上 下
3 / 7

003 おっさん考える

しおりを挟む
 思考でインターフェイスが操作できるのなら、俺が育てたヴェオルフのステータスやアイテムを俺が引き継いで居る事になる。

 まずはマップを開いて、現在位置を確認しよう。

 どうやら、ここはゲームのスタート地点のすぐそばの平原らしい。スタート地点なので敵も弱い。まずは一安心だ。

 クエストを確認したら、次の村へ向かえとだけ指示があった。

 ちなみに所持金は70兆Gある。Gと言うのはこの世界の共通通貨で1Gが1円相当だ。つまり俺は70兆円持っている事になる。

 まあ、これだけあれば一生遊んで暮す事も可能だ。って一生ここに居る気は無いがね。

 どうやら、この世界はゲームの準拠している様だ。だが、ここがゲームの世界だとは言い切れない。何故なら、ゲームの世界に入り込むと言う事は俺がデータ化されていると言う事だ。それはあり得ない。俺は俺の意思があり、自由に思考が可能だ。

 現在の技術でそこまでの事は不可能だ。いっその事、ゲームによく似た異世界と言う方が説得力がある。

 さて、ここがゲームの世界ならヴェオルフと言う名前は不味い。確か名前は自由に変えられたはずだ。とりあえずゲイツと言う名前に変えて置いた。

 これは俺がRPGをする時に良く使っていた名前だ。

 次の問題だが、ヴェオルフはこの世界最強のハンターだ。しかも俺の育てたヴェオルフはレベルも728と最強に近い。そのヴェオルフを引き継いだ俺は、どれだけ強いのだろう?

 と言うか、現実世界では生き物を殺した経験など殆ど無い。ハエや蚊、ゴキブリ位だろう。そんな俺に魔物を狩れるか?まして、人型のゴブリンを殺せるだろうか?

 ゲームならセーブして死んだらやり直しと言うのが可能だが、恐らく今の俺は死んだら、それで終わりだろう。

 この世界でどうやって生き抜き、どうやって帰る方法を見つけるか、それが問題だな。

 あ、忘れてた。自分の顔を確認していない。ヴェオルフの顔なら名前を変えても意味が無いぞ。

 イベントリを開きアイテムから鏡を探す。確か何かのクエストで使った気がする。出て来た鏡で自分の顔を見る。

 ホッと息をつく。ベースはヴェオルフだが、現実の俺の顔も混じっており、ヴェオルフとは別人で通るだろう。

 さて、次はどうする?一応背中に剣もあるが、使う気にはならない。とりあえず次の村に行って見て考えるか?

 俺は道を踏み外さない様に慎重に進んだ。まるで初心者だな。

 草原を抜けると荒れ地に入る。道の左側には小さな川が流れている。恐らくこの川に沿って、道が作られているのだろう。川はそれ程水量が無く、徒歩でも向こう岸に渡れそうだが、止めて置く。

 しかし、どう見ても現実としか思えない風景だ。ドラゴンズヘブンは3年前に発売したゲームなので、当時は美麗と言われたグラフィックも最新のゲームに比べると劣るのは仕方がない。

 しかし、俺が今見ている景色は最新のグラフィックボードでも再現できるとは思えない。やはりゲームの中って言う考えは無理がありそうだ。

 だが、常に視界に表示されているインターフェイスがゲーム感を醸し出している。

 ゲームか現実か、それとも夢か?

 もしかして、ゲーム中に何らかの病気で倒れて意識不明になって、俺は夢を見ているのかもしれない。よく考えれば、そっちの方が遥かに現実的だ。

 突然目覚めたら病院のベッドの上と言うのはありそうだ。もしくは、そのまま帰らぬ人となる可能性も高い。

 しかし、土の上を歩く感触。川の微妙な生臭い匂い。時折吹く風が頬を撫でる感触。これらが夢と言うのは信じがたい。

 現実と虚構が判別できない位ゲームの世界に入り込んでいる?

 いやいや、中学生じゃあるまいし。それにさっきからずっと違和感を感じているんだよね。

 ゲームの主人公のヴェオルフは180センチを超える長身だ。それに比べて俺の身長は172センチしかない。約10センチの差だが、これが意外に大きい。まず視線の高さが違う。そして歩幅が違う。そうした僅かな差が違和感として伝わって来る。

 こんなにリアルな夢ってあるかな?

