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絶対的な恐怖
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「おい、魔王!カルラはお前を気に入ったぞ。このまま『焔』に入れ!!」
「はぁ?嫌に決まってんだろ」
焔のリーダーであるカルラ直々の勧誘に対して即答するクロノ。
Sランククランからの誘いにも関わらず一切迷うことはなかった。
しかし、それはスズネたち『宿り木』に対して愛着があるとか、仲間意識があるというような心温まる話では決してない。
彼にとって今の状況はさっさと解放されたい ───── ある種の呪いを受けているようなもの。
それに加えて突然現れたわけの分からない小さな少女からの上から目線のお誘い。
もはや苛立ちを通り越して呆れ果てるしかなかった。
「え~~~~~。なんで?なんで?なんで?カルラのクランはSランクだよ。この国で一番でっかくて、一番強いんだよ。なんで断るの?意味分かんな~~~い」
「いやいや…ちょっとアンタ、勝手に他人のパーティから引き抜きしないでよね」
「おい、いつから俺はお前らのパーティに入ったんだよ…」
「お前たちみたいな少人数のちっさいパーティなんかよりもカルラのでっかいクランのほうがいいに決まってんじゃん」
「いや、だから入らねぇって…」
「本当に物分かりの悪い奴じゃな~。そもそも旦那様はわっちの旦那様なのじゃ!貴様のような青臭い女のところになど行きはせん!!」
「おま…いったいいつからお前のものになったんだよ…」
「でも、カルラのほうが強いし、カルラのほうが可愛いし、カルラと一緒にいたほうが楽しいに決まってる!」
「いや、知らんし…」
こうして本人の意思などそっちのけのクロノを巡る舌戦が幕を開ける。
何としてでもクロノを自身のクランに引き入れようとするカルラ。
自分勝手極まりないその態度に苛立ちを覚えて応戦するミリア。
そもそも自分こそがクロノの婚約者であると主張し、どこの馬の骨とも知れない女に奪われてなるものかと怒りをぶつけるラーニャ。
そんな三者の間に挟まれ、自分の意思など聞こうともしない者たちの勢いに押され、さすがの魔王もタジタジになるしかないのだった。
「ム~~~…。もう無理!カルラ完全に怒っちゃったもんね。フリット、今すぐ焔のメンバーを呼んで!こんなちっさいパーティなんてぶっ潰してやる!!」
「ちょっ…ちょっと、そんなの卑怯じゃない!何百人といるクラン相手にアタシたちだけで勝てるわけないでしょ」
「知らな~い。カルラに喧嘩を売ったそっちが悪いんだも~ん」
「そんなもの呼ばれる前にこやつら二人を倒せば済む話なのじゃ!!」
「ちょっとちょっと、二人とも落ち着いて。カルラさんも落ち着いてください」
「そうですよカルラ様。そもそもこんな口喧嘩にクランメンバーが来るわけないじゃないですか。皆さんそんなに暇じゃないですよ」
「なんで!カルラが馬鹿にされたんだよ!カルラが怒ってるのに、なんでみんな来ないの?カルラ、リーダーなのに~~~~~」
両者とも気持ちがどんどん熱くなり、ヒートアップするがあまり言葉も強くなっていく中、とうとうカルラがクランの力を使い、宿り木に対して宣戦布告を行う事態に。
しかし、その暴挙に対して付き人であるフリットは冷静に言葉を並べ、誰一人として来ることはないと諫めるのであった。
そして、一方の宿り木サイドでも熱くなり過ぎたミリアとラーニャに対して、スズネを始めとした他のメンバーたちが安い挑発に乗った二人を諌めていた。
「二人とも馬鹿なんですか?感情に任せて怒りをぶつけた挙句に仲間を危険にさらすなんて」
「本当にそうっすよ。やるなら二人だけでやってもらいたいっす。ウチらまで巻き込まないでほしいっす」
