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07.契約-1

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 ある日の昼間、イザークは庭園へ向かうために廊下を歩いていた。伴っているのは侍従だけだ。

 イザークが王位を継いで丁度ひと月経った。父王の葬儀や自身の戴冠の儀など、やらねばならないことが山積みで、目まぐるしく日々は過ぎ、気が付けば今だった、というような感覚だ。
 外へ出てみれば、草木はもう秋の終わりの色合いで、いつの間にか冬の入り口に立たされていたようだ。そう感じることができる程度には、心に余裕が出てきたのかもしれない。

 しかしイザークの肩には、父を喪った悲しみを落ち着いて受け止めることすら出来ないほどの重圧が、なおものしかかっていた。
 イザークが王太子としてある程度自信をもって安心して職務にあたれていたのは、父王がまだ存命だったからだ。在ってくれるだけで、頼りになる精神的な支柱。それが父だった。ゆくゆくは自分が跡を継ぐと覚悟していたが、ここまで突然とは思ってもみなかった。
 これで正しいのかという不安が、決断のたびに頭を過る。その都度思い出すのは、ヴィオラの言葉だ。力不足と心中を無闇に明かすのではなく、これが最善であると、命じられる側が信じられるよう泰然としていなくてはならない。それが、若き王に付き従ってくれている臣民に対する義務だ。
 実際のイザークは、この国と、そして自身の限界を知っているため、心の中の不安を消すことはできない。それでもヴィオラが隣にいてくれれば、その言葉と存在が、イザークを王として振る舞わせてくれた。

 ただ、イザークが王となってからは、王太子時代から感じていたヴィオラとの心の壁のようなものを、一層辛く感じるようになった。
 こんなどうしようもないことに、かまけている暇はないというのに。

 冬支度を始める庭園の、舗装された道を歩いていく。今日は天気がいいので温かい。だから王妃も庭で過ごしているのだろう。
 イザークの庭園に向かう用事は、王妃と話をするためだった。

 今年結婚したばかりの妃と、仲は悪くない。ただ、このひと月はあまりに多忙で、ゆっくり話をする時間が取れなかった。本来はどこかで約束して、時間を取って室内で語らえばよいのだろうが、確実に空けておける時間がイザークにはなかった。
 こうして話をしようとしているのも、本当に偶然時間ができたからだ。そこで、王妃の所在を尋ねて、庭で過ごしているというので突発的に会いに来た次第だ。

(気が重いな……)

 物憂げな表情を浮かべることはないが、イザークは内心ため息をつきたい気分だった。これから王妃には、彼女にとって辛い話をしに行かなくてはならない。
 実は、公にはしていないのだが、王妃とは初夜をまだ済ませていないのだ。
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