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24.発見-4
しおりを挟むご機嫌伺いの軽い話題を挟んだ仕立て屋は、早速ドレス作りの話を王妃に始めた。
「次にお仕立てするドレスについてですが、本日は布地のお色合わせをさせていただきます。来年の建国式典に着用なさるとのことで、いくつか春先に相応しいものを持参しました。図案は事前にお送りいたしましたが、何かご希望はございますか?」
「あなたの考案した意匠には今回も満足しています」
「自信作です」
(そこは感謝か謙遜するところじゃないのか……?)
人の心の機微に疎いながらも、父や兄たちから目上の人間に褒められたら恐縮しながら礼を述べるか謙遜しろと言い聞かされてきたロベルトは、満足げに返す仕立て屋が不敬と捉えられないかやきもきした。ただ、王妃含め、気にならないのか慣れたのか不明だが、特段仕立て屋を咎める様子はない。
ロベルトは仕立て屋の指示を受けながら、言われた通り布や小物を手渡したり、片付けたりしていく。王妃の肌等と、布地の色やレースなどの意匠が合うか、確かめているらしい。
全員が北の国の出身か、仕立て屋はその話に触れず、王妃とドレスの仕立てについて会話を続けている。つまり、この面々の中に出身の異なる者が含まれているということ。このままでは手紙を出せない。
次の手に進まなくてはならない。
「今度はそうだな……。『青い箱を取ってくれ』」
ついに来た。
ロベルトは冷静に、他の小物に対してそうしてきたように、荷物を広げたテーブルの前へ移動する。事前に打ち合わせていた青い化粧箱の紐を解き、蓋はかぶせたまま、それを仕立て屋のところへ持っていった。
仕立て屋は、王妃の肩から胸元に布をかざしていて、ロベルトの動きを注視していない。そういう段取りなのだ。
「どうぞ」
「ああ」
斜め後ろからロベルトが差し出した箱を、仕立て屋はわざと振り返らずに受け取ろうとして、払いのけた。うっかり落としたかのように。
「あっ」
「うわっ!」
蓋が飛び、回転しながら床へ落ちた箱は、部屋中にその中身を撒き散らした。それは鮮やかな瑠璃色の小さな羽根だった。
色以外はまるで雪のように、仕立て屋とロベルト、そして王妃へふわふわと降り注ぐ。衣服や頭髪にも大量にくっついてしまった。狙い通りだ。相当練習した。
「何をしているのです……!」
侍女が呆れたような声で仕立て屋を叱り、まず王妃にかかった羽根を払い落そうとした。
「お待ちください!!」
仕立て屋の鋭い制止の声に、最初の侍女に続こうとしていた他の侍女たちも、ぎょっとして動きを止める。
「羽根の軸が折れるので払わず摘まんで取ってください!」
「そのような悠長なことを――」
「軸が折れては使いものになりません。これは大層珍しい鳥の羽根です。この質で、大きさも均一にこの量を集めることは非常に難しいのです。ドレスの仕立てに間に合いません」
「しかし――」
「――ふあっ……クション!」
仕立て屋と侍女の口論へ割って入ったのは、ロベルトのくしゃみだった。
一度ならず、二度三度と続く。
「おい! この貴重な羽根にくしゃみなどかけたらクビにするぞ! バルコニーへ出ていろ!」
仕立て屋の叱責に追い立てられるように、ロベルトは誰の許可を得ることもなく勝手にバルコニーへ続くガラス張りの扉を開けて外へ飛び出した。くしゃみの演技を続けながら。
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