「そ…そもそも、ご主人様はそんな薄情な方ではないと思います」
「ダメだよ二人とも!!同じ冒険者同士で喧嘩なんて」
「「はい…ごめんなさい・・・」」
仲間たちからしっかり怒られ、自分たちの軽率な行いを反省するミリアとラーニャ。
しかし、そんな彼女たちに向けられたのはその姿を嘲笑う声であった。
「イッヒッヒッヒッヒッ。め~っちゃ怒られてる~。カルラに喧嘩なんて売るからそうなるんだよ。イ~ッヒッヒッヒッヒッ。いい気味、いい気味~~~」
プルプル…プルプル… ──────── 。
「ガマンよ…ラーニャ…」
「ムムム…分かっておるのじゃ…」
反省を続ける二人に向けてさらなる煽りを披露するカルラ。
仲間たちから注意を受けたそばからブチ切れるわけにもいかず、その屈辱的な状況の中であっても二人は耐え続けるしかなかった。
そして、相手が何も言えない状況であるということを完全に理解したカルラは、勝ったと思い高笑いを続けるのだった。
しかし、彼女の栄華も長続きはしない。
「カルラ様、お戯れも程々にしてください。そもそもクロノさんはスズネさんとの契約がありますので、クロノさんだけを引き抜くことは出来ませんよ」
「え~~~。それならそっちの人もカルラのクランに入っていいよ」
「それも無理です」
「もう!なんでよ!!」
「スズネさんはパーティ『宿り木』のリーダーですから。引き抜こうと思ったら宿り木の皆さんをまとめて焔に迎え入れなければなりません。しかしながら、皆さんにはそのつもりはないようです。したがって、結論としましてはカルラ様の願いは叶わないということになります」
「ヤダ、ヤダ、ヤダ、ヤダ。い~~~や~~~だ~~~。あの青い火をもっと食べたい~~~。何でカルラのお願いきいてくれないの?」
「ホント…どれだけ我儘なのよコイツ」
「呆れて何も言えんのじゃ」
「もう辞める!カルラ、焔辞めてこいつらのパーティに入る!そうすれば毎日食べられるでしょ」
《《《《 えーーーーーっ・・・・・ 》》》》
カルラによる唐突な申し出に心の中で困惑するスズネたち。
単純な戦力アップと考えればこれ以上ない人物ではあるのだが、組織としてのバランスや焔との今後の関係性などを考えた時に問題があり過ぎる。
そもそもカルラを迎え入れた後、仲良く冒険している光景が思い浮かばない。
彼女たちの答えはもちろん『否』である。
「嫌なのじゃ!貴様など絶っっっ対にパーティに入れてやらん」
「え~なんで?カルラ強いよ。お前たち全員と戦っても負けないし。嬉しくないの?」
「アンタなんか必要ないわ。アタシたちにはアタシたちの冒険があんのよ!部外者が好き勝手口出ししてんじゃないわよ」
自分の気持ちに正直なカルラにとって、周りの状況や心情といったものは一切関係ない。
その言葉や行動によってどのような事が起こるのか、周囲にどのような影響を及ぼすのか、そんなことは彼女の関知するところではないのだ。
そんな彼女に苛立ちを覚える者たちの堪忍袋もそろそろ限界を迎えようとしていたその時、あの男からカルラにとって最も恐ろしい言葉が発せられる。
「カルラ様、そろそろ駄々をこねるのもいい加減にしましょうか」
「はぁ?フリット、カルラに説教でもするつもりなの?カルラが優しいからって最近ちょっと調子に乗ってんじゃない。───── 殺すよ?」
「カルマ様に言いつけますよ」
ビクッ!? ──────── 。
その言葉を聞いた途端、急激に大人しくなりうつむき加減で微動だにしなくなったカルラ。
その顔色は瞬く間に青ざめていき、先程までの天真爛漫な彼女の姿からは想像もつかないほどに怯えているようであった。
「えっと…カルラさん?顔色が悪いようですけど、大丈夫ですか?」
