魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜

四乃森 コオ

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忍び寄る殺意

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「前回のクエストの結果を踏まえて今後の方針を決めたいと思います」


カルラたちが帰った後、ギルドへの報告を終えたスズネたちはとんぼ帰りでホームへと戻り、今後の方針についてミーティングを開いていた。


「アタシは女鳥人ハーピィにリベンジしたいわ」

「う~ん・・・。ウチは反対っす。今行ったところで同じことの繰り返しにしかならないと思うんすよね」

「僕はシャムロムに賛成です。明らかに実力が見合っていない。今行くのはただの無謀でしかありません」

「わ…私はそもそもBランクのクエストに挑むこと自体が時期尚早なのかなと思います」

「はぁ?せっかくBランクになったのにBランクのクエストを受けないってこと?正気なの?それじゃ何のためにランクアップしたのよ!」

「落ち着いて、ミリア。ラーニャちゃんはどう思う?」

「うーむ。まぁ~悔しいがセスリーの言っていることも一理ある気がするのう。癪に障るがあの生意気なカルラの話を聞いておってもわっちらはまだまだ弱い。それは紛れもない事実じゃ」

「「「「「・・・・・」」」」」


核心を突いたラーニャの言葉に何も返すことが出来ない他のメンバーたち。
前日に聞いたカルラの話。
ガルディア王国内で最高峰の冒険者である彼女の口から語られたアドバイスや率直な意見は、現在の宿り木の未熟さを浮き彫りにするものであった。
それを踏まえた上で、ミリア以外の者たちは前回失敗したクエストへのリベンジに対して否定的な意見となったのだった。


「それじゃ、話し合いの結論としては ──────── 」



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「さぁ~て、今日からまた頑張りますか」

「そうだね!心機一転、張り切っていこう」


前日に丸一日をかけて話し合いをしたスズネたち。
その中で改めて自分たちの実力不足を受け入れ、一旦自分たちの中にある向上心を抑え、地に足つけて自力を付け直すことにしたのだった。
そうして彼女たちが行き着いた答えは ─────── 苦労の末ようやくBランクとなったのだが、実力的にはまだそのレベルに達していないという結論に至り、一つランクを落としたCランクのクエストを受けていくということに決まった。


「みんないらっしゃい。今回はどうするの?」

「マリさん、今回はこのクエストでお願いします」


いつものように笑顔で出迎えてくれるマリ。
この優しく穏やかな微笑みに数多くの男たちが騙さ・・・もとい、癒され、活力をもらっていることか。
しかし、この時ばかりはその癒しの女神の表情も驚きに包まれてしまう。


「えっ!?これってCランクのクエストだけど・・・本当にこれでいいの?」

「はい。それでお願いします」


提出された依頼書を見て不思議そうな顔で間違いないかを問うマリに対して、スズネは笑顔でその依頼書が間違いではないことを告げる。
そして、彼女たちが悩み抜いた末にその結論に至ったことを知ったマリは納得して受領印を押したのだった。


「確かに冒険者にとって自分の力量を把握しておくことはとても大事なことよ。実力の見合わないクエストに挑むことは、そのまま死に直結する行為でもあるからね。みんなで話し合って決めたことなら応援するわ」

「ありがとうございます。それじゃ行ってきまーす」


それからというもの、スズネたちはCランクのクエストを順調にこなしていく。
魔獣討伐はもちろんのこと、護衛や素材採取など多岐にわたる依頼を受けては達成していった。
そうして五ヶ月が経過した頃には、全員がCランクの魔獣を単独で撃破出来るまでに成長を遂げていた。


「マリさーーーん」

「お疲れ様。今日も無事にクエスト達成出来た?」

「はい。バッチリです!それよりも聞いてください。ようやく私も単独で魔猪ワイルドボアを討伐したんですよーーー」

「凄いじゃないスズネ!これで宿り木は全員Cランクの魔獣を単独撃破したってことね。おめでとう」

「ありがとうございます。他のみんなはとっくに討伐出来てたんですけど、私だけがまだだったんで一安心ですよ」

「何言ってんのよスズネ。アンタはあくまでも後方支援が役割なんだから、前衛であるアタシたちよりも強くなってどうすんのよ」

「そうっすよ。そんなことまでされたらウチらの立つ瀬がないっす」

「えーでも、いつもみんなに守られてばっかりっていうわけにもいかないし、自分の身くらいは自分で守れるようにしておかないと」

「そういうことならいいけど。でも、アンタには強~い召喚獣たちがいるでしょ」

「おい!誰が召喚獣だ」

「スズネさんのことは僕が護るので安心してください」

「ありがとう、マクスウェルくん」

「おい…」

「わ…私も敵を近づけさせないように援護しますね」

「セスリーもありがとね」

「おい…」


召喚獣扱いされいつものように語気を強めるクロノであったのだが、彼女たちにとっては慣れ親しんだやり取りのため、誰一人として気にも留めようとしない。
これが最強の魔王と呼ばれ恐れられている男に対する扱いなのだろうか ──────── そんなことを思いながらマリは笑顔を向ける。


「貴様ら~旦那様を無視するんじゃない!」

「どうしたのよラーニャ、いつものことじゃない。クロノだって分かった上でやってんのよ」

「ん?そうなのか?」

「そんなわけねぇーだろ!!」

「はいはい、ホント気難しい魔王様だこと。ラーニャ、傷心中の旦那様を慰めてやんなさい」

「なに!?それは大変じゃな。旦那様のことはわっちに任せるのじゃ」

「ホント助かるわ。ヨロシク~」


なんともまぁ~雑な扱いを受けているものだ。
何も知らない第三者が見たらこのような扱いを受けている男がまさか歴代最強と云われ恐れられている魔王だとは思うまい。
そうして、怒れる魔王をラーニャに押し付けたスズネたちは再びマリとの会話に戻る。
そこで彼女たちは思いもよらない話を耳にすることになる。