 やがて、村が近づいて来たのか、人間の気配を感じる。いきなり襲ってきたりしないよね?

 道をすれ違うだけでも緊張する。なんと言うか中世ヨーロッパっぽい感じの人達だ。だが、話している言語が日本語だぞ。何この吹き替え感。

 そう言えばドラゴンズヘブンは完全日本語対応で、ボイスも全て日本語だったな。それがこう言う形で表れているのか?だとするとやはり、ここはゲームの中?

 しかし、すれ違う人間がCGにはとても見えないぞ。一体どうなってる?

 やがて、村に着く。とりあえず村に入ったらセーブをするのがセオリーなのだが、インターフェイスからセーブやロードは出来ない。

 情報を得る為に酒場に行くとする。今のこの世界の状況を知って置く必要がある。もしもゲーム通りなら、メインクエストが何処まで終わっているかで状況は変わって来る。

 酒場と言っても、こう言う小さな村では食堂や宿屋も兼ねている場合が多い。

 俺は通じるかどうか、心配だったが、日本語で話しかけた。

「何か食べる物と飲み物を頼む。」

 外はまだ明るい。正確な時間は解らないが、昼間なので酒を呑んでいる者は居なかった。

「2000Gだ。」

 店主がそう言ったので、俺は、イベントリから50円玉サイズの銀貨を2枚取り出して渡す。どうやら先払い方式の様だ。ゲームでは食事をすると勝手に所持金が減るシステムだった。

 出て来た料理は中華っぽいメイン料理とご飯と味噌汁だ。え?定食?メニューを見たらカレーライスやかつ丼があった。そう言えば、ドラゴンズヘブンの料理ってなんか無駄にレパートリーが広かった気がする。

 とりあえず食事をすると体力が回復するので、メニューはあまり意味が無い。この辺は開発者の遊び心だろう。

 ちなみに味は普通に美味しかった。飲み物はコーラだ。これで2000円は少し高く無いか?

 そう言えば夢って味とか判るんだったっけ?ステータスを確認すると体力が回復していた。何パーセント位減っていて、何パーセントくらい回復したのかは判らない。事前に確認して置けば良かった。

 ちなみに一晩宿屋に泊まるとステータスは全回復する。それに俺の場合、無駄にHPが多いのであまり数値で確認する事が無い。インターフェイスの左上に表示されるバーで大体どの位HPが減ったのかを確認している。

 全てがゲーム通りなら、今まで自分がやって来た方法で構わない。だが、もしゲームと違う点があるのだとすれば、ちょっとした事が命取りになるかもしれない。

 現に、セーブやロード、ログオフが出来ないでは無いか。他にも違う点はあると考えた方が良いだろう。

 さて、店主に情報を聞こうかと思ったら。向こうから話しかけて来た。

「見た所ハンターの様だが、東の街道の魔物を退治しては貰えんか?」
 
 あら?クエストが発生しちゃった?

「どんな魔物だ?レベルは?」

「狼の魔物だ。レベルって何だ?」

 ん?レベルの概念が無いのか?って言うか俺には見えているぞ?店主のレベルは4だ。魔物のレベルが事前に解らないのは困るな。

 しかし、狼か、人型じゃ無いから大丈夫かな?

 インターフェイスからクエストを確認すると、狼の魔物を3匹倒せと出ている。ゲームでは、まず、クエストを受けますか?と言うダイアログが出るはずだが、何も出ずに、クエストを受けている状態になって居る。

 まあ、ドラゴンズヘブンではクエストを受けてもこなすかどうかはプレーヤーの自由になっている。ただ、善と悪のパラメーターに多少の影響があるだけだ。

 っと、そう言えば、善と悪のパラメーターはどうなっているんだ?俺は常に善に傾けているのだが、そう言えば確認していなかった。

 インターフェイスから確認すると、パラメーターが完全な中立になっている。これはゲームスタート時のデフォルトだ。

 もしかしたら、ゲームの最初に戻っているのか?
しおりを挟む

処理中です...