勇者パーティーを追放された転生テイマーの私が、なぜかこの国の王子様をテイムしてるんですけど!

柚子猫

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59.追放テイマーと真の勇者

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「うーん」

 私はフォルト村へ帰るバス……ううん、巨大馬車の窓枠に肘をついて、ゆっくりと流れていく景色を眺めていた。

 世界を征服する魔王を倒して。
 世界が平和になって。
 女神様からなんでも叶えてくれるってご褒美ももらって。

 ……あはは。
 ……ゲームや小説だったらハッピーエンドだよね、これ。

「どうしたんですの? なにか悩んでたりします?」

 隣に座っていたミルフィナちゃんが心配そうに顔を覗きこんできた。
 ぷくっとふくらんだ唇が、まるで桜の花びらみたい。
 紫色の髪がふわっと私の頬にふれると、甘い香りにつつまれた。

 ――正当派ヒロイン。

 うん、本当にそんな感じなんだよね、ミルフィナちゃんって。
 もしこの世界が転生物のラノベだったら、彼女がヒロインなんだろうな。
 そうすると、ヒーローは誰だろう?

 ベリル王子……は、兄妹だし。
 うーん、魔王シャルル様とか?

 お姫様と魔王の恋愛かぁ、ありかもしれない。

「……ちょっと、ショコラちゃん!」
「あ、うん、ゴメン。なんだっけ?」
「……もう! 知りませんわ!」

 ミルフィナちゃんは、頬を大きく膨らませると、私の腕に抱きついてきた。

「せっかく帰りは隣に座れましたのに。もっと恋人らしいことをしたいですわ!」
「え? 恋人って?」
「もちろん、わたくしとショコラちゃんですわよ!」

 彼女はイチゴみたいに真っ赤な顔をして、顔を近づけてくる。

「ちょっと、ミルフィナちゃんったら。もし私が本気にしたらどうするの!」
「え? 本気にして頂いて良いんですけど?」

 なんでキョトンとした顔で見つめてくるのよ。
 
「ね、ねぇ、ミルフィナちゃん。もしも物語の主人公が悪者を倒したら、そのあとどうなると思う?」
「んー、幸せに暮らすんじゃありませんの?」
「……幸せに?」
「ほら、『いつまでも幸せに暮らしました』って。物語の定番ですわよね?」

 幸せかぁ。
 うーん、幸せな暮らしってなんだろう。

「愛する人といつまでもって……きゃー!」
「そっかぁ。ミルフィナちゃん、もしかして好きな人がいるの?」
「……え?」
「……え?」 


「申し上げます!!」

 突然、窓の外から大きな声が聞こえてきた。
 窓の外を見ると、近衛騎士団長が慌てた様子で馬を近づけてきた。

「なにかありましたか?」
「はっ、この先に伏兵がいる模様です。それもかなりの数のようでして」

 伏兵って……まさか。

「グランデル王国軍ですか?」
「おそらく……」

 どうしよう。
 まさか魔王領の中に大軍を送り込んでくるなんて。
 この馬車の集団は、私の近衛騎士団とたくさんの魔王軍に守られてるけど。

 ……でも……馬車には村の人達が乗ってるから……。

「念の為、我が主様は念の為、この場をお退きください。ここは騎士団がささえます!」

「申し上げます! 道の後方から、謎の集団が近づいております!!」
 
 今度は、列の後ろから騎士の一人が慌てた様子で駆けつけてきた。

「ちっ、囲まれましたか……。申し訳ありません、ここは我らで隙をつくりますので、どうか主様はお逃げを!」

 そんな。
 私は聖剣をぎゅっと握りしめた。

「私も戦います。馬車を停止させて、この場で守ってください」
「しかし……」

 ここからフォルト村まではあと少し。

 馬車を飛び降りると、道の先を見上げた。
 遠くの空に小さく魔王城が見えている。

 私は聖剣を鞘から抜くと、空に向かって大きくかかげた。
 刀身が星のように輝きを放つと、上空に大きな光の柱を作り出した。

 ――お願い、気づいて!!

「まもなく援軍も駆け付けます。それまで馬車を守ってください!」
「はっ、騎士団聞いたな! 主様を中心に馬車を守るぞ!」
「主様を守るぞ! 我ら魔王軍の力をみせつけるのだ!」

 街道に大きな声が響き渡った。

「申し上げます、正面に見える旗は、大樹に剣のマーク!」

 私と騎士団長は顔を見合わせる。
 
「……エルフ……ですな」
「そう……ですね」

 大樹に剣の旗は、勇者パーティーで仲間だったシェラさん達、エルフ領グラーセル地方のもの。 
 エルフたちは……勇者側についてるから。
 敵……なんだよね。

「やるぞ、お前たち! 魔王軍、はっ! 魔王軍、はっ!」
「オレの主様には指一本ふれさせないぜ!」
「ここで活躍して、ライブの最前をゲットしてやる!」

 正面の敵は、もう見える距離まで迫ってきてる。
 やっぱり、エルフ領の集団だ。
 
「いくぞー!」
「おーーー!」

 ……あれ?
 ……待って、何か違和感があるんだけど。

「みんな、ストーーーーップ!」

 慌てて、大きな声を上げた。

「どうしたんです? 主様?」
「あれを見て!」

 エルフの集団はみんな武器をかまえていない。
 それに。
 よく見ると、旗の上に白い帯のようなものがかかっている。

 ……昔、シェラさんから聞いたことがある。

 エルフは戦いたくない相手や、敬意を払う相手のには、旗に白い帯を付けるんだって。

「戦う気はないみたい」
「それに、あの大きな旗は……エルフが忠誠を誓う証……ですわよ……?」

 いつの間にか隣にいたミルフィナちゃんが、ゆっくり近づいてくる一番大きな旗を指さした。
 他の紋章と違って、剣が光り輝くようなマークが目立つように描かれている。

 旗を掲げているのは……巫女のような姿をした……シェラさんだ。

「シェラさん……」
「……久しぶり……ショコラさん……」

 彼女は、旗を側にいた女性に預けると、頭を大きく下げてお辞儀した。

「ちょ、ちょっと。シェラさん。そんなにかしこまらないでください」

 私は慌てて両手をふったあと、彼女の手をとった。

 シェラさんとは、パーティーの中で、なんとなく勇者様を取り合う感じの仲だったんだよね。
 あはは。
 今考えたら、こんなに美人のシェラさんと張り合えるわけないんだけど。
 
 それに勇者様は……。
 魅了チャームの魔法を使ってたみたいだし……。

「……やっぱり……ずっと変だと思ってました……あんなゲス野郎が……私の夫となる方だなんて……」

 彼女は、私の近くでぷかぷか浮かんでいる聖剣をじっと眺めながら、ボソッとつぶやいた。

 え?

 今すごいこと聞いたような気が。
 あの清楚でおしとやかなシェラさんが、ゲス野郎とか……ええええ?!

「……聖剣に選ばれし真の勇者は……ショコラさんだったんですね」
「あはは、選ばれたっていうか。これね呪いのアイテムなんだけど」
  
 顔を上げた彼女の大きな瞳に、涙が浮かんでいる。

「あの、シェラさん?」
「ずっとお会いしたかった……です。私の旦那様……」
 
 ……え。
 
 …………え?

 ええええええええええ?!
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