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第百二十五話

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 ギンガがフェンリルだと知った途端、3人がギンガに近づかなくなった。理由を聞いたら、恐れ多いからだそうだ。この世界で神獣フェンリルは神と同じ位崇められているらしい。

「ギンガはそう言う事気にしないと思うぞ。」

「私らが気にする。」

 うーん、こんなに可愛いのにな。

 3人は討伐に向かったので、リュートはパトロールに出る。冒険者じゃ倒せない魔物を退治しながら、邪神の子を警戒する。ギンガも神獣だけあって、この程度の魔物なら瞬殺する。子犬の姿のままででかい魔物を倒すのはなかなかの見ものだ。

 15匹位魔物を狩った時、何やら、ギンガが西の方向を気にしているのに気が付いた。

「どうした?何かあったのか?」

「良く解らんが、邪神の子の気配がする。まだ生まれては居ない様だが、いずれ生まれる様だ。」

「場所は判るか?」

「この国の西の果てだな。正確な場所までは判らんが、1キロ以内までなら絞れる。」

「じゃあ、飛んでみよう。邪神の子がどうやって生まれるのか見れるかもしれない。」

「解った。イメージを送る。」

 ギンガからのイメージを受け取り転移する。

「どうだ?」

「ここまで近づくと判るな。あの魔物だ。」

 そう言うギンガの視線の先を見ると、1匹のオーガが居た。オーガは単体でもAランクの魔物だ。それが邪神の子になるのか?

「あのオーガが邪神の子になるのか?」

「そうだ、魔力が尋常じゃない位集まっている。多分、あと10分位で変化するはずだ。」

「どうする?今なら簡単に倒せるぞ。」

「確かにあ奴は簡単に倒せるだろう。しかし、この集まった膨大な魔力が他にどう影響するかが気になる。」

 ふむ、あのオーガを倒したら違う魔物が何処かで邪神の子になるかもしれないって事かな?だとすれば、邪神の子になるのを待ってから対処した方が良いかもしれない。

「解った。邪神の子がどうやって生まれるのかも気になるから見守るとしよう。だが、危険だと判断したら、即倒すぞ。」

「幸い、この近辺に人間の気配は無い。少しくらい暴れても被害は出まい。」

 ギンガが元の大きさに戻り、邪神の子に備える。

「作戦を決めて置くぞ。ギンガは奴の気を引け、なるべく近づかずに威嚇してくれ。遠距離攻撃って出来るか?」

「ああ、風の刃位なら飛ばせる。」

「解った。それで頼む。ギンガが奴の気を引いているうちに後方の空中から奴を氷漬けにする。あとは異次元マジックバッグに仕舞うだけだ。」

 作戦が決まったので2手に分かれる。オーガの体が魔力ではち切れそうなくらいに膨れている。もうすぐか?

