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第百十六話

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 邪神の事を皆に話すべきか悩んだが、話す事にした。冒険者にとって情報は命だ。万が一の時知っているのと知らないのでは対応が違うだろう。

「それは事実なんですか?」

「まあ、普通は信じられない話だろう。これからギルマスに話を持って行くつもりだが信じて貰えるかどうか。」

 話したのは邪神誕生とそれに伴う魔物の強化と邪神の子の話だけだ。神の事と邪神の子に対抗できるのがリュートだけと言う部分は省いてある。

「それは天啓なのでしょ?」

「そうなるな。夢だと思いたいがな。」

 朝食を食べて、エリシアに2人の稽古を任せてリュートはギルドに向かう。

 窓口でギルマスに会いたいと伝えると。意外にもすんなりと通して貰えた。あれ?普段なら何の話か確認してから通すのに?

 ギルマスの部屋に入ると、サブギルドマスターもそこに居た。

「丁度良かった。君に頼みたい事があったのでね。」

「頼みですか?先にこっちの話を聞いて貰えるなら引き受けますよ。」

「解った。話を聞こう。」

「実は天啓を受けましてね。」

「ちょっと待った。邪神の話か?」

「え?知ってるんですか?」

「各地の教会の巫女が一斉に同じ天啓を受けたらしい。この大陸に邪神が生まれると。」

「ほう?ちなみにどこまで知ってます?」

「知っているのは1年以内に邪神が生まれる事。場所は特定できないがこの大陸である事だけだな。」

「じゃあ、補足情報です。邪神が生まれる影響で魔物が活性化します。さらに邪神の影響を受けると魔物が凶暴化し強くなります。そして、誕生の日が近づくと邪神の子と呼ばれる。強力な魔物が生まれます。Sランクが束になっても勝てない魔物です。」

「災害級どころか天災級だな。ギルドはどうすれば良い?」

「邪神が誕生してしまえば事態は収束します。ですので1年間なるべく魔物を狩って数を減らし、村や町を守り切ればこちらの勝ちですね。」

「基本は何時も我々がやってる事だな。」

「そうです。でも冒険者たちの心構えが必要です。ギルドはどう発表するつもりですか?」

「邪神の話は既に噂になっている。こうなったら事実を話すしか無いだろう。」

「それが良いと思いますよ。ところで俺に頼みって何ですか?」

「事実確認を頼みたかったのだが、必要以上の情報が得られた感謝する。」

「天啓を受けたと言う事は俺も当事者らしいので出来るだけのことはする。だからなるべく俺が自由に動けるようにして貰えないか?」

「良いだろう。君はSランクの中でも上位だ。1人でもそれなりの働きをするのは知っている。だがエリシア君は貸して貰えないだろうか?2人いっぺんにSランクに抜けられるのは痛い。」

「解りました。エリシアにはミントとシーネとパーティーを組んで貰います。Sランクパーティーの働きはしますよ。」

「助かる。」

 ギルドを出て家に帰る。ギルマスの話を皆に伝える。

「私らが姐さんとパーティーを組むんですか?」

「暫定的なパーティーだ。最初は俺も同行するから心配するな。」

「エリシアにはSランクパーティーの指示の出し方を学んでもらう。大丈夫だよな?」

「問題無い。普段通りにやれば良い。」

「確かに平常心は大事だな。ミントとシーネはなるべく早く強くなれ。」

「解りました!」

「心配しなくても明日どうこうって言う話じゃない。半年位は殆ど何も変わらないかもしれない。まあ、心に留めて置くだけでも違うから。」

 その日の稽古は皆真剣だった。

 何時もの様に大衆浴場へ行ってから食堂へ行き食事をして解散する。リュートはこの時間が好きだ。何とか平和を守り切りたいと心に誓う。

 その日はエリシアがリュートにしがみ付いて離さなかった。苦笑しながらもリュートは受け止めてあげる。

 エリシアが寝た後もリュートは色々と考え事をしていた。

 創造魔法の正しい使い方とそのタイミングか。難しい宿題が増えたな。そう言えばベスグラント王国はどうなったのだろうか?もし王都に邪神の子が現れたらどうする?邪神の子は何時何処に現れるか判らない。これを特定する魔法か何かを作れないだろうか?

 創造魔法に頼るのは良くない。それは解っている。だが現状を打破出来るのも創造魔法だけだ。それも分かっている。

 小さな魔法で大きな効力を上げるにはどうしたら良い?レバレッジを効かせる?そう言う魔法が造れるか?想像するのは自由だ。なるべく多くの場合を想定して置こう。

 そう言えば魔力量が戻った。これは何を意味するのだろう?それだけの魔力量が必要な創造魔法を使えと言う事なのか?それとも戦闘に必要だからか?

