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白い魔獣(中編)
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エルフ族の戦士ダルクから話を聞いたスズネたちは、そこで得た情報と地図を手にエルフの森の東側を訪れていた。
一先ず地図に印された十ヶ所近くあると言われている“白い魔獣”の根城を順番に回ることにしたスズネたち。
そして、その内の一つである根城を目前としていた。
移動しながら感知魔法で探索をするラーニャであったが、まだ長時間の発動は難しく、一定の間隔で解除しながら森を進んでいたのだった。
「とりあえず、地図的には一つ目の根城までもう少しだよ」
地図を持つスズネが目的地が近いことを伝える。
「やっとね。十ヶ所も回るなんて面倒だから、一つ目で居てくれないかしらね」
「そんなこと言ってないで罠に注意してくださいよ。ラーニャ、この辺りは大丈夫そうですか?」
「うむ。この辺りは問題なさそうじゃが ───── ふぅ~少し待ってくれ」
スズネたちが探索を開始してから二時間が経ち、とうとうラーニャの集中力が切れる。
流石に広範囲の感知魔法は疲労と消耗が激しいようだ。
そんなラーニャのことを心配するスズネたちは、ラーニャの体調のことも考えて一度休憩を取ることにした。
「癒しの光」
「ありがとうスズネ。助かるわい」
そして、スズネたちはラーニャの体調が戻るまでの間に今後の探索範囲を確認する。
「結構歩いたね。今ここの辺りまで来てて一つ目の根城がここだから、そこを確認したら次は何処を目指そうか」
「なんだかんだいって広いわよね。外から見るよりも中に入ると広く感じるわ」
「まぁ~木の根とかを避けたりしながらっすからね。平地を歩くのと比べると慣れた森でもないっすから疲労感が半端ないっすよね」
「とりあえず一つ目の根城に集中しましょう。そこまでに設置してあるであろう罠にも気をつけないといけませんし、“白い魔獣”が出るかもしれませんからね。次を決めるのは根城に着いてからでいいと思います」
「それもそうね。まずは罠を排除しつつ、一つ目の根城を目指しましょ」
スズネたちが話し合いの末ここからの行動方針を決めていると、まだ体調が戻っていないラーニャに代わり感知魔法で周囲を探索していたクロノから報告が入る。
「おいお前ら、この先に複数の罠が張ってあるぞ」
!? !? !? !? !?
「本当なの?クロノ」
「ああ、だいたい五百メートル程進んだ辺りだな」
突然入った朗報に驚きと興奮を隠せないスズネたち。
「っていうか、今更なんだけど何で罠の場所まで分かるわけ?」
「はぁ?生ける者が魔力や生命力で反応するように、仕掛けられた罠にも微弱ではあるが設置者の気配が残るんだよ」
「へぇ~そういうことなんだ」
「上手い奴は他に気配を混ぜたりして隠すけどな。そういう意味では今回の奴は大したことねぇ~な」
「まぁ~クロノの基準で相手の力量を測るのは止めておきましょう。僕たちの実力では簡単な相手ではないでしょうからね」
クロノの言葉を間に受けないように注意を促すマクスウェル。
そして、その意見に同意し気を引き締める他のメンバーたちなのであった。
「それから、その罠の先に生命反応が一つあるぞ」
!? !? !? !? !?