ブツブツ…ブツブツ… ──────── 。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
ブツブツ…ブツブツ… ──────── 。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
その急激な変化に対して何事かと心配したスズネが声をかけるのだが、あまりの恐怖にその声は届いていない様子。
そして、カルラはただただ身体をブルブルと振るわせ、今にも泣き出しそうな表情を浮かべながらブツブツと謝罪の言葉を繰り返すのだった。
「あの~フリットさん、カルラさんはどうしちゃったんすか?」
目の前で起こった急展開に皆を代表してその疑問をフリットへとぶつけるシャムロム。
そして、その質問に対してニッコリと笑みを浮かべると、フリットは快く説明を始めるのであった。
「フフフフフッ。突然のことで驚きましたよね。それよりもまず、宿り木の皆様への無礼な物言いの数々、カルラ様に代わって深くお詫び申し上げます」
謝罪の言葉と共に深々と頭を下げるフリット。
「いえいえ、そんなこと誰も気にしてませんから、顔を上げてください」
「そうですよ。悪いのは全部アイツなんですから」
「フフフフフッ、お心遣い感謝します。それでカルラ様のこの変わりようについてですが」
「そうそう、アイツが急に怯えだすなんてビックリしちゃいましたよ」
「フフフッ、まぁ~そうでしょうね。それではご説明させていただきます。まず、我らがクラン『焔』はカルラ様をリーダーとして構成されているのですが、見ていただいた通り我儘放題のリーダーですので、それを補佐するサブリーダーがいるのです。そして、それがカルラ様の兄上であるカルマ様なのです」
「へぇー、お兄さんがサブリーダーをしているんですね」
「なるほど。さすがの我儘娘もそのお兄さんには頭が上らないわけね」
「まぁ~そういうわけです。カルラ様にとってカルマ様は絶対的な恐怖の対象なのです。我儘放題の妹の姿を見かけては、鉄拳制裁の上、長時間の説教と一切の情けをかけないため、その名を耳にしただけであの状態になる ───── といったわけです」
「っていうか、Sランクの冒険者を黙らせるほどの実力者ってことでしょ。そのお兄さんどんだけ強いのよ」
「フフフフフッ。そうですね~・・・。まぁ~瞬発的な強さで言ったらカルラ様のほうに分がありますが、そもそもの実力で言えばカルマ様のほうが圧倒的かと思います」
「さすがはSランククランっすね。化け物の他にそれ以上の化け物がいるなんて。世界はまだまだ広いっす」
「いや~でも本当に良かったですよ。考え無しの二人が喧嘩を売った結果、焔との争いになっていたかと思うとゾッとしますね」
「うっさいわね」
自由奔放な性格のカルラが王国でも最大級のクランのリーダーをやれているのは、その行いを陰でサポートする兄の存在があった。
しかし、スズネたちの脳裏には一つの疑問が残っていた。
あれだけ好き勝手やりたい放題の我儘なカルラをあそこまで怯えさせる存在とは・・・。
見てみたい気持ちもあるが、それほどの実力者を前にして自分たちは生きていられるのだろうか。
そのような考えなくてもいいことを頭に思い浮かべながら今日も陽は落ちていく。
その後、もはや会話をすることさえも難しくなったカルラは、フリットに背負われて自身のクランホームへと帰って行ったのだった。
「ハァ~…なんかドッと疲れたわね」
「もう今日はご飯を食べて寝たいっす」
「僕も眠気が限界のようです」
「わ…私も少々疲れました」
「わっちも馬鹿の相手をして疲れたのじゃ。さっさと飯にして寝るのじゃ」
「それじゃ急いで夕食の準備をしちゃおう。それから ───── 明日は休みにしちゃおうと思いまーす!!」
「「「「「おーーー!さんせーーーい!!」」」」」
