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Second Chapter
六十万の大軍
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「こりゃあ実に壮観じゃのー、愉快愉快!」
かがり火に照らされた城壁の上。
何処か面白がっているような声を『逆雷』が出したものだから、上空から偵察してきたばかりの『閃翔』は隣に降り立った瞬間に『逆雷』の胸ぐらを掴んだ。
「六十万を超える大軍なのだぞ!」
「また増えたのか。こりゃ帝国全土からの救援が間に合っても足らんのう」
「どうにかしろ、老いぼれ!」
ベロリと舌を出して『逆雷』は挑発する。
「ひよこが凄んでもちっとも怖くないわ。
この帝都を丸ごと放棄しても良いのであれば、逆転の策もあったんじゃがなー」
「何だ!言え!」
「敵勢を誘い入れてから帝都全域に火を放つんじゃよ」
「そんな無体が出来るか!」
「『小さい陛下』もそれだけは出来ぬと仰せであった。しかもひよこの翼を借りて陛下のみ副都へお逃げになる手段も却下なさった。故にワシも手を拱いていると言う訳じゃよ……」
ギルガンドは突き飛ばすようにバズムの胸ぐらから手を放す。
「私は覚悟出来ているぞ」
「青二才はこれだからいかんのじゃ、直ぐに死にたがる。死ねば良いと安直に考えおる。泥水を啜り木の根を齧って生きる覚悟の方が遙かに辛く苦しいのじゃぞ?」
「しかし!」
そこに『財義』が息を切らせてやって来て、眼前の光景に絶句する。
「ああ、ああ……これは、もう……」
「何じゃいロクブよ、何でここに来たんじゃ」
ロクブは泣きそうな顔を手で覆い、城壁に腰掛けて首を振る。
「さっき、トキトハが装置の摘出に無事に成功したんです。なのに、『ドルマー』からそれまでに奪われた魔力は戻らないらしくて……よく調べたら一方通行の装置だったようで。
つまり――あの大軍は増えないが、減りもしないって話を聞いて私の部下達まで完全に動揺してしまいまして。せめて閣下に逆転の秘策あれば、と……」
「それがのう、一つも無いんじゃよ。いつもだったら大軍相手の時は弱点の補給を狙うんじゃがなあ。ま、ワシの予測では今夜の内に一気に攻め寄せてくるのう。数が数じゃから、帝都が陥落するまで秒読みじゃな」
「でしょうねえ……。ああ、ああ、しかもこの数ですからねえ……」
「かと言って――『小さい陛下』の『ロード』によって帝都全域を覆う防壁を張り巡らせる訳にも行かん。向こうと根比べになったら、100万の帝都の民が餓死するか暴動が起きる方が先じゃよ」
「ああ、ああ、そんな……いや、待てよ」
しかし、ロクブは首を左右に振った。
彼はもう泣いてはいなかった。
「将軍、それならば時は稼げますよね?」
「何かあるのか、ロクブよ?」
「あるんですよ、それが。
もうすぐ帝国最大の穀倉地帯、ノーフォーレザ河流域が収穫期を迎えるでしょう?今年も豊作の見込みなのですが、まだ戦乱で焼けた穀倉庫の再建が間に合っていなくてですね。現地では、まだ2年間分しか保管できない有様でして。それで先週、余った古い穀物を引き取って、帝都で保管して炊き出し等に使えぬかを後で検討しようと……口煩いフォートンには知られぬように私の独断で運び入れたばかりだったんですよ」
「ほう。どれほど持つ?」
素早く計算を終えると、さっとロクブは立ち上がった。
「一月は持ちまする!」
次の瞬間、ギルガンドがロクブを抱えて空を駆けた。ロクブが城壁を走るより遙かに速いからだ。
ロクブの情けない悲鳴が瞬く間に帝国城の方へ……遠くなっていく。
「絶対に、絶対に落とさないでくれ~!!!ああっ、ああ~……」
かがり火に照らされた城壁の上。
何処か面白がっているような声を『逆雷』が出したものだから、上空から偵察してきたばかりの『閃翔』は隣に降り立った瞬間に『逆雷』の胸ぐらを掴んだ。
「六十万を超える大軍なのだぞ!」
「また増えたのか。こりゃ帝国全土からの救援が間に合っても足らんのう」
「どうにかしろ、老いぼれ!」
ベロリと舌を出して『逆雷』は挑発する。
「ひよこが凄んでもちっとも怖くないわ。
この帝都を丸ごと放棄しても良いのであれば、逆転の策もあったんじゃがなー」
「何だ!言え!」
「敵勢を誘い入れてから帝都全域に火を放つんじゃよ」
「そんな無体が出来るか!」
「『小さい陛下』もそれだけは出来ぬと仰せであった。しかもひよこの翼を借りて陛下のみ副都へお逃げになる手段も却下なさった。故にワシも手を拱いていると言う訳じゃよ……」
ギルガンドは突き飛ばすようにバズムの胸ぐらから手を放す。
「私は覚悟出来ているぞ」
「青二才はこれだからいかんのじゃ、直ぐに死にたがる。死ねば良いと安直に考えおる。泥水を啜り木の根を齧って生きる覚悟の方が遙かに辛く苦しいのじゃぞ?」
「しかし!」
そこに『財義』が息を切らせてやって来て、眼前の光景に絶句する。
「ああ、ああ……これは、もう……」
「何じゃいロクブよ、何でここに来たんじゃ」
ロクブは泣きそうな顔を手で覆い、城壁に腰掛けて首を振る。
「さっき、トキトハが装置の摘出に無事に成功したんです。なのに、『ドルマー』からそれまでに奪われた魔力は戻らないらしくて……よく調べたら一方通行の装置だったようで。
つまり――あの大軍は増えないが、減りもしないって話を聞いて私の部下達まで完全に動揺してしまいまして。せめて閣下に逆転の秘策あれば、と……」
「それがのう、一つも無いんじゃよ。いつもだったら大軍相手の時は弱点の補給を狙うんじゃがなあ。ま、ワシの予測では今夜の内に一気に攻め寄せてくるのう。数が数じゃから、帝都が陥落するまで秒読みじゃな」
「でしょうねえ……。ああ、ああ、しかもこの数ですからねえ……」
「かと言って――『小さい陛下』の『ロード』によって帝都全域を覆う防壁を張り巡らせる訳にも行かん。向こうと根比べになったら、100万の帝都の民が餓死するか暴動が起きる方が先じゃよ」
「ああ、ああ、そんな……いや、待てよ」
しかし、ロクブは首を左右に振った。
彼はもう泣いてはいなかった。
「将軍、それならば時は稼げますよね?」
「何かあるのか、ロクブよ?」
「あるんですよ、それが。
もうすぐ帝国最大の穀倉地帯、ノーフォーレザ河流域が収穫期を迎えるでしょう?今年も豊作の見込みなのですが、まだ戦乱で焼けた穀倉庫の再建が間に合っていなくてですね。現地では、まだ2年間分しか保管できない有様でして。それで先週、余った古い穀物を引き取って、帝都で保管して炊き出し等に使えぬかを後で検討しようと……口煩いフォートンには知られぬように私の独断で運び入れたばかりだったんですよ」
「ほう。どれほど持つ?」
素早く計算を終えると、さっとロクブは立ち上がった。
「一月は持ちまする!」
次の瞬間、ギルガンドがロクブを抱えて空を駆けた。ロクブが城壁を走るより遙かに速いからだ。
ロクブの情けない悲鳴が瞬く間に帝国城の方へ……遠くなっていく。
「絶対に、絶対に落とさないでくれ~!!!ああっ、ああ~……」
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