創造魔法で想像以上に騒々しい異世界ライフ

埼玉ポテチ

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第百三十九話

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 ルーイは12歳になり、学院に入学する事になった。

 領都サームには学院は1つしかない。貴族学院と魔法学院を合わせた総合学院だ。現在の領都サームには貴族の子供は殆どいない。なので実質魔法学院なのだが名前はそのままである。他にも冒険者学校や、魔法学校があるが、これは大人向けの学校で成人していないと入れない。商人を育てる、経済学校と言うのもあるらしい。

 ルーイは既に入学試験を終えて、合格の書類も受け取っている。まあ、実質落ちる生徒はまずいないのだが。

 実はルーイには秘密がある。6歳の時から、前世の記憶が蘇っているのである。ルーイはエルナスと言う非常に魔法文化の栄えた世界からこの世界へ転生した。リュートの居た地球とはまた別の世界である。

 しかし、ルーイは神との邂逅をしていないので自分に何故前世の記憶があるのか自分でも分からない状況である。リュートに相談すれば解決するのだが、ルーイは誰にも話さずに今まで育って来た。

 リュートは薄々何かを気付いている。ルーイの魔法の覚えが良すぎるのだ。魔力操作も12歳でほぼ完ぺきにこなしている。この子には何かがあると直感しているが、ルーイに直接聞く事は考えていない。

 実はルーイを貴族の子として育て学院へ入れる事を決めたのはリュートである。これはルーイが何かを成す為にこの世界に生まれたのだとしたら、なるべく手助けをしたいと考えたからだ。

 リュートは6歳の時からルーイを鍛えている。魔法に関しては12歳で既に宮廷魔術師に匹敵するだろう。ここまで魔法を鍛えたのはユーリだった時の失敗をルーイにさせない為だ。

 一方で剣の才能はあまり無い様だ。毎日の様にエリシアにボコボコにされているので流石にある程度の剣術の腕前はあるが、冒険者で言えば精々Cランク止まりだろう。

 魔法文明の発達した世界から来たルーイから見ても父リュートの魔法は凄いと思う。多分、前世で賢者と言われた魔法師と比べても引けを取らない。この世界ではそこまで魔法は発達していない。なのに何故父はそこまで魔法を使いこなせるのか疑問に思って居る。

 ルーイは父を尊敬している。魔法だけでなく、1代で冒険者としてSランクに至り、更には大商会を運営している。毎日ボコボコにされている母でさえ本気になれば父に勝てないと聞いた時は恐怖さえ覚えたほどだ。

 その父がルーイに学院行きを強く勧めた。正直魔法を覚えるなら父に教われば良い。それ以外の何かがあるのだろうとルーイは考えている。

 明日は入学式がある。クラス発表と簡単なオリエンテーリングがあると聞いている。

 所で我が家には立派な子爵邸がある。なのに何故か、ルーイたちは庶民の家で暮らしている。決して不満では無いし、居心地も良いのだが、何故だろうと何時も疑問に思うのだ。週に1度は父が子爵邸に泊まっている。ルーイとエルナが一緒に行きたいと言ったら母に泣かれた。それ以来、この話題は我が家ではタブーになっている。

 そう言えばエルナも6歳の時から修行を始めたが、エルナには魔法も剣も才能がある様だ。剣に関しては既にルーイより強いかもしれない。

 魔法に関してはまだまだだが才能は感じる。父の教え方が上手いと言うのもあるが、ルーイを見て育ったのが大きいのかもしれない。

 魔法文明が進んだ世界の記憶がある為、この世界の魔道具が酷く稚拙に思える事がある。一度それを父に指摘しようと思った事があるが、何故思いついたか問われたら答える自信が無かったので止めた。

 この世界の食事は前世の食事より美味い。それを作り出したのが父だと知った時は衝撃を受けた。父は食事を素材から探し集め、今の形にしたと言う。自分には出来ない事だと。自分の無力さを知った。

 父はもうすぐ30歳になるが、未だに未知の食を追い求めている。

 翌朝、母とエルナと一緒に馬車で学院へ登校した。生まれて12年経つが馬車に乗るのは数えるほどだ。僕って貴族だよね?

 学院へ着くと母とエルナは講堂へ向かった。僕はクラス発表の掲示板を見に行く。どうやらAクラスの様だ。Aクラスは入試の成績上位者が集まっているらしい。

「クラスを確認したら各自教室へ行くように。」

 教師らしき人が誘導しているので従う。

 Aクラスの教室へ入ると既に15人位の生徒が居た。その中の貴族っぽい格好の男の子が声を掛けて来た。

「君もAクラスか?名前は?」

「ルーイ・フォン・ブラスバッハです。よろしく。」

「ブラスバッハ?聞かない名前だな。私はエリック・フォン・ぺレックスだ。」

「ああ、確か北東にある町の?」

「そう、領主の息子だ。」

「へぇ、貴族は少ないって聞いてたんだけど、他にも居るの?」

「何人か居るな。この領都サームの娘も居るらしいぞ。」

「え?辺境伯の娘さん?」

 そんな会話をしているうちに続々とクラスのメンバーが揃って行く。席がどんどん埋まって行く。全部埋まると、教師がやって来て。出席簿を見ながら名前を呼んで行く。

 どうやら、リリス・フォン・イルジャーノと言うのが辺境伯の娘らしい。他にも4人程貴族の子女がいた。併せて7人。本当に少ないな。

「基本、1年2年は貴族、平民の区別はしない。3年から貴族科、魔法科に分かれるので3年生以上の貴族には気を付けろよ。」

 担任と思しき教師がそんな事を言った。

 気を付けろって何を気を付ければ良いんだろう?

