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第百三十二話

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 食堂のおやじになろうと色々奮闘しているうちに何故か知らないが、いろんなところに手を出していつの間にかグループ企業のようになってしまった。仕方が無いので『リュート商会』と言うのを設立し、各部署をまとめ上げる羽目になった。

 最近では食堂も料理人を雇い、リュートは商品開発に没頭する様になった。米の様に既に手を離れた物もあるが、醸造関係や調味料関連は、リュートの知識がまだ必要だ。それでもかなりの人を雇う事となり。なんだかんだで100人を超える従業員を持っている。

 朝市と商店街、そして野山、川、海は時間が空くと何か無いか探しに出ている。

 朝市で出会った卵売りとヤギの乳売り、そしてチーズ売りの3つは抱え込んでグループに入れた。これで安価に安定供給出来るだろう。

 今日も朝市をぐるりと一周したがめぼしい物は無かった。今、リュートが関心があるのは甘味だ。本当はチョコレートを再現したいのだが、この国の気候では南方の植物は育たないだろう。そう言えばバナナも見て無いな。

 と言う事で餡子を再現しようと豆を探している。基本何の豆でもそれなりの餡子は作れるのだが、やはり小豆の餡子が一番美味いと思う。朝市で豆を扱ってる人に聞いてみたが小豆の情報は無かった。黒豆さえまだ見つけていない。

 他に甘味と言うとケーキだが、こちらは再現の目途が付いている。だが、安価で子供にも食べさせられるとなると難しい。

 駄菓子を参考に幾つか考えてみたのだが、材料費の問題で安く作れないのだ。バニラを見つけたのでアイスクリームを試作してみたが、やはり子供向けには高価になってしまった。

 森に転移し、雑草で小豆が無いか探してみる。鑑定を掛けながらぶらぶらと森を歩く。相変わらずライスウィードが大量に生えている。と、その中の一つに気になる物があった。『ライスウィード小粒:小粒だが非常に粘り気が強い』あれ?これってもち米じゃないか?

 あたりのライスウィードを軒並み刈り取り、小粒のみをピックアップしてアイテムボックスに仕舞った。後で検証してみよう。

 2時間程森の中を色々と物色したが、めぼしい物は他に無かった。

 時間がまだあるので、そのまま川へと下って行く。川の近くには凶暴な魔物が出るが、リュートの気配にそれらも逃げて行く。川には鯉やフナ等が生息しているが、リュートはあまり好きではない。川魚でリュートが好きなのは唯一アレだけだ。そう、ウナギだ。ウナギのかば焼きの再現は可能だが、捌くのが難しい。一度試してみるかな。そう思い、アイテムボックスに10匹ほど大きめのウナギを入れて置いた。