「マジ!!」
クロノから二つ目の報告を受け、興奮のあまり迫り寄るミリア。
「お…おう。俺が間違うかよ」
そのあまりの勢いに驚きを隠せないクロノであったが、ミリア ─── いや、スズネたち全員のボルテージは一気に上がる。
「キーーーーーターーーーー!!」
「設置された罠の先にいるってことは・・・そうだよね」
「まだ確証があるわけではありませんが、ほぼ間違いなく“白い魔獣”だと思われます」
「一ヶ所目から当たりを引くなんて、ウチらツイてるっすね」
今回の討伐対象である“白い魔獣”がいる可能性が高いということで大興奮となるスズネたちであったが、一つ大きなことを忘れていた。
そして、そのことに気づいたスズネがラーニャに声を掛ける。
「ラーニャちゃん、体調の方はどう?」
「心配するでない。もう十分休んだからのう・・・さっさと出発するのじゃ」
まだ完全に体調が戻ったわけではない。
それは誰の目にも明らかであった。
しかし、他のメンバーたちの足を引っ張るわけにはいかない。
十一歳の少女が見せるその気丈な振る舞いに触発されたスズネたちはすぐさま行動に移る。
「それじゃ、みんな行こう!!」
─────────────────────────
「さぁ~サクッと討伐するわよ」
この先に討伐対象がいるということで人一倍の興奮を見せるミリア。
一刻も早く戦いたくて仕方がない様子。
それにつられる形で他のメンバーたちもグイグイと突き進んでいく。
しかし、そんなスズネたちの気持ちとは裏腹にその歩みは速度を失うこととなる。
「キャッ!?」
「うわっち。なんじゃこれは」
「うわぁぁぁぁぁ ───── イテテテテ」
「ぶふぁ!?何すかこれ?ベトベトするっす」
「もう、何なのよ!!さっきから罠ばっかりで全然進まないじゃない」
くくり罠に落とし穴、粘着物が飛んできたり、小さな沼のようなもので足を取られたりと、次から次へと罠に引っ掛かるスズネたち。
感知魔法ではだいたいの罠の位置は分かれど、その種類やどういったものかまでは分からない。
それに加えてラーニャも万全の状態ではないため、全ての罠を破壊するまでには至っていなかったのだ。
そんな中でも少しずつ前進していくスズネたち。
さすがは多少なりとも経験を積んできた冒険者である。
全員で周囲を警戒し協力しながら仕掛けられた罠を掻い潜っていく。
そして、もう少しで張り巡らされた罠を突破しようかといったその時 ───── 。
突然前方から矢が放たれる。
放たれた矢は真っ直ぐにスズネたちへっと向かってきており、飛んでいく先にはミリアの姿が・・・。
そして、そのことにいち早く気がついたマクスウェルが懸命にミリアに飛び掛かった。
「危ない!!」
────────── ドサッ。
飛んできた矢はそのまま木へと突き刺さった。
なんとか間一髪のところで難を逃れたミリアであったが、覆い被さるように飛び込んできたマクスウェルと共にその場に倒れたのだった。
「痛いわね。いきなり突っ込んでくるんじゃないわよ」
「す…すみません。咄嗟だったもので」
「まぁ~いいわ。今回は助かったし ───── !?」
倒れ込んだ二人が言葉を交わしていると、突然ミリアが顔を赤くしながらプルプルと震え出した。
どうかしたのかという表情を見せるマクスウェルであったが、自身の右手の中にある柔らかな感触によって事態を把握する。
「お…落ち着いてください、ミリア。これは不可抗力で ───── 」
「ア…アタシは落ち着いてるわよ。そんなことはいいから、さっさとその手を離しなさいよーーーーー」
絶叫と共にミリアの鉄拳が飛ぶ。
強烈な一撃をくらったマクスウェルが必死になって弁明を並べるが、ここでクロノが余計なことを言い放つ。
「おい、取り組み中に悪いんだが、刺さってる矢を見てみろ」
クロノの言葉を聞いたスズネたちが一斉に木に刺さった矢の方を見る。
「うん?普通に木に刺さってるよ、クロノ」
「よく見ろ」
「あっ!?刺さってる位置をよく見るっす」
何かに気づいたシャムロム。
そして、シャムロムの言う通りに全員が改めて矢が刺さっている位置を意識して見た時、ある事に気づいたのだった。
