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5.覚えておいて
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「お父様、王族が約束を違えてはならぬと仰ったでしょう。逃げて良いとはどういう事ですの。それに、リュカがわたくしと逃げれば王妃を攫った大罪人になりますわ。騎士を名乗れなくなりますし、一生隠れて暮らさねばならなくなります」
「リュカなら……な。だが、結婚しても他の女にうつつを抜かす男に愛想を尽かした王太子妃が国から連れて来た唯一信用出来る侍女を連れて姿を消せばどうなる?」
「……それ……は」
確かに、その場合はわたくしにしか注目は集まらないでしょう。ルカは、名前すら広まらないと思います。
「カトリーヌ姫、俺はどこであろうと貴女を守ります」
「リュカならば護衛に適任だ。ある程度の金も渡してあるから逃げても暮らしていける。ほとぼりが冷めたら帰って来なさい。私は娘を不幸にしたい訳ではない」
「だから、一度王妃となってから我慢できなければ逃げても構わぬと仰るのですか? ずいぶん勝手ですね」
逃げた事を責められても、娘が逃げるほど蔑ろにしたのはどちらだと言うつもりでしょう。その為の証拠はきっともう揃っています。クリストフ様は表沙汰になればわたくしが哀れだと思われる行為を堂々としておりましたもの。
だったら、証拠を出して今すぐ婚約を解消してほしい。それがわたくしの願いですわ。
無理だとは、分かっておりますけど。
「婚約解消は出来ぬ。政略的な意味もあるが、大きな理由はこの手紙を読めば分かる。出来るなら我が国の危機をカトリーヌが知るまで開けないで欲しいが、どうしても辛い事があればいつでも開きなさい」
「今すぐここで開いても構わないのですか?」
「構わぬ。カトリーヌが決めてくれ」
なるほど。そうきましたか。
お父様はわたくしの性格をしっかり把握しておられますね。国の危機が訪れるまで開くなではなく、開かないで欲しい。こう言われれば、本当に辛ければ開くだろうし、少なくとも今すぐ開く事はないと思ったのですね。正解ですわ。そこに、お父様の愛情を感じます。娘最優先でないない所がお父様らしいですわね。国を治めていれば個人の感情は後回しにするしかありませんものね。それでも、可能な限りの事をしてくれているのは嬉しいです。
だけど、なんだか悔しいので部屋を出て執事に封筒を開く為のペーパーナイフを要求しました。
お父様の顔が、サッと蒼くなります。
「やっぱりペーパーナイフは要らないわ」
ホッとした顔をしています。案外面白いですわね。チラッとリュカを見ると悪戯っぽい顔をして笑っています。以前はよく悪戯をして共に叱られたりもしていました。
ああ、そうか。だからお父様はリュカを付ける事にしたのね。他の護衛が出来る侍女では駄目だったんだわ。わたくしが幼い頃から親しくしていて、わたくしの事を大事に思ってくれる彼でないといけなかったのね。夫に相手にされなくても、心を許した幼馴染が居れば慰めになる。わたくしが耐えられずに逃げれば、わたくしとリュカを結婚させるつもりなのでしょう。王妃を投げ出して逃げたわたくしの価値は下がる。リュカとの婚姻は可能だわ。
だけど、リュカはそれで良いのかしら。
わたくしを見てニッコリ笑うリュカの笑顔に安心します。確かに、リュカが居るならストレスしかない結婚生活も耐えられそうですけれど……。彼を巻き込んで良いのかしらと不安になります。
「お父様、確かにリュカが居ればわたくしのストレスはかなり緩和されますわ。けれど、リュカの将来を潰したくはありません。わたくしは、あんな浮気男でも夫婦となれば必死で歩み寄りますし、不貞をする気はありませんわよ」
「リュカとてそのような事はするまい。カトリーヌが幸せなら帰って来いと指示してある」
「勝手な命令ですわね。さすがにお父様でも、今のわたくしが幸せとは思わなかったのですね」
「そうだな。どう見ても幸せではないな」
「ご安心下さい。俺が事情を聞いて志願したのです。国王陛下から命令された訳ではありません。カトリーヌ姫と結婚出来る栄誉を賜っているのにあの仕打ち。王族でなければ切り捨てるのですが……」
「ダメよ! あんなのでも王族なんだから! リュカが処刑されてしまうわ」
事情を聞いたらリュカならばわたくしを助けようと思ってくれます。お父様はきっと、リュカの魔法の存在を知っていたのでしょう。あの忠誠心の高いロドラ伯爵なら間違いなくお父様にリュカの魔法を報告しています。なんだか何もかもお父様の掌の上のような気がしますわ。
「姫がそう仰るなら我慢します」
「はぁ……ねぇリュカ。覚えておいて。わたくしが帰れと言えば例えわたくしが不幸に見えても国に帰ってちょうだい。それだけは守って。お願い」
「……承伏できかねます」
「どうしてよっ!!!」
「姫は世界一幸せになるべきです」
「嬉しいわ。でもわたくしは王女よ。個人の感情だけで動く訳にいかないわ」
「……でしたら、姫が幸せになるまではお側に居る許可を下さい」
「もぅ……。分かったわ。お父様が許可をするなら構わないわ」
「許可する。あまりにカトリーヌが我慢している様子なら無理矢理連れ出しても構わん。ただし、カトリーヌが王妃にならぬ未来を選ぶなら、すぐに私が渡した手紙を読め」
