勇者パーティーを追放された転生テイマーの私が、なぜかこの国の王子様をテイムしてるんですけど!

柚子猫

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7.竜の王子は思い出を胸に秘める

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<<ベリル王子目線>>
 
「お兄さま、なんだか嬉しそうですね」
「うん、ちょっとね」

 ここは、グランデル王国の王都ハイビス。
 ショコラの住んでいるフォルト村は、馬車だと二日かかる場所にある。

 まぁ、ドラゴンに変身すれば一時間くらいなんだけどね。

「……もしかして、あの方にお会いできたのですか?!」
「あの方って?」
「とぼけなくても平気ですよ。本当に素敵でしたわ、あのお方」

 僕の部屋に遊びに来ていた妹のミルフィナが、両手を顔の前に組んでため息をついた。
 心なしか、頬が少し赤くなっている。

 一体、誰の事だろう?

「んー、ミルフィナが想ってる人とは違うんじゃないかな?」
「そうでしょうか? きっと同じ人ですわよ?」

 顔を傾けて、いたずらそうな笑顔で見つめてきた。
 すみれ色の長い髪が、ふわりと揺れる。
 
「それじゃあ、ヒントを出していきますね? 当たっていたらハイと答えてくださいね?」
「はぁ、わかったよ。続けて」

 きっと、かまってほしいんだろう。
 かわいい妹の頼みだし、少しだけゲームに付き合ってあげようかな。
 僕は片方の手を振ると、彼女の提案を受け入れた。

 ミルフィナはにっこりと微笑むと、可愛らしい唇に人差し指を当て質問をはじめる。

「それじゃあ、いきますね、お兄さま。その方は一度お城に来たことがあります」
「ハイ」

 ほらね。
 彼女が想っているのは、きっと、アイツのことだろう。
 神の啓示を受けた、世界でたった一人の英雄。

 年頃の女の子にはカッコよくみえるんだろうな。 

「次いきますね。その方の髪の色は薄いピンク色です」
「ハイ」
「その方は、大きな水色の瞳です」
「ハイ」

 ……んん?

 ミルフィナの恋するような表情から、てっきり『勇者』のことかとおもったんだけど。
 なんだこれ?
 全く特徴が一致しないぞ。

 むしろ、これだと……。

「その方は、私と同じ年くらいの、とてもとても可愛らしい女の子です」
「……ミルフィナ?!」
「あー。ダメですよ、お兄さま。ハイかイイエで答えてください?」

「ハイ……」

「その方は、調教師テイマー です!」
「ミルフィナ、ストップ!」
 
 思わず、彼女の肩を掴んだ。
 ミルフィナは、慌てる僕の顔をみてニヤリと笑う。

「ね? 当たってましたでしょ?」
「……ああ、そうだね」

 城内では一度も表情を崩したつもりはなかったのに。
 何故バレたんだ。

 顔が真っ赤になっているのが、自分でもわかる。
     
「やっぱり! あの方を見つめるお兄さま。すごく幸せそうでしたもの!」
「……そんなに……わかりやすかったかな?」
「ええ! それはもう」
「そうか……」

 まさかこの気持ちが周囲に知られているなんて。

「うふふ、わたくしたち、兄妹でライバルですわね!」

 ミルフィナは、瞳を輝かせて嬉しそうに微笑んだ。

 ……。
 
 …………。

 かわいい妹よ、今なんて言ったんだ?


**********

 勇者パーティーが王都ハイビスの城を訪れてきたのは、ちょうど一年ほど前。
 魔王軍幹部の一人を倒したお祝いで、晩餐会に招待した時だ。
  
 僕は、国王である父ファラルドの横に立っていた。

 勇者と呼ばれる茶色い髪の青年。
 歴戦の勇士のような大男。
 銀髪の魔法使いのエルフ。
 ローブを着た金髪の小さな女の子。
 緑色の髪に眼鏡をかけた青年。

 そして。

 薄いピンク色のサラサラとした髪。
 大きな水色の瞳。
 少し幼さを残した可愛らしい顔。 

 一目見た瞬間。
 あまりの可愛らしさに……息をすることを忘れそうになった。
 僕の瞳は、彼女に吸い寄せられて動こうとしない。
 なんだ……この気持ちは。
 
「初めまして。調教師テイマー のショコラと申します」

 鈴のような可愛らしい声が、頭に響き渡る。
 まるで僕の心がいきなり明るく照られたような。

 ――そんな不思議な感情だった。

 
 お祝いの宴がはじまると、ただひたすら彼女の姿を探していた。
 
 勇者は、たくさんの貴族の女性たちに囲まれて嬉しそうに話している。
 パーティーメンバーもそれぞれ楽しそうだ。

 ただ。
 彼女だけが見当たらない。

 僕はにぎやかな会場を一通り回ったあと、一息落ち着くためにテラスへ向かった。

 ……なにをやってるんだ、僕は。
 ……会ってどうするつもりなんだ。

 テラスに流れこむ夜風に当たって少し冷静になった僕は、月明かりに照らされた庭園を眺めていた。

「こら、ダメでしょ。おとなしくしてなさい!」

 ふいに庭園から、話し声が聞こえる。
 この声は、まさか。

  
 慌てて声のする方向を眺めると、桃色の少女が動物に囲まれていた。

 小さな黒馬。
 白く大きな犬。
 美しい赤い鳥。
 そして、中心にいる花のような美しい少女。

「ごめんね、すぐに戻らないといけないの。あ、ちょっとじゃれつかないで」

 彼女は嬉しそうに、動物を撫でている。
 なんて楽しそうに笑うんだろう。

 胸の高鳴りを押さえることができない。
 僕はひょっとして……まさか。

「そこで大人しくしてるんだよ? あとで美味しいごはんあげるからね」

 彼女の言葉に、動物たちは一斉に整列する。 
 そうか、調教師テイマー と言ってたね。

 あらためて、彼女の動物たちをじっくり眺めてみる。

 ん?
 んんん?

 あれって……もしかして。
 ナイトメアと、雪狼、それにフェニックスだよね?

 ……。
 
 …………。

 さすが神に選ばれし勇者の、パーティーメンバー。
 ……もしかして、勇者より強いんじゃないかなぁ、あの子……。
  
  
**********
 
「とにかく! わたくしも会いにいきますわ!」
 
 ミルフィナは、机に置いてあった新聞を手に取った。

「この新聞によると、勇者パーティーを抜けられたのですよね? でしたらお城にお呼びして……きゃー!」

 新聞に書かれた記事を指さしながら、嬉しそうに話している。
 
 彼女の持っているのは、『勇者新聞』。
 勇者パーティーの活躍は、定期的に発行されるこの新聞で世界中に伝わっているのだ。
 なにせ。
 彼は世界の希望だからね。

「それにしても、おかしいですわ」
「おかしいって?」
「彼女の使役していた鳥ってフェニックスでしたわよね?」

 なんだ。ミルフィナも見たことがあったのか。
 僕の妹ながら、よくあれがフェニックスって気づいたな。

「フェニックスって勇者を導く鳥でしたのに……パーティーから抜けて大丈夫なのかしら?」

「さぁ、どうなんだろう?」


 まぁ。もし僕がフェニックスでも。

 勇者じゃなくて、笑顔が可愛らしい彼女……ショコラを選ぶけどね。
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