「矢が刺さってる位置が明らかにミリアの身長よりも高いっす。別にマクスウェルが抱きつかなくても当たらなかったんすよ」
「そういうことだ」
その事実を知ったマクスウェルは顔を真っ赤に染めながらミリアへと視線を向けた。
そして、ミリアから返ってきた言葉は一言だけだった・・・。
「あの・・・ミリア ─────」
「変態」
ミリアから軽蔑の眼差しと共に“変態”という一言をお見舞いされて落ち込むマクスウェル。
聖騎士になるために日々努力を惜しまず、誰よりも騎士道を重んじてきた彼にとっては何よりもショックを受ける出来事であった。
しかし、“宿り木”はこれでは終わらない。
気落ちするマクスウェルに対して、純粋な笑みを浮かべたラーニャから追い打ちがかけられる。
「いや~マクスウェルはエッチじゃな」
十一歳の少女にまで言われた一言によりさらに意気消沈してしまったマクスウェルは、藁にもすがる思いでスズネとシャムロムに視線を向ける。
しかし、女性陣には受け入れてもらえなかったようで、気まずそうに視線を逸らされてしまうのであった。
女性陣全員に見放されてしまい崩れ落ちるマクスウェルであったが、“宿り木”にはもう一人男性がいる。
落ち込むマクスウェルにそっと近づいたクロノが慰めるようにポンポンと肩を叩いた。
「うっ・・・クロノ・・・」
「まぁ~そう落ち込むな。俺には分かってる。だから ─── 次はもっと上手くやれよ、色ガキ」
そう言うと、クロノは嬉しそうにニヤニヤしながら去っていった。
ただただ揶揄われただけだと理解したマクスウェルが激怒したが、それを擁護する者は一人として現れなかった。
そうこうしてスズネたちが揉めている間に矢を放った者は姿を眩ませたのだった。
せっかく“何かしら”と接触出来たかもしれない状況であったにも関わらず、残念なことにその姿すら見ることは叶わぬまま初日の探索が終了。
翌日から気を取り直して探索を再開したスズネたちであったが、何の手掛かりすら得ることは出来なかった。
そして、そこから三日間スズネたちは何ひとつ成果を上げられなかったのだった。
─────────────────────────
「も~う、何処にいるのよーーーーー」
「おそらく初日の件で警戒されてしまったのではないでしょうか。僕たちを避けて隠れている可能性もあります」
初日以降、何の成果も出せていない現状にイライラした感情を抑えきれないミリア。
そして、その現状を分析し、自分たちを警戒するがあまり何処かに身を隠したのではないかと推測するマクスウェル。
この時、二人の会話を聞いていたスズネの中に一つの疑問が生まれる。
「襲ってくるんじゃなくて避けるってことは、戦う意思はないってこと?」
!? !? !? !? !?
その言葉を聞いた他のメンバーたちも反応を見せる。
確かに奇怪しい。
八十名から成る屈強なエルフ族の戦士団とは戦ったのに、たった六名の冒険者から逃げるだろうか?
思い返せば、仕掛けられていた罠も足止め程度のものばかりで、相手に怪我や致命傷を負わせるようなものは一つも無かった。
やはり何かあると思ったスズネたちは、再び話を聞くために族長モーフィスの屋敷へと向かったのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
四日間の探索の中で生まれた疑問を胸にエルフ族族長モーフィスの屋敷を訪れたスズネたち。
一先ずこれまでの進捗状況を報告。
そして、その中で生まれた疑問を思い切ってモーフィスにぶつけたのだった。
「モーフィスさん、“白い魔獣”なんですが ─── 初日以降、私たちを襲ってくることもなければ、その姿すら一切見せないんです。本当に誰かを襲ったり森を荒らしたりしているんでしょうか?」
「ハッハッハッ。何を言い出すかと思えば ─── 今回は思いもよらない襲撃を受けて逃げたのでしょう。そして、姿を見せないのは新たな罠の設置など戦闘の準備をしているんですよ」
「いやいや、ラーニャの感知魔法でもずっと探索してますけど、そんな様子は森の何処にもないって ───── 」
そのあとスズネたちが何を言おうともモーフィスは“準備をしているだけだ”の一点張り。
