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06.王の振る舞い-5
しおりを挟む昔はイザークをいいように扱ったヴィオラだが、今は信頼と、おそらく尊敬の目で見てくれるようになっていた。盲目の心服というわけではなく、イザークの根底が昔と変わらず一人の人間であると理解したうえで、支えてくれていると感じている。ヴィオラは、イザークの公私の両面に寄り添ってくれる存在だ。
父や妃、他の側近たちとも異なる、ただ一人の存在。
改めてそう思うと、妃を迎えてから必死に消そうとしている感情が、また滲み出てくる。
(ヴィオラを妃に迎えられていれば……)
彼女が、子供を産める体でさえあれば。
そうすれば、同い年の公爵家の娘だ。器量は今現在秘書官としていかんなく発揮されているとおり問題ない。人格も、家柄も、能力も、何もかもが最適だった。
幼いころの病により子を生せないという、その一点を除けば。
いずれ、彼女を妻に迎えるのだと思っていた。父王と公爵はそのために二人を引き合わせたのだと。
実際には、父王によるイザークへ優秀で指導的な友をという思惑と、いずれ官僚にという彼女の父の思惑が、上手く噛み合っただけ。彼らはヴィオラを妃候補として扱うつもりがなかったから、あれほど無遠慮に遊ばせていたのだ。
いつ生まれたのか分からない、穏やかに育んでいた恋心は、ゆっくり消す間もなく、ある日突然梯子を外されたように行き場を失った。
自分の体のことなのだから、ヴィオラの方は当然理解していただろう。イザークはただの友でしかないと。
このような、妃を迎えてもまだ消えてくれない裏切りの感情を抱え、イザークはどうしようもないと自分へ言い聞かせ、押し殺すしかない。
ただ時折、無性に、これを口に出してしまえたらと、できもしない欲求が喉元へせり上がってくる。
「……殿下?」
「いや、なんでもない」
彼女を見つめて呆けていたが、不思議そうに声をかけられて、目を逸らす。この思いの片鱗すら、ヴィオラに見せたことは無い。
これが消えてくれるのは一体いつになるのかと、ぞっとする想像をしていると、イザークの侍従が渡り廊下の方から走ってくる。
「イザーク殿下!」
ただならない様子に、ヴィオラと顔を見合わせた。
息を切らせて二人の前にやってきた侍従の言葉に、イザークは耳を疑った。
「陛下が、……身罷られました!」
父王が。静養中で床に就いていたが、本人や医師は風邪が長引いているだけだと語っていた。まだ危篤ではなかった。今朝も顔を見に行って、普通に会話をした。それが今日だとは、全く、考えてもみなかった。
しん、と一瞬場が静まり返る。
「まさか、そのような――」
「――イザーク陛下!」
ヴィオラがイザークの動揺からくる無様な言葉を遮って、地面に跪く。
「イザーク陛下……。新たな我らが王に、この命ある限りの忠誠を誓います」
気が動転していたイザークは、ヴィオラの王と呼ぶ鋭い声と、その臣下の礼に冷静さを取り戻した。
戴冠の儀の前であっても、王が死亡すれば王権は即座に王太子へ移動する。イザークは、まぎれもなく、十八歳にして既にこの国の王となっていた。
ヴィオラの所作を見た侍従も、同じように膝をついて忠誠の言葉を捧げる。
王としての覚悟を決める猶予が、この時終わりを迎えた。もう、動揺することは許されない。臣下、国民。全てのために。
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