魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜

四乃森 コオ

文字の大きさ
191 / 200

SSランク

しおりを挟む
モンナケルタでの一件を冒険者ギルドモア支部長であるリタに報告したスズネたち。
そこで受けた衝撃的な事実を胸に抱えたままホームへと戻った彼女たちは、それぞれ思うところがあったようで、翌日から各々別々の時を過ごすことにしたのだった。
己の雑念を振り払うかのように鍛錬に打ち込む者。
ホームに残り心身を休める者。
静かに魔法書を読み耽る者。
街へと出かけてリフレッシュする者。
そうして各自が心に抱えたものをクリアにするための時間はあっという間に過ぎていった。

三日後 ──────── 。


「さぁ、今日からまた頑張っていこーう!」

「朝からテンション高いわね~スズネ」

「この三日間でしっかりリフレッシュしたからね」

「アンタが羨ましいわ。アタシなんてまだショックから立ち直れてないんだから」

「まぁ~僕たちがまだまだ未熟だということがハッキリと分かったことは良かったですよ」

「確かに。最近実力以上のことばかりやってた気がするっす。足元を見つめ直す良い機会になったと思うしかないっすね」

「ワーッハッハッハッ。天才のわっちにもまだまだ伸び代があるということなのじゃ」

「わ…私たちはまだBランクになって日も浅いですし、まずはBランクのクエストを地道にクリアしていきましょう」

「ハァ~~~・・・。もう!絶っっっ対に強くなってやるんだから!キャスパリーグはアタシが倒す!!」


前回冒険者ギルドを訪れた際にリタから聞かされた内容のショックもまだ完全に癒えてはいない状況ではあったが、気持ちを新たに引き締め直し、今日もスズネたちはギルドへと向かう。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


ガヤガヤ、ガヤガヤ ──────── 。


「だから、カルラが ───── 」

「そうなったらカルラは ───── 」


ザワザワ、ザワザワ ──────── 。


「カルラこそが ───── 」

「やっぱりカルラだよな。だって ───── 」


三日間という時間が経過してもなお、ギルドの中は変わらずカルラの話題でもちきりとなっていた。
Sランクの魔獣が討伐されるなどということ自体が記録書や歴史書の中の出来事。
そもそも遭遇することすら稀であるわけで、それを討伐することなど夢のまた夢の話。
だからこそ、彼らが熱を帯びて興奮し、連日大騒ぎしたくなる気持ちも分からなくもないのであった。


「相変わらず騒がしいっすね」

「どいつもこいつもカルラカルラとうるさいのじゃ」

「まぁ~Sランク魔獣の討伐となると快挙ですからね。皆が騒ぐのも当然のことだと思います」

「フンッ。今だけよ!今だけ!!」


三日前と同じように大騒ぎを続けている冒険者たちの間をすり抜けるようにして進んでいくスズネたち。
そして、そんな中で受付へと歩みを進める彼女たちの耳に聞き慣れないワードが飛び込んでくる。

『SSランク』

ギルドへ足を踏み入れた時には前回と変わらないと騒ぎを気にすることもなかったのだが、受付までの数十メートルを歩く中で冒険者たちが口々に『SSランク』というワードを使っていることに気づいたのだ。
そもそもギルドで定められている冒険者のランクはE~Sの6段階に分されている。
それは冒険者になった時にマリからもそのように説明を受けたし、ギルドの規約にもそう記載してある。
そして、そんなことはこの場にいる全員が知っていること。
それにも関わらず、皆が興奮気味に『SSランク』と口にしているのであった。


「なんかSSランクって聞こえないっすか?」

「み…皆さんそう言っているように聞こえますね」

「なんだろうね?とりあえず受付に行ってマリさんに聞いてみよう」


そんな話をしながらカルラの話題で夢中になっている冒険者たちをかき分けて進んでいき、ようやく受付へと辿り着く。


「あら、みんな数日ぶりね。今日は新しいクエストでも探しに来たの?」

「はい。ちょっと気持ちの整理も含めて三日ほどお休みにしてました。それよりもマリさん、ここに来るまでに『SSランク』って言葉を耳にしたんですけど」

「あ~みんなが騒いでるやつね」

「そもそもランクってE~Sまでですよね?SSランクなんて聞いたこともないし、そんなもの本当にあるんですか?」

「まぁ~そうなるわよね。まず事実をそのまま伝えるなら、SSランクは存在するわ」

「「「「「 えっ!?!?!? 」」」」」

「誰なんですか!確か四聖剣の一人であるメリッサ様ですら現役時代はSランクでしたよね。それ以上の実力者であるなら王国中に知れ渡っていても不思議じゃないですよね」


SSランクは実在する。
マリが放ったその言葉に一同は驚愕し、自身の憧れであり、世界最高の剣士の一人と数えられている現冒険者ギルドマスターのメリッサでさえ現役当時はSランクであったにも関わらず、それを超える人物に覚えがないと取り乱すミリアなのであった。
そんな彼女たちを前にしてマリは少し笑みを浮かべた後、その事実について自身が知っていることを包み隠さず教えてくれたのだった。