釈然としないスズネたちであったが、これ以上の問答は無意味だと感じ、モーフィスの屋敷を後にしたのだった。
「あのジジイ、絶対何かを隠してるわ」
怒りのボルテージが上がりきったミリアが感情のままに言葉を口にする。
他のメンバーたちも違和感を感じ続けているが、これといった確証がないため発する言葉を見つけられずにいた。
その夜に行われた話し合いの中で、初日にダルクから教えてもらった根城も残すところ三ヶ所となり、明日全てを回ることに決まった。
「どうなるか分からないけど、明日しっかり結果を出そう!!」
それぞれが思いを抱える中、なかなか消えてくれない疑問を振り払うようにスズネがメンバーたちに気合を入れる。
すると、そんなスズネの思いを受け取ったラーニャが静かに口を開いた。
「明日は ─── 感知魔法の範囲をこれまで以上に広げるのじゃ。必ず…必ず“白い魔獣”を見つけてみせるのじゃ」
パーティ最年少であるラーニャの力強い決意を聞いたスズネたちは、胸の内で熱く滾る思いを抑えつつ、翌日に向けて早めに就寝したのだった。
そして、探索を始めてから五日目。
スズネたちはとうとう“白い魔獣”と対峙することとなる。
一先ず地図に印された十ヶ所近くあると言われている“白い魔獣”の根城を順番に回ることにしたスズネたち。
そして、その内の一つである根城を目前としていた。
移動しながら感知魔法で探索をするラーニャであったが、まだ長時間の発動は難しく、一定の間隔で解除しながら森を進んでいたのだった。
「とりあえず、地図的には一つ目の根城までもう少しだよ」
地図を持つスズネが目的地が近いことを伝える。
「やっとね。十ヶ所も回るなんて面倒だから、一つ目で居てくれないかしらね」
「そんなこと言ってないで罠に注意してくださいよ。ラーニャ、この辺りは大丈夫そうですか?」
「うむ。この辺りは問題なさそうじゃが ───── ふぅ~少し待ってくれ」
スズネたちが探索を開始してから二時間が経ち、とうとうラーニャの集中力が切れる。
流石に広範囲の感知魔法は疲労と消耗が激しいようだ。
そんなラーニャのことを心配するスズネたちは、ラーニャの体調のことも考えて一度休憩を取ることにした。
「癒しの光」
「ありがとうスズネ。助かるわい」
そして、スズネたちはラーニャの体調が戻るまでの間に今後の探索範囲を確認する。
「結構歩いたね。今ここの辺りまで来てて一つ目の根城がここだから、そこを確認したら次は何処を目指そうか」
「なんだかんだいって広いわよね。外から見るよりも中に入ると広く感じるわ」
「まぁ~木の根とかを避けたりしながらっすからね。平地を歩くのと比べると慣れた森でもないっすから疲労感が半端ないっすよね」
「とりあえず一つ目の根城に集中しましょう。そこまでに設置してあるであろう罠にも気をつけないといけませんし、“白い魔獣”が出るかもしれませんからね。次を決めるのは根城に着いてからでいいと思います」
「それもそうね。まずは罠を排除しつつ、一つ目の根城を目指しましょ」
スズネたちが話し合いの末ここからの行動方針を決めていると、まだ体調が戻っていないラーニャに代わり感知魔法で周囲を探索していたクロノから報告が入る。
「おいお前ら、この先に複数の罠が張ってあるぞ」
!? !? !? !? !?
「本当なの?クロノ」
「ああ、だいたい五百メートル程進んだ辺りだな」
突然入った朗報に驚きと興奮を隠せないスズネたち。
「っていうか、今更なんだけど何で罠の場所まで分かるわけ?」
「はぁ?生ける者が魔力や生命力で反応するように、仕掛けられた罠にも微弱ではあるが設置者の気配が残るんだよ」
「へぇ~そういうことなんだ」
「上手い奴は他に気配を混ぜたりして隠すけどな。そういう意味では今回の奴は大したことねぇ~な」
「まぁ~クロノの基準で相手の力量を測るのは止めておきましょう。僕たちの実力では簡単な相手ではないでしょうからね」
クロノの言葉を間に受けないように注意を促すマクスウェル。
そして、その意見に同意し気を引き締める他のメンバーたちなのであった。
「それから、その罠の先に生命反応が一つあるぞ」
!? !? !? !? !?
