【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第2章 英雄の最期

第22話 嗤う者

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「あの女を狙うので?」

 盗賊の1人は後ろを振り返り、己等を支配した魔女ルシエンに尋ねた。

「ドワーフどもに、一斉に浴びせるべきじゃねえか?」

 ドワーフに照準を合わせた盗賊の首が落ちる。
 それを見て、他の盗賊たちは震え上がった。

「貴様らの弓がドワーフの肉体を傷つけるとでも?」

「な! て、テメエ! ならなんで俺たちをここへ! だ、騙しやがったのか⁉ ドワーフを皆殺しにして武具を奪うって話しておいてよ! ひっ! いえ、やる! やりますよ‼」

 ルシエンは盗賊に目もくれず、標的であるリョウ・アルバースを凝視する。

(用心深い奴だ。だが防げまい)

 話し合いで集まっている、ドワーフと標的、その仲間たち。

「しっかし、黒竜を仕留めるたあ驚きだ。ルシエンさんよお、あんたは凄い魔女で召喚魔法とやらを出来るようだが、俺たちと同じ悪党だなあ。あのアランの傭兵の少年、あれは英雄になるぜ。俺たちとは違うねえ。……ま、生きていたらだったがな」

 盗賊の頭目はルシエンに笑い掛ける。
 しかしルシエンは、汚物を見るように一瞥しただけだった。

「へっ! 黒竜すら相手の油断を誘う駒かよ。あんたの目的とか背後に興味あるぜ」

「……気になるなら生き残ったら教えてやる」

「そいつはありがてえ」

 やがてドワーフたちが話し合いを終えたのか、集団の塊が散開して動き始めた。

「人間の女がよろめきやしたぜ。合図はまだですかい?」

「まだだ。まだ確実ではない」

 そう答えながらもルシエンは口元を歪めた。

(運はこちらに味方したようだ。さあ、もう少し距離を取れ)

「構えよ。狙いだけは定めよ。標的は人間の女。放った矢は私の魔力で操作する。……放て‼」

 その言葉と同時に矢が降り注ぐ。
 予想通りに傭兵の少年が気づき、人間の女を庇い、そして……英雄の最期を見た。

 ルシエンは嗤う。

「第二弾の準備をせよ。後は好きにするがいい」

 ドワーフの戦士に、盗賊共が全滅するまで10分も持つまいと思いながら、ルシエンはその場から消える。

(さらばだリョウ・アルバース。ノイズに人生を歪められた者よ。そして魔女ローゼ。……いや王女ローゼマリー様。どうぞお嘆きあそばせ。それが貴女を深い闇に誘うのですから)

 そして、ルシエンはまた嗤う。

「―全ては我等が神の御為に―」

 ***

 時は約4ヶ月前に戻る。
 荘厳な建物の一室。
 ケタケタと笑いながら報告する、シスター服の少女ジーニア。
 オレンジ色の髪とタレ目が特徴的だが、歪んだ狂気を隠そうとしない。

 円卓に座る6名の老婆は、ある者は頭を抱え、ある者は嘆息し、ある者は舌打ちし、ある者は魔法を唱え続け、ある者は発狂し、ある者は怒りを露にした。
 髪色と瞳の色以外、全員が同じに見える。

 そのうち、円卓に座り嘆息した老婆がジーニアに視線を向けた。
 その老婆は赤い髪に赤い瞳、黒いローブを纏い、頭にはとんがり帽子を被っている。

「キヒ♥ その魔女ローゼってベルガー王国第一王女のローゼマリー・ベルガーだったんですよねぇ。10年前に誘拐しそこねたっていう、あの、ね。やっぱりぃ魔女ディルってのに育てられてたみたいですよぉ。うふ♥ 面白いことになりそうだわぁ♥」

 ジーニアは、気持ち悪い嗤い顔をしながら報告を続ける。

 その報告を聞く老婆たちは各々違った反応を示すが、怒り狂っていた緑色の髪の老婆が、更に怒りを強くしていた。

「黙りなさいジーニア! その名前を軽々しく口にするでないわ!」

 だがジーニアは更に口元を歪める。

「キヒ♥ どっちですかぁ? 可哀想なノエルって魔女を利用して王城に忍び込ませて、王と王妃をわざわざ殺させて拐かす計画。なのに逃げられた挙げ句に、事件すらなかったことにされた王女様のほう? それともかつてのお仲間の魔女ディルってほう? キャハハハ♥ ……どうでもいいですけどぉ。報告しろって言うから報告してるんですけど。感情的になられても困るっつ~の」