これがきっと、お父様が出来る最大限なのでしょう。こうしてわたくしはリュカを連れて国を出ました。それから3ヶ月で、婚約破棄を突きつけられるとは思いませんでしたわ。
「リュカなら……な。だが、結婚しても他の女にうつつを抜かす男に愛想を尽かした王太子妃が国から連れて来た唯一信用出来る侍女を連れて姿を消せばどうなる?」
「……それ……は」
確かに、その場合はわたくしにしか注目は集まらないでしょう。ルカは、名前すら広まらないと思います。
「カトリーヌ姫、俺はどこであろうと貴女を守ります」
「リュカならば護衛に適任だ。ある程度の金も渡してあるから逃げても暮らしていける。ほとぼりが冷めたら帰って来なさい。私は娘を不幸にしたい訳ではない」
「だから、一度王妃となってから我慢できなければ逃げても構わぬと仰るのですか? ずいぶん勝手ですね」
逃げた事を責められても、娘が逃げるほど蔑ろにしたのはどちらだと言うつもりでしょう。その為の証拠はきっともう揃っています。クリストフ様は表沙汰になればわたくしが哀れだと思われる行為を堂々としておりましたもの。
だったら、証拠を出して今すぐ婚約を解消してほしい。それがわたくしの願いですわ。
無理だとは、分かっておりますけど。
「婚約解消は出来ぬ。政略的な意味もあるが、大きな理由はこの手紙を読めば分かる。出来るなら我が国の危機をカトリーヌが知るまで開けないで欲しいが、どうしても辛い事があればいつでも開きなさい」
「今すぐここで開いても構わないのですか?」
「構わぬ。カトリーヌが決めてくれ」
なるほど。そうきましたか。
お父様はわたくしの性格をしっかり把握しておられますね。国の危機が訪れるまで開くなではなく、開かないで欲しい。こう言われれば、本当に辛ければ開くだろうし、少なくとも今すぐ開く事はないと思ったのですね。正解ですわ。そこに、お父様の愛情を感じます。娘最優先でないない所がお父様らしいですわね。国を治めていれば個人の感情は後回しにするしかありませんものね。それでも、可能な限りの事をしてくれているのは嬉しいです。
だけど、なんだか悔しいので部屋を出て執事に封筒を開く為のペーパーナイフを要求しました。
お父様の顔が、サッと蒼くなります。
「やっぱりペーパーナイフは要らないわ」
ホッとした顔をしています。案外面白いですわね。チラッとリュカを見ると悪戯っぽい顔をして笑っています。以前はよく悪戯をして共に叱られたりもしていました。
ああ、そうか。だからお父様はリュカを付ける事にしたのね。他の護衛が出来る侍女では駄目だったんだわ。わたくしが幼い頃から親しくしていて、わたくしの事を大事に思ってくれる彼でないといけなかったのね。夫に相手にされなくても、心を許した幼馴染が居れば慰めになる。わたくしが耐えられずに逃げれば、わたくしとリュカを結婚させるつもりなのでしょう。王妃を投げ出して逃げたわたくしの価値は下がる。リュカとの婚姻は可能だわ。
だけど、リュカはそれで良いのかしら。
わたくしを見てニッコリ笑うリュカの笑顔に安心します。確かに、リュカが居るならストレスしかない結婚生活も耐えられそうですけれど……。彼を巻き込んで良いのかしらと不安になります。
「お父様、確かにリュカが居ればわたくしのストレスはかなり緩和されますわ。けれど、リュカの将来を潰したくはありません。わたくしは、あんな浮気男でも夫婦となれば必死で歩み寄りますし、不貞をする気はありませんわよ」
「リュカとてそのような事はするまい。カトリーヌが幸せなら帰って来いと指示してある」
「勝手な命令ですわね。さすがにお父様でも、今のわたくしが幸せとは思わなかったのですね」
「そうだな。どう見ても幸せではないな」
「ご安心下さい。俺が事情を聞いて志願したのです。国王陛下から命令された訳ではありません。カトリーヌ姫と結婚出来る栄誉を賜っているのにあの仕打ち。王族でなければ切り捨てるのですが……」
「ダメよ! あんなのでも王族なんだから! リュカが処刑されてしまうわ」
事情を聞いたらリュカならばわたくしを助けようと思ってくれます。お父様はきっと、リュカの魔法の存在を知っていたのでしょう。あの忠誠心の高いロドラ伯爵なら間違いなくお父様にリュカの魔法を報告しています。なんだか何もかもお父様の掌の上のような気がしますわ。
「姫がそう仰るなら我慢します」
「はぁ……ねぇリュカ。覚えておいて。わたくしが帰れと言えば例えわたくしが不幸に見えても国に帰ってちょうだい。それだけは守って。お願い」
「……承伏できかねます」
「どうしてよっ!!!」
「姫は世界一幸せになるべきです」
「嬉しいわ。でもわたくしは王女よ。個人の感情だけで動く訳にいかないわ」
「……でしたら、姫が幸せになるまではお側に居る許可を下さい」
「もぅ……。分かったわ。お父様が許可をするなら構わないわ」
「許可する。あまりにカトリーヌが我慢している様子なら無理矢理連れ出しても構わん。ただし、カトリーヌが王妃にならぬ未来を選ぶなら、すぐに私が渡した手紙を読め」
これがきっと、お父様が出来る最大限なのでしょう。こうしてわたくしはリュカを連れて国を出ました。それから3ヶ月で、婚約破棄を突きつけられるとは思いませんでしたわ。
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