「マジ!!」
クロノから二つ目の報告を受け、興奮のあまり迫り寄るミリア。
「お…おう。俺が間違うかよ」
そのあまりの勢いに驚きを隠せないクロノであったが、ミリア ─── いや、スズネたち全員のボルテージは一気に上がる。
「キーーーーーターーーーー!!」
「設置された罠の先にいるってことは・・・そうだよね」
「まだ確証があるわけではありませんが、ほぼ間違いなく“白い魔獣”だと思われます」
「一ヶ所目から当たりを引くなんて、ウチらツイてるっすね」
今回の討伐対象である“白い魔獣”がいる可能性が高いということで大興奮となるスズネたちであったが、一つ大きなことを忘れていた。
そして、そのことに気づいたスズネがラーニャに声を掛ける。
「ラーニャちゃん、体調の方はどう?」
「心配するでない。もう十分休んだからのう・・・さっさと出発するのじゃ」
まだ完全に体調が戻ったわけではない。
それは誰の目にも明らかであった。
しかし、他のメンバーたちの足を引っ張るわけにはいかない。
十一歳の少女が見せるその気丈な振る舞いに触発されたスズネたちはすぐさま行動に移る。
「それじゃ、みんな行こう!!」
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「さぁ~サクッと討伐するわよ」
この先に討伐対象がいるということで人一倍の興奮を見せるミリア。
一刻も早く戦いたくて仕方がない様子。
それにつられる形で他のメンバーたちもグイグイと突き進んでいく。
しかし、そんなスズネたちの気持ちとは裏腹にその歩みは速度を失うこととなる。
「キャッ!?」
「うわっち。なんじゃこれは」
「うわぁぁぁぁぁ ───── イテテテテ」
「ぶふぁ!?何すかこれ?ベトベトするっす」
「もう、何なのよ!!さっきから罠ばっかりで全然進まないじゃない」
くくり罠に落とし穴、粘着物が飛んできたり、小さな沼のようなもので足を取られたりと、次から次へと罠に引っ掛かるスズネたち。
感知魔法ではだいたいの罠の位置は分かれど、その種類やどういったものかまでは分からない。
それに加えてラーニャも万全の状態ではないため、全ての罠を破壊するまでには至っていなかったのだ。
そんな中でも少しずつ前進していくスズネたち。
さすがは多少なりとも経験を積んできた冒険者である。
全員で周囲を警戒し協力しながら仕掛けられた罠を掻い潜っていく。
そして、もう少しで張り巡らされた罠を突破しようかといったその時 ───── 。
突然前方から矢が放たれる。
放たれた矢は真っ直ぐにスズネたちへっと向かってきており、飛んでいく先にはミリアの姿が・・・。
そして、そのことにいち早く気がついたマクスウェルが懸命にミリアに飛び掛かった。
「危ない!!」
────────── ドサッ。
飛んできた矢はそのまま木へと突き刺さった。
なんとか間一髪のところで難を逃れたミリアであったが、覆い被さるように飛び込んできたマクスウェルと共にその場に倒れたのだった。
「痛いわね。いきなり突っ込んでくるんじゃないわよ」
「す…すみません。咄嗟だったもので」
「まぁ~いいわ。今回は助かったし ───── !?」
倒れ込んだ二人が言葉を交わしていると、突然ミリアが顔を赤くしながらプルプルと震え出した。
どうかしたのかという表情を見せるマクスウェルであったが、自身の右手の中にある柔らかな感触によって事態を把握する。
「お…落ち着いてください、ミリア。これは不可抗力で ───── 」
「ア…アタシは落ち着いてるわよ。そんなことはいいから、さっさとその手を離しなさいよーーーーー」
絶叫と共にミリアの鉄拳が飛ぶ。
強烈な一撃をくらったマクスウェルが必死になって弁明を並べるが、ここでクロノが余計なことを言い放つ。
「おい、取り組み中に悪いんだが、刺さってる矢を見てみろ」
クロノの言葉を聞いたスズネたちが一斉に木に刺さった矢の方を見る。
「うん?普通に木に刺さってるよ、クロノ」
「よく見ろ」
「あっ!?刺さってる位置をよく見るっす」
何かに気づいたシャムロム。
そして、シャムロムの言う通りに全員が改めて矢が刺さっている位置を意識して見た時、ある事に気づいたのだった。
「矢が刺さってる位置が明らかにミリアの身長よりも高いっす。別にマクスウェルが抱きつかなくても当たらなかったんすよ」
「そういうことだ」
その事実を知ったマクスウェルは顔を真っ赤に染めながらミリアへと視線を向けた。
そして、ミリアから返ってきた言葉は一言だけだった・・・。
「あの・・・ミリア ─────」
「変態」
ミリアから軽蔑の眼差しと共に“変態”という一言をお見舞いされて落ち込むマクスウェル。
聖騎士になるために日々努力を惜しまず、誰よりも騎士道を重んじてきた彼にとっては何よりもショックを受ける出来事であった。
