上 下
154 / 201
星降る世界とお嬢様編

20.お嬢様とルーランド砦

しおりを挟む
 その日の夜明けを待たずに。
 王国の飛空船団は、慌ただしく戦闘の準備が始まっていた。

 魔星鎧スターアーマー を着た騎士たちが降下準備を始めていて。
 船の大砲には魔法弾がセットされていく。

 私たちのいるブリッジには、ルーランド砦から刻刻と変わる戦況が伝えられていた。

 帝国の本陣まで攻勢に出ていたハルセルト領軍とセントワーグ領軍は……。

 突然あらわれた翼を生えた軍隊……。
 魔人に急襲されて撤退。

 勢いにのった帝国軍は、防衛線を突破。
 多数の帝国兵とモンスターが砦に押し寄せているって。


 ……どうしよう。
 最初に報告を聞いてからずっと、身体の震えが止まらない。
 
 
 わかってたけど。
 わかってたつもりだったけど。

 ずっと王国だけか勝ち続けるなんてありえない。
 そんなに都合のいい戦争なんて。

 ここはゲームと違って……現実なんだから。

「クレナ、落ち着いて!」
「私は平気ですよ?」

 王子に肩をつかまれて、私はなんとか笑顔を作った。

 今の私は、王族の一員なんだから。
 私の言動で士気を下げてしまったら大変なことになる。

 ……ここで私が動揺してちゃダメだ。

「私たち王国軍は、星空を守る側です! 絶対に負けたりしません!」
 
 不安をごまかすように、大声で叫ぶ。
 イベントのとおりなら。
 星空を……この世界を守るのは、私たちなんだ!

「そのとおりだ!」
「さすが、竜姫様!」
「やるぞ、こっちには星乙女がついてるんだ!」
「もし砦が落ちていてもすぐ取り返してやる!」

 ブリッジ内に大きな歓声があがる。
 拳を高くつきあげている人もたくさんいて。
 すごい熱気に包まれた。

 私も出来る限りの笑顔で、ブリッジの人達に手を振る。

  
「クレナ、ちょっとこっちきて」
「え? シュトレ様?」

 突然、手首をつかまれて、ブリッジの外に連れ出された。

「シュトレ様、どこにいくんですか?」
「いいから、ついてきて!」
 
 飛空船の廊下をどんどん進んでいく。
 横顔がいつもの表情じゃなくて。

 なんだか……こわい。

 しばらくして、扉の前で立ち止まると、魔法石で出来たキーでロックを解除する。
 あれ? ここって、確か。

 王子の部屋だよね!

「なにもしないから、入って?」
「でも……」

「オレを信じて。ね?」

 だって。
 それは……信じてます……けど。

「シュトレ様、ここではダメなんですか?」
「うん。そうだね、入って?」

 私は、王子の笑顔に押されて部屋に入る。
 笑顔なんだけど。なんだかすごい圧を感じるんですけど。

 大丈夫。
 シュトレ王子のこと……信じてるからね。

 でも……ちゃんと婚約したんだよね……私たち。
  
「……シュトレ様?」
「ここなら、誰もいないよ? 誰も邪魔する人はいないから」

 いないから……。
 いないからなんなんですか!?

 嬉しい気もするんだけど。
 今は全然そんな気分じゃなくて……。

 完全に動揺する私を、シュトレ王子が優しく抱きしめてきた。

「いいよ……オレの前では、無理に作り笑いをしないでいいから」
「……え?」

「伝令の報告を聞いてから、ずっと気を張ってるよね? ……オレの前でくらい……楽にしてよ」

 うそ……。
 王子……気づいてたの?

「泣いていいんだよ、クレナ……」

 急に涙があふれ出たのは。

 王子の優しい言葉が嬉しかったからなのか。
 これまで我慢していた不安からだったのか。
 自分でもわからないんだけど。

 でも。

 私は……王子の腕の中で。
 子供みたいに大声を出して泣いてしまった。  

  
***********

 しばらくして。
 シュトレ王子と私は二人でブリッジに戻った。
 
 ちょっとだけ泣きすぎて頭が痛いし。
 目が真っ赤で腫れてる気もするけど。
 でも。
 おかげで、気持ちが冷静になれた気がする。

 うん、大丈夫。
 
 お父様も、お母様も、ナナミちゃんも。
 それに、リリーちゃんも。

 必ず助けて見せるから!


「シュトレ王子、クレナ様。見えてきました! 砦が……燃えています!」

 少しずつ、夜が明けてきて。
 地平線に朝日が昇る頃。

 遠くに巨大な砦が炎上しているのが見えてきた。
 
 砦の上空では、王国軍と帝国軍の飛行船が砲撃戦を繰り広げていて。
 その間を、魔星鎧スターアーマー を着た両軍の騎士たちが飛び交っている。

「あんなところで空中戦とは……押し込まれているな。隊列を組み直す。各艦に至急連絡!」
「わかりました!」

 王子の言葉で、ブリッジ内に緊張が走る。
 兵士たちの表情が暗い。
 そうだよね。まさかこんなに早く、砦が……。

 ふと。
 まだ遠くに見える砦に、旗が多数ひるがえっているのが見えた。
 あれは……たぶん……。
   
「砦には、どこの旗が掲げられていますか?」
 
 私は出来るだけ冷静に、伝令の兵士に尋ねてみた。

「……申し上げます。砦の王国旗は……まだ、まだ降りていません!」

 感極まったような伝令の言葉に、私は大きく頷いた。

「大丈夫です! 私たちは間に合いました! さぁ、仲間を。大切な人たちを助けに行きましょう!」

 艦隊の通信がつながったままだったみたいで。
 
 ブリッジの中だけじゃなく、通信用の魔道具からも一斉に大きな声が上がった。
  
 ――大丈夫。

 まだ負けてない。
 負けてないよ。

 今行くからね、


 だからお願い……。
 みんな無事でいて。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

落第錬金術師の工房経営~とりあえず、邪魔するものは爆破します~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:917

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,499pt お気に入り:4,185

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:248pt お気に入り:304

処理中です...