魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜

四乃森 コオ

文字の大きさ
192 / 200

時の人

しおりを挟む
「キャハハハハ ──────── 」

「キャハハハハ ──────── 」


甲高い笑い声が岩石散らばる荒野を駆け巡る。
それは決して皆で何かを楽しむ声などではなく、自分たちに対して何も出来ずに苦虫を噛み潰したような顔をしている彼女たちに向けた嘲笑である。


「クソッ。アイツら完全にアタシたちのことをバカにしてるわ」

「アハハハハ。そんなことはないですよ。彼女たちは僕たちを歓迎してくれているんです。ああ…なんて可憐で美しいんだ」

「このバカも斬り伏せたいわ」

「ダメだよミリア」

「分かってるわよ!」

「で…でも、一刻も早く何か手立てを考えないとまずいです」

「そんな必要ないっすよ。ウチは彼女たちと楽しく歌って踊って友達になるっす」

「あ~もう、こんなんじゃクエストどころじゃないよーーー」


ここは商業都市ロコンからギャシャドゥル(商業都市ロコンと冒険者の街リザリオの間にある中間都市)へと続く街道にある荒野。
なぜスズネたちがこんな所に来ているのかというと、もちろんそこに棲まう魔獣を討伐するためである。
そして、今回彼女たちの標的となる魔獣というは ───── Bランク魔獣『女鳥人ハーピィ』。
見た目は美しい女性を模した人型の姿をしているが、ヒト族と大きく異なるのは腕が大きな翼になっており、鋭い鉤爪が特徴的な鳥類の脚を併せ持っている点である。
そんな女鳥人ハーピィの討伐クエストが出される度に冒険者たちが討伐へと赴くのだが、その美しい容姿を前に多くの者たちが心を奪われてしまうのであった。
そんな女鳥人ハーピィなのだが、その実態は討伐ランクBに指定されている通り残虐そのもの。
風魔法を得意とし、さらに魅了の魔法によって相手の心を虜にして弱体化させ、両脚の鋭い鉤爪で標的を切り裂くのだ。

そんな今回のターゲットを相手にスズネたちはまんまと術中にハマり苦戦を強いられている。
今の彼女たちはそんな状況なのであった。

バサッ、バサッ、バサッ ───────── 。

ヒューーーッ、ヒューーーッ。


「キャハハハハッ」


バサッ、バサッ、バサッ ───────── 。

ヒューーーッ、ヒューーーッ。


「クスッ、ウフフフフッ」


楽しそうに空を舞う女鳥人ハーピィたち。
その数は十数羽。
一週間ほど前からこの街道に棲みつき、行き来する商人の荷馬車を襲うようになったという。
そして、彼女たちによる被害が頻繁に報告されるようになり、この度商業ギルドから冒険者ギルドへと討伐依頼が出されることとなったのだ。
そんな時にちょうど地に足つけて冒険者活動を進めていこうとBランクのクエストを探していたスズネたちの目に留まったというわけである。
前回のキャスパリーグとの苦い一件後初めてのクエストということもあり、やる気満々でやって来た彼女たちだったのだが、女鳥人ハーピィたちにいいようにあしらわれ遊ばれるという屈辱を味わう羽目になっていた。


「ホントなんとかなんないの!うちのバカ二人は役に立ちそうにもないし」

「役に立たないのならいっそのこと気を失わせたほうが戦いやすいのじゃ」

「ダメですよ!彼女たちと戦うなんて僕が許しません!!」

「ウチだって黙ってられないっすよ。女鳥人ハーピィたちの盾になるっす」

「「「「 ハァ~~~・・・ 」」」」



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


今より二時間ほど前、依頼を受けたスズネたちはやる気に満ち溢れた様子で意気揚々と商業都市ロコンを出発し、商人たちが襲われたという目的地を目指していた。
新たな戦術、新たな陣形、新たな技、新たな魔法、試したいことがたくさんありワクワクが止まらない彼女たちの歩みは実に軽やかであった。
そして、ロコンを出発してから一時間が経ち目的地である荒野へ到着。
すると、そんな彼女たちに休む暇など与えることなく女鳥人ハーピィたちが姿を現したのだった。
到着して早々ではあったのだが、スズネたちに選択肢などあるはずもなくすぐさま戦闘が開始されることに。

その後のことは今の彼女たちを見て分かる通り散々なものとなった。
自由自在に空を飛び回る女鳥人ハーピィたちに苦戦し、前後左右に振り回され体力を消耗させられ、挙句の果てに魅了の魔法によって手懐けられる者まで現れ、陣形もクソもない状態となったのだ。
こうして今現在の混沌とした状況が出来上がったというわけである。


