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試し喰い
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「あ~~~もう!お腹が空いてイライラするんだけど」
「カルラ様、少しは落ち着いてくださいよ。物事には順序というものがあるんです」
「知らな~い。それってカルラに関係あんの?そうだ!カルラを一番にすればいいじゃん。はい、問題解決~~~」
「ハァ~~~・・・」
会話が成り立たず溜め息混じりに頭を抱えるフリット。
そんな彼の苦悩など微塵も気に留めることなくカルラは無邪気に満面の笑みを浮かべるのだった。
『むちゃくちゃだ』
目の前で繰り広げられる光景を目にしたスズネたちは皆同じことを思っていた。
しかし、彼女たちが少女から感じたものは偉そうな雰囲気や傲慢さといったものではなく、子供が物事を自分の思い通りにしたいと駄々をこねているような感覚に近いものであった。
それでも視線の先で頭を抱え続ける男性には同情するしかなかった。
「ねぇ~、問題は解決したんだから早く早く~」
「カルラ様、一旦口を閉じておいてください。話が進みませんので」
「アハハハハ、フリット生意気~。燃やされたいの~?」
「食事が無くてもいいんですか?それともカルラ様が宿り木の皆さんに頭を下げてお願いしますか?無理なら少しの間静かにしていてください。私が状況を説明してお願いしますので」
「もう!さっさとしてよ!カルラ待たされるのチョー嫌いなんだからね!!」
「はいはい、分かっていますよ」
少し不機嫌な態度をみせるカルラを言葉巧みに宥めていくフリット。
そうして呼吸を整えると、フリットは改めてスズネたちの方へと向き直したのだった。
「お騒がせして申し訳ありません。皆さん突然我々のような者が現れて困惑していると思いますので、僭越ながら私からご説明させていただきます」
「はぁ~・・・ハッ!?そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。多少驚きはしましたけど、それはカルラさんみたいな有名な方がいきなり目の前に現れたからであって、その~ ───── 」
「フフフッ。お気遣いありがとうございます。口調に関しましては私の癖みたいなものですのでお気になさらず。それでは改めて、我々がここに来た理由は ───── スズネさんと魔王クロノさんにお願いしたいことがあるからです」
「私とクロノにお願いですか?」
「はい。厳密にはクロノさんに魔法を放っていただきたいのです」
Sランククランに所属しており、カルラに至ってはSランクの冒険者でもある。
しかもSランク魔獣を討伐するほどの実力を併せ持っている。
そんな彼女たちがわざわざBランクの冒険者であるスズネたちを尋ねてきた理由はクロノにあった。
それも魔王であるクロノに魔法を放ってほしいという意味不明なお願いをするために。
何か複雑な事情でもあるのか、それともSランクの冒険者であってもどうしようもない問題に直面しているのか、いろんな考えがスズネたちの脳裏を駆け巡る。
そんな中で当のクロノ本人はというと ───── 実に面倒くさそうな表情をしていた。
ただでさえスズネたちの大失態を目の当たりにして疲れているところに、さらに訳の分からない二人組が現れて魔法を撃てという。
そして、この立て続けのストレスに対してクロノはその憤りを隠そうとはしなかった。
「おい、殺されたくなかったらさっさと失せろ」
「ハハハッ…、これは手厳しい。あなたが魔王クロノさんですか。不躾なお願いをしに参ったのは重々承知しているのですが、何卒お力添えを」
「まったくしつこい奴なのじゃ!旦那様が失せろと言ったらさっさと失せるのじゃ」
「はぁ~…しかし ───── 」
「本当に物分かりの悪い奴じゃなー。帰れと言ったら帰れなのじゃ」
クロノとフリットの間に不穏な空気が流れる中、愛する人の前に立ったラーニャがなんとか食い下がろうとする男に対して怒りをぶちまける。
「ハァ~・・・これは困りましたね」
「フリット~~~、終わった~~~?」
その時、悩める男の耳に悪魔の声が届く。
前方には気を悪くした魔王と怒れる少女、後方には腹を空かせた悪魔の姿が。
まさに八方塞がりの状況。
しかし、そんな彼のことを悪魔はさらに追い詰めていく。
「おい、無視してんじゃねーよ。カルラのこといつまで待たせんの?」
