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クワイエット・テラー
容赦ない闇
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マイカは普段、なるべく姉の家事の負担を軽くしようと、帰宅するとベランダに干してある洗濯物を取り込んだり、部屋の掃除をしたりする。
この日は、部屋に着くなり、自分のベッドで横になりたかったが、洗濯物を取り込むことだけは毎日のルーティンのようになっていたので、それだけはしてしまいたかった。
――どうせそんな量もないし。
マイカは、ベランダに出て、海を眺めた。マイカとリナの部屋は、10階建てのマンションの8階にあるため、そこからの眺望はとてもよい。晴れた日は、上を見ても下を見ても、美しい青色が広がっている。マイカはいつもと変わらない美しい景色を見てほっとした。
「あの海は……、なんかこわかったな」
マイカは、夢の世界の真っ黒で不気味な海を思い出した。マイカは小さい頃から海を見て育ったが、子供らしくいつも水平線の向こう側を想像してワクワクしていた。その気持ちは今も変わってない。
しかし、あちらの海はどうだろうか。あんな何が棲んでいるか分からない海が、果てなく続いているとしたら、と想像しただけでマイカはますます気分が悪くなった。
洗濯物の取り込みが完了すると、マイカはシャワーを浴びた。マイカは、潔癖症というほどではないが、自分の部屋に入る前は必ず綺麗な状態で入ることにしていた。
下着姿のまま、悪寒と闘いながら長い髪を5分ほどかけて乾かしてから、自分の部屋になだれ込んだ。長袖上下のピンクの寝間着を急いで着る。これは姉のリナがプレゼントしてくれたもので、色は自分のイメージと合わなかったが、大事にしているセットであった。さらにその上に昨晩も羽織っていた厚手のパーカーも着込み、ベッドの中に入った。時計を見るとまだ5時ちょっと前だった。
――助かった。この感じだとすぐ寝れそう。
マイカは、気が緩んで一気に眠気に襲われた。心身ともに疲れていたということもあったのだろう。特に頭痛と吐き気に悩まされることなく眠りに入ることができた。眠れば、またもしかしたらあの世界に行ってしまうかもしれないと思う間もなく。
――また、ここだ。
マイカは、夢の中で、またあの場所にやって来た。やはり夢だと不鮮明だ。薄暗さの度合いが違う。景色もぼんやりとしている。視界がひどく悪い。
――それにしたって、こんなに暗かったかな?
マイカはその暗さに違和感を覚えた。完全な暗闇というわけではないが、まるで闇が靄となって視界を遮っているようだ。マイカはその不気味に漂う闇に嫌悪感を覚える。
――これから金髪のお姉さんと会うというのに、こんな雰囲気じゃ台無し……。
それにしても、その肝心の金髪の女性が現れない。この夢が始まるとすぐにマイカを迎えてくれる麗しき女神が。マイカはその女神の登場で、この忌々しい闇が破れるのを期待した。もう来てくれてもいいはずだが。これではシナリオ通りではない。
――始まらない……。
マイカは、金髪の女性を寂しく待つ。ほとんど暗闇にも等しいような状況では、少しの時間も非常に長く感じられる。マイカは、これまでこの夢を何十回も見てきたであろうが、全体の枠組みとしては、全部同じパターンだった。
そのアウトラインが崩れたのは初めてだ。そのことに気付いてしまったことが、マイカの不安を煽った。
――もしかして……。
放課後に作倉とともにここを訪れた時、マイカはひとり置いてけぼりにされた。今、まさにその時と同じような不安な感情を抱いている。
これは、いつもの夢じゃない。今日、作倉という男と接触し、パターンは崩れてしまったのかもしれないとマイカは勘繰った。もうあの夢は見られないのだろうか?金髪のお姉さんも、フードの少女も、青髪のあの子も現れてくれないのか……?そう思うと、マイカはなんだか作倉のことが腹立たしくなった。
――もうこうなったら……。
視界がはっきりとしないが、石の悪魔がいるのはかろうじて確認できる。あのマヌケな笑みも、この暗闇の中ではいささか不気味だ。
――確か、あの子に触れた瞬間、この世界から脱出できたんだった。
マイカは、このまま何も起きないのだったら、一度離脱してしまおうと考えた。それは、これまでの経験から、目覚めを意味する。マイカはまだ夜でも朝でもどちらでもいいから、起きてテレビを見たり、リナと話したりしたい。とりあえず、この決して穏やかとは言えない場所から逃れたい気分だった。
しかし、問題がひとつあった。なかなかマイカの体が言うことを聞かない。
――昼間はあんなに軽やかだったのに、なんでこんなに体が重いの?