「今日は入学式を2時間。その後各施設の説明をして終わりだ。明日からは通常授業になるので教科書を忘れない様に。」

 施設の説明?オリエンテーリングってそれか?基本は普通の学校と変わらないが、闘技場と魔法練習場があるのが他との違いだろうか。

 入学式は退屈だった。なんか偉い人が長い話をしている。2時間睡魔と戦って居た。

 その後、校内を1周して教室へ戻って来る。どうやらこれで今日は終わりらしい。

 さて帰ろう。と席を立ったら、呼び止められた。

「あの、ルーイさんってリュートさんのお子さんですよね?」

「え?あ、はい。」

 思わぬ相手だったので返事がおかしくなってしまった。辺境伯の娘さんだ。

「えっと、リリスさんですよね?辺境伯の娘さんの。」

「先生がおっしゃってましたよね?1年2年は貴族も平民も関係ないと、爵位も関係ないらしいですわよ。」

 いや、いきなりそんな事を言われてもね。

「で、僕に何の用ですか?」

「お友達になって貰えませんか?どうしても辺境伯の娘と言うと皆、気軽に声が掛けずらいらしくて。」

「ああ、確かに、僕もなるべく貴族っぽい行動はしない様にしてますしね。」

「でしょう?貴族は特別扱いしないって言うのは逆差別ですよね。」

 確かに言言えて妙だ。この子は頭が良いなと感心する。

「僕で良ければ友達になりますよ。ただし、なるべく父の事は内密でお願いします。」

「解りましたわ。では私の事もリリスと呼んで下さい。」

 おお、初日から友達が出来たぞ。幸先が良いな。

「では、父と母が待っているので失礼しますね。」

「はい、また明日。」

 僕も母とエルナが待ってるはずだ、急がないと。

 急いで馬車の元へ行くと2人は既に待っていた。

「遅いぞルーイ。」

「兄様遅いです。」

「悪い悪い。さあ、父さんの元へ戻ろう。」

 家に帰ると父が祝いの料理を作って待っていてくれた。

 僕より母とエルナが喜んでいたのは気のせいだろうか?

 皆が落ち着いた頃父に聞いてみた。

「父さん。何故子爵邸では無く、ここに住み続けているのですか?」

「色々な理由はあるが、ここでルーイとエルナが生まれた。ここは家族の場所なんだ。家と言うだけなら、俺は何軒も家を持っている。だが、帰る場所はここだ。ルーイにはちょっと難しかったか?」

「いえ、なんとなく解ります。愛着と言うなら子爵邸よりこの家の方がありますからね。」

 翌日から学院へは徒歩で通うようにした。馬車だと30分だが歩いても40分位なので尻が痛いのと秤に掛けたら徒歩になった。

 教室に入ると早速エリックに絡まれる。

「なぁ。貴族同士で派閥を作らないか?」

「派閥?トップはエリック君?爵位は?」

「そうそう、貴族が少なくて肩身が狭いだろう?トップは俺じゃなくても構わないよ、辺境伯の娘さんがやってくれると助かるな。ちなみに俺んちは子爵だ。」

 あれ?意外だな俺が仕切るって感じなのにトップを譲るのか?

「解った考えて置くよ。どの位集まりそうか後で教えてくれ。」

 ちなみに学院は制服なので知らないと誰が貴族か平民かは分からない。3年になり貴族科に進むと。襟章で判るらしい。

 何やら後ろの方で『竜の憩亭』と言う単語が聞こえたので耳を澄まして聞いてみる。

「あそこの味噌ラーメンの味がどうしても出せないって親父が言ってたよ。」

「そう、それにハンバーグのソースも真似できないよね。」

 どうやら飲食店の子供らが集まっているらしい。

 面白そうなので近寄ってみる。

「何?竜の憩亭って聞こえたけど、行くの?」

「いや、あそこの味付けの秘密が知りたくてね。」

「ほう?なら料理人に聞いてみたら?」

「料理人が秘密を教える訳無いだろう。」

「いや、竜の憩亭は聞けば教えてくれるよ。あそこの目的は美味い料理の普及だからね。」

「マジか?」

「一度試してみなよ。試すのはただだろう?」

「それもそうだな。」

「今度食べに行くから2人の店の名前教えてよ。」

 男の子の家は「火窯亭」、女の子の家は「金の麦亭」らしい。メモっておこう。

 授業は退屈だった、一般常識に魔力操作、魔法知識と父の教わった事ばかりだった。やはり父は学校で教える事では無く違う事を学ばせようとしていると確信したルーイであった。
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