【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る

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Third Chapter

ダークエルフ

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 遊郭の楼主達が一堂に会して、険しい顔をしながら今後どうすべきかの対策を考えている――正にその場に『番人』がロウ達がやって来た事を告げたのだった。


 「……何だ、『閃翔』様までお越しかい」
『ううん、このプライドピノキオ君は勝手にロウに付いてきちゃったのよー。でもクノハルに無断で遊郭に来ちゃって良かったのかしら?後ですっごい修羅場になりそうだけれども……まあいいわ、パーシーバーちゃんだってクノハルに味方するもの!ちくちくと後でこの威張りん坊君を虐めてやるわ!』
ロウの肩に乗っているパーシーバーが好き勝手に言う。
ダークエルフの大楼主マダム・リルリは煙管を気だるそうな手つきで口元にやると、ふう、と艶めかしく息をついた。
「いつも思うんだが、帝国城のお偉いさんってのはどうも初動が遅いねえ……」
「貴様!陛下を侮辱するならば素っ首叩き落として」
反射的に抜刀しかけたギルガンドを、ロウは杖で軽く叩いた。
「後回しにしろ。――地獄横町に行ってきた。遊郭では何をされた?」
マダム達が答える。
「昨日、とうとうごっそりと引き抜かれちまったよ」
「下級娼婦の子がね……ほぼ根こそぎだ」
「向こうにもダークエルフはいるのか」とロウは真っ先にそれを訊ねる。
「聞いた話じゃ、一匹もいやしないね」
『何ですって!?』
ロウも明らかに動揺した。
「だとしたら相当に危ないな。早く連れ戻さないと本当に取り返しが付かなくなる」
それが何だと言うのだ、と苛立った様子のギルガンドに向けて、
「『閃翔』様よ」
と、ロウの行きつけの店『フェイタル・キッス』の楼主マダム・カルカがゆっくりと口を開いた。
「アタシらダークエルフは『不浄』を食らうんだよ。性病だったり、望まぬ妊娠だったりね……」
「ふん……」
ギルガンドは興味も無さそうに鼻を鳴らした。
「しかし問題はそれだけじゃない。さっきにはウチに残った子まで全員寄越せ、アタシらには出て行けと脅しが来たんだよ」
それでこうやって楼主勢揃いしての話し合いになっているんだ、とマダム達は言うのだった。
「闇カジノだけでなく、遊郭まで乗っ取るつもりなのか……!?」
『な、何が目的なの……!?』
そこまで要求するなんて一体何を考えているんだ、とロウもパーシーバーも息をのむ。
「どうも、欲しいのは遊郭だけじゃあ無さそうだよ」
「まさか……」
「金の動きと言い、奪った闇カジノで抱き込んでいる客の層と言い、ありゃあ背後に相当な大物がいる事は間違いないんだ。並大抵のお貴族様じゃあない、もっともっとの……。
そんな大物なのにさ――たかが地獄横町を敵に回して、闇カジノや遊郭を手中に収めるだけのちっぽけな魂胆だと思うかい?」


 遊郭の出口でギルガンドと別れたオレ達が、黄昏の中を『よろず屋アウルガ』に帰った後で、ロウの得た情報を共有していると――突如として轟音が響き渡った。
咄嗟に外に出て、パーシーバーと一緒に屋根によじ登って音のした方角を確認すると――。
「火ですぜ、ロウさん!」
『嘘っ!!!地獄横町から火が!』
地獄横町のある辺りから、見る間に火の手が上がったのだ。
同じように屋根に登っていた貧民街の住民達が悲鳴を上げて逃げ出す。区画がごちゃごちゃしている貧民街で火事が起これば、一瞬で燃え広がるからだ。瞬く間に大混乱が広まった。
「……とうとう戦争を吹っかけたのか」
ロウは歯を食いしばる。
『これは……絶滅戦争に……なるわね』
少なくともあのキアラードはこれを絶対に許しはない。
どちらかが死に絶えるまでの、殺し合いになるだろう。
オレ達は急いで『よろず屋アウルガ』の中に戻って、ロウに言った。
「風向きによっては貧民街の全域が燃えかねない。僕が出る」
「……頼んだぞ」とロウは杖だけを握って立ち上がる。
「早く煙に巻かれる前に逃げてくれ。パーシーバー、ロウを頼んだぞ」
「ああ、そうするさ」
『任せて頂戴!このパーシーバーちゃんがいる限り、ロウは絶対に守ってみせるんだからねっ!』


 『…………。ああ……やっぱり……こうなっちゃったか……』
地獄横町を包み込む猛火と煙の中で、その髪の長い少女の姿の精霊獣はうずくまって泣いていた。
『わたしが……わたしが存在していると……誰も彼もが……不幸になってしまう……』
火の粉が飛び交う中をオレ達は駆けて、『シルバー&ゴースト・ネクスト』を構えながらその精霊獣に訊ねた。
「貴様は誰の精霊獣だ?」
『ひっ!?』
精霊獣は怯えたようにオレ達を見て、しばらく驚いたような顔をしていたが――、
『お願い、わたしに……「ジンクス」に関わらないで……!』
そう言って、後ずさりを始めた。
『駄目なの、わたしに関わると、みんな不幸になってしまうから……それがわたしの「スキル:カタストロフィー」なの……』
「不幸だと?」
『そう……みんな……みんな不幸になってしまったの……!だから……!』
精霊獣はそのまま身を翻して逃げ出した。
咄嗟にオレ達が追いかけようとした目の前に、燃えていた違法建築物が火の塊となって崩れてきて、行く手を阻んだ。
極炎と火の粉が焼き焦がす闇の向こうから、金切り声に近い叫び声が聞こえた。
『これ以上わたしに関わらないで!お願いだから忘れて!』


 ――結局、オレ達が建物を片っ端からぶっ壊して大規模な類焼こそ防いだものの、地獄横町の大半が焼けて潰えてしまったのだった。
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