こうして長旅の最後に思わぬ疲労に見舞われたスズネたちは、翌日の予定をキャンセルし、急いで夕食をかき込んだ後、気を失うようにして深い深い眠りについたのだった。
「はぁ?嫌に決まってんだろ」
焔のリーダーであるカルラ直々の勧誘に対して即答するクロノ。
Sランククランからの誘いにも関わらず一切迷うことはなかった。
しかし、それはスズネたち『宿り木』に対して愛着があるとか、仲間意識があるというような心温まる話では決してない。
彼にとって今の状況はさっさと解放されたい ───── ある種の呪いを受けているようなもの。
それに加えて突然現れたわけの分からない小さな少女からの上から目線のお誘い。
もはや苛立ちを通り越して呆れ果てるしかなかった。
「え~~~~~。なんで?なんで?なんで?カルラのクランはSランクだよ。この国で一番でっかくて、一番強いんだよ。なんで断るの?意味分かんな~~~い」
「いやいや…ちょっとアンタ、勝手に他人のパーティから引き抜きしないでよね」
「おい、いつから俺はお前らのパーティに入ったんだよ…」
「お前たちみたいな少人数のちっさいパーティなんかよりもカルラのでっかいクランのほうがいいに決まってんじゃん」
「いや、だから入らねぇって…」
「本当に物分かりの悪い奴じゃな~。そもそも旦那様はわっちの旦那様なのじゃ!貴様のような青臭い女のところになど行きはせん!!」
「おま…いったいいつからお前のものになったんだよ…」
「でも、カルラのほうが強いし、カルラのほうが可愛いし、カルラと一緒にいたほうが楽しいに決まってる!」
「いや、知らんし…」
こうして本人の意思などそっちのけのクロノを巡る舌戦が幕を開ける。
何としてでもクロノを自身のクランに引き入れようとするカルラ。
自分勝手極まりないその態度に苛立ちを覚えて応戦するミリア。
そもそも自分こそがクロノの婚約者であると主張し、どこの馬の骨とも知れない女に奪われてなるものかと怒りをぶつけるラーニャ。
そんな三者の間に挟まれ、自分の意思など聞こうともしない者たちの勢いに押され、さすがの魔王もタジタジになるしかないのだった。
「ム~~~…。もう無理!カルラ完全に怒っちゃったもんね。フリット、今すぐ焔のメンバーを呼んで!こんなちっさいパーティなんてぶっ潰してやる!!」
「ちょっ…ちょっと、そんなの卑怯じゃない!何百人といるクラン相手にアタシたちだけで勝てるわけないでしょ」
「知らな~い。カルラに喧嘩を売ったそっちが悪いんだも~ん」
「そんなもの呼ばれる前にこやつら二人を倒せば済む話なのじゃ!!」
「ちょっとちょっと、二人とも落ち着いて。カルラさんも落ち着いてください」
「そうですよカルラ様。そもそもこんな口喧嘩にクランメンバーが来るわけないじゃないですか。皆さんそんなに暇じゃないですよ」
「なんで!カルラが馬鹿にされたんだよ!カルラが怒ってるのに、なんでみんな来ないの?カルラ、リーダーなのに~~~~~」
両者とも気持ちがどんどん熱くなり、ヒートアップするがあまり言葉も強くなっていく中、とうとうカルラがクランの力を使い、宿り木に対して宣戦布告を行う事態に。
しかし、その暴挙に対して付き人であるフリットは冷静に言葉を並べ、誰一人として来ることはないと諫めるのであった。
そして、一方の宿り木サイドでも熱くなり過ぎたミリアとラーニャに対して、スズネを始めとした他のメンバーたちが安い挑発に乗った二人を諌めていた。
「二人とも馬鹿なんですか?感情に任せて怒りをぶつけた挙句に仲間を危険にさらすなんて」
「本当にそうっすよ。やるなら二人だけでやってもらいたいっす。ウチらまで巻き込まないでほしいっす」
「そ…そもそも、ご主人様はそんな薄情な方ではないと思います」
「ダメだよ二人とも!!同じ冒険者同士で喧嘩なんて」
