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白い魔獣(前編)
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初の討伐クエストに挑むためにエルフの里を訪れたスズネたち。
エルフ族の族長モーフィスに会い、今回の依頼内容とその詳細を聞き改めてこれを承諾する。
そして、スズネたちはまず手始めに里に住むエルフ族の民たちから情報収集することにした。
「よし。それじゃ、まずは里に住んでる人たちから話を聞いてみよう」
「情報収集は鉄則よね」
「今回のような未知の魔獣が対象の場合は、いくら情報があっても困ることはありませんからね」
討伐クエストへの第一歩ということもあり、やる気満々のスズネたちは意気揚々と飛び出しエルフの里を回る。
しかし、時として物事は思うように運ばないことがある。
今回のスズネたちはまさにそれであった。
「・・・。誰もいないっすね」
「なんで昼間っから誰一人歩いてないのよ」
里の住民たちに話を聞いて回るつもりであったが、どこを見て回ろうとも肝心の住民が唯の一人として見つからない。
さっそく出鼻を挫かれた形となったスズネたちは困り果てる。
「なんじゃ、一晩の内に滅んだのか?」
「ちょっとラーニャちゃん、そういうこと言わないの」
不謹慎な発言ではあったが、ラーニャがそう言いたくなるのも仕方がないほどにエルフの里は閑散としていた。
「おいラーニャ、冗談はその辺にしておけ。それよりも感知魔法を使ってみろ」
「うむ、分かったのじゃ」
クロノに促され感知魔法を発動させるラーニャ。
自身を中心にして自分の魔力を薄く薄く円形状に広げていく。
感知魔法の練習を始めたばかりのラーニャは、まだ長時間の発動は難しく、数分間発動させるのが現状集中力が続く限界であった。
「ん?なんじゃこれは?」
「一体どうしたのよラーニャ」
魔法を発動させたラーニャが何かを感知したようだが、それによって困惑した表情を浮かべる。
そして、その様子にスズネたちの視線が集まる。
「住民ならおるぞ」
「はぁ?何処にいんのよ」
「家の中じゃ。各家に複数の反応があるぞ」
「なんだ、家の中にいたのか。そういうことなら気を取り直して回っていこうか」
ラーニャの感知魔法によって家の中に住民たちがいることが分かり、スズネたちは各家を回って話を聞くことにした。
コン、コン、コン。
・・・・・。
コン、コン、コン。
・・・・・。
「あれ?聞こえてないのかな?」
「そういうことなら呼べばいいのよ。すみませーん、どなたかいらっしゃいませんかーーー」
・・・・・。
何度扉をノックしようが、大声で呼び掛けようが全く反応がない。
たまたまこの家が寝ていたりしたのかと思いスズネたちは他の家へと場所を移すが、何軒回ろうとも反応が返ってくることはなかった。
「ちょっとどうなってんのよ。ホントにいるの?誰もいないんじゃない?」
どの家も物音ひとつしない状況に痺れを切らすミリア。
そんなミリアの態度に対して、自身の魔法が疑われたと思ったラーニャが反論する。
「わっちの魔法は失敗しておらんぞ。確かに家の中に反応はあるんじゃ」
「大丈夫だよラーニャちゃん、誰もラーニャちゃんの感知魔法を疑ってなんかいないからね」
声を荒げるラーニャを必死に宥めるスズネであったが、それと同時に何が起こっているのか分からず困惑した表情を見せる。
当初予定していたように物事が進まず焦りを見せるスズネたちであったが、マクスウェルが現状を冷静に分析し、これからの行動について提案する。
「これだけ回って呼び掛けにも反応せず居留守を使うということは、意図的に僕たちを避けている可能性が高いですね」
「どうして避けるんすか?こちらに危害を加えるつもりなんてないのに・・・警戒でもされてるんすかね?」
「まぁ~今それを考えても仕方がないですし、一度ダルクさんのところへ行って話を聞いてみてはどうでしょう」