しかし、“宿り木”はこれでは終わらない。
気落ちするマクスウェルに対して、純粋な笑みを浮かべたラーニャから追い打ちがかけられる。
「いや~マクスウェルはエッチじゃな」
十一歳の少女にまで言われた一言によりさらに意気消沈してしまったマクスウェルは、藁にもすがる思いでスズネとシャムロムに視線を向ける。
しかし、女性陣には受け入れてもらえなかったようで、気まずそうに視線を逸らされてしまうのであった。
女性陣全員に見放されてしまい崩れ落ちるマクスウェルであったが、“宿り木”にはもう一人男性がいる。
落ち込むマクスウェルにそっと近づいたクロノが慰めるようにポンポンと肩を叩いた。
「うっ・・・クロノ・・・」
「まぁ~そう落ち込むな。俺には分かってる。だから ─── 次はもっと上手くやれよ、色ガキ」
そう言うと、クロノは嬉しそうにニヤニヤしながら去っていった。
ただただ揶揄われただけだと理解したマクスウェルが激怒したが、それを擁護する者は一人として現れなかった。
そうこうしてスズネたちが揉めている間に矢を放った者は姿を眩ませたのだった。
せっかく“何かしら”と接触出来たかもしれない状況であったにも関わらず、残念なことにその姿すら見ることは叶わぬまま初日の探索が終了。
翌日から気を取り直して探索を再開したスズネたちであったが、何の手掛かりすら得ることは出来なかった。
そして、そこから三日間スズネたちは何ひとつ成果を上げられなかったのだった。
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「も~う、何処にいるのよーーーーー」
「おそらく初日の件で警戒されてしまったのではないでしょうか。僕たちを避けて隠れている可能性もあります」
初日以降、何の成果も出せていない現状にイライラした感情を抑えきれないミリア。
そして、その現状を分析し、自分たちを警戒するがあまり何処かに身を隠したのではないかと推測するマクスウェル。
この時、二人の会話を聞いていたスズネの中に一つの疑問が生まれる。
「襲ってくるんじゃなくて避けるってことは、戦う意思はないってこと?」
!? !? !? !? !?
その言葉を聞いた他のメンバーたちも反応を見せる。
確かに奇怪しい。
八十名から成る屈強なエルフ族の戦士団とは戦ったのに、たった六名の冒険者から逃げるだろうか?
思い返せば、仕掛けられていた罠も足止め程度のものばかりで、相手に怪我や致命傷を負わせるようなものは一つも無かった。
やはり何かあると思ったスズネたちは、再び話を聞くために族長モーフィスの屋敷へと向かったのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
四日間の探索の中で生まれた疑問を胸にエルフ族族長モーフィスの屋敷を訪れたスズネたち。
一先ずこれまでの進捗状況を報告。
そして、その中で生まれた疑問を思い切ってモーフィスにぶつけたのだった。
「モーフィスさん、“白い魔獣”なんですが ─── 初日以降、私たちを襲ってくることもなければ、その姿すら一切見せないんです。本当に誰かを襲ったり森を荒らしたりしているんでしょうか?」
「ハッハッハッ。何を言い出すかと思えば ─── 今回は思いもよらない襲撃を受けて逃げたのでしょう。そして、姿を見せないのは新たな罠の設置など戦闘の準備をしているんですよ」
「いやいや、ラーニャの感知魔法でもずっと探索してますけど、そんな様子は森の何処にもないって ───── 」
そのあとスズネたちが何を言おうともモーフィスは“準備をしているだけだ”の一点張り。
釈然としないスズネたちであったが、これ以上の問答は無意味だと感じ、モーフィスの屋敷を後にしたのだった。
「あのジジイ、絶対何かを隠してるわ」
怒りのボルテージが上がりきったミリアが感情のままに言葉を口にする。
他のメンバーたちも違和感を感じ続けているが、これといった確証がないため発する言葉を見つけられずにいた。
その夜に行われた話し合いの中で、初日にダルクから教えてもらった根城も残すところ三ヶ所となり、明日全てを回ることに決まった。
「どうなるか分からないけど、明日しっかり結果を出そう!!」
それぞれが思いを抱える中、なかなか消えてくれない疑問を振り払うようにスズネがメンバーたちに気合を入れる。
すると、そんなスズネの思いを受け取ったラーニャが静かに口を開いた。
「明日は ─── 感知魔法の範囲をこれまで以上に広げるのじゃ。必ず…必ず“白い魔獣”を見つけてみせるのじゃ」
パーティ最年少であるラーニャの力強い決意を聞いたスズネたちは、胸の内で熱く滾る思いを抑えつつ、翌日に向けて早めに就寝したのだった。
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