一歩進むどころか、片足上げることすらままならない。動きがスローモーションのようになってしまう。一歩踏み出したとしても、疲労感が足全体の筋肉を襲う。まるで、台風の日に、強風に逆らって歩いているようであった。
――でも、あそこにさえたどり着ければ……。
マイカは、一歩一歩着実に石の悪魔のもとへと歩みを進めた。
見える。ぼんやりとしていた石の悪魔の顔も、次第にはっきりと分かるようになってきた。まんまるの目、分厚い唇、鋭い牙。
石の悪魔に近づけば近づくほど、不可視の圧力に逆らって進むのが辛くなってくる。踏ん張っていないと、はるか後ろへ吹き飛ばされそうだ。
――もう戻れない!進まないと!
動き出すまでは何ともなかったのに、マイカはいつのまにか立ち止まることはできなくなっていた。石の悪魔までは、数メートルか、少なくとも10メートルはない距離のはずだが、マイカにはとてつもなく長く感じられた。
ようやく、石の悪魔までたどり着き、台座にしがみついた。すると、マイカを押し戻そうとしていた謎の力はたちまち止んでしまった。
――やっと、おさまった……。
マイカは、膝に手をついた。普段あまり好んで体を動かすわけではない。マイカは、まさかこんなにきつい運動を夢の中ですることになるとは、と思った。息を整えながら、おもむろに顔を上げるとマイカはあることに気付いた。
――あれ?
昼間に見た台座に小さく刻まれた言葉が、上から何度も乱雑に横線が彫られていて、何と書いてあるか分からなくなっていた。マイカはそこに何が書かれていたかなどすっかり忘れていた。
――なんだったっかな?なんとか広場で待つとか……。名前みたいなのも書いてあったな。……忘れたけど。
マイカは自らの記憶力に軽く失望した。もともと暗記科目で苦労するタイプのマイカだが、今まで興味のあることに関してはすぐに忘れることなどあまりなかった。
しかし、聞きなれない言葉であったために、忘れてしまうのも無理はない。そもそも、覚えようとしていなかったのだから。それよりもマイカはもっと違う部分に注目した。
――てことは、私が放課後ここに来て、今またここにくる間に、誰かがここに来たってこと?
マイカは、消されてしまった言葉なんかより、そのことが気になった。あのまま待っていればやはり誰かがここに来た、ということなのだろうか。それは、もしかして金髪の女性なのか、あるいはこのメッセージめいたものを書いた人物なのか。
――ちょっと待ってよ……。
マイカは、石の悪魔に触れて夢から覚めることを望んでいたはずだった。だが、誰かが訪れた跡を発見してしまったのだ。このまま、大胆にも誰かが来るのを待つという選択肢が頭をよぎる。マイカは考えながら、改めて周囲を見渡した。
――こんなところ、どうやって来るの?