フリットは心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚える。
低く重いその声はイライラを通り越して殺気に満ち溢れていた。
「ウッ・・・・・」
フリットの首筋を冷や汗が滑り落ちる。
それでも彼は笑顔を崩さない。
それはスズネたちにとって驚くべきものであった。
「とんでもないプレッシャーっす」
「あれがSランク冒険者が放つ覇気というものなのでしょうか」
「それもだけどアンタたちよく見なさいよ。あの男、あれだけの殺気を向けられているにも関わらず一切表情を崩していないわ」
「やっぱりSランククランに所属している人は相当な実力者だってことだよね」
カルラが放つ強烈なプレッシャーも、それを受けながらも笑顔を絶やさないフリットの姿も、今のスズネたちにとっては遥か高みの景色をみているようであった。
しかし、彼女たちは知らなかった。
悠然と立っているように見えた目の前の男が内心震え上がっていたことを。
《ムリムリムリムリ。カルラ様めちゃくちゃ怒ってるってーーー。ヤバい。振り返れない。どうする?どうする?ここで一つでも間違えたら・・・ハァ~、考えただけで吐きそう》
「おい、カルラがどうなってんのかって聞いてんだよ。灰にされたいのか?」
「・・・・・」
空腹も限界を迎え、我慢という言葉は今や怒りのトリガーにしかならないほどにカルラはブチ切れていたのだが、そんな二人の間に流れる緊迫した空気を茶番に付き合わされて苛立っているあの男が切り裂く。
「ごちゃごちゃうるせぇーんだよ、ガキ。勝手に現れて騒いでんじゃねぇーぞ。そんなに腹が減ってんだったらさっさと帰れ」
「は?カルラが怒られてんの?なんで?なんで?なんで?カルラはここに来れば美味しいご飯が食べられるって聞いたから、わざわざこんな辺鄙なところまで来てやったのにさ。なんで怒られなきゃなんないの!分かんない、分かんない、分かんない!!」
「落ち着いてください、カルラ様。今クロノさんにお願いして巨大な火の球を出してもらいますので」
「「「「「 巨大な火の球??? 」」」」」
「あの~…クロノにお願いしたいことっていうのは ──────── 」
「はい。先日たまたま耳にした話なのですが、随分前にサーバイン校にてクロノさんが召喚された時に途轍もない大きさの火球を出されたとか。そして、それを聞いたカルラ様が強く興味を持たれて本日ここまでやって来たという次第なのです」
「あーーーアレね。突然スズネに喚び出されたクロノが広場に集まった人たちを皆殺しにしようとした時の話ね」
「えっ!?そんなことしてたんすか?」
「本当に無茶苦茶ですね。子供じゃないんですから少しは自制してくださいよ」
「ご…ご主人様、さすがにそれはちょっと ───── 」
「うるさい!突然見知らぬ場所に飛ばされて、目の前に大量のヒト族が現れたんだぞ。警戒するに決まってるだろ」
「しかし、警戒したからといって皆殺しにしようとするのはどうかと思いますよ。ただの暴君じゃないですか」
「フンッ。貴様らは何も分かっておらんのう。容赦の無いところもまた旦那様の素敵なところなのじゃ」
「クロノ、わざわざ来てくれたわけだし見せるだけ見せてあげたら?」
「はぁ!?俺の魔法は大道芸じゃねぇーぞ」
困り果てた様子のフリットの姿を前にして不憫に思ったスズネが、クロノに対して手を貸してあげられないかと説得を試みるものの、クロノはそれに強く反発する。
なんとも言えない状況が続くのであったが、そもそもスズネたちにはカルラがなぜそこまで興味を持つのか、その理由が分からなかった。
なぜなら彼女は火属性の実力者を数多く抱えるクラン『焔』のリーダーだからである。
ただ大きいだけの火球であれば焔の団員たちに頼めばなんとかなりそうな気もする。
だが、彼女はここにやって来たのだ。
その理由くらいは聞いてもいいだろう。
皆がそう考えていた時、それまで口を閉ざしていたセスリーが恐る恐る質問をする。
「あ…あの・・・どうしてご主人様なのですか?焔には火属性の冒険者が数多くいるのではないですか?」
「はぁ?そんなの決まってんじゃん。カルラは炎が大好物なの。そこにいる男は魔族なんでしょ。しかもとびっきり強いって聞いてる。魔族は魔法制御が他の種族に比べて上手なんでしょ。それにカルラ、魔族が生み出した炎なんて食べたことがないもの。だからわざわざ来たのよ。あ~~~早く試し喰いしたいな~~~」