【SSランク】・・・それは極々限られた者にだけ与えられる称号。
これまでのガルディア王国の歴史上でSSランクと認められたのはたった一人だけ。
それが世界最強の冒険者『風のシムカ』である。
しかし、シムカは滅多に表舞台に姿を表すことはなく、実際ここ数十年の間にその姿を確認した者は限られており、ギルドの支部長クラスでも目にしたことがないという。
そして、今現在生きている者の中でその存在を目にしたことがあるのは、ギルドマスターであるメリッサ、元Sランク冒険者であり現冒険者ギルドギャシャドゥル支部長ホーク、そして剣聖ミロクと魔女マーリンの四人だけ。
そのため冒険者の間で『シムカ』の存在はギルドが作り出した虚像であるという噂や実は王族に名を連ねる者なのではないかというような話がいくつか存在していたようだが、今ではそんな迷信を語る者などおらずその存在は謎のままとされていた。
しかし、今回カルラが魔獣サラマンドラを討伐したことにより、誰がどこから聞きつけたのかSSランクという言葉だけが一人歩きしている状況なのであった。

では、実際にシムカはどのようにしてSSランクとなったのか。
それは圧倒的な実力によるものだとされている。
数十年前、当時ガルディア王国中を震撼させた魔獣がいた。
山ほどの巨大さを誇った岩石人ロックゴーレム ────── その名も『巨神兵ロック』。
当時そのランクはSに指定されており、数多くの冒険者や王国の聖騎士団が討伐に向かったのだが、ことごとく返り討ちにされていたのだった。
そして、そんな状況の中で彗星のごとく現れたのがシムカであった。
当時まだAランクになったばかりの冒険者であったシムカだが、なんと単身でロックに挑み、見事これを討伐したのだった。
当然その当時でもSランクの魔獣を単独で撃破した例などなく、特例として当時のギルドマスターがシムカをSSランクと定めたのだとか。
しかし、それ以降シムカの姿をみた者はなく、その強さを手中に収めようと考える王国や貴族に嫌気がさしただの、そもそも目立つことを嫌っただの、様々な憶測が飛び交ったという。

そして今現在、十年以上の記録を遡ってみてもシムカがクエストを受けたという記録は見当たらないのだとマリは話すのだった。


「まぁ~私もシムカ本人を見たことはないし、記録も無いんじゃ実在しているのかさえも分からないんだけどね」

「ハヘェーーー。そんな凄い人がいたんですね」

「Sランクなんて化物を単独で討伐するなんてあり得ないでしょ。記録も無いなんてアタシは信じないわよ」

「でも、火のないところに煙は立たないっていうっすよ。一概に作り話だと決めつけることも出来ないっす」

「マリさん、そのシムカさんって今もまだ現役で冒険者をされているんですかね?」

「うーん、どうかしらね。まぁ~死亡したという報告も上がってきてないみたいだし、一応登録書にも名前は記載してあるからまだ引退はしていないんじゃないかしら」

「いつか会ってみたな~」

「わ…私たちがランクを上げてSランクの魔獣とも戦えるくらいになれば、もしかしたら会えるかもしれませんよ」

「強くなるしかないっすね!」

「わっちは興味ないのじゃ。どんな奴じゃとしても、お師匠様と旦那様以上の実力などありえんからのう」

「僕は明日ミロク様のところへ行ってシムカさんのことを聞いてみます」

「フンッ、アタシは自分の目で確かめるまでは絶対に信じないわ」


マリの話を聞き終え、それぞれ様々な反応をみせるスズネたち。
強く興味を掻き立てられる者。
さほど興味を示さない者。
そもそもその存在を疑う者。
そんな彼女たちに向けてマリは最後にこう付け加えた。


「みんなそれぞれ思うところがあるみたいだけど、最後に面白い情報を教えてあげる。特にミリアは喜ぶかもね」

「アタシが喜ぶ情報?」

「フフフッ。実は今話した世界最強の冒険者『風のシムカ』は ───── 女性らしいわよ」

「ホントですか!?!?!?」


マリの宣言通り、その言葉に対して真っ先に飛びついたのはミリアであった。
世界で唯一のSSランク冒険者であり、歴史上でただ一人Sランクの魔獣を単独で撃破したといわれている者。
実在しているのかどうかはさておき、記録としてはその実績が残っている伝説級の人物。
今も昔も屈強な男たちがその大半を占めている冒険者の世界で最強の称号を手にした女性。
そんなもの ───── 憧れずにはいられない。