 一旦家に帰り、今度は商店街に顔を出す。商店街ではリュートの開発した物が色々と売られているので、その視察も兼ねている。

 八百屋をまず覗く。

「おやっさん。何か変わった物入った?」

「おお、兄ちゃんか、そう言えば兄ちゃんの探してた小さい豆だったか。あれが、乾物屋に入ったらしいぞ。」

「マジ?行って来る。ありがとうおやっさん。」

 そう言って乾物屋に走る。

 乾物屋に着くとおばちゃんが出迎えてくれる。

「あらリュート君。情報早いわね。豆でしょ?」

「見せて貰えます?」

 おばちゃんが奥から麻袋を持って来た。中を開けて見せてくれる。間違いない小豆だ。

「これ、何処で手に入ったんですか?」

「西から来た行商人が持って来たのよ。西の方では結構取れるらしいわよ。」

「本当ですか?もっと大量に欲しいのですが、手に入りますか?」

「おばちゃんに任せとき!」

「じゃあ、定期的に100キロ位欲しいのですが、お願い出来ますか?」

「多分、その位なら問題無いわよ。ただ値段が若干高くなるわよ。西からここまでは結構距離があるからね。」

「じゃあ、僕が取りに行くので詳しい場所と商会の名前を聞いて置いて下さい。」

「解ったわ。それで良いのね?」

「お願いします。とりあえず、この一袋貰って行きます。お幾らですか?」

「これで10キロあるんだけど、銀貨3枚でどう?」

「貰います。」

 その場で銀貨3枚払って小豆を受け取った。

 帰り際八百屋に寄ってサツマイモを大量買いした。

 家に帰り、キッチンで小豆を煮る。まずは茹で小豆を作る。その間に小粒の米を精米して置く。精米した米を水に漬けている間に、蒸し器を用意し、サツマイモを蒸す。

 小豆が柔らかくなってきたら砂糖を大量にぶち込み、かき混ぜながら餡子にしてゆく。

 サツマイモは蒸しあがったら皮をむいてマッシュする。これを鍋に入れて、砂糖で甘みを足しながら火を掛ける。餡子の半分を入れ物に移し冷ます。残りの半分はサツマイモに混ぜる。小豆と砂糖が高いのでサツマイモでカサマシして子供でも食べられる安価な餡子を作っているのだ。

 次に小粒の米を蒸す。蒸しあがったら魔法でついて行く、思った通り餅が出来た。

 普通の餡を入れた大福と、サツマイモ餡を入れた大福の2つを作る。普通の餡は家族用だ。サツマイモ餡は皆に配って反応を見る予定だ。なんだかんだで100個位出来た。固くならない様にアイテムボックスに仕舞う。

 しかし、もち米の発見はタイミングが良かった。これも、栽培して増やして行こう。

 まだ、時間はあるが、今日はこの位にして置こう。後はルーイと遊ぶかな?

 そう言えば、ルーイが生まれた事で1つ変わった事がある。家に風呂を作ったのだ、結構広めのお風呂で5人位なら余裕で入れる。魔石式でお湯が無限に使えるリュート特製の風呂で、家族だけでなく、ミント達もたまに入りに来る。

 ルーイを探しにエリシアの部屋に行くと相変わらず2人で寝ている。良く寝る2人だ。エリシアをそっと起こし、風呂に入るか?と聞くと入ると言うので、3人で仲良く入った。その後、庭にある食堂で夕食にする。

 エリシアは妊娠してからアルコールを殆ど飲まなくなった。別に禁酒している訳では無く、美味しく感じなくなったのだそうだ。代わりに甘い物を欲しがる様になった。

 ルーイを連れて食堂に入ると周囲が大騒ぎになる。ここでも大人気だ。暫くするとミント達も合流したので、また大騒ぎ。どんなに騒いでもルーイは泣いたりしない。肝の座った子だ。

 一通り味見をして味が落ちて無い事を確認すると、料理人に親指を立てて合図する。料理人は嬉しそうに頭を下げていた。リロルが食器を下げに来たので大福を1個紙に包んで渡す。普通餡の方だ。

 エリシアとミント達3人にも1つずつ渡す。

「これは大福と言う新しい甘味だ。のどに詰まらせない様にじっくりと食えよ。」

 って言う前に喰い始めてる皆。

 常連も気になって覗き込んでいる。

「みんなの分もあるから家に持って帰って食べなよ。家族のいる者には人数分渡すから独り占めするなよ。」

 おお~と歓声が上がる。常連の家族構成はだいたい頭に入っている。

「食べたら明日にでも感想を聞かせてくれ。出来れば銅貨1枚位で販売したいと思って居る。」

 一通り配り終わったので家に帰ろうとするが、ミント達が着いて来る。ん?何か約束でもあるのかな?

「えっと、君たちは何しに来たのかな?」

「さっきの甘味、まだあるんでしょ?」

 シーネが切り出した。

「あれは美味かったな。もちもちしていて中がトロリと甘い。」

 エリシアが妄想している。

「あるんでしょ?」

 ミントが駄目押し。フローラは訳が分からずキョトンとしている。

「はいはい。」

 そう言ってテーブルに4つの大福を出す。

「これ以上は太るからダメだからな。」

「解ってます。ほら、フローラ早く食べないと取られるぞ。」

「え?あ、はい。」

 フローラも染まって来たなぁ。

 大福はあっという間に噂になり。子供たちのおやつとして定着するのだが、それはもう少しだけ先のお話。
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