「「「「「「 炎を・・・食べる??? 」」」」」」
カルラが言っていることの意味は分からないが、彼女の表情や空気感からしてふざけているような雰囲気はない。
どうやら本気で言っているようだ。
そうして、ここまできてようやくスズネたちは状況を理解し始める。
カルラは炎が大好物であり、どこからかクロノの存在を聞きつけ、さらに強力な火炎系の魔法を使うという情報を得た結果、その真実を確かめるために試食がてらここまで確認しに来たのだ。
「おい、魔王!カルラが味をみてやる。さっさと火球を出せ」
「なんだコイツ。ふざけやがって。灰にしていいか?」
「ダメに決まってんでしょ。今この国で一番話題の人物を殺してどうすんのよ。アタシたちがこの国に居られなくなっちゃうじゃない」
「知るかよ。こいつめちゃくちゃ生意気だぞ」
「アハハハハ。いいよいいよ。さっさとカルラのこと灰にしなよ。噂に聞いたで~っかい火の球でさーーー」
上から目線で命令してくるカルラに対して怒りを隠そうとしないクロノ。
しかし、そんな相手を前にしてもさらに煽りを強めていくカルラ。
その理由は、もちろん噂の魔王に魔法を撃たせるため。
ただカルラは知らなかった。
クロノには彼をこよなく愛する弟子がいることを。
「おい!貴様、旦那様に対して失礼にもほどがあるぞ!Sランクだかなんだか知らぬが、貴様ごとき旦那様が手を下すまでもない。わっちの魔法で灰にしてやるのじゃ!!」
「なに?このちっこいのがカルラのご飯用意してくれんの?」
「グヌヌヌヌ…。ちっこいとはなんじゃ!貴様とさほど変わりはせんのじゃ!!」
カルラからの煽りを受けて、沸点の低いラーニャの怒りが頂点に達する。
もはや激突は避けられそうにもない。
そして、それを感じ取った宿り木のメンバーたちも諦めたようにその争いを静観している。
果たしてこの少女たちの熱い戦いはいったいどこへと向かうのやら・・・。
「死んで後悔するでないぞ!骨の髄まで燃やし尽くしてやるのじゃ」
ブウォウ…メラメラメラメラ ──────── 。
その言葉と共にラーニャの頭上に直径三メートルほどの大きな火球が姿を現す。
そして、それを目にしたカルラはキラキラと瞳を輝かせながら笑みを浮かべるのだった。
「カモン、カモン、カモ~~~ン」
「くらうがいいのじゃ! ───── 火球」
「カルラ様、少しは落ち着いてくださいよ。物事には順序というものがあるんです」
「知らな~い。それってカルラに関係あんの?そうだ!カルラを一番にすればいいじゃん。はい、問題解決~~~」
「ハァ~~~・・・」
会話が成り立たず溜め息混じりに頭を抱えるフリット。
そんな彼の苦悩など微塵も気に留めることなくカルラは無邪気に満面の笑みを浮かべるのだった。
『むちゃくちゃだ』
目の前で繰り広げられる光景を目にしたスズネたちは皆同じことを思っていた。
しかし、彼女たちが少女から感じたものは偉そうな雰囲気や傲慢さといったものではなく、子供が物事を自分の思い通りにしたいと駄々をこねているような感覚に近いものであった。
それでも視線の先で頭を抱え続ける男性には同情するしかなかった。
「ねぇ~、問題は解決したんだから早く早く~」
「カルラ様、一旦口を閉じておいてください。話が進みませんので」
「アハハハハ、フリット生意気~。燃やされたいの~?」
「食事が無くてもいいんですか?それともカルラ様が宿り木の皆さんに頭を下げてお願いしますか?無理なら少しの間静かにしていてください。私が状況を説明してお願いしますので」
「もう!さっさとしてよ!カルラ待たされるのチョー嫌いなんだからね!!」
「はいはい、分かっていますよ」
少し不機嫌な態度をみせるカルラを言葉巧みに宥めていくフリット。
そうして呼吸を整えると、フリットは改めてスズネたちの方へと向き直したのだった。
「お騒がせして申し訳ありません。皆さん突然我々のような者が現れて困惑していると思いますので、僭越ながら私からご説明させていただきます」
「はぁ~・・・ハッ!?そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。多少驚きはしましたけど、それはカルラさんみたいな有名な方がいきなり目の前に現れたからであって、その~ ───── 」
「フフフッ。お気遣いありがとうございます。口調に関しましては私の癖みたいなものですのでお気になさらず。それでは改めて、我々がここに来た理由は ───── スズネさんと魔王クロノさんにお願いしたいことがあるからです」