「それが良さそうね」
こうしてマクスウェルからの提案を受けたスズネたちは、実際に“白い魔獣”の討伐にも赴いたことがあるエルフ族の戦士ダルクに会いに行くことにしたのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
カーン、カーン、カーン。
「集中しろ!!訓練ではなく実践のつもりでやれ!!」
「「「 ハッ!! 」」」
ダルクに会って話を聞くためにエルフ族の戦士たちが集う訓練場を訪れたスズネたち。
訓練場では、あちこちで木剣のぶつかり合う音が響いていた。
そして、訓練とはいうもののその激しさはとてもただの訓練とは思えないほどであり、その光景を目の当たりにしたスズネたちは圧倒され言葉を失ってしまう。
その時、訓練を見て呆然としていたスズネたちに一人のエルフ族の戦士が話し掛けてきた。
「あの…何かご用でしょうか?」
その言葉によって我に返ったスズネたちが声の主へ視線を向けると、そこには他の訓練中の戦士たちと同じ訓練着を着た男が立っていた。
「あっ、すみません。私たち冒険者なんですけど、ダルクさんに話を伺いたくて来たんです。こちらにいらっしゃいますか?」
「あ~“白い魔獣”討伐のために来られた方々ですね。話は聞いてますよ。戦士長は ─── あっ、いた。それでは呼んできますね」
そう言って爽やかな笑顔を見せた男は、訓練の全体指揮を執っているダルクの元へ颯爽と駆けて行った。
「戦士長~~~、ダルク戦士長~~~、お客さんです」
自身を呼ぶ声に反応したダルクは駆け寄ってきた男と言葉を交わすと、スズネたちへと視線を向けた。
そして、ダルクからの視線を受けスズネたちは軽く会釈を返したのだった。
「みなさん、どうかされましたか?」
「訓練中にすみません。実はエルフの里に住む方々にも話を聞こうと思って各家を回ってみたのですが、どの家も全く反応がなく、どうしたらいいのかと悩んだ末に一度ダルクさんに話を聞こうということになりまして ───── 」
他の戦士たちに訓練を続けるように指示を出しスズネたちの元へやってきたダルクに、マクスウェルが他の住民から話を聞くことが出来ない現状について相談した。
「なるほど、そういうことでしたか。しかし、里の者たちを責めないでやってください」
そう言うと、ダルクはエルフ族について話し始めた。
ダルク曰く、長らくエルフ族がほとんど多種族との交流を行っていないこと、そしてその数少ない交流の際も族長か戦士団の者しか対応しないため、里で暮らしている者たちが突然現れた他種族に対し警戒してしまうのは致し方ないとのこと。
ただ実際に“白い魔獣”と相対し、その姿を確認したのは戦士団と被害を受けた数名だけであり、ダルクたち戦士団の話すことが今現在エルフ族が知り得ている情報の全てだということであった。
そういう訳でスズネたちはより詳しい情報を得るためにダルクから話を聞くことにした。
「それでは我々が現状得ている情報と実際に討伐に向かった際の話をさせて頂きます」
「お願いします」
「まず“白い魔獣”は、この森の東側を縄張りにしているようです。里の者が襲われた場所も、我々戦士団が相対したのも東側であったことから間違いないと思われます」
これはかなり重要な情報である。
それほど大きな森ではないとはいえ、全域を見て回るとなると時間も労力も相当なものになる。
しかも“白い魔獣”は森の東側に十ヶ所近くの根城を用意しているようで、いつ何処にいるのかはわからないとのことであったが、ダルクが森の地図を用意してくれ、さらに現在確認されている根城の場所に印までつけてくれたのだった。
「すごい。これはとっても助かります。ダルクさん、ありがとうございます」
ダルクから地図を受け取ったスズネは満面の笑みで感謝を伝えた。
そして、他のメンバーたちも合わせて深く頭を下げたのであった。
スズネたちに地図を渡したダルクは恐縮した様子を見せた後、今度は討伐作戦の時の話を始めた。
