【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第2章 英雄の最期

第24話 ルシエン(前編)

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 この世界が嫌いだった。
 右目の上にある火傷痕は赤子の時についたもので、それ以降の人生を私は誰にも愛されずに生きてきた。

 親は知らない。
 ルシエンという名前だけが私に残った全て。
 ボロ切れの布に包まり、薄汚れた世界を見ながら私は日々を生きながらえていた。

 生きるために盗み、奪い、食べる。
 私の人生は、それだけの繰り返しだった。
 だけどそれは、私にとって苦痛ではなかった。
 先天的な才の魔法が、私に生きる術を与えてくれたからだ。

 私は魔法によって、人から認知されない術を持っていた。
 大きな街に移り、混雑に紛れて生きていく。
 盗みを働く時はこの魔法を使い、人通りの多い場所や店から物を奪い、それを売って金に換える。
 時には冒険者の装備を盗んだりもして、その金で食い繫いだ。

 だがある日、私はある騎士に捕まった。
 背が伸び、顔をジロジロ見られる機会が増えたのが敗因だと、何となく考えた。
 そして私を捕らえた男が、私を見てニヤリと笑う。
 それは私の運命を変えた出会いだったと今にして思う。

「……さっさと殺せば?」

 廃屋に連れ込まれ、鎖で繋がれた私は騎士の前で吐き捨てる。

「まだガキの分際でそんな目をするたあ、将来が楽しみだな」

 男は私の顎を掴み、顔を上に向けさせる。
 そして私の目を見る。
 私は男を見て恐怖した。
 男の目に宿る狂気に。
 真っ黒な髪から漏れ出る邪気に。
 それはまるで……いや、この男こそが女神の教えとやらで聞く悪魔だと私は確信した。
 男は私に言った。

「仲間になれ。そうすれば食い物に困らなくなるぞ」

 だが私はそれを断った。
 すると男は私を殴り飛ばした。
 痛みで蹲る私に男は言う。

「勘違いしてねえか? 俺が欲しいのはお前の魔女としての素質だ。それを生かすも殺すも俺の自由だ。ったく。魔女のババア共も、手駒が欲しいならこういうのを見つけてこいってんだ」

 男はイライラしながら私の髪を引っ張る。
 痛みに私は顔をしかめるが、それでも男を睨むのは止めない。
 それが逆に気に入ったらしい。
 男は高笑いした。

「いいねいいねえ! 俺にそんな目をしたガキはテメエで2人目だ!」

 興味を持った。
 そいつは生きているのか死んでいるのか。
 まだこのクソッタレな男を睨めるのか睨めないのか。
 私と協力してこいつを殺せるのか殺されないのか。

 だから私はその男に唾を吐いてやった。
 男は再び私を殴り飛ばした。
 それでも男の目は笑っていて、むしろ嬉しそうにしていた。
 男が私の鎖を外すと、私を見てニヤリと笑った。

「テメエ、俺を知らねえだろ?」

「知ってなくちゃいけないのか?」

「元パルケニア王国将軍にして家柄は公爵家、七剣神の1人にして大陸最悪の人物と呼ばれているノイズ・グレゴリオとは俺のことよ」

「長い」

「クックック、敬意をもってノイズ様と呼べ」

「私に何をさせるんだ?」

「そうさなあ。盗み、殺し、犯し、破壊する。テメエのその目と魔法はそのためにある」

「なんだ。今の生活と変わらないのか」

「違うぜえ。テメエには給金が出る。まずはここの赤髪の魔女のババアのところに行きな」

 そう言ってノイズは地図を渡す。

「読めないんだけど」

「……しゃあねえ。連れてくかあ」

 嘆息するノイズは愛嬌のある顔をした。
 悪意なんて全くない、子供みたいな笑顔だった。
 大陸最悪の人物の意味は知らないが、所詮こいつも人間。
 私がいつか殺せるクソッタレな世界の1人だった。

 ノイズは私と裏路地を歩く。
 途中何度も人がこちらを見るが、私の火傷痕を見て目を逸らす者が大半だった。
 そのせいか、私に近づこうとする者はいない。

 暫く歩くと、スラム街の中でも大きな建物に着く。
 教会とかいう建物だ。
 ただ大通りにある立派で綺羅びやかなのと違い、こちらは禍々しさを感じた。
 ノイズはその建物にズカズカと入っていった。
 私もそれに続く。

 受付には、頭の禿げ上がった老人が1人だけいた。
 その老人はノイズを見ると顔をしかめ、話しかける。
 私は2人の会話を黙って聞いていた。

 どうやらこの老人は司祭で、ここにいる信者から金を巻き上げているとのことだった。
 そして金が払えぬ者は、奴隷として売られるとも話していた。

「ルシエンとやら。女神を信じているかね?」

 司祭の質問の意図が、私にはわからなかった。
 だけどノイズは理解しているようで、私を見てニヤニヤ笑う。

「女神なんていたら、こんなクソッタレな世界を創った罰で真っ先に殺してやる」

 司祭の眉がピクリと上がる。
 私は女神なぞ信じていない。
 私の人生を狂わせたのは女神ではなく、人間だと知っていてもだ。

 ただ、もし……もしも神という存在が本当にいるのなら……それはきっと私のような人間を嫌うだろうと思っていた。
 だから私は神に祈ったことはないし、これからも祈るつもりはない。

「ふむ。ならば我らが神を信じるだろうな」

「我らが神?」

 女神以外に神がいるのかと、私は司祭の言葉に疑問を持つ。

「奥に入るがいい」

 司祭がそう言うとノイズは奥へと入っていった。
 私はその後に続く。
 巨大な空間の床に禍々しい魔法陣。
 その上に赤い髪の老婆が1人。
 他には誰もいない。
 赤い髪の老婆は私を見ると近寄ってくる。

 私は少し後ずさろうとしたが、なぜか私の足は動かなかった。

 赤い髪の老婆は、私の頬に手を当てると微笑む。
 そして私の右目の上の火傷痕に触れた。

「よく来たのう。ルシエンよ。これからは我らが神のためにその力を使い、尽くすのじゃ」

「神って?」

「神は神じゃ。この世を魔族に支配され、蹂躙されている真の姿に戻すのが我らが神の悲願。そのためには、汚れ仕事もやってもらうぞえ?」

 そう言って、赤い髪の老婆は私の目を覗き込む。
 その目は私を人として見ていないのが、何故かわかった。
 でも、心が高揚したのも自覚した。

 この力を使って……クソッタレな世界を壊せるんだとわかったから。
 
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