 隠れて見ているとオーガの体がはじけ飛んだ?その瞬間、魔力の爆発の様な感覚と共に巨大な何かがそこに立っていた。

 これが邪神の子の誕生か?邪神の子はオーガの特徴を備えている。だが、やはり色々な部分が歪だ。もしかしたら完成形では無いのかもしれない。

 邪神の子がオーガの身体的特徴だけでなく攻撃的な性格まで引き継いでいるなら危険だ。

 ギンガの吠える声が聞こえた。陽動作戦を開始した様だ。俺は奴の後方へ転移し、空中に陣取る。少しだけ奴の手の内を見せて貰おう。

 戦闘スタイルはまさにオーガだ。しかし、力とスピードが桁違いだ。まだギンガの方が若干早いが、元になる魔物がスピード系の魔物だったらギンガを凌駕するだろう。

 俺は空中から2枚の障壁を邪神の子に投げかける。気が付いた時にはもう遅い。永久凍土の魔法が完成している。

 地面に降りる。ギンガも近づいて来る。邪神の子は動きを止めているが、ギンガの様子から死んでは居ない様だ。ギンガは警戒しながら近づいて来る。

「早く封印した方が良いぞ。こ奴、この状態で抵抗しようとしている。」

 マジか?まさか永久凍土が効かない奴もそのうち出て来るかもしれんな。急いで異次元マジックバッグに邪神の子を放り込んだ。

「しかし、どんどん厄介になってくるな。これ以上の奴が出て来たら対処できないかもしれない。何か違う方法も考えないとな。」

「我にもう少し力があれば良いのだが。主には手間をかける。」

「気にするな。これは俺の使命でもあるらしいからな。」

「ほう?神と邂逅したのか?」

「天啓って奴さ。」

 一旦家に戻る。まだ時間は早いが今日はもう出ないだろう。

「そう言えば他のフェンリルは全員無事なのか?」

「いや、何匹かやられた個体も居る様だ。」

「そうか、そろそろフェンリルでも手に余る状態になってる訳だ。」

 残りの時間は4か月弱、守り切れるのだろうか。

「今日はギンガが活躍したから、この間食べた牛丼を再現しようと思う。」

「おお、あれか、あれは美味い。」

「と言う事で買い物へ行こうか。」

 肩にポンとギンガが乗っかる。

 最近通いなれたせいか、あちこちから声が掛かる。手を上げて挨拶をしながら八百屋に向かう。

「お、兄さん、今日はなんだい?」

「玉ねぎを貰おうかな、多めに。」

「これ、一籠で大銅貨2枚だけど買うかい?」

 玉ねぎが30個位入った背負い籠の様な物を指さしておやじさんが言う。

「安いなぁ。貰おう。」

 玉ねぎは幾らあっても邪魔にならない、アイテムボックスに入れて置けば腐らないしね。

 次は肉屋だな。

「おやじさん、バッファローの肉見せて。」

「おう、兄ちゃん、また新作か?」

「まだ、試作だな。この辺の部分を10キロ程貰えるか?」

 そう言って脂身の多い場所を指さす。

「兄ちゃんは脂身が好きだな。」

 いや、そう言う訳じゃ無いんだけどね。

「脂身部分は人気が無いんだ、銀貨2枚で良いぞ。」

 人気が無いわりに高く無いか?

 次に穀物屋へ行く。

「おやっさん。小麦粉3キロ頂戴。」

「お、兄さん。ライスウィードはまだ入って無いぞ。」

「いや、今日はこれを渡したくてね。」

 そう言ってアイテムボックスから紙包みを取り出す。

「なんだいこりゃ?」

「ライスですよ、味見してみて下さい。」

「これがあのライスウィードか?あれはお粥の粘り気を出す位しか使い道がないはずなんだが。」

 手にしたおにぎりを一口食べて、また驚く。

「これは、もちもちとしていて柔らかい。パンより食べやすいな。それでいて歯ごたえはちゃんとある。どんな魔法を使ったんだ?」

「ああ、調理法の問題かな。ちゃんと手間を掛ければ美味しくなるのさ。」

「あとで調理法を教えて貰えないか?」

「じゃあ、もう少し研究して美味しく出来たら教えますよ。」

 小麦粉を買って店を後にする。

 家に戻り鍋に水を張り火を点け調味料を合わせて行く。牛丼なので醤油と砂糖、みりんが無いので煮切った酒を混ぜる。それから、ショウガを入れるのを忘れちゃいけない。ここでニンニクを入れてもまた風味が違って美味いが、今日は止めて置く。そこに玉ねぎのスライスを入れて、透明になって来たらバッファローの肉を入れるのだが、肉を薄切りにするに苦労した。

 この世界では基本肉はブロック売りだ。柔らかい肉は薄くスライスするのが難しい。しかも包丁の性能もあまり良くない。そこで魔法でスライスする事にした。まず、氷魔法で肉を凍らせ、ウインドカッターで薄切りにした。ウインドカッターの微調整が難しかったが慣れれば結構イケる。後半は思い通りの薄さに出来た。

 肉にサッと火を通したら後は寝かして置く。出来たても美味いが寝かせると味が染みて更に美味くなる。

 牛丼と言えば生卵が欲しいがこの世界の卵は何の卵か判らないし、生で食べるのは抵抗がある。何か方法は無いだろうか?クリーンは違うし、リカバリーも違うよな。『殺菌』の魔法を造らないと駄目かな?

 そうこうしているうちにエリシアたちが帰って来た。

「今日は金貨60枚稼いだぞ。」

「お、凄いな、でも無理はするなよ。」

「解ってる。ミントとシーネがだいぶ育って来てる。Aランクも近いだろう。更に儲けは増えるはずだ。」

 3人が報酬の分配をしている間に牛丼を温めなおし。炊いて置いたご飯をアイテムボックスから取り出す。もちろん炊き立てだ。

 丼にご飯をよそい牛丼を完成させる。5人分作り、皆を呼ぶ。

「ご飯だぞ~。冷める前に食べな。」

 腹が減っているのか皆がっついている。

「落ち着いて食べなよ。お替りはたっぷりあるから。」

 そう言っても誰もスプーンの速度を落とさない。ギンガも凄い勢いで食べている。

 俺も食べようかと思ったら、お替りの催促が来た。しかも4人同時だ。結局、皆大盛で3杯食べた。今度から特盛にしよう。俺は1杯でお腹いっぱいだ。


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