「次に我々戦士団が討伐作戦を実行した際の話をしますね。まず結果から申しますと、私を含めた戦士団に所属している全八十名の戦士たちで作戦に臨みましたが、その半数以上が負傷したため撤退を余儀なくされました」
先程ダルクたちの訓練風景を見ていたスズネたちは、あの屈強なエルフ族の戦士たちが撤退を余儀なくされるほどの傷を負わされたという事実を前にして驚愕してしまう。
その様子を受けながらもダルクは話を続ける。
「“白い魔獣”は、我々が想定していたよりも知能が高く、根城周辺には数多くの罠が仕掛けられているので注意が必要です。そして、基本的な攻撃手段としては投石と弓を用います」
「罠まで仕掛けるなんて、とんだ猿ね」
「討伐の際には十分罠に注意しながら飛び道具にも気を配らないと ───── あっという間にやられちゃいそうだね」
ダルクの話を聞いたスズネはパーティ全体の指揮を執るということもあり、さっそくシミュレーションを始める。
そして、目の前で作戦会議を始めたスズネたちの様子を見てダルクは安心したように笑みを浮かべた。
「スズネさんの仰る通りです。我々はあちらこちらに張り巡らされた数多くの罠に手を焼き、その合間に見えない距離からの攻撃によって壊滅させられたのです」
これは相当の準備が必要となりそうである。
そんなことに頭を悩ませながらスズネたちが話し合っていると、それまで会話に入っていなかったラーニャがとんでもないことを言い出す。
「みんなさっきから何を悩んでおるんじゃ。そんなチンケな罠などわっちの魔法で一気に吹き飛ばせばよいではないか。任せておれ」
「そんなのダメに決まってんでしょ。罠以外にどれだけの被害が出ると思ってんのよ」
「そんな事したらエルフ族との戦争になりかねませんよ・・・」
「さすがに言ってることがぶっ飛び過ぎてるっす」
「ラーニャちゃん、出来る限り森への被害を出さない方向で考えよう」
張り巡らされた数多くの罠を森ごと吹き飛ばすというゴリゴリの力技で突破しようとするラーニャの考えはすぐさま他のメンバーたちによって却下される。
そして、そのとんでもない提案にはダルクも苦笑いを浮かべるしかなかったのだった。
「こちらは討伐をお願いしている立場ではあるのですが、出来れば可能な限り森への被害は抑えて頂けると助かります」
「ふむ、要望が多いのう。手っ取り早いと思うたんじゃがな、そういうことであるなら仕方がないのう・・・」
ダルクからのお願いを渋々受け入れるラーニャ。
本人としては《みんなの役に立ちたい》と真剣に考えて出した提案であったが、みんなから口を揃えてダメ出しされたことに多少なりとも落ち込むのであった。
しかし、そんなラーニャに救いの手が差し伸べられる。
「いや、悪くない考えだ」
その声の主はクロノである。
全員からダメ出しされたラーニャの案に対して、まさかの肯定的な反応を見せたのだ。
「クロノ、悪くない考えってどういうこと?森への被害はなるべく出しちゃダメだよ」
心配そうに見つめるスズネから掛けられた言葉に対し、そんなことは分かってると言いたげな表情を見せたクロノがその言葉の真意を語る。
「そんな馬鹿なことするかよ。さっきも使ったラーニャの感知魔法を使う。感知魔法で予め設置された罠を探し出し、魔法で罠だけを潰していく。ラーニャの訓練にもなってちょうどいいだろ」
「「「「「 それ(だ・じゃ・っす)!! 」」」」」
クロノからの提案を受けて今後の方針が決まり喜ぶスズネたち。
そして、誰よりもその案に歓喜したのは ───── 言うまでもなくラーニャであった。
その言葉にならない喜びを満面の笑みで表しながらクロノに抱きつく。
いつもであれば嫌がるクロノだが、この時ばかりはそんな素振りを一切見せず、照れながらもそれを受け入れたのだった。
こうしてやるべき事が決まったスズネたち。
貴重な情報をくれたダルクにお礼を伝え、里の外へと繰り出すことに。