 どうも神様の意図が良く解らない。あの時は何となく掴めかけてたんだがな。

 創造魔法は神の魔法。そして僕は神候補。やっぱそう言う事なのかな?

 いかん、考え過ぎるとまた失敗する。こう言うのはその時になれば答えが出る物だ。

 一旦頭を切り替えて寝る事にする。隣で寝ているエリシアを見るとホッとする。この時間を大切にしなくちゃな。




 翌日は4人で狩りに出かけた。基本リュートはサポートに回り。3人の連携を優先させる。パーティーで戦闘職2人と魔法職1人と言うのはバランスが良い。初めてやらせてみるが割とよくまとまっている。Aランクの魔物を中心に狩っているが危なげは無い。これならSランクでも行けるだろう。

 そう思って居たらSランクのアースドラゴンが出た。しかも2匹だ。アースドラゴンは飛べないドラゴンだがブレスの直撃を受ければ只では済まない。

「1匹は俺がやる。もう1匹は3人で倒してみろ!」

 そう叫んで1匹のアースドラゴンを障壁で隔離し。ブリザードの魔法で瞬殺する。

 残ったアースドラゴンのヘイトはエリシアに向かって居る。まず、シーネがバインドを試すが格上にバインドは効かない事が多い。

「シーネ、ドラゴンのブレスにだけ気を付けて兎に角削れ。」

「解りました兄貴。」

 シーネが暫く魔法を使い続けると嫌がったのか、アースドラゴンが逃げの体制に入る。

「逃がすなよ。ミント回り込め。」

 ミントが逃げる方向に回り込む。更にシーネの魔法の追い打ち。アースドラゴンはどちらにブレスを吐くか悩んでいる様だ。

「チャンスだぞ、エリシア。」

「解っている。任せろ!」

 2人に気を取られている隙にエリシアが懐に潜り込んでいる。真下からバトルアックスが振り上がり、アースドラゴンの首が半分千切れる。

 次の指示を出す前にシーネのウインドカッターがドラゴンの傷口を更に押し広げる。止めはミントのショートソードだ。完全に首が落ちた。

「どうやらSランクでも問題無い様だな。」

「いや、今のは2匹倒せなければ意味が無い。リュートが居なかったらヤバかったぞ。」

 エリシアがそんな事を言い出す。

「ん?余計な事をしたか?」

「そう言う訳では無いが、リュートが1人で倒せる相手をこっちは3人で倒した事が納得いかないだけだ。」

「まあ、ミントとシーネは初めてのSランクだったし、こんなもんだろ?」

「いや、そっちじゃなくて、リュートの強さが理不尽だ。」

「ああ、確かに」

 とミントまでエリシアに同調している。

 よく考えれば、アースドラゴン瞬殺は不味かったかな?

「魔法の使い方の差じゃないかな?」

 ああ、誤魔化しきれてないし。

「とりあえずギルドに戻ろう。これだけ狩ればかなりの儲けだろ?」

「確かにアースドラゴンは儲けになるな。」

「だろ?明日は稽古の日だし。今日は美味い物食べに行こう!」

「あ、そう言えば商店街の北に食べ放題の店って言うのが出来たらしいですよ。」

 これはミントの発言だ。

「食べ放題?」

「なんでも、決まった料金を払えば1時間好きなだけ食べて良いらしいですよ。」

「ほう?それは冒険者向きだな。」

「いや、肝心の味はどうなんだ?」

「それが、意外に美味いって言うので評判になってるんですよ。」

「へぇ、じゃあ覗いてみるか?」

 こうして食べ放題に釣られて4人は無事ギルドへと帰り着くのである。

 ギルドで換金を済ませるとアースドラゴンが思ったより高く。全部で金貨450枚になった。

 いつも通り家で金貨225枚ずつキッチリ分ける。それから食べ放題の店へ向かった。

 食べ放題の店は噂通り混んでいた。1時間程待つと言われたが、3人は待つと言い張るのでリュートはため息をついた。

 30分程並んでいると新鮮なアースドラゴンの肉が入荷しましたと店員が叫び、周囲から歓声が上がった。

 結局自分たちが狩ったアースドラゴンの肉をたらふく食べて満足して家路に着いた。

「明日から練習量を倍にするぞ!」

 エリシアの言葉に震え上がりながら2人はベッドに就いた。

 やり過ぎるなよと言いつつリュート達も眠りに就く。



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