「「はい…ごめんなさい・・・」」
仲間たちからしっかり怒られ、自分たちの軽率な行いを反省するミリアとラーニャ。
しかし、そんな彼女たちに向けられたのはその姿を嘲笑う声であった。
「イッヒッヒッヒッヒッ。め~っちゃ怒られてる~。カルラに喧嘩なんて売るからそうなるんだよ。イ~ッヒッヒッヒッヒッ。いい気味、いい気味~~~」
プルプル…プルプル… ──────── 。
「ガマンよ…ラーニャ…」
「ムムム…分かっておるのじゃ…」
反省を続ける二人に向けてさらなる煽りを披露するカルラ。
仲間たちから注意を受けたそばからブチ切れるわけにもいかず、その屈辱的な状況の中であっても二人は耐え続けるしかなかった。
そして、相手が何も言えない状況であるということを完全に理解したカルラは、勝ったと思い高笑いを続けるのだった。
しかし、彼女の栄華も長続きはしない。
「カルラ様、お戯れも程々にしてください。そもそもクロノさんはスズネさんとの契約がありますので、クロノさんだけを引き抜くことは出来ませんよ」
「え~~~。それならそっちの人もカルラのクランに入っていいよ」
「それも無理です」
「もう!なんでよ!!」
「スズネさんはパーティ『宿り木』のリーダーですから。引き抜こうと思ったら宿り木の皆さんをまとめて焔に迎え入れなければなりません。しかしながら、皆さんにはそのつもりはないようです。したがって、結論としましてはカルラ様の願いは叶わないということになります」
「ヤダ、ヤダ、ヤダ、ヤダ。い~~~や~~~だ~~~。あの青い火をもっと食べたい~~~。何でカルラのお願いきいてくれないの?」
「ホント…どれだけ我儘なのよコイツ」
「呆れて何も言えんのじゃ」
「もう辞める!カルラ、焔辞めてこいつらのパーティに入る!そうすれば毎日食べられるでしょ」
《《《《 えーーーーーっ・・・・・ 》》》》
カルラによる唐突な申し出に心の中で困惑するスズネたち。
単純な戦力アップと考えればこれ以上ない人物ではあるのだが、組織としてのバランスや焔との今後の関係性などを考えた時に問題があり過ぎる。
そもそもカルラを迎え入れた後、仲良く冒険している光景が思い浮かばない。
彼女たちの答えはもちろん『否』である。
「嫌なのじゃ!貴様など絶っっっ対にパーティに入れてやらん」
「え~なんで?カルラ強いよ。お前たち全員と戦っても負けないし。嬉しくないの?」
「アンタなんか必要ないわ。アタシたちにはアタシたちの冒険があんのよ!部外者が好き勝手口出ししてんじゃないわよ」
自分の気持ちに正直なカルラにとって、周りの状況や心情といったものは一切関係ない。
その言葉や行動によってどのような事が起こるのか、周囲にどのような影響を及ぼすのか、そんなことは彼女の関知するところではないのだ。
そんな彼女に苛立ちを覚える者たちの堪忍袋もそろそろ限界を迎えようとしていたその時、あの男からカルラにとって最も恐ろしい言葉が発せられる。
「カルラ様、そろそろ駄々をこねるのもいい加減にしましょうか」
「はぁ?フリット、カルラに説教でもするつもりなの?カルラが優しいからって最近ちょっと調子に乗ってんじゃない。───── 殺すよ?」
「カルマ様に言いつけますよ」
ビクッ!? ──────── 。
その言葉を聞いた途端、急激に大人しくなりうつむき加減で微動だにしなくなったカルラ。
その顔色は瞬く間に青ざめていき、先程までの天真爛漫な彼女の姿からは想像もつかないほどに怯えているようであった。
「えっと…カルラさん?顔色が悪いようですけど、大丈夫ですか?」
ブツブツ…ブツブツ… ──────── 。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