「それじゃマリさん、また明日来ますね」

「あっ、ちょっと待って!」

「「「「「???」」」」」

「まだギルドでも調査中の案件なんだけど ──────── 」


クエストクリアの報告をして報酬を受け取ったスズネたちがその場を離れようとした時、マリが彼女たちを呼び止める。
何やらまだ話しておきたいことがあるようで、先ほどまでの笑顔から一変して真剣な表情で話し始めたのだった。

マリの話というのはこうである。
どうやら最近冒険者を狙った事件というものが増えているらしく、スズネたちにも注意するようにとのこと。
スズネたちとしては、自分たちのようなまだ名も通っていない冒険者が狙われるのか甚だ疑問ではあったのだが、さらに詳しく話を聞くと狙われているのはBランク以上の冒険者らしく、狙われた者の中には数名のAランク冒険者も含まれており、大怪我を負わされた者もいるということであった。


「Aランクの冒険者に大怪我を負わせるなんていったい何者なのよ」

「それはまだ調査中で直接犯人に繋がるような情報は無いんだけど、その犯行の手口はかなり残忍みたいなの。逃げ惑う標的を執拗に追いかけ回して、疲れ切ったところを滅多刺しにするっていう話よ」

「なんか…かなりヤバそうな奴っすね」

「何となくですが、僕はそいつがどこか狩りを楽しんでいるような雰囲気を感じます」

「まぁ~まだ手掛かりも無いみたいだから注意喚起くらいしか出来ないんだけどね。でも、そいつの犯行によってこの半年弱の間に十数名の冒険者が廃業に追い込まれたらしいわ」

「な…何とも恐ろしく残忍な方ですね」

「ただ・・・どういうわけかその犯人、今現在のところただの一人として殺してはいないみたいなの」

「それは・・・何とも不思議な話ですね」

「残忍なのに ───── 殺さない?なんか変なヤツね。頭のイカれたヤツか何かじゃないの」


確かに不思議ではある。
相手を甚振るようにして追い詰め、その上で滅多刺しにしておいて殺しはしない。
何ともおかしな犯行である。
ギルド内においてもその狂気じみた犯行から、犯人は『辻斬り』か『快楽主義者』なのではないかと考えられていた。
そして、最後にマリから忠告がなされる。


「みんなも気をつけるのよ」

「はい…。でも、私たちの実力はまだまだBランクでも下の方ですよ」

「確かにあなたたちはBランクにランクアップしたばかりで日は浅いけれど、クロノさんの存在に加えて獣王国との戦争にも参加したことで犯人に知られている可能性があると思うわ。だから、十二分に気をつけなさい。間違っても夜遅くに一人で出歩いたりしないようにね」

「フンッ。辻斬りだか快楽主義者だか知らないけど、そんな悪質なヤツに負けたりしないわ。もし会うことがあったらアタシの剣で成敗してやる」

「止めるっすよ。今マリさんに気をつけろって言われたところっすよ。それにAランクの冒険者でもやられてるんすから大人しくしてるっす」

「そもそも今の僕たちの実力でどうこう出来る相手かどうかも分からない状況で動くことはかなり危険だと思います ───── が、やはり自分よりも弱い相手を、すでに白旗を掲げている者を甚振るような行いは僕の騎士道に反します」


静かに怒りを滲ませるマクスウェル。
弱きを救い悪しきを討つことを己の騎士道としている彼にとって、今回の犯行は決して許すことなど出来ない蛮行である。
しかし、その怒りと己の未熟さという狭間で思い悩み唇を噛むのであった。


「まぁまぁ、みんな少し落ち着こう。そもそも犯人の情報すらも無い状況で動くことなんて出来ないんだし、その件はギルドに任せて私たちは私たちの出来ることをやっていこう」


何とも言えない状況、言葉にならない虚しさが彼女たちを包み込む。
それでも前を向くしかない。
そんな想いを口にしてスズネはパーティの背中を押すのであった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


その日の夜。
モアの街から遠く離れた商業都市ロコン、冒険者の街リザリオ、その二つの大都市を繋ぐ中間都市ギャシャドゥルで事件は起きる。
完全に陽が落ち、夜も深まり皆が寝静まった頃、それぞれの街に逃げ惑いながら助けを求める声が響き渡る。
そして、そんな獲物たちに迫る影が一つずつ。


「頼む…頼むから…見逃してくれ…」


グサッ ──────── 。

必死になって救いを求める男の喉にその凶刃は容赦無く突き刺さる。
これまでの犯行にはなかった殺人。
とうとうそれが起きてしまったのだ。
それもガルディア王国を支える三つの都市にて同時に ───── である。



~商業都市ロコン~

グサッ、グサッ、グサッ、グサッ ─────── グチュグチュ…グチュグチュ…。


「ハァ~・・・。さぁ~て、他は上手くやったかな。え~っと、一度合流するんだっけ?ハァ~…面倒くせぇなぁ~。ついでにもう何人かっとくか?」



~冒険者の街リザリオ~

「あら?もうおしまいですか?Aランクというからもう少し期待していましたが・・・期待外れもいいところですわね」


ヒュンッヒュンッヒュンッ ─────── スパッ、スパッ、スパッ・・・ドサドサドサッ。



~中間都市ギャシャドゥル~

ドンッ!! ──────── グシャッ・・・。


「なんだなんだ。全くもって手応えのない奴だな。こっちにはもっと強い奴はいねーのかよ」





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