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第7章 絶望の鐘
第30話 ディンレル王国滅亡 魔王アリス
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夕暮れの血染めの戦場。
空には不気味な赤黒い雨が降り注いでいる。
そんな戦場のど真ん中に、クレマンティーヌは立っていた。
彼女の銀髪は血で濡れ、身にまとっていた深い紺色のロングコートは裂け、あちこちに深紅の染みが広がっている。
たった1人で4体の魔界最上位種と互角以上に渡り合っている姿は、まるで死を司る女神のようだ。
だが、そんな女神の顔には疲労の色が濃く漂っている。
魔族どもの再生速度が減り、動きが鈍り、ピクピクと地に伏せている状態へ、トドメを刺そうとしたクレマンティーヌは言葉を失った。
仕える国の第一王女にして魔女の弟子アリスと、彼女の夫ヒイラギが現れたからだ。
アリスの容貌は変わらぬままだが魂の輝きは失われ、醜く汚れ、狂気に染まっている。
かつて女神を信じ、女神に愛されるべき人間だった彼女が、今や全てを憎悪し蔑んでいる目をしている。
ヒイラギもまた同様だ。
「もう人じゃないねえ。満足かい? それで?」
クレマンティーヌは吐き捨てるように2人へ言った。
「ええ、先生。満足してます。それにしても先生、強すぎます。魔界の最上位種4体と戦い、圧倒するなんて。でも、もう私のほうが上です」
アリスは嘲笑うように答える。
「言うようになったねえ、アリス。師は敬うべきさね」
クレマンティーヌは眉をひそめた。
「ふふふ、弟子が師を超えるのは世の常です」
アリスは邪悪な微笑みで言葉を返した。
「ヒイラギ、騙され殺されたと恨む気持ちはわかるさね。だが、君はもう存在してはいけないんだよ」
クレマンティーヌはヒイラギに視線を向け、憐憫の情を滲ませる。
ヒイラギの黒い瞳が、クレマンティーヌと鋭く交差する。
「勘違いしてるようだな、クレマンティーヌ殿。俺はアリス様を護るのみ。他の者はどうでもいい。魔族も人もな」
「……そうかい。じゃあ戦うさね」
クレマンティーヌは覚悟を決めた。
「少しだけお待ちを。先生、良いものを見せて差し上げます」
アリスは不気味な笑みを浮かべ、碧眼がクレマンティーヌの瞳を見据える。
「これは……?」
次の瞬間、クレマンティーヌの脳裏に、チャービル、ディル、ローレル、アロマティカス、タイム、フェンネル、マツバの7人の宮廷魔術師見習いが無残に惨殺される光景が浮かぶ。
かつてアリスが、第一王女として、年長者として、彼らを可愛がり、慈しんでいた存在たちの凄惨な最期に言葉も出ない。
「あら? 先生、固まっちゃったわ。ふふふ、安心してください。みんなの魂はこちらに」
アリスはヒイラギの後ろから現れた、白髪の魔族が差し出す魂の欠片を手に取って見せてきた。
「これはみんなの魂です。先生が私に協力してくれるなら、この魂を復活させましょう。神聖魔法の使い手の先生ならわかるはず。ここから生き返らせるのは不可能だと。でも、それは女神の決めたルール。女神の理から外れた私には関係ないの。ヒイラギが甦り、ここにいるのが証拠」
クレマンティーヌは天を仰いだ。
アリスはとんでもない条件を突きつけたのだ。
「妹のアニスをあそこで殺さなかったのはわざと。これでアニスも深い悲しみを知ったの。きっと私と同じように魔王と覚醒する。そうしたら迎えに行くの。だって、私はアニスの姉なんだから。姉は妹を護らなくてはならないの。ああ! アニス! 待っててね! 昔のように抱き締めてあげるから!」
アリスの狂気が空間を満たす。
「ねえ先生。ローレルも、アロマティカスも、マツバも、チャービルも、ディルも、タイムも、フェンネルも、どうして私を選ばずアニスを選んだの。何で? どうして? 特にローレルとアロマティカスは私の側近中の側近で、マツバは義妹なのに。どうして、どうして、どうして? どうして大声で私に助けて!って叫ばなかったの? そうしたら私は、このバアフィンに殺すのを止めさせて抱きしめたのに。そして笑いあったのに。今までと変わらず、ずっと永遠に仲良くお友達でいたかったのに!」
クレマンティーヌは再び天を仰いだ。
アリスの言葉は、彼女の深い歪みと絶望を露呈している。