ブツブツ…ブツブツ… ──────── 。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
その急激な変化に対して何事かと心配したスズネが声をかけるのだが、あまりの恐怖にその声は届いていない様子。
そして、カルラはただただ身体をブルブルと振るわせ、今にも泣き出しそうな表情を浮かべながらブツブツと謝罪の言葉を繰り返すのだった。
「あの~フリットさん、カルラさんはどうしちゃったんすか?」
目の前で起こった急展開に皆を代表してその疑問をフリットへとぶつけるシャムロム。
そして、その質問に対してニッコリと笑みを浮かべると、フリットは快く説明を始めるのであった。
「フフフフフッ。突然のことで驚きましたよね。それよりもまず、宿り木の皆様への無礼な物言いの数々、カルラ様に代わって深くお詫び申し上げます」
謝罪の言葉と共に深々と頭を下げるフリット。
「いえいえ、そんなこと誰も気にしてませんから、顔を上げてください」
「そうですよ。悪いのは全部アイツなんですから」
「フフフフフッ、お心遣い感謝します。それでカルラ様のこの変わりようについてですが」
「そうそう、アイツが急に怯えだすなんてビックリしちゃいましたよ」
「フフフッ、まぁ~そうでしょうね。それではご説明させていただきます。まず、我らがクラン『焔』はカルラ様をリーダーとして構成されているのですが、見ていただいた通り我儘放題のリーダーですので、それを補佐するサブリーダーがいるのです。そして、それがカルラ様の兄上であるカルマ様なのです」
「へぇー、お兄さんがサブリーダーをしているんですね」
「なるほど。さすがの我儘娘もそのお兄さんには頭が上らないわけね」
「まぁ~そういうわけです。カルラ様にとってカルマ様は絶対的な恐怖の対象なのです。我儘放題の妹の姿を見かけては、鉄拳制裁の上、長時間の説教と一切の情けをかけないため、その名を耳にしただけであの状態になる ───── といったわけです」
「っていうか、Sランクの冒険者を黙らせるほどの実力者ってことでしょ。そのお兄さんどんだけ強いのよ」
「フフフフフッ。そうですね~・・・。まぁ~瞬発的な強さで言ったらカルラ様のほうに分がありますが、そもそもの実力で言えばカルマ様のほうが圧倒的かと思います」
「さすがはSランククランっすね。化け物の他にそれ以上の化け物がいるなんて。世界はまだまだ広いっす」
「いや~でも本当に良かったですよ。考え無しの二人が喧嘩を売った結果、焔との争いになっていたかと思うとゾッとしますね」
「うっさいわね」
自由奔放な性格のカルラが王国でも最大級のクランのリーダーをやれているのは、その行いを陰でサポートする兄の存在があった。
しかし、スズネたちの脳裏には一つの疑問が残っていた。
あれだけ好き勝手やりたい放題の我儘なカルラをあそこまで怯えさせる存在とは・・・。
見てみたい気持ちもあるが、それほどの実力者を前にして自分たちは生きていられるのだろうか。
そのような考えなくてもいいことを頭に思い浮かべながら今日も陽は落ちていく。
その後、もはや会話をすることさえも難しくなったカルラは、フリットに背負われて自身のクランホームへと帰って行ったのだった。
「ハァ~…なんかドッと疲れたわね」
「もう今日はご飯を食べて寝たいっす」
「僕も眠気が限界のようです」
「わ…私も少々疲れました」
「わっちも馬鹿の相手をして疲れたのじゃ。さっさと飯にして寝るのじゃ」
「それじゃ急いで夕食の準備をしちゃおう。それから ───── 明日は休みにしちゃおうと思いまーす!!」
「「「「「おーーー!さんせーーーい!!」」」」」
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