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第百三十一話

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 あれから1年が過ぎた。リュートとエリシアの間にはルーイと言う男の子が生まれた。エリシアが抱いていると子供が子供を抱いている様だ。

 町の復興は進み、小麦の値段もだいぶ下がって来た。小麦が下がった事により、リュートの店のメニューもだいぶ増えた。まず、サンドウィッチ。そして麺類が数種類ずつ増えている。相変わらず、ライスは人気だが、中にはパンに合う料理もあるのでやはりバリエーションが増えるのは良い事だ。

 ちなみにリュートの店は『竜の憩亭』と言う名前だが、リュートの店で通っている。良くも悪くも冒険者の集まる店になっている。後は商店街の連中のたまり場とも化している。

 この店から発信される斬新な料理は冒険者に寄って広められ、商店街にて販売される事になる。特に焼き肉のタレととんかつソースはヒット商品だ、ついでマヨネーズが人気になっている。

 ちなみにこの3種類はレシピも公開しているので、中には自家製で味を変えて販売している店もある。串焼き屋等は焼き肉のタレにハーブを組み合わせ独自の味を出す店も増えた。

 また、酒類も大きな収入源になっている。日本酒や焼酎、ウイスキーなどを現在では醸造し販売している。特にウイスキーは酒好きの間で話題を呼んでいて、店でも大きな氷を入れたロックが良く出る。流石に氷魔法の使い手が少ないのか、自宅ではこの味が出せないと冒険者がぼやいていた。ちなみにマジックバッグを持って来れば大きめの氷を無料で配るサービスを行って居る。1キロ位の板氷だ。

 リロルは良くやってくれている。仕込みもだいぶ覚えて、昼間の空いてる時間には店を任せて商店街に行くのが楽になった。

 ミントとシーネは弟子を取った様だ。やはり女の子の冒険者で15歳のフローラと言う剣士だそうだ。まだFランクでソロで依頼をこなしていたので声を掛けたそうだ。何となく雰囲気がエリシアに似ているのは勘違いだろうか?

 3人は相談と言う名目で良く家に訪れる。エリシアにと言うよりはルーイを見に来ているのがバレバレだ。

 ルーイと言えば一つだけ問題がある。魔力量が多いのだ。生後5か月で既に1万近い魔力量を持っている。これは隠して置かないと不味い事になるかもしれない。

 俺の魔法で一時的に取り上げると言う事も考えたが、俺は何時神になるか判らないので、そのままにしてある。

 将来は宮廷魔導士かな?

 そう言えば、王都も徐々に復興し始めている様だ。周辺の貴族の援助と生き残った貴族の息子などが指揮を取り、教会等の施設から復旧を始めたそうだ。王家の生き残りは女子ばかりだと聞く。王様不在だが、中央はそれなりに機能を始めた様だ。

 相変わらず、外の情報は入って来ない。ギンガのネットワークでも大まかな被害状況は判るが、復興情報まではカバー出来ないのである。

 ギンガと言えば相変わらず家に居ついて野生に帰るつもりは無いらしい。しかも毎日食事をきちんと摂っている。魔素だけで生きて行けるんじゃなかったのか?

 そう言えば明日は店が休みだ、久しぶりに海へ行ってみよう。昆布の在庫はあるが、魚介類がもう少し欲しいな。ミックスフライ定食は毎日結構な数が出る。この世界では海の物は珍しいのでミックスフライ定食はリュートの店でしか食べられないので常連の中でも人気が高い。

 ちなみに昆布は大量に確保してあり。麺つゆも製造販売している。これは結構万能な調味料なので、商店街でもかなりの本数が出てるらしい。その内肉屋でとんかつを買って家でかつ丼なんて家庭も出て来るかもしれない。

 海に行くと、フライに出来そうな魚とエビとホタテの様な貝柱の太い貝を必ず入手する。それから焼き魚か煮魚に出来そうな魚を鑑定を使いながら探す。この世界の海は人の手が入って無いのでいつ来ても大漁だ。アイテムボックスに新鮮な魚介をたっぷり詰めて、店へと転移した。

 おっと、今日は定休日だった。裏に回り家へ入るとエリシアとルーイが揃って昼寝をしていた。起こすのも可愛そうなので、何か新しい料理を考える。

 そう言えば、チーズを仕入れた農家が売っていた『酪』と言う物が実はバターの原型だと後で知ったので定期的にチーズと酪を仕入れている。酪は生クリームから作るので、生クリームも手に入った。これにより、甘味の製造の幅が広がった。