「貴様ッ‼」

 緑髪の老婆が更に怒り、魔力を高めてジーニアに放とうとする。
 だがそれより速く、緑髪の老婆の目の前に魔導書が開かれて行く手を遮った。
 黒色の髪をした老婆だ。

「よせ。無駄な時間を過ごさせるな。ジーニアも口を慎め。どんな処罰を受けても、殺されはすまいと思っているようじゃが、それは甘いぞえ」

 だがジーニアは鼻で笑いながら言葉を返す。
 どうやらケタケタとした嗤い顔はやめたようだが、今度は呆れ顔をして。

「あたしのせいじゃないっつ~の」

 老婆たちはジーニアを睨みつける。
 ジーニアはまたケタケタと嗤い始めた。

「報告の続き~。ノエルを姉と慕っていたディアナって魔女は結局失敗して投獄された模様。多分領外追放って噂~。正式に仲間に誘うのはやめておいたほうが無難~。始末するならあたしがやってもいいよぉ♥」

 老婆たちは、続きの報告には特に反応しなかった。
 ただ、1人だけ違う反応を示した者がいた。
 それは紫髪の老婆だった。

 その口から発せられた言葉は怒りではなく、ただ静かに淡々としたものだった。

「ディアナとやらは放置でよかろうて。いずれ使い道があろう。ディルもどうでもよい。あれは探してどうなるものでもない。ローゼマリー王女も、今は幸せを噛み締めさせてやれ。いずれ訪れる時に迎えればよい。……問題はリョウ・アルバースという傭兵」

 老婆たちは各々頷いた。
 ジーニアもケタケタとした嗤い顔はやめ、真面目な顔つきに戻る。

「魔女ジーニアよ。そなたには王都ベルンの教会へ派遣を命じる」

「ま~た、修道服を着るのかよ……」

「任務の詳細はこれじゃ。心してかかれよ」

 ヒラリと舞ってくる紙を読んで、ジーニアはキヒ♥ と嗤った。

「んでぇ? ダーランドでも邪魔されたっていう傭兵の始末は誰がすんですかぁ。あいつは強い。あたしがゾクゾクするくらい♥ でも強さだけじゃない。この世の全てに猜疑心を持ってる。それでいて善良な一面も持ってる。あれは厄介ですよぉ♥」

 老婆たちは冷静にジーニアの話を聞いた。

 やがて赤色の髪の老婆が、その細い眉をピクリと動かした。
 カツンカツンと足音が響き、ワインレッド色の髪をした少女が姿を現して、円卓に向けて跪いた。

「ちっ。ルシエンかよ」

 右目上の額に火傷の痕がある少女に、ジーニアは舌打ちした。

「ルシエン。そなたはリョウ・アルバースを殺せ。手段は問わぬ。但し条件がある。近くにいる魔女ローゼと名乗る少女を、絶望させるように殺すこと。この黒竜を念のために与えようぞ」

 赤髪の老婆より小瓶が浮遊し、ルシエンの手元に置かれていった。

「承知しました」

 ルシエンの返答を聞いた老婆たちは徐々に姿が消える。

『これ以上厄介な英雄はいらぬわい』
『全く10年も無駄にさせおって』
『じゃが世の流れは我らが望む方向に動いておる』
『まずは大陸中に根をはり、種を芽吹かせる時よ』
『これからは更に慎重に事を運ばねばなるまいて』
『全ては我等が神の為に』

 老婆たちの姿が消えると、ルシエンは立ち上がり無言で踵を返す。

「キヒ♥ 無視かよ。久し振りに顔を合わせたってのにさぁ」

「貴女の尻拭いとはね。ジーニア、その気持ちの悪い嗤い方をやめたらどう?」

 ジーニアは漆黒の剣を鞘から抜いた。

「ルシエンぅ。そんなに殺されたいなら、今ここでやるかあ?」

「殺したいなら殺せばいい。だがそうすると、面白い光景を見られず、ジーニアは地団駄を踏むだろうさ」

「ちぇ、相変わらずぅ、陰険な奴だよぉ♥」

 ルシエンは無表情のまま、ジーニアはケタケタと嗤いながら、やがて2人の姿は消えた。
 
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