の儀式については知っているかな?」
「12歳になったら、教会で行う儀式ですね。神官様が、神様のお告げを僕たちにお伝えしてくれます。」

緑の服の少年は、ハキハキと答えました。

「そうだね。そこでのお告げが、その人の職業適性や魔法適性を決めるんだ。その時、一緒に授けられる“特別な力”がある。それが、“ギフト”と呼ばれるものだ。」
「“ギフト”?」

緑服の少年の隣に座る少女は、首をかしげました。

「ああ、そうか。君たちは初めて聞くかな。“ギフト”はこの世界をお作りになられた、天と地をそれぞれ守ってる神様が分け与えてくださる力のことだよ。皆もよく知っている“スキル”は、教会でお祈りをしていると手に入れることができるが、“ギフト”は選ばれた人にしか貰うことのできない力なんだ。」

男は立ち上がって、子どもたちを眺めつつこう言いました。子どもたちは、まるで絵に描いた餅を見つめるような、どこか不思議そうな顔をしていました。

「……はっはっは、なんて説明をされても分からんだろう。かいつまんで言うなれば、いつも神様への感謝の気持ちを忘れてはいけないよ。」

男は遠くを見つめ、こう続けました。

「この世界には、たくさんの不思議なことがある。魔法もそうだ。君たちは、“魔法”をなんだと考えるかな?」

「わたしは、生活をたすけるものだと思います。」

オレンジの髪飾りの少女は、拳を握りこんでそう言いました。

「僕は、敵を攻撃するためのもとだと思う。」
「わ、わたしは……その……道を照らすためのものだと……。」
「俺は、自分自身を表し、自分自身を守るためのものだと思います。」

少年少女たちの話を聞き、男はこう呟きました。

「……さてと。じゃあ、そこの影に隠れている君は?」
「なっ……!!」

家系魔法である“隠密”を駆使したはずなのに、こんな風にバレるとは……私は、驚いて変な声が出てしまったのを覚えています。

[マージの魔法を見破るなんて、とんでもない人なんだね。]

「わ、私は………魔法を生まれたときから操ることができたし、周りの人々も魔法をソツなくこなす人々ばかりだったので……その……深く考えたことがありません。」

そんな私の発言を聞いて、男はまた高らかに笑いました。

「それでよいのだ。魔法に関して、人それぞれ全く違う考えを持つのが普通だ。君のその返答から言うなれば、君にとって魔法は、『身近にある当たり前のもの』だね?」
「はい………その通りです……。」

私の心を見透かされ、驚いているうちに、男は杖を取り出し、こう言いました。

「私の考えはこうだ。…………それっ!」

術式を空中に書くと、そこに大きな火の玉が現れました。赤く美しく、それでいてどことなく恐ろしいような……。

「君には、この火の玉はどう映る?」
「なんというか………恐ろしくて、美しくて、それでいて神秘的で………色々な気持ちが入り乱れて、よく分かりません。」
「そうか。君にも、やはりそう見えるか。……どうだい子どもたち、君たちにはどう映る?」
「僕も、なんだかもやもやした感じに。」
「私もです。」
「お、俺も!!」

男は、火の玉を一瞬で消してしまいました。

「私は、魔法は自分の心を映す……つまり、自分自身を表す鏡のようなものだと考える。」
「鏡……ですか?」

座り込み、話を続けました。

「魔法というのは、術者…つまり、使う人によって使える属性も決まっているし、生まれ持った魔力の変換力で、使える魔法の種類もある程度決まってくる。だが、魔法を種族や属性によって、完全に分けることはできない。自分にどれだけの力があるのか、どうすればその力をさらに高めることができるのか……。君たちが、成人した時、よく考えておいてほしい。そして、今当たり前のように使われている魔法に対して、感謝の気持ちを忘れないでほしい。」

その男の話を聞いていて、どこか心惹かれていたのを、今でも覚えています。今、私が生きているだけでは学べない何かに。そして、この世界の神秘さに。
これが、私の受けた先生―――ケビン・ホールナント教授の初めての講義でした。
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