「スズネかラーニャのどっちか魅了を解除することは出来ないの?」

「ごめん。まだ解除系の魔法は覚えてないんだ」

「愚問じゃな。そもそもわっちは攻撃特化の魔法師じゃ。あんなチンケな魔法にかかるような情けない者どもは放っておけばいいのじゃ」

「僕は操られてなどいません。彼女たちの平穏を守る騎士なのです」

「ウチは女鳥人ハーピィたちを守る盾なんす」

「「「キャハッ、キャハハハハ」」」


完全にナメられてしまっている。
優雅に宙を舞いながらスズネたちが混乱してあたふたしている様子を楽しむ女鳥人ハーピィたち。
何故かは分からないが、彼女たちにスズネたちを攻撃する意思はなく、ただただ困惑している様を眺めながらケラケラと笑っているのだった。
もはや勝負の行方は火を見るよりも明らか ───── いや、そもそも勝負にすらなっていない上、標的からは自分たちの命を狙ってやって来た敵とすら認識されていない。
それは冒険者として最も屈辱的な扱いである。
そして、この時点でスズネたちが選ぶ選択肢は一つしか残されていなかった。
もちろん誰一人として納得などしてはいないし、彼女たちの心中は穏やかさとはかけ離れている。
敵との戦闘の末であるならばそれも致し方ないと思えるのだが・・・。
それでも、今はそれを選ぶしかない。
そのような苦しい心境の中で口火を切ったのは意外にもセスリーであった。


「あ…あの・・・今のままではどうしようもありません。ここは一度引いて作戦を練り直したほうがいいと思います」

「クソッ!まだ何もしてないのに」

「もはや連携もクソもないのじゃ」

「そうだね…。残念だけど撤退しよう」


こうして気合いを入れて臨んだクエストのはずが、討伐するはずの相手に散々遊ばれた挙句、何も出来ないまま撤退することとなった宿り木。


「ハァ~・・・バカどもが ──────── 」


その有り様を後方より眺めていたクロノは頭を左右に振りながら溜め息をつき、呆れて何も言えない様子。
再出発を図ったスズネたちの挑戦はまさに大失敗に終わったのだった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・。

散々な結果となった今回のクエスト。
女鳥人ハーピィたちとの対峙から撤退した後、商業都市ロコンへと戻ったスズネたちであったが、話し合いの末一度ホームへと帰還することを決めた。
作戦を練り直し再び挑戦することもできたのだが、それを実行するにはあらゆる面で力が足りないと判断し、今回は帰路につくこととなったのだ。

ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・。

そうして数日かけてようやくモアの街に到着したスズネたち。
しかしその足取りは重く、何処かへ立ち寄る気力すら残っておらず、そのままホームへと向かうのだった。

ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・。


「ハァ~…もう少しっすね」

「なんか疲れたわーーー」

「すみません。僕が不甲斐ないばかりに・・・」

「もう!マクスウェル君、それは言いっこなしだよ」

「今回はなんもしとらんからのう。不完全燃焼じゃ」


『心と身体は繋がっている』とはよく言ったものである。
心に大きなショックを受けたことにより彼女たちの身体は鉛のように重くなり、口数は減り、動きは鈍くなる。
それでも一歩また一歩と歩みを続け、スズネたちはようやく我が家へと帰還したのであった。

ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・。


「あ…あの・・・」

「ん?どうしたのセスリー」

「ホ…ホームの前にどなたかいらっしゃいます」

「えっ!?」


セスリーの言葉に反応したスズネたちが疲れ切った身体を起こしてホームへ視線を向けると、そこには確かに二つの人影があったのだった。


「ちょっ、マジで遅いんだけど~~~~~」

「ハァ~…落ち着いてください。そんなにゴネても何も生まれませんよ」

「だけどさ~~~~~」

「あっ!ほら、どうやら帰って来たようですよ」


大きな声が聞こえる。
どうやらホームの前で佇んでいる謎の二人組はスズネたちを待っていたようであり、一人は待ちくたびれて機嫌を損ねてしまっている様子。


「あの~・・・」

「ああ、これは失礼致しました。我々は ───── 」

「お~~~そ~~~い~~~。もう半日以上待ってんだよ。お腹空いた~~~~~」

「ハァ~・・・嘘言わないでください。まだ三十分程度しか経っていませんよ。それよりも突然の訪問で申し訳ありません。お尋ねしますが、こちらは冒険者パーティ『宿り木』のホームで間違いありませんでしょうか?」

