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前編
5.再会-1
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新年度にベゼルス部の顧問としてのみ採用された非常勤講師。彼に挨拶をしたとき、イリスはそれが初対面ではなく、再会だとは気付かなかった。
「イリス・セーデルルンドです。精神魔術の授業を受け持っています」
その非常勤講師は、三、四十代ぐらいの男に見えた。ぱさついた暗めの金髪にところどころ白髪が交じっている。生気のない顔で、青い目の下に陣取る濃い隈が、やつれた印象を一層強めている。まるで亡霊だ。背の高い彼の顎下に、髭の剃り残しを見つけた。
イリスは別に用事があって、彼が職員室で全員へ向けて紹介される時間を逃してしまった。なので、まだ相手の名前も知らないまま先に名乗った。
彼はイリスの名を聞いて、その虚ろな目をほんの僅かに見開いたように見えた。
「……アルヴィド・ノイマンです。よろしくお願いします」
アルヴィド、という名前を耳にして、イリスはアルヴィド・エーベルゴートの事を連想した。
卒業後あの男のことを耳にすることはなくなった。だが、些細なことをきっかけに凌辱された記憶がよみがえる。そのため、外出時にセムラクをかけて自分を守るのが習慣になってしまっていた。
今も脳裏にあの男の顔が浮かび、体をおもちゃにされた感触が湧き起こった。しかしセムラクのおかげで、それらに対し何も感じない。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
エーベルゴートではない。ノイマンと名乗っている。髪は同じ金髪だが暗い色で、瞳の青色も心なしかくすんでいる。年齢や顔つきもまるで違う。エーベルゴートの人間が、一部活の顧問としての役割しか求められない、薄給で期限付きの職に就くはずがない。
別人だと、イリスは自分に言い聞かせた。
◆
ところがしばらくすると、昔とは変わり果てた姿をしているが、彼がアルヴィド・エーベルゴートであるとの噂が広がった。職員室で他の教師にそれを尋ねられたアルヴィドは、否定せず、私的なことは話したくないと拒んだ。肯定したも同然だ。
その際、一瞬イリスの方を見たが、すぐに目を逸らした。
なぜ彼が採用されたのか。
イリスがその足で向かったのは塔の最上階にある校長室だ。
扉を叩き許可を得て入室すると、部屋の主を開口一番強い調子で詰問した。
「なぜ彼がここにいるのですか、グンナル先生」
部屋の入口に向かって置かれた机で、書類仕事をしていた人物。かなり暗い茶色の髪と緑の瞳の、常に難しい顔をしている所為で眉間のしわが消えなくなってしまっている、神経質そうな容姿の壮年の男。
在学時には学年主任であったグンナルだ。その後順調に昇進し、現在はルーヘシオンの校長を務めていた。
「イリス・セーデルルンドです。精神魔術の授業を受け持っています」
その非常勤講師は、三、四十代ぐらいの男に見えた。ぱさついた暗めの金髪にところどころ白髪が交じっている。生気のない顔で、青い目の下に陣取る濃い隈が、やつれた印象を一層強めている。まるで亡霊だ。背の高い彼の顎下に、髭の剃り残しを見つけた。
イリスは別に用事があって、彼が職員室で全員へ向けて紹介される時間を逃してしまった。なので、まだ相手の名前も知らないまま先に名乗った。
彼はイリスの名を聞いて、その虚ろな目をほんの僅かに見開いたように見えた。
「……アルヴィド・ノイマンです。よろしくお願いします」
アルヴィド、という名前を耳にして、イリスはアルヴィド・エーベルゴートの事を連想した。
卒業後あの男のことを耳にすることはなくなった。だが、些細なことをきっかけに凌辱された記憶がよみがえる。そのため、外出時にセムラクをかけて自分を守るのが習慣になってしまっていた。
今も脳裏にあの男の顔が浮かび、体をおもちゃにされた感触が湧き起こった。しかしセムラクのおかげで、それらに対し何も感じない。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
エーベルゴートではない。ノイマンと名乗っている。髪は同じ金髪だが暗い色で、瞳の青色も心なしかくすんでいる。年齢や顔つきもまるで違う。エーベルゴートの人間が、一部活の顧問としての役割しか求められない、薄給で期限付きの職に就くはずがない。
別人だと、イリスは自分に言い聞かせた。
◆
ところがしばらくすると、昔とは変わり果てた姿をしているが、彼がアルヴィド・エーベルゴートであるとの噂が広がった。職員室で他の教師にそれを尋ねられたアルヴィドは、否定せず、私的なことは話したくないと拒んだ。肯定したも同然だ。
その際、一瞬イリスの方を見たが、すぐに目を逸らした。
なぜ彼が採用されたのか。
イリスがその足で向かったのは塔の最上階にある校長室だ。
扉を叩き許可を得て入室すると、部屋の主を開口一番強い調子で詰問した。
「なぜ彼がここにいるのですか、グンナル先生」
部屋の入口に向かって置かれた机で、書類仕事をしていた人物。かなり暗い茶色の髪と緑の瞳の、常に難しい顔をしている所為で眉間のしわが消えなくなってしまっている、神経質そうな容姿の壮年の男。
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