 また、砂糖大根を大量に生産する事にも成功している。これは既にリュートの手から離れているのだが、この町に限って、砂糖が、かなり安い価格で流通するようになった。

 と言う事で甘味を作ろう。久しぶりにパウンドケーキでも作ってみるか。生クリームも添えれば、かなり豪華になるだろう。

 商店街に行って金物屋を覗く、パウンドケーキの型の代わりになりそうな物を探しに来たのだ。

「おやっさん。何でもいいから深めの金属の箱ってあるかな?」

「深めの金属の箱ねぇ?」

「何に使うんだ?」

「菓子を焼こうと思ってね。」

「こんな感じで良いのか?」

 そう言って持って来たのはまさにパウンドケーキの型そのもの。

「なんで、こんなのがあるんだ?」

「これは貴族が使う焼き菓子の型だぞ。」

「ほう?貴族ってこれで、どんな菓子を作るんだ?」

「なんか物凄く甘くて砂糖がじゃりじゃりした、パンもどきの菓子だな。」

「へぇ。食った事あんの?」

「1度だけな。2度と食いたくないがな。」

「じゃあ、俺が美味い菓子を差し入れしてやるよ。」

「ほう?それは楽しみだ。」

 そう言って金物屋を出ようとしたら、燻製器の様な物が見えた。

「なぁ。これって燻製器?」

「そうだが、欲しいのか?」

「ああ、売り物なら買うぞ。ちなみに腸詰ってあるのか?」

「腸詰なら肉屋にあるはずだが。」

「じゃあ、この2つ貰うよ。幾らだ。」

「銀貨1枚と大銅貨1枚って所だが、銀貨1枚に負けてやるよ。」

「おっさん気前良いなぁ。」

 その後肉屋に行くと腸詰は簡単に手に入った。かなり太い。何の腸か聞くのは止めて置こう。

 家に帰り。パウンドケーキを作り始める。実はオーブンはある。リュートが手作りで作った力作だ。魔石式だが、結構大きく燃費も良い。プリンもこれで作った物だ。チーズもパスタもあるし。今度はグラタンでも作ろうかな。

 等と考えていると辺りに甘い匂いが充満してくる。竹串を刺して焼け具合を確認してから取り出し。暫く粗熱を取る。その間に生クリームと砂糖を風魔法で攪拌し角が立てば完成だ。やはりバニラが欲しいな。何処かに無いかな?

 ケーキとクリームを氷魔法で冷やしてからアイテムボックスに仕舞う。音を立てない様に家を出る。今度は商店街の生薬を扱う薬屋へ向かう。

「また、あんたか。今度は何を探してるんだ?」

「甘い匂いのする木の枝かタネを知らないか?」

「甘い匂いねぇ。ルブラ草と言うポーションの材料が甘い匂いがするが、違うんだろう?」

「いや、そのルブラ草って知らないんだが。」

 ちょっと待ってろと言って奥へ入って行った。乾燥した草を持って出て来る。

「これがルブラ草だ。」

「これはシナモンだな。これ売って貰えるか?」

「ルブラ草ならこの辺の草原にいっぱい生えてるぞ。」

「そうなのか?これ以外に甘い匂いがする物って知らないか?」

 ふと思いついて昔作ったコロンを取り出す。確かバニラの香りの物を作ったはずだ。ハンカチにコロンを吹きかけて、この匂いなんだがと聞いてみる。

「これは、マージュの木の樹液に似てるな。」

「マージュの木?何処に生えてるんだ?」

「この辺の森なら大抵あるはずだが、北東の森に多いかな。」

「ありがとう助かったよ。」

 薬屋を出て、北東の森に転移する。マージュの木でサーチを掛けると本当に沢山生えている。小枝を一本折って噛んでみるが香りはしない。樹液と言って居たので大きめの木を選びど真ん中に穴を開けてみる。するとドロリとした液体が出て来たので慌てて掬う。匂いが辺りに広がる間違いないバニラだ。アイテムボックスから適当な小瓶を出し。一杯になるまで樹液を入れた。

 問題はこれをどうすればバニラエッセンスになるかだな。舐めてみるが毒は無さそうだし味も無い。

 とりあえず家に帰り。泡立てた生クリームに1滴樹液を垂らして攪拌する。かなり匂いが強いらしく、これで十分な様だ。鑑定を掛けても問題は無い。

 バニラクリームが完成した。これで、色々とメニューの幅が広がりそうだ。

 パウンドケーキは家族で美味しく頂きました。後で金物屋のおっさんにプレゼントしよう。ルーイはまだケーキは早いからクリームを一口だけね。

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