「私とクロノにお願いですか?」
「はい。厳密にはクロノさんに魔法を放っていただきたいのです」
Sランククランに所属しており、カルラに至ってはSランクの冒険者でもある。
しかもSランク魔獣を討伐するほどの実力を併せ持っている。
そんな彼女たちがわざわざBランクの冒険者であるスズネたちを尋ねてきた理由はクロノにあった。
それも魔王であるクロノに魔法を放ってほしいという意味不明なお願いをするために。
何か複雑な事情でもあるのか、それともSランクの冒険者であってもどうしようもない問題に直面しているのか、いろんな考えがスズネたちの脳裏を駆け巡る。
そんな中で当のクロノ本人はというと ───── 実に面倒くさそうな表情をしていた。
ただでさえスズネたちの大失態を目の当たりにして疲れているところに、さらに訳の分からない二人組が現れて魔法を撃てという。
そして、この立て続けのストレスに対してクロノはその憤りを隠そうとはしなかった。
「おい、殺されたくなかったらさっさと失せろ」
「ハハハッ…、これは手厳しい。あなたが魔王クロノさんですか。不躾なお願いをしに参ったのは重々承知しているのですが、何卒お力添えを」
「まったくしつこい奴なのじゃ!旦那様が失せろと言ったらさっさと失せるのじゃ」
「はぁ~…しかし ───── 」
「本当に物分かりの悪い奴じゃなー。帰れと言ったら帰れなのじゃ」
クロノとフリットの間に不穏な空気が流れる中、愛する人の前に立ったラーニャがなんとか食い下がろうとする男に対して怒りをぶちまける。
「ハァ~・・・これは困りましたね」
「フリット~~~、終わった~~~?」
その時、悩める男の耳に悪魔の声が届く。
前方には気を悪くした魔王と怒れる少女、後方には腹を空かせた悪魔の姿が。
まさに八方塞がりの状況。
しかし、そんな彼のことを悪魔はさらに追い詰めていく。
「おい、無視してんじゃねーよ。カルラのこといつまで待たせんの?」
フリットは心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚える。
低く重いその声はイライラを通り越して殺気に満ち溢れていた。
「ウッ・・・・・」
フリットの首筋を冷や汗が滑り落ちる。
それでも彼は笑顔を崩さない。
それはスズネたちにとって驚くべきものであった。
「とんでもないプレッシャーっす」
「あれがSランク冒険者が放つ覇気というものなのでしょうか」
「それもだけどアンタたちよく見なさいよ。あの男、あれだけの殺気を向けられているにも関わらず一切表情を崩していないわ」
「やっぱりSランククランに所属している人は相当な実力者だってことだよね」
カルラが放つ強烈なプレッシャーも、それを受けながらも笑顔を絶やさないフリットの姿も、今のスズネたちにとっては遥か高みの景色をみているようであった。
しかし、彼女たちは知らなかった。
悠然と立っているように見えた目の前の男が内心震え上がっていたことを。
《ムリムリムリムリ。カルラ様めちゃくちゃ怒ってるってーーー。ヤバい。振り返れない。どうする?どうする?ここで一つでも間違えたら・・・ハァ~、考えただけで吐きそう》
「おい、カルラがどうなってんのかって聞いてんだよ。灰にされたいのか?」
「・・・・・」
空腹も限界を迎え、我慢という言葉は今や怒りのトリガーにしかならないほどにカルラはブチ切れていたのだが、そんな二人の間に流れる緊迫した空気を茶番に付き合わされて苛立っているあの男が切り裂く。
「ごちゃごちゃうるせぇーんだよ、ガキ。勝手に現れて騒いでんじゃねぇーぞ。そんなに腹が減ってんだったらさっさと帰れ」
「は?カルラが怒られてんの?なんで?なんで?なんで?カルラはここに来れば美味しいご飯が食べられるって聞いたから、わざわざこんな辺鄙なところまで来てやったのにさ。なんで怒られなきゃなんないの!分かんない、分かんない、分かんない!!」
「落ち着いてください、カルラ様。今クロノさんにお願いして巨大な火の球を出してもらいますので」
「「「「「 巨大な火の球??? 」」」」」
「あの~…クロノにお願いしたいことっていうのは ──────── 」
「はい。先日たまたま耳にした話なのですが、随分前にサーバイン校にてクロノさんが召喚された時に途轍もない大きさの火球を出されたとか。そして、それを聞いたカルラ様が強く興味を持たれて本日ここまでやって来たという次第なのです」