そして、一先ずダルクから貰った地図を元に十ヶ所近くあるという“白い魔獣”の根城を虱潰しに回ることにしたのだった。
エルフ族の族長モーフィスに会い、今回の依頼内容とその詳細を聞き改めてこれを承諾する。
そして、スズネたちはまず手始めに里に住むエルフ族の民たちから情報収集することにした。
「よし。それじゃ、まずは里に住んでる人たちから話を聞いてみよう」
「情報収集は鉄則よね」
「今回のような未知の魔獣が対象の場合は、いくら情報があっても困ることはありませんからね」
討伐クエストへの第一歩ということもあり、やる気満々のスズネたちは意気揚々と飛び出しエルフの里を回る。
しかし、時として物事は思うように運ばないことがある。
今回のスズネたちはまさにそれであった。
「・・・。誰もいないっすね」
「なんで昼間っから誰一人歩いてないのよ」
里の住民たちに話を聞いて回るつもりであったが、どこを見て回ろうとも肝心の住民が唯の一人として見つからない。
さっそく出鼻を挫かれた形となったスズネたちは困り果てる。
「なんじゃ、一晩の内に滅んだのか?」
「ちょっとラーニャちゃん、そういうこと言わないの」
不謹慎な発言ではあったが、ラーニャがそう言いたくなるのも仕方がないほどにエルフの里は閑散としていた。
「おいラーニャ、冗談はその辺にしておけ。それよりも感知魔法を使ってみろ」
「うむ、分かったのじゃ」
クロノに促され感知魔法を発動させるラーニャ。
自身を中心にして自分の魔力を薄く薄く円形状に広げていく。
感知魔法の練習を始めたばかりのラーニャは、まだ長時間の発動は難しく、数分間発動させるのが現状集中力が続く限界であった。
「ん?なんじゃこれは?」
「一体どうしたのよラーニャ」
魔法を発動させたラーニャが何かを感知したようだが、それによって困惑した表情を浮かべる。
そして、その様子にスズネたちの視線が集まる。
「住民ならおるぞ」
「はぁ?何処にいんのよ」
「家の中じゃ。各家に複数の反応があるぞ」
「なんだ、家の中にいたのか。そういうことなら気を取り直して回っていこうか」
ラーニャの感知魔法によって家の中に住民たちがいることが分かり、スズネたちは各家を回って話を聞くことにした。
コン、コン、コン。
・・・・・。
コン、コン、コン。
・・・・・。
「あれ?聞こえてないのかな?」
「そういうことなら呼べばいいのよ。すみませーん、どなたかいらっしゃいませんかーーー」
・・・・・。
何度扉をノックしようが、大声で呼び掛けようが全く反応がない。
たまたまこの家が寝ていたりしたのかと思いスズネたちは他の家へと場所を移すが、何軒回ろうとも反応が返ってくることはなかった。
「ちょっとどうなってんのよ。ホントにいるの?誰もいないんじゃない?」
どの家も物音ひとつしない状況に痺れを切らすミリア。
そんなミリアの態度に対して、自身の魔法が疑われたと思ったラーニャが反論する。
「わっちの魔法は失敗しておらんぞ。確かに家の中に反応はあるんじゃ」
「大丈夫だよラーニャちゃん、誰もラーニャちゃんの感知魔法を疑ってなんかいないからね」
声を荒げるラーニャを必死に宥めるスズネであったが、それと同時に何が起こっているのか分からず困惑した表情を見せる。
当初予定していたように物事が進まず焦りを見せるスズネたちであったが、マクスウェルが現状を冷静に分析し、これからの行動について提案する。
「これだけ回って呼び掛けにも反応せず居留守を使うということは、意図的に僕たちを避けている可能性が高いですね」
「どうして避けるんすか?こちらに危害を加えるつもりなんてないのに・・・警戒でもされてるんすかね?」
「まぁ~今それを考えても仕方がないですし、一度ダルクさんのところへ行って話を聞いてみてはどうでしょう」
「それが良さそうね」
こうしてマクスウェルからの提案を受けたスズネたちは、実際に“白い魔獣”の討伐にも赴いたことがあるエルフ族の戦士ダルクに会いに行くことにしたのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