マイカが立っているその場所には、階段やエレベーターなどの移動手段がいっさい取り付けられていないようだ。マイカは、視界が非常にクリアだった昼間に、この円形の足場をくまなく歩いておけばよかったと後悔した。今はもう視界が悪くなってしまい、床に埋め込まれた濃い青色のライトもあるのかどうか分からない。わざわざこんな状況で歩き回るのは気が引ける。
マイカは、そもそもこの場所は何のためにあるのか、疑問に思った。しかし、それを考え出したら、そもそも自分はなんでこんな場所にいるのかという到底解決困難な謎まで考慮に入れなければならないだろう。マイカは考えるのが面倒になった。
――やっぱ起きよう。
マイカは石の悪魔に触れて、一旦目を覚ますことに決めた。マイカは、石の悪魔と正面に向かい合う。そして、前回と同じように、石の悪魔の頬へとゆっくりと手を伸ばした。
この時、マイカの頭に一瞬嫌な予感が脳裏をかすめた。マイカは伸ばした手を石の悪魔の頬に触れるギリギリのところで止めてしまった。
――なにをためらってるんだろ……。
マイカは、改めて深く息をした。目をつむり、伸ばした手を数センチ前に動かし、石の悪魔の右頬を押すように触れた。
――あれ?
嫌な予感が的中した。昼間は触れた瞬間、気づけば現実に戻ってこられたのに!
数秒、数十秒と待っても戻るような感覚はない。マイカは右頬だけではなく左頬もさすってみた。
――たしかこうだったよね?
いざこうなってしまうとマイカは焦った。頬だけではなく、少し背伸びして頭のてっぺんから顎の先までペタペタと触る。それでもやはり効果はなく、顔だけではなく、石の悪魔の触れる部分はすべて触れてみる。
しかし、全く手ごたえはないようだった。
――やっぱりダメじゃない!
マイカは一瞬頭が真っ白になった。
こうなると、何かしら夢のシナリオが進むのを待つか、この足場から飛び降りて無理矢理目を覚ますか、という最悪な選択肢ばかり浮かんでくる。しかし、今回ばかりはシナリオなどあるかどうか分からなく、飛び降りることなど一向に気が進まない。
――飛び降りるのは最終手段ね。
マイカは、再び石の悪魔の正面に位置し、石の悪魔をじっと見つめた。焦燥感が増す中、彼は相変わらずひょうきんな顔をしている。マイカは愛らしく思えたその顔が、なんだか憎らしく思えてきた。
――いったい、どういうことなの?
マイカが腕を組み、石の悪魔を睨むように見つめていると、急に周りの空気の流れが変わった。マイカはそれを敏感に察知する。
この日は、部屋に着くなり、自分のベッドで横になりたかったが、洗濯物を取り込むことだけは毎日のルーティンのようになっていたので、それだけはしてしまいたかった。
――どうせそんな量もないし。
マイカは、ベランダに出て、海を眺めた。マイカとリナの部屋は、10階建てのマンションの8階にあるため、そこからの眺望はとてもよい。晴れた日は、上を見ても下を見ても、美しい青色が広がっている。マイカはいつもと変わらない美しい景色を見てほっとした。
「あの海は……、なんかこわかったな」
マイカは、夢の世界の真っ黒で不気味な海を思い出した。マイカは小さい頃から海を見て育ったが、子供らしくいつも水平線の向こう側を想像してワクワクしていた。その気持ちは今も変わってない。
しかし、あちらの海はどうだろうか。あんな何が棲んでいるか分からない海が、果てなく続いているとしたら、と想像しただけでマイカはますます気分が悪くなった。
洗濯物の取り込みが完了すると、マイカはシャワーを浴びた。マイカは、潔癖症というほどではないが、自分の部屋に入る前は必ず綺麗な状態で入ることにしていた。
下着姿のまま、悪寒と闘いながら長い髪を5分ほどかけて乾かしてから、自分の部屋になだれ込んだ。長袖上下のピンクの寝間着を急いで着る。これは姉のリナがプレゼントしてくれたもので、色は自分のイメージと合わなかったが、大事にしているセットであった。さらにその上に昨晩も羽織っていた厚手のパーカーも着込み、ベッドの中に入った。時計を見るとまだ5時ちょっと前だった。
――助かった。この感じだとすぐ寝れそう。
マイカは、気が緩んで一気に眠気に襲われた。心身ともに疲れていたということもあったのだろう。特に頭痛と吐き気に悩まされることなく眠りに入ることができた。眠れば、またもしかしたらあの世界に行ってしまうかもしれないと思う間もなく。
――また、ここだ。
マイカは、夢の中で、またあの場所にやって来た。やはり夢だと不鮮明だ。薄暗さの度合いが違う。景色もぼんやりとしている。視界がひどく悪い。
――それにしたって、こんなに暗かったかな?