「は…はい。私たちが宿り木ですけど」

「おおーそれはよかった。我々はあなた方に少々お願いしたいことがあり参上した次第なのです」

「は…はぁ~・・・。それであなたたちはどちら様でしょうか?」

「おおーこれは失礼致しました。私としたことが興奮のあまり失念しておりました。私の名はフリット、しがない冒険者でございます。そして、こちらにいらっしゃるのが我がクランのリーダー カルラ様です」

「ご丁寧にどうも・・・えっ!?」

「ん?」


突然現れた見知らぬ人物たちの自己紹介を聞き違和感を覚えたスズネが仲間たちへと視線を向ける。
そして仲間たちもまた少し驚いた様子で視線を送り合う。
その様子を前にしてフリットと名乗る男は不思議そうにしながらも笑顔を崩さないように努めている。


「「「「「「 えっ!?えっ!?えっ!? 」」」」」」

「どうかなさいましたか?」

「「「「「「 えーーーーー!?!?!? 」」」」」」


スズネたちの声が森中に響き渡る。
あまりの衝撃に全員目を丸くし開いた口が塞がらない。
その驚愕の事実につい今し方まで落ち込んでいたことなど吹き飛んでしまった。
それもそのはず、今自分たちの目の前にいる人物こそまさにガルディア王国中で話題を席巻しているSランククラン『ほむら』のリーダー カルラその人なのであった。


「フリット!ご~~~は~~~ん~~~」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

ウォーキング・オブ・ザ・ヒーロー!ウォークゲーマーの僕は今日もゲーム(スキル)の為に異世界を歩く

まったりー
ファンタジー
主人公はウォークゲームを楽しむ高校生、ある時学校の教室で異世界召喚され、クラス全員が異世界に行ってしまいます。 国王様が魔王を倒してくれと頼んできてステータスを確認しますが、主人公はウォーク人という良く分からない職業で、スキルもウォークスキルと記され国王は分からず、いらないと判定します、何が出来るのかと聞かれた主人公は、ポイントで交換できるアイテムを出そうとしますが、交換しようとしたのがパンだった為、またまた要らないと言われてしまい、今度は城からも追い出されます。 主人公は気にせず、ウォークスキルをゲームと同列だと考え異世界で旅をします。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

現世に侵略してきた異世界人を撃退して、世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。

佐久間 譲司
ファンタジー
突如として人類世界に侵略を始めた異世界人達。圧倒的な戦闘能力を誇り、人類を圧倒していく。 人類の命運が尽きようとしていた時、異世界側は、ある一つの提案を行う。それは、お互いの世界から代表五名を選出しての、決闘だった。彼らには、鉄の掟があり、雌雄を決するものは、決闘で決めるのだという。もしも、人類側が勝てば、降伏すると約束を行った。 すでに追い詰められていた人類は、否応がなしに決闘を受け入れた。そして、決闘が始まり、人類は一方的に虐殺されていった。 『瀉血』の能力を持つ篠崎直斗は、変装を行い、その決闘場に乱入する。『瀉血』の力を使い、それまでとは逆に、異世界側を圧倒し、勝利をする。 勝利後、直斗は、正体が発覚することなく、その場を離れることに成功した。 異世界側は、公約通り、人類の軍門に下った。 やがて、人類を勝利に導いた直斗は、人類側、異世界側両方からその身を狙われるようになる。人類側からは、異世界の脅威に対する対抗策として、異世界側からは、復讐と力の秘密のために。

パワハラで会社を辞めた俺、スキル【万能造船】で自由な船旅に出る~現代知識とチート船で水上交易してたら、いつの間にか国家予算レベルの大金を稼い

☆ほしい
ファンタジー
過労とパワハラで心身ともに限界だった俺、佐伯湊(さえきみなと)は、ある日異世界に転移してしまった。神様から与えられたのは【万能造船】というユニークスキル。それは、設計図さえあれば、どんな船でも素材を消費して作り出せるという能力だった。 「もう誰にも縛られない、自由な生活を送るんだ」 そう決意した俺は、手始めに小さな川舟を作り、水上での生活をスタートさせる。前世の知識を活かして、この世界にはない調味料や保存食、便利な日用品を自作して港町で売ってみると、これがまさかの大当たり。 スキルで船をどんどん豪華客船並みに拡張し、快適な船上生活を送りながら、行く先々の港町で特産品を仕入れては別の町で売る。そんな気ままな水上交易を続けているうちに、俺の資産はいつの間にか小国の国家予算を軽く超えていた。 これは、社畜だった俺が、チートな船でのんびりスローライフを送りながら、世界一の商人になるまでの物語。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...