カーン、カーン、カーン。
「集中しろ!!訓練ではなく実践のつもりでやれ!!」
「「「 ハッ!! 」」」
ダルクに会って話を聞くためにエルフ族の戦士たちが集う訓練場を訪れたスズネたち。
訓練場では、あちこちで木剣のぶつかり合う音が響いていた。
そして、訓練とはいうもののその激しさはとてもただの訓練とは思えないほどであり、その光景を目の当たりにしたスズネたちは圧倒され言葉を失ってしまう。
その時、訓練を見て呆然としていたスズネたちに一人のエルフ族の戦士が話し掛けてきた。
「あの…何かご用でしょうか?」
その言葉によって我に返ったスズネたちが声の主へ視線を向けると、そこには他の訓練中の戦士たちと同じ訓練着を着た男が立っていた。
「あっ、すみません。私たち冒険者なんですけど、ダルクさんに話を伺いたくて来たんです。こちらにいらっしゃいますか?」
「あ~“白い魔獣”討伐のために来られた方々ですね。話は聞いてますよ。戦士長は ─── あっ、いた。それでは呼んできますね」
そう言って爽やかな笑顔を見せた男は、訓練の全体指揮を執っているダルクの元へ颯爽と駆けて行った。
「戦士長~~~、ダルク戦士長~~~、お客さんです」
自身を呼ぶ声に反応したダルクは駆け寄ってきた男と言葉を交わすと、スズネたちへと視線を向けた。
そして、ダルクからの視線を受けスズネたちは軽く会釈を返したのだった。
「みなさん、どうかされましたか?」
「訓練中にすみません。実はエルフの里に住む方々にも話を聞こうと思って各家を回ってみたのですが、どの家も全く反応がなく、どうしたらいいのかと悩んだ末に一度ダルクさんに話を聞こうということになりまして ───── 」
他の戦士たちに訓練を続けるように指示を出しスズネたちの元へやってきたダルクに、マクスウェルが他の住民から話を聞くことが出来ない現状について相談した。
「なるほど、そういうことでしたか。しかし、里の者たちを責めないでやってください」
そう言うと、ダルクはエルフ族について話し始めた。
ダルク曰く、長らくエルフ族がほとんど多種族との交流を行っていないこと、そしてその数少ない交流の際も族長か戦士団の者しか対応しないため、里で暮らしている者たちが突然現れた他種族に対し警戒してしまうのは致し方ないとのこと。
ただ実際に“白い魔獣”と相対し、その姿を確認したのは戦士団と被害を受けた数名だけであり、ダルクたち戦士団の話すことが今現在エルフ族が知り得ている情報の全てだということであった。
そういう訳でスズネたちはより詳しい情報を得るためにダルクから話を聞くことにした。
「それでは我々が現状得ている情報と実際に討伐に向かった際の話をさせて頂きます」
「お願いします」
「まず“白い魔獣”は、この森の東側を縄張りにしているようです。里の者が襲われた場所も、我々戦士団が相対したのも東側であったことから間違いないと思われます」
これはかなり重要な情報である。
それほど大きな森ではないとはいえ、全域を見て回るとなると時間も労力も相当なものになる。
しかも“白い魔獣”は森の東側に十ヶ所近くの根城を用意しているようで、いつ何処にいるのかはわからないとのことであったが、ダルクが森の地図を用意してくれ、さらに現在確認されている根城の場所に印までつけてくれたのだった。
「すごい。これはとっても助かります。ダルクさん、ありがとうございます」
ダルクから地図を受け取ったスズネは満面の笑みで感謝を伝えた。
そして、他のメンバーたちも合わせて深く頭を下げたのであった。
スズネたちに地図を渡したダルクは恐縮した様子を見せた後、今度は討伐作戦の時の話を始めた。
「次に我々戦士団が討伐作戦を実行した際の話をしますね。まず結果から申しますと、私を含めた戦士団に所属している全八十名の戦士たちで作戦に臨みましたが、その半数以上が負傷したため撤退を余儀なくされました」