マイカはその暗さに違和感を覚えた。完全な暗闇というわけではないが、まるで闇が靄となって視界を遮っているようだ。マイカはその不気味に漂う闇に嫌悪感を覚える。
――これから金髪のお姉さんと会うというのに、こんな雰囲気じゃ台無し……。
それにしても、その肝心の金髪の女性が現れない。この夢が始まるとすぐにマイカを迎えてくれる麗しき女神が。マイカはその女神の登場で、この忌々しい闇が破れるのを期待した。もう来てくれてもいいはずだが。これではシナリオ通りではない。
――始まらない……。
マイカは、金髪の女性を寂しく待つ。ほとんど暗闇にも等しいような状況では、少しの時間も非常に長く感じられる。マイカは、これまでこの夢を何十回も見てきたであろうが、全体の枠組みとしては、全部同じパターンだった。
そのアウトラインが崩れたのは初めてだ。そのことに気付いてしまったことが、マイカの不安を煽った。
――もしかして……。
放課後に作倉とともにここを訪れた時、マイカはひとり置いてけぼりにされた。今、まさにその時と同じような不安な感情を抱いている。
これは、いつもの夢じゃない。今日、作倉という男と接触し、パターンは崩れてしまったのかもしれないとマイカは勘繰った。もうあの夢は見られないのだろうか?金髪のお姉さんも、フードの少女も、青髪のあの子も現れてくれないのか……?そう思うと、マイカはなんだか作倉のことが腹立たしくなった。
――もうこうなったら……。
視界がはっきりとしないが、石の悪魔がいるのはかろうじて確認できる。あのマヌケな笑みも、この暗闇の中ではいささか不気味だ。
――確か、あの子に触れた瞬間、この世界から脱出できたんだった。
マイカは、このまま何も起きないのだったら、一度離脱してしまおうと考えた。それは、これまでの経験から、目覚めを意味する。マイカはまだ夜でも朝でもどちらでもいいから、起きてテレビを見たり、リナと話したりしたい。とりあえず、この決して穏やかとは言えない場所から逃れたい気分だった。
しかし、問題がひとつあった。なかなかマイカの体が言うことを聞かない。
――昼間はあんなに軽やかだったのに、なんでこんなに体が重いの?
一歩進むどころか、片足上げることすらままならない。動きがスローモーションのようになってしまう。一歩踏み出したとしても、疲労感が足全体の筋肉を襲う。まるで、台風の日に、強風に逆らって歩いているようであった。
――でも、あそこにさえたどり着ければ……。
マイカは、一歩一歩着実に石の悪魔のもとへと歩みを進めた。
見える。ぼんやりとしていた石の悪魔の顔も、次第にはっきりと分かるようになってきた。まんまるの目、分厚い唇、鋭い牙。
石の悪魔に近づけば近づくほど、不可視の圧力に逆らって進むのが辛くなってくる。踏ん張っていないと、はるか後ろへ吹き飛ばされそうだ。
――もう戻れない!進まないと!
動き出すまでは何ともなかったのに、マイカはいつのまにか立ち止まることはできなくなっていた。石の悪魔までは、数メートルか、少なくとも10メートルはない距離のはずだが、マイカにはとてつもなく長く感じられた。
ようやく、石の悪魔までたどり着き、台座にしがみついた。すると、マイカを押し戻そうとしていた謎の力はたちまち止んでしまった。
――やっと、おさまった……。
マイカは、膝に手をついた。普段あまり好んで体を動かすわけではない。マイカは、まさかこんなにきつい運動を夢の中ですることになるとは、と思った。息を整えながら、おもむろに顔を上げるとマイカはあることに気付いた。
――あれ?
