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第百二十七話

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 邪神の子を退治した俺だが、半神とやらになってしまった様だ。しかも邪神の誕生までまだ1週間程度あるらしい。

「なあギンガ、半神って事は、この上は神だよな?亜神になる事は無いのか?」

「半神も亜神も一つ上は神だ、同格だな。半神から亜神になる事は無い。」

「そうか、これ以上創造魔法を使わなければ神にはならないって事だよな?」

「それは我にも良く解らん。」

「そっか、まあ良い。一旦町へ帰って皆を安心させよう。」

 そう言って領都へ転移する。領都では町に魔物が押し寄せていて、冒険者たちが懸命に追い払って居た。リュートもすぐさまフォローに入る。

 くるりと町を一周駆け抜けながら、強そうな魔物を退治して行く。途中ギルドマスターの姿が見えたので邪神の子を退治した事を伝えて置く。

「それでは、もう邪神の子は現れないのだな?」

「そうなりますね。あと1週間程持ち堪えれば邪神が誕生します。邪神が誕生すれば大量の魔力を持って行くので魔物も沈静化するはずです。ここが正念場ですね。」

「解った。皆に知らせて、なんとか持ち堪えて見せる。」

「頼りにしてますよギルマス。」

「お前も手伝えよ。」

 エリシアたちの元へ駆けつけ、苦戦している魔物を魔法で減らしてやる。

「助かる。」

 短い礼を言うとエリシアは果敢に次の魔物に攻撃をして行く。

 そんな戦いが6日続いていた。そして、それは突如起こった。昼間だと言うのに急激に辺りが暗くなる。魔物が攻勢に出る。その瞬間、誰もが体から魔力が抜ける様な感覚を味わった。体から抜けた魔力はやがて1本の柱になり天を貫いた。

 それが全ての終わりだった。

 邪神が誕生したのである。

 魔物たちは魔力を失い。大人しくなっている。人間も同様だ。

 ここから先は神の領域だ。人間に手出しは出来ない。

「みんな。終わったぞ。よく頑張った!!」

 リュートが声を張り上げた。

 一瞬の間が空いて、歓声が上がった。魔物たちが森へと戻って行く。

「俺たちは守り抜いたぞ。お前らはこの町の誇りだ。」

 ギルマスが事実上の終了宣言をする。

 確かにこの町の被害は小さい、だが世界規模で見れば、100万人以上の犠牲者が出ているだろう。喜んでばかりではいられないのは解っているが。この一瞬だけは良いだろう。

 この町が、俺の町が無事で良かったと。

 その後、町の復興に1年程の歳月を費やした。家屋の被害は軽微だったが小麦畑がほぼ全滅だった。主食であるパンが高騰する訳だが、冒険者ギルドが魔物の肉を安く提供する事で、食事の混乱は最小限で済んだ。だが、畑が無ければ来年の小麦が取れない。冒険者たちが協力して畑の再生に尽力したが、完全に元の状態になるのに半年以上かかってしまった。そこから小麦が安定供給されるまでにはまだまだ時間が掛かるだろう。幸い、魔物が大人しくなったので交易が復活した。小麦の代わりにジャガイモやサツマイモが活躍した。

 ミントとシーネは今回の活躍でAランクに昇格し、Sランクを目指して特訓している。

 エリシアは相変わらずだ。3人は町の人の為にほぼ毎日狩りに出ている。儲け度外視で食べられる魔物だけを狩って来る。マジックバッグを持たせているのだが毎日一杯になるまで狩って来る。

 俺はと言うと、事実上冒険者を引退している。エリシアもこの町の復興がある程度落ち着いたら、俺と一緒に引退するそうだ。無理しなくても良いぞと言ったのだが、子供が欲しいと言われてしまって、言葉が返せなかった。

 ギンガは何故か俺のそばから離れない。何か理由があるのか聞いたが。主は主だからだそうだ。

 冒険者ギルドにはたまに顔を出している。依頼は受けないが情報を得る為だ。ギルマスには暫くは休養を取るとだけ言ってある。引退すると言えば引き留められるのは解ってるからだ。