「あーーーアレね。突然スズネに喚び出されたクロノが広場に集まった人たちを皆殺しにしようとした時の話ね」
「えっ!?そんなことしてたんすか?」
「本当に無茶苦茶ですね。子供じゃないんですから少しは自制してくださいよ」
「ご…ご主人様、さすがにそれはちょっと ───── 」
「うるさい!突然見知らぬ場所に飛ばされて、目の前に大量のヒト族が現れたんだぞ。警戒するに決まってるだろ」
「しかし、警戒したからといって皆殺しにしようとするのはどうかと思いますよ。ただの暴君じゃないですか」
「フンッ。貴様らは何も分かっておらんのう。容赦の無いところもまた旦那様の素敵なところなのじゃ」
「クロノ、わざわざ来てくれたわけだし見せるだけ見せてあげたら?」
「はぁ!?俺の魔法は大道芸じゃねぇーぞ」
困り果てた様子のフリットの姿を前にして不憫に思ったスズネが、クロノに対して手を貸してあげられないかと説得を試みるものの、クロノはそれに強く反発する。
なんとも言えない状況が続くのであったが、そもそもスズネたちにはカルラがなぜそこまで興味を持つのか、その理由が分からなかった。
なぜなら彼女は火属性の実力者を数多く抱えるクラン『焔』のリーダーだからである。
ただ大きいだけの火球であれば焔の団員たちに頼めばなんとかなりそうな気もする。
だが、彼女はここにやって来たのだ。
その理由くらいは聞いてもいいだろう。
皆がそう考えていた時、それまで口を閉ざしていたセスリーが恐る恐る質問をする。
「あ…あの・・・どうしてご主人様なのですか?焔には火属性の冒険者が数多くいるのではないですか?」
「はぁ?そんなの決まってんじゃん。カルラは炎が大好物なの。そこにいる男は魔族なんでしょ。しかもとびっきり強いって聞いてる。魔族は魔法制御が他の種族に比べて上手なんでしょ。それにカルラ、魔族が生み出した炎なんて食べたことがないもの。だからわざわざ来たのよ。あ~~~早く試し喰いしたいな~~~」
「「「「「「 炎を・・・食べる??? 」」」」」」
カルラが言っていることの意味は分からないが、彼女の表情や空気感からしてふざけているような雰囲気はない。
どうやら本気で言っているようだ。
そうして、ここまできてようやくスズネたちは状況を理解し始める。
カルラは炎が大好物であり、どこからかクロノの存在を聞きつけ、さらに強力な火炎系の魔法を使うという情報を得た結果、その真実を確かめるために試食がてらここまで確認しに来たのだ。
「おい、魔王!カルラが味をみてやる。さっさと火球を出せ」
「なんだコイツ。ふざけやがって。灰にしていいか?」
「ダメに決まってんでしょ。今この国で一番話題の人物を殺してどうすんのよ。アタシたちがこの国に居られなくなっちゃうじゃない」
「知るかよ。こいつめちゃくちゃ生意気だぞ」
「アハハハハ。いいよいいよ。さっさとカルラのこと灰にしなよ。噂に聞いたで~っかい火の球でさーーー」
上から目線で命令してくるカルラに対して怒りを隠そうとしないクロノ。
しかし、そんな相手を前にしてもさらに煽りを強めていくカルラ。
その理由は、もちろん噂の魔王に魔法を撃たせるため。
ただカルラは知らなかった。
クロノには彼をこよなく愛する弟子がいることを。
「おい!貴様、旦那様に対して失礼にもほどがあるぞ!Sランクだかなんだか知らぬが、貴様ごとき旦那様が手を下すまでもない。わっちの魔法で灰にしてやるのじゃ!!」
「なに?このちっこいのがカルラのご飯用意してくれんの?」
「グヌヌヌヌ…。ちっこいとはなんじゃ!貴様とさほど変わりはせんのじゃ!!」
カルラからの煽りを受けて、沸点の低いラーニャの怒りが頂点に達する。
もはや激突は避けられそうにもない。
そして、それを感じ取った宿り木のメンバーたちも諦めたようにその争いを静観している。
果たしてこの少女たちの熱い戦いはいったいどこへと向かうのやら・・・。
「死んで後悔するでないぞ!骨の髄まで燃やし尽くしてやるのじゃ」
ブウォウ…メラメラメラメラ ──────── 。
その言葉と共にラーニャの頭上に直径三メートルほどの大きな火球が姿を現す。
そして、それを目にしたカルラはキラキラと瞳を輝かせながら笑みを浮かべるのだった。
「カモン、カモン、カモ~~~ン」
「くらうがいいのじゃ! ───── 火球」
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