昼間に見た台座に小さく刻まれた言葉が、上から何度も乱雑に横線が彫られていて、何と書いてあるか分からなくなっていた。マイカはそこに何が書かれていたかなどすっかり忘れていた。
――なんだったっかな?なんとか広場で待つとか……。名前みたいなのも書いてあったな。……忘れたけど。
マイカは自らの記憶力に軽く失望した。もともと暗記科目で苦労するタイプのマイカだが、今まで興味のあることに関してはすぐに忘れることなどあまりなかった。
しかし、聞きなれない言葉であったために、忘れてしまうのも無理はない。そもそも、覚えようとしていなかったのだから。それよりもマイカはもっと違う部分に注目した。
――てことは、私が放課後ここに来て、今またここにくる間に、誰かがここに来たってこと?
マイカは、消されてしまった言葉なんかより、そのことが気になった。あのまま待っていればやはり誰かがここに来た、ということなのだろうか。それは、もしかして金髪の女性なのか、あるいはこのメッセージめいたものを書いた人物なのか。
――ちょっと待ってよ……。
マイカは、石の悪魔に触れて夢から覚めることを望んでいたはずだった。だが、誰かが訪れた跡を発見してしまったのだ。このまま、大胆にも誰かが来るのを待つという選択肢が頭をよぎる。マイカは考えながら、改めて周囲を見渡した。
――こんなところ、どうやって来るの?
マイカが立っているその場所には、階段やエレベーターなどの移動手段がいっさい取り付けられていないようだ。マイカは、視界が非常にクリアだった昼間に、この円形の足場をくまなく歩いておけばよかったと後悔した。今はもう視界が悪くなってしまい、床に埋め込まれた濃い青色のライトもあるのかどうか分からない。わざわざこんな状況で歩き回るのは気が引ける。
マイカは、そもそもこの場所は何のためにあるのか、疑問に思った。しかし、それを考え出したら、そもそも自分はなんでこんな場所にいるのかという到底解決困難な謎まで考慮に入れなければならないだろう。マイカは考えるのが面倒になった。
――やっぱ起きよう。
マイカは石の悪魔に触れて、一旦目を覚ますことに決めた。マイカは、石の悪魔と正面に向かい合う。そして、前回と同じように、石の悪魔の頬へとゆっくりと手を伸ばした。
この時、マイカの頭に一瞬嫌な予感が脳裏をかすめた。マイカは伸ばした手を石の悪魔の頬に触れるギリギリのところで止めてしまった。
――なにをためらってるんだろ……。
マイカは、改めて深く息をした。目をつむり、伸ばした手を数センチ前に動かし、石の悪魔の右頬を押すように触れた。
――あれ?
嫌な予感が的中した。昼間は触れた瞬間、気づけば現実に戻ってこられたのに!
数秒、数十秒と待っても戻るような感覚はない。マイカは右頬だけではなく左頬もさすってみた。
――たしかこうだったよね?
いざこうなってしまうとマイカは焦った。頬だけではなく、少し背伸びして頭のてっぺんから顎の先までペタペタと触る。それでもやはり効果はなく、顔だけではなく、石の悪魔の触れる部分はすべて触れてみる。
しかし、全く手ごたえはないようだった。
――やっぱりダメじゃない!
マイカは一瞬頭が真っ白になった。
こうなると、何かしら夢のシナリオが進むのを待つか、この足場から飛び降りて無理矢理目を覚ますか、という最悪な選択肢ばかり浮かんでくる。しかし、今回ばかりはシナリオなどあるかどうか分からなく、飛び降りることなど一向に気が進まない。
――飛び降りるのは最終手段ね。
マイカは、再び石の悪魔の正面に位置し、石の悪魔をじっと見つめた。焦燥感が増す中、彼は相変わらずひょうきんな顔をしている。マイカは愛らしく思えたその顔が、なんだか憎らしく思えてきた。
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