 引退してどうするのか、実は決めてある。商売をやろうと思って居る。神様への答えがまだ出ていないからだ。

 今の俺なら世界中何処へだって行けるだろう。だが、この町が好きなのでこの町から始めようと思って居る。幸い資金は潤沢にある。爵位も持っているのである程度の自由は効くだろう。ただ、王都が崩壊しているので国の機能がマヒしている状態だ。

 多分、暫くの間は何処の町も独立国家の様な感じになるだろう。野盗も増える事が予想される。この町は冒険者も多く領主も居るので町の中まで入って来る盗賊は少ないだろうが、一歩外へ出れば危険だ。何が起こるか判らない。その辺の安全面も含めて俺はこの町を発展させていくつもりだ。

 実はこの1年の間にライスウィードを一定量安定して収穫できる方法を見つけていた。ライスウィードは森に自生する雑草の一種だ。このライスウィードのうち実が大きい物に限定して採取して、畑を作ってそれを蒔いた。雑草だけあって、成長が早い。しかも日本の水田の様に水が殆ど要らない。この町の気候もあいまって、およそ3か月で収穫出来る。しかも雑草なので連作障害が無い。その結果、雑穀屋で手に入れるより粒の大きい米が大量に採れる様になった。

 今は、この米は我が家でのみ消費しているが、町が復興したら販売する予定だ。多分、食べ方が解らないだろうから、最初は食堂になるかもしれない。そこはエリシアと相談して決めようと思って居る。

 米の普及と共に米に会う食品も開発中である。特に醤油と味噌だ。これは作り方が解らなかったので賢者の叡智に色々と頼って試行錯誤を繰り返している途中だ。

 また、日本酒やみりんも醸造している。これは既に成功している。日本酒はエリシアたちが気に入っていて、販売するにはもう少し量を増やさないといけないかもしれない。

 それから、半神になる前に『殺菌』の魔法を造っていたので卵問題も解決した。これで生卵を自由に使えるのでTKGも食べられるしマヨネーズも作れる。半熟の目玉焼きもOKだ。かつ丼や親子丼も作れる。

 そう言えば、魔物の肉の脂身部分の値段が徐々に上がってきている。これは俺が、肉屋のおやじにバラ肉が美味いって話をしたのが原因らしい。この世界では肉と言えば赤身だったのが、この町に限り、脂身の美味さが広まってしまったらしく、串焼き屋などでも、最近は赤身とバラ肉の2種類を扱って居る。

 あと、日本食と言えば出汁だが、この世界では魚があまり普及していない。川魚も海の魚も食べる者は少ないらしい。寄って鰹節や昆布が手に入らない。今はキノコで出汁を取っているが、近い内に海へ行ってみようと思って居る。海の物が需要があるようなら商売になるだろう。

 何故、この世界の住人が海や川に近づかないのかと言うと水辺には特殊な魔物が出るかららしい。特に海には巨大な魔物が多く。余程海の近くに住んでいる人以外は、魚を食べる機会が無いそうだ。また、生モノの輸送手段が無いと言うのも原因の一つだろう。

 探せば商売のネタはごろごろと転がっている。昔は探そうと思わなかった。この世界の物でも使い方によっては、日本の物が再現できるし、無理に再現しなくてもそれはそれと受け入れれば違う利用方法も思いつく。簡単な事なのに気が付かなかった自分が情けない。

 テクノロジーはまだ早い。まずは食から変えて行こう。ユーリの時の失敗は繰り返したくない。下地さえ作って置けば、俺が居なくなっても勝手に進歩するだろう。

 もし、俺に子供が出来るのであれば、その子が大人になった時には俺の意思を継いで欲しいと願う。

 っていうか、俺、半神だよね?子供出来るの?出来たらどうなるの?

「ギンガ!」

「どうした主?」

「俺って子供出来るのかな?」

「肉体は人間だから出来るだろう。」

「その子は普通の子だよね?」

「いや、それは保証できんな。」

 え~~~~~~~~!!
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