先程ダルクたちの訓練風景を見ていたスズネたちは、あの屈強なエルフ族の戦士たちが撤退を余儀なくされるほどの傷を負わされたという事実を前にして驚愕してしまう。
その様子を受けながらもダルクは話を続ける。
「“白い魔獣”は、我々が想定していたよりも知能が高く、根城周辺には数多くの罠が仕掛けられているので注意が必要です。そして、基本的な攻撃手段としては投石と弓を用います」
「罠まで仕掛けるなんて、とんだ猿ね」
「討伐の際には十分罠に注意しながら飛び道具にも気を配らないと ───── あっという間にやられちゃいそうだね」
ダルクの話を聞いたスズネはパーティ全体の指揮を執るということもあり、さっそくシミュレーションを始める。
そして、目の前で作戦会議を始めたスズネたちの様子を見てダルクは安心したように笑みを浮かべた。
「スズネさんの仰る通りです。我々はあちらこちらに張り巡らされた数多くの罠に手を焼き、その合間に見えない距離からの攻撃によって壊滅させられたのです」
これは相当の準備が必要となりそうである。
そんなことに頭を悩ませながらスズネたちが話し合っていると、それまで会話に入っていなかったラーニャがとんでもないことを言い出す。
「みんなさっきから何を悩んでおるんじゃ。そんなチンケな罠などわっちの魔法で一気に吹き飛ばせばよいではないか。任せておれ」
「そんなのダメに決まってんでしょ。罠以外にどれだけの被害が出ると思ってんのよ」
「そんな事したらエルフ族との戦争になりかねませんよ・・・」
「さすがに言ってることがぶっ飛び過ぎてるっす」
「ラーニャちゃん、出来る限り森への被害を出さない方向で考えよう」
張り巡らされた数多くの罠を森ごと吹き飛ばすというゴリゴリの力技で突破しようとするラーニャの考えはすぐさま他のメンバーたちによって却下される。
そして、そのとんでもない提案にはダルクも苦笑いを浮かべるしかなかったのだった。
「こちらは討伐をお願いしている立場ではあるのですが、出来れば可能な限り森への被害は抑えて頂けると助かります」
「ふむ、要望が多いのう。手っ取り早いと思うたんじゃがな、そういうことであるなら仕方がないのう・・・」
ダルクからのお願いを渋々受け入れるラーニャ。
本人としては《みんなの役に立ちたい》と真剣に考えて出した提案であったが、みんなから口を揃えてダメ出しされたことに多少なりとも落ち込むのであった。
しかし、そんなラーニャに救いの手が差し伸べられる。
「いや、悪くない考えだ」
その声の主はクロノである。
全員からダメ出しされたラーニャの案に対して、まさかの肯定的な反応を見せたのだ。
「クロノ、悪くない考えってどういうこと?森への被害はなるべく出しちゃダメだよ」
心配そうに見つめるスズネから掛けられた言葉に対し、そんなことは分かってると言いたげな表情を見せたクロノがその言葉の真意を語る。
「そんな馬鹿なことするかよ。さっきも使ったラーニャの感知魔法を使う。感知魔法で予め設置された罠を探し出し、魔法で罠だけを潰していく。ラーニャの訓練にもなってちょうどいいだろ」
「「「「「 それ(だ・じゃ・っす)!! 」」」」」
クロノからの提案を受けて今後の方針が決まり喜ぶスズネたち。
そして、誰よりもその案に歓喜したのは ───── 言うまでもなくラーニャであった。
その言葉にならない喜びを満面の笑みで表しながらクロノに抱きつく。
いつもであれば嫌がるクロノだが、この時ばかりはそんな素振りを一切見せず、照れながらもそれを受け入れたのだった。
こうしてやるべき事が決まったスズネたち。
貴重な情報をくれたダルクにお礼を伝え、里の外へと繰り出すことに。
そして、一先ずダルクから貰った地図を元に十ヶ所近くあるという“白い魔獣”の根城を虱潰しに回ることにしたのだった。
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