「先生。先生は私を裏切らないですよね? 私に様々なことを教え、導いてくださいましたもの。これからもずっと側にいて、私を支えてくれると信じてます」
アリスは祈るような声で……震える声で呟く。
クレマンティーヌはため息をついた。
もはや何を言っても無駄だろう。
ならば……
クレマンティーヌは覚悟を決め、アリスの狂気に染まった瞳を見据え、跪いて恭順を示した。
「わかったさね、アリス。いや、魔王アリス様。このクレマンティーヌを好きに使うがいいさね」
その瞬間、自分が魔族と化したのを感じた。
ならば見た目も変えよう。
イフリートが赤、ガンニバルが黒、ゴドリッチが緑、ヒューリーが銀。
先程まで戦っていた魔族たちの色彩を参考に、クレマンティーヌは自身の肌を鮮やかな青へと変貌させた。
魔王の側近に相応しい姿へと。
「ではお約束通りにみんなを甦らせます。……クスッ、ただ甦らせるのも癪ね。みんなアニスに味方したんだし。……こうしましょうか? 転生させ、成長したら迎えに行くの。どうせ私たちは、もう永遠の命と永遠の時を得たのだから時間はいくらでもあるんだし。そうだわ! アニスが私に今まで通り姉様と呼んで共に過ごすと誓ってくれるか、とても悲しいことだけど私に逆らって殺されるか、はたまた自然死するまで転生したみんなの記憶は封じておきましょう! それがいいわ! ……だって姉妹仲違いした状況で、またみんなアニスに味方したら悔しいもの! ふふふ、心配しないでヒイラギ。このみんなの魂は私と同調させたの。私が死なない限り、みんなも死なない。何十年だって何百年だって何千年だって、私が死ぬ時はみんなも一緒よ? ふふ。楽しみだわ! アニスが私に『姉様!』って、あの無邪気で愛らしい笑顔を向けて、駆け寄ってくるの。ふふ、もう一度皆に会えるんだし喜びなさい!」
狂気に満ちたアリスの言葉は、もはや止められない流れのように大地に木霊する。
ヒイラギはただ跪き、頭を垂れるのみの姿勢を崩さない。
こうして、魔王アリス、魔族ヒイラギ、魔族クレマンティーヌが誕生した。
(私ぐらいはアリスの側に付いていないとねえ。……アメリア王妃、申し訳ない。約束を守れなかった。アニス……私も遠慮はしないさね。アリスを止めたければ私より、ヒイラギより、アリスより強くなって止めてみせるさね)
クレマンティーヌはヒイラギとアリスの狂気に染まった瞳を凝視し、ただ、そう願った。
空には不気味な赤黒い雨が降り注いでいる。
そんな戦場のど真ん中に、クレマンティーヌは立っていた。
彼女の銀髪は血で濡れ、身にまとっていた深い紺色のロングコートは裂け、あちこちに深紅の染みが広がっている。
たった1人で4体の魔界最上位種と互角以上に渡り合っている姿は、まるで死を司る女神のようだ。
だが、そんな女神の顔には疲労の色が濃く漂っている。
魔族どもの再生速度が減り、動きが鈍り、ピクピクと地に伏せている状態へ、トドメを刺そうとしたクレマンティーヌは言葉を失った。
仕える国の第一王女にして魔女の弟子アリスと、彼女の夫ヒイラギが現れたからだ。
アリスの容貌は変わらぬままだが魂の輝きは失われ、醜く汚れ、狂気に染まっている。
かつて女神を信じ、女神に愛されるべき人間だった彼女が、今や全てを憎悪し蔑んでいる目をしている。
ヒイラギもまた同様だ。
「もう人じゃないねえ。満足かい? それで?」
クレマンティーヌは吐き捨てるように2人へ言った。
「ええ、先生。満足してます。それにしても先生、強すぎます。魔界の最上位種4体と戦い、圧倒するなんて。でも、もう私のほうが上です」
アリスは嘲笑うように答える。
「言うようになったねえ、アリス。師は敬うべきさね」
クレマンティーヌは眉をひそめた。
「ふふふ、弟子が師を超えるのは世の常です」
アリスは邪悪な微笑みで言葉を返した。
「ヒイラギ、騙され殺されたと恨む気持ちはわかるさね。だが、君はもう存在してはいけないんだよ」
クレマンティーヌはヒイラギに視線を向け、憐憫の情を滲ませる。
ヒイラギの黒い瞳が、クレマンティーヌと鋭く交差する。
「勘違いしてるようだな、クレマンティーヌ殿。俺はアリス様を護るのみ。他の者はどうでもいい。魔族も人もな」
「……そうかい。じゃあ戦うさね」
クレマンティーヌは覚悟を決めた。
「少しだけお待ちを。先生、良いものを見せて差し上げます」
アリスは不気味な笑みを浮かべ、碧眼がクレマンティーヌの瞳を見据える。
「これは……?」