「クゥーーーッ・・・」

「大丈夫?ミリア」


項垂れるように下を向くミリアを心配したスズネが声をかける。
そして、他のメンバーたちも心配そうに彼女を見つめていた・・・その時。


「ヨッシャーーー!!決めたわ!残りのSランク魔獣は全てアタシがブッた斬ってやるわ。それでアタシはSSSランクの冒険者になってやるーーーーー!!!」


突然感情を爆発させるようにしてSSSランクになると高らかに宣言するミリア。
当然周囲の者たちから一斉に視線を向けられたのだが、それでもミリアは気にも留めない。
なぜなら、どこか靄がかかったように思えていた視界が一気に開けたような感覚を覚えたからだ。
最強になると剣に誓った日から鍛錬を続けてきた。
その中で、どうすれば、どこに向かえば、その証明になるのかと苦慮する日もあった。
そして今日、その一つの答えに辿り着いた気がしたのだ。
彼女の闘争心に火が点かないわけがない。
やるべきことはただ一つ!
強くなり自身の手でSランク魔獣を討ち倒すこと。
その時、すでにミリアの中に渦巻いていた迷いが消えてなくなっていた。


「ヨシ、ヨシ、ヨシ、ヨシ。やってやるわ。絶対に最強になってやる!!」

「おい!」

「なによ!人がせっかくやる気に燃えてんだから邪魔しないで」


やる気に満ち溢れ、気持ちが燃え上がっているミリアにクロノが言う。


「お前が最強だと?冗談も大概にしておけ。実力の伴わない戯言ほど恥ずかしいものはない。身の程を知れ!!」


最強になるという目的に至るための新たな目標をみつけてやる気を漲らせるミリアなのだったが、あまりにも実力とかけ離れた目標設定に黙っていられなくなったクロノによって至極真っ当な意見で一喝されたのであった。


「もう!たまには実力以上のでっかい夢を見たっていいじゃないのよーーーーー」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

ウォーキング・オブ・ザ・ヒーロー!ウォークゲーマーの僕は今日もゲーム(スキル)の為に異世界を歩く

まったりー
ファンタジー
主人公はウォークゲームを楽しむ高校生、ある時学校の教室で異世界召喚され、クラス全員が異世界に行ってしまいます。 国王様が魔王を倒してくれと頼んできてステータスを確認しますが、主人公はウォーク人という良く分からない職業で、スキルもウォークスキルと記され国王は分からず、いらないと判定します、何が出来るのかと聞かれた主人公は、ポイントで交換できるアイテムを出そうとしますが、交換しようとしたのがパンだった為、またまた要らないと言われてしまい、今度は城からも追い出されます。 主人公は気にせず、ウォークスキルをゲームと同列だと考え異世界で旅をします。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

現世に侵略してきた異世界人を撃退して、世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。

佐久間 譲司
ファンタジー
突如として人類世界に侵略を始めた異世界人達。圧倒的な戦闘能力を誇り、人類を圧倒していく。 人類の命運が尽きようとしていた時、異世界側は、ある一つの提案を行う。それは、お互いの世界から代表五名を選出しての、決闘だった。彼らには、鉄の掟があり、雌雄を決するものは、決闘で決めるのだという。もしも、人類側が勝てば、降伏すると約束を行った。 すでに追い詰められていた人類は、否応がなしに決闘を受け入れた。そして、決闘が始まり、人類は一方的に虐殺されていった。 『瀉血』の能力を持つ篠崎直斗は、変装を行い、その決闘場に乱入する。『瀉血』の力を使い、それまでとは逆に、異世界側を圧倒し、勝利をする。 勝利後、直斗は、正体が発覚することなく、その場を離れることに成功した。 異世界側は、公約通り、人類の軍門に下った。 やがて、人類を勝利に導いた直斗は、人類側、異世界側両方からその身を狙われるようになる。人類側からは、異世界の脅威に対する対抗策として、異世界側からは、復讐と力の秘密のために。

パワハラで会社を辞めた俺、スキル【万能造船】で自由な船旅に出る~現代知識とチート船で水上交易してたら、いつの間にか国家予算レベルの大金を稼い

☆ほしい
ファンタジー
過労とパワハラで心身ともに限界だった俺、佐伯湊(さえきみなと)は、ある日異世界に転移してしまった。神様から与えられたのは【万能造船】というユニークスキル。それは、設計図さえあれば、どんな船でも素材を消費して作り出せるという能力だった。 「もう誰にも縛られない、自由な生活を送るんだ」 そう決意した俺は、手始めに小さな川舟を作り、水上での生活をスタートさせる。前世の知識を活かして、この世界にはない調味料や保存食、便利な日用品を自作して港町で売ってみると、これがまさかの大当たり。 スキルで船をどんどん豪華客船並みに拡張し、快適な船上生活を送りながら、行く先々の港町で特産品を仕入れては別の町で売る。そんな気ままな水上交易を続けているうちに、俺の資産はいつの間にか小国の国家予算を軽く超えていた。 これは、社畜だった俺が、チートな船でのんびりスローライフを送りながら、世界一の商人になるまでの物語。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...