【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る

2626

文字の大きさ
226 / 297
Third Chapter

独断専行の不忠者

しおりを挟む
 いつもなら朝早くにやってくるはずのクノハルがいつまで経っても来ないので、オレ達は嫌な予感がしてユルルアちゃんに車椅子を押して貰って『黒葉宮』を出た。どうせ、性懲りも無い女官達からの嫌がらせに遭ったのだろう。早く助けなければ。
そんな事を考えつつ、慌ててレーシャナ皇后様の所に行くと――そこは修羅場だった。

 「『峻霜』、『閃翔』、『闘剛』、そして『幻闇』よ」
帝国十三神将が『峻霜のヴェド』、『閃翔のギルガンド』、『闘剛のモルソーン』、『幻闇のキア』と、4人も揃って、レーシャナ皇后からの命を受けていたのだから。
「直ちに違法賭博を摘発し、僭主ブォニートを生きたまま捕縛せよ!敵には精霊獣がいる。くれぐれも侮らず行け!」
「「「「御意!」」」」
どうやら今から揃って闇カジノの摘発に向かうらしい。

 それにしても帝国十三神将がここまで揃うなんて、凄い光景を見てしまった、とオレ達が出て行く4名を呆然と見ていたら、レーシャナ皇后がオレ達に気付いた。
「……この火急の時に何の用だ、第十二皇子殿下」
「麗しく賢きレーシャナ皇后様にたってのお願いが……。
実は、クノハルが出勤しないのです。恐らくは……」
帝国城の何処かに監禁されていると思われます。
「ハア……」とレーシャナ皇后は頭を押さえて、「分かった、そちらも直ちに探させよう」
「ああああーっ!!!」そこに駆け込んできたのは『睡虎のハルハ』だった。「レーシャナ皇后様、そのクノハルについての御報告がー!丁度!あるんですー!」
「何事だ!?」
『睡虎』は、さっと彼女の御前に跪いて、
「例の襲撃者を尋問していたのですが、何と彼らはクノハルに嫉妬した女官達の内応により、後宮への侵入に当たっての手引きをされたらしくてですねー……。急ぎその女官達にも尋問をした結果、クノハルは今朝方に拉致されてしまった様子なんですー!」
「何だと!?」
思わずレーシャナ皇后が立ち上がって両の拳を握りしめた。
「しかも女官達は、こちらの機密情報まで向こうに漏洩させていた様でー……本当にホーロロ国境地帯が危ういそうですー……」
最悪じゃないか!


 「ああ……やはりそんな事になっていましたか」
ここにやって来たのは『賢梟のフォートン』だった。
どうしようもない大修羅場なのに、この切れ者だけが妙に余裕たっぷりのお顔をしているのがどうにも気に障る。
「道理で、妙だと思ったのです。
王太子ガレトンがやけに上手に公国なる連中を切り崩していると。たかが違法賭博との諍いの所為で、地獄横町が焼けたのもよくよく考えれば不自然。
それに『赤斧帝』の寵臣共の領地がホーロロ国境地帯の近くにありすぎる事も、以前から気になっていました」
「『賢梟』、何を言いたい?」とレーシャナ皇后は険しい顔のまま訊ねると、
「レーシャナ皇后様、ホーロロ国境地帯についてはどうかご安心下さいませ」フォートンは恭しく一礼してから、慇懃無礼、何処かしら尊大ささえ漂う、余裕たっぷりの顔で話し始めた。「不忠なる私の『独断』にて、先に工兵部隊を送ってございまする。更に現地の民にも食料と引き換えに臨時徴兵と協力を要請してございます。大橋が落とされようと道が全て塞がれようと、今頃ホーロロ国境地帯の大砦には総勢4万の増援が到着している頃でしょう」
……。
レーシャナ皇后は半分呆気にとられていて、残りの半分は怒っていた。
明らかに一官僚の権限を越え、皇帝の権限をも侵した独断専行だったからだ。
「『賢梟』、貴様……!」
「将軍閣下は恐らく遊撃戦で時間を稼ぐおつもりでしょう。そのご判断を私が最適解に修正致しました。故に、ホーロロ国境地帯の事はご心配無用にてございまする。いえ、ホーロロ国境地帯の部族衆も帝国軍の優勢を見れば途中から味方するやも知れません。
ですので、ブォニート達を逃がさぬように――今はそれだけにご注意下さいませ」
「……。後で貴公には陛下より相応の処分が下されるであろう。謹慎して待っているように」
レーシャナ皇后は扇を開いて、顔を隠した。
扇が小刻みに揺れている所から察するに、少しだけ笑っているらしいが……。
「はっ」
と『賢梟』は大人しく下がっていった。


 「いやー面白くなってきましたですねー!」『睡虎』が糸目を更に細めて、ひょうひょうとした声で言った。「それじゃ私はアホ女官共に更なる尋問を行ってきまーす!もし行けたら闇カジノの方にも加勢に行きますねー!」
……突っ込みはしない。
『行けたら行く』は、『絶対に行かない』の同意語だ、とだけ言っておく。
「クノハルは何処なのか?」
オレ達が訊ねると、ほんの少しだけ『睡虎』の目が開いた。
「『コロシアム』……でしたっけー?私にはよく分からないのですが、どうやら最大の見世物にするつもりらしいですよー……」
「……そう、か」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...