次の瞬間、クレマンティーヌの脳裏に、チャービル、ディル、ローレル、アロマティカス、タイム、フェンネル、マツバの7人の宮廷魔術師見習いが無残に惨殺される光景が浮かぶ。
かつてアリスが、第一王女として、年長者として、彼らを可愛がり、慈しんでいた存在たちの凄惨な最期に言葉も出ない。
「あら? 先生、固まっちゃったわ。ふふふ、安心してください。みんなの魂はこちらに」
アリスはヒイラギの後ろから現れた、白髪の魔族が差し出す魂の欠片を手に取って見せてきた。
「これはみんなの魂です。先生が私に協力してくれるなら、この魂を復活させましょう。神聖魔法の使い手の先生ならわかるはず。ここから生き返らせるのは不可能だと。でも、それは女神の決めたルール。女神の理から外れた私には関係ないの。ヒイラギが甦り、ここにいるのが証拠」
クレマンティーヌは天を仰いだ。
アリスはとんでもない条件を突きつけたのだ。
「妹のアニスをあそこで殺さなかったのはわざと。これでアニスも深い悲しみを知ったの。きっと私と同じように魔王と覚醒する。そうしたら迎えに行くの。だって、私はアニスの姉なんだから。姉は妹を護らなくてはならないの。ああ! アニス! 待っててね! 昔のように抱き締めてあげるから!」
アリスの狂気が空間を満たす。
「ねえ先生。ローレルも、アロマティカスも、マツバも、チャービルも、ディルも、タイムも、フェンネルも、どうして私を選ばずアニスを選んだの。何で? どうして? 特にローレルとアロマティカスは私の側近中の側近で、マツバは義妹なのに。どうして、どうして、どうして? どうして大声で私に助けて!って叫ばなかったの? そうしたら私は、このバアフィンに殺すのを止めさせて抱きしめたのに。そして笑いあったのに。今までと変わらず、ずっと永遠に仲良くお友達でいたかったのに!」
クレマンティーヌは再び天を仰いだ。
アリスの言葉は、彼女の深い歪みと絶望を露呈している。
「先生。先生は私を裏切らないですよね? 私に様々なことを教え、導いてくださいましたもの。これからもずっと側にいて、私を支えてくれると信じてます」
アリスは祈るような声で……震える声で呟く。
クレマンティーヌはため息をついた。
もはや何を言っても無駄だろう。
ならば……
クレマンティーヌは覚悟を決め、アリスの狂気に染まった瞳を見据え、跪いて恭順を示した。
「わかったさね、アリス。いや、魔王アリス様。このクレマンティーヌを好きに使うがいいさね」
その瞬間、自分が魔族と化したのを感じた。
ならば見た目も変えよう。
イフリートが赤、ガンニバルが黒、ゴドリッチが緑、ヒューリーが銀。
先程まで戦っていた魔族たちの色彩を参考に、クレマンティーヌは自身の肌を鮮やかな青へと変貌させた。
魔王の側近に相応しい姿へと。
「ではお約束通りにみんなを甦らせます。……クスッ、ただ甦らせるのも癪ね。みんなアニスに味方したんだし。……こうしましょうか? 転生させ、成長したら迎えに行くの。どうせ私たちは、もう永遠の命と永遠の時を得たのだから時間はいくらでもあるんだし。そうだわ! アニスが私に今まで通り姉様と呼んで共に過ごすと誓ってくれるか、とても悲しいことだけど私に逆らって殺されるか、はたまた自然死するまで転生したみんなの記憶は封じておきましょう! それがいいわ! ……だって姉妹仲違いした状況で、またみんなアニスに味方したら悔しいもの! ふふふ、心配しないでヒイラギ。このみんなの魂は私と同調させたの。私が死なない限り、みんなも死なない。何十年だって何百年だって何千年だって、私が死ぬ時はみんなも一緒よ? ふふ。楽しみだわ! アニスが私に『姉様!』って、あの無邪気で愛らしい笑顔を向けて、駆け寄ってくるの。ふふ、もう一度皆に会えるんだし喜びなさい!」
狂気に満ちたアリスの言葉は、もはや止められない流れのように大地に木霊する。
ヒイラギはただ跪き、頭を垂れるのみの姿勢を崩さない。
こうして、魔王アリス、魔族ヒイラギ、魔族クレマンティーヌが誕生した。
(私ぐらいはアリスの側に付いていないとねえ。……アメリア王妃、申し訳ない。約束を守れなかった。アニス……私も遠慮はしないさね。アリスを止めたければ私より、ヒイラギより、アリスより強くなって止めてみせるさね)
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