【R-18】【完結】何事も初回は悪い

雲走もそそ

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27.ある秘書官-2

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 振り返ってしまわないように、手を握りしめて歩いていく。
 もう決めたというのに、ヴィオラを彼の元へ戻らせようとするかのごとく、思い出が甦ってくる。幼いころから、成人して以降のものまで。何か特別なきっかけがあったわけではない。様々な感情に動くあの眼差しを見つめているうちに、いつの間にか愛していたのだ。信頼してくれていると感じていたあの瞳の奥に、いつから彼の愛情も混じっていたのか。

(陛下……。私は最後に嘘を申し上げました。あなたの非道を身に受け、積み上げたものを失ったこの状況にあっても、まだ、私は、あなたを愛しています)

 昨夜温室で、イザークに自らの愛は壊れてしまったと告げた。しかし、他の言葉は真実でも、それだけは、決別のためについた嘘だった。今でも、離れがたいほどに愛している。
 そして、イザークの言葉の嘘にも気付いていた。彼が目を逸らして呟くように述べる言葉は、大概逆の願望だ。イザークはヴィオラが、かつて自分の愛した姿ではないことを認めつつも、そこに嘘を含めていた。だが別れ際の言葉も含め、癖を知らずともわかる。イザークは、その手で壊してしまったとしても、今のヴィオラをまだ愛してくれている。
 あれは、そう口にすることで自分の気持ちを押し殺し、離別を受け入れるためだ。

(まだ、だめ……。まだ、気を抜いてはいけない……)

 昨日から頭の中で何度も繰り返している言葉。

 緑の洞窟を抜け、視界が慣れると、続く歩道の先に馬車が二台停まっていた。紋章の入っていない箱馬車だ。
 その馬車の前には、父と兄、そしてなぜか伯爵家のロベルトが待っていた。姿を現したヴィオラに、皆目を丸くしている。

「ヴィオラ……!」

 真っ先に動いたのは、父だった。駆け寄ってきて、痛いほど抱き締められる。

「二度と、お前を抱き締めることができないかと……」

 声を震わせた父は、泣いていた。父が涙するところを目にしたのは、初めてのことだった。
 その抱擁の力強さと、幼いころ以来の優しい温もりに、張り詰めていたものが解けていく。

「お父様……」

 もう泣いていい。ヴィオラは、そこでようやく涙を溢れさせた。昨夜から、イザークの心と自身の決意が揺らがないよう、絶対に泣くまいと決めていた。

「すぐに気付いてやれず、すまなかった……」
「いいえ……。ご心配を、おかけしました……っ」

 ついに、この一連の騒動が決着した。
 そうしてヴィオラは嗚咽を漏らし、泣き疲れるまで父の胸に縋りつき続けた。

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