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11.失ったもの

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「本当だよ。時を戻る魔法は1人では発動出来ないほど莫大な魔力がいるんだ。最低2人は必要だね。魔法を起動した者は体内にある魔力の核が砕け散って消えるから、過去に戻っても魔法が使えないらしいよ。大勢の人々を巻き込んで全てなかった事にしてやり直す魔法だからね。代償も大きいんだ。魔力を与えただけの者は時を戻っても魔力の核が残るから大丈夫らしいけどね。魔法が使えない者はいない。魔法が使えなければ、過去に戻っても生きていけない。だから誰も使わなくなって、廃れてしまったんだ。確か僕の部屋に本があったはず。
術式は分からないけど、他は詳しく……リーリア? 顔色が真っ青だよ。どうしたんだ?」

「……そんな、そんな事一言も言わなかったじゃない……だから……魔法が使えないから……ここに名前がないんだわ……」

「リーリア! リーリア?!」

「お兄様! もっと教えて下さい! 魔法の事! お願い!」

「あ、ああ。僕の部屋にいくつか本がある。見に来るかい?」

「是非!」

リーリアはカシムの部屋に行くと、難しい魔術書をスラスラと読み進めた。

「リーリア……どうしてそんなにスラスラ読めるの?」

「あ、あの! あんまり