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星降る世界とお嬢様編

3.お嬢様と婚約式

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「クレナ、緊張してる?」
「そ、それはもう、してますとも!」

 私たちは、式典の行われる大広間の待機室にいて。
 係りの人の呼び出しを待っている。

 嬉しさと緊張がピークだし。

 さっきまで泣いてたから。
 目だってすごく真っ赤で恥ずかしいし。

 ――なんだか。

 この後の行動はすべて頭に入ってるはずなんだけど。
 すべて忘れて、真っ白になりそう。
 
「それじゃあ、おまじない」

 王子は私の表情をみたあと。
 いたずらっい表情で笑って、私のベールを軽くめくると……。

 額に、優しくキスをした。

「泣いてた顔も可愛かったよ。大丈夫! 自信をもって!」
「ありがと……」

 もう!
 なんの自信なのか、全然わからないけど。

 でも少しだけ……。
 緊張が消えた気がするかな。


 今日のシュトレ王子は。
 王家の伝統的な、白地に金の刺繍が入った衣装。

 ゲームで何度も見たことある姿なのに。
 金色の髪とか、青い瞳と合っていて。
 本当にすごく……カッコいい。

 私はこの人と……ずっと一緒に暮らしていくんだ。

 あらためて、乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』のラストシーンを思い出す。
 ゲームでは。

 王国を攻めてきた帝国とラスボスを倒して。
 平和になった世界で、夢のような婚約式が行われる。

 そこで、ハッピーエンドでゲームクリアだから。

 先の物語は誰も知らない。


「シュトレ王子、並びに婚約者クレナ様。式の準備は全て整いました」

 係りの人の合図で、大広間への扉が開いていく。
 
「いこう。クレナ」

 シュトレ王子が、さわやかな笑顔で片手を差し出してきた。

「ええ、シュトレ様」

 わたしは、彼の手をとると。
 光の差し込む、大広間へと足を進めた。 


**********

 眩しい光の中、私たちは会場の絨毯を歩いていく。

 たくさんの人が来賓でご参加いただいてる。
 王国の貴族。
 セーレスト神聖法国の使節団。
 アイゼンラット帝国の使節団。


 遠くで小さく手を振ってるキレイな女性。
 あれは……イザベラちゃんだ。
 思わず小さく手を振ると、周囲からざわめきが起きた。
 
 まずい。
 これ以上はやめておこう。


 王宮で一番大きなこの大広間は、天井が吹き抜けになっているから。
 ゲームのシーンと同じように、満天の星空が見える。

 結界で守られてるから、雨が降っても平気なんだよね。
 魔法って便利。

 でもそっか。

 本当に……ゲームと同じシーンで。
 違うのは、シュトレ王子の隣にいるのが私で。
 国王様と王妃様の前に二人で立っていて。

 本当にすごく不思議な感じ。

 王子の青い瞳に自分が写っている。

 このまま。
 ずっと平和に、二人で同じ人生を歩んでいけたらいいのに。 

「……クレナ、誓うセリフだよ」

 王子のささやき声にはっとする。
 私は慌てて、セリフを口にする。

「ち、ちかいます」

 若干かんだ。
 恥ずかしい……。

「それでは、誓いの証を」

 国王様の合図で、王妃様が手に持っていた箱を差し出してきた。
 中に入っているのは。

 ――二人分の婚約指輪。

 王国の国旗になっている竜王が装飾されていて。
 キラキラ光っている。

 これ、ゲームでも登場していて。
 限定でグッズ化されて、シュトレファンのお宝アイテムだったんだけど。

 まさか自分が付けることになるなんて。
 しかも本物だし!

「クレナ、手を出して?」

 王子は私の差し出した左手をやさしくにぎると、薬指に指輪をはめてくれた。
 私も、王子様の手に指輪をはめる。

 次の瞬間。 
 
 王子の体が輝き始めた。
 え? なに?

 ゲームではこんなシーンなかったはずだよね?

「……シュトレ様?」

 あわてて、手を伸ばそうとしたら。
 私の手も……ううん、手だけじゃない。

 私も王子と同じように光っている?
 まるで、かみたちゃんみたい。

 次の瞬間。

 周囲の視界が真っ白になって。
 
 ぷかぷかと白い空間に、シュトレ王子と二人で浮いていた。
 
 えええええ!?
 これ、なんなのさ!!!


**********

 真っ白でなにもない空間。

 私たちは、両手を握ると、そのまま輪のようにぷかぷか浮いている。
 ううん、正確には。

 浮いているのかもよくわからない、不思議な感覚なんだけど。

「クレナ……これは一体……」

 シュトレ王子は、両手をにぎったまま、周囲を見渡している。
 これってきっと。

 ……いつもの場所だよね。

「えーと、詳しくは私もわからないんですけど。たぶん安全な場所ですよ」
「クレナは、この場所を知ってるの?」

 不思議そうな顔をするシュトレ王子。
 
「知ってるというかですね、何度も来たことがあるので」
「そうなんだ?」

 やがて。
 ベッドの上にいるようなふわっとした感覚がした。
 
 着地したってことかな。

「はいはーい。新郎新婦のご到着ですねー。おめでとうございますー」

 突然、私たちの前の前に、女の子が現れた。
 いつも頭についていたドラゴンのような角も、背中に羽根もないし。
 まったく光を放っていない。

 黒髪のショートボブ、大きな瞳の愛らしい少女。
 
 両手には鮮やかな色とりどりの花束を抱えている。

「ブーケは花嫁さんに。どうぞ、クレナちゃん」

 満面の笑みで、私に花束を差し出してきた。

「あ、ありがとう。かみたちゃん……」

 私はそのまま、かみたちゃんを抱きしめた。


 なんだろう、この気持ち。

 嬉しいような。
 何故か悲しいような。
 ずっとずっと遠い昔に諦めていたような、不思議な気持ち。 
 
「クレナがいっていた、かみたちゃんですね。初めまして」  

 シュトレ王子が丁寧なお辞儀をする。

「本当に……あの人にそっくりなんですね」

 かみたちゃんは、私から離れると。
 シュトレ王子の頬に手をあてた。

「ちょ、ちょっと。かみたちゃん?」

「うふふ、やきもちですかー?」
「ち、ちが……わないけど」
 
 私の言葉を聞いたシュトレ王子の顔が真っ赤になった。

「二人とも可愛いですね。それでは、婚約のお祝いに私からプレゼントですー!」

 かみたちゃんが、両手を大きく回すと。

 大きなスクリーンに何かが映し出された。

「……これは?」
「これは、今から一週間後におきる未来の映像ですよー」

 映し出されているのは、大きな砦の風景。
 
 地理の勉強で習った気がする。
 確か……西の……。

「西の国境にある、フェルニット砦だね」

 シュトレ王子が答えてくれた。
 そうそう、西にある最大の砦。

 西のセーレスト神聖法国とは友好国だから、いまでは観光名所みたいになってるみたいだけど。


 突然、空から飛竜が襲い掛かってきた。
 ううん、飛竜じゃない。

 あれは……竜騎士だ。
 砦は瞬く間に炎に包まれていく。
 
 なにこれ……なんで竜騎士がフェルニット砦を攻撃してるの。

 映像の中に、金色に輝く飛竜が見えた。
 
 ……うそだ。
 うそだよ。

 だってあれは、アンネローゼちゃんとリュート様だ。

「かみたちゃん、なんなのこの映像!」

 思わず大きな声をあげて、かみたちゃんの肩をつかむ。

「だから、未来の映像ですってばー。あとこれもプレゼント」

 かみたちゃんがもう一度手を回すと、もう一つスクリーンが浮かび上がる。

「これって……」

 映っているのは、大量の魔物と、魔人たち。
 国境付近の砦が……炎上している。

「まさか……帝国が攻めてくるのか……」

 呆然とした表情で画像を見つめるシュトレ王子。

 うそだ。
 だって……なんで?
 由衣の手紙には……なにも。
 なにも書いてなかったのに。

「クレナちゃん、シュトレ王子」

 かみたちゃんは、声もだせず動けないでいる私たちに、優しく声をかけてきた。

「まだ未来は変えられますよ? おきることがわかっているなら、防げますよね?」

 かみたちゃんが、突然金色に輝きだす。
  
 私たちの周りを、金色の花びらがつつみこんで。
 眩しくて、目が開けていられない。


「これが、私からの最後のプレゼント。あとは……アナタ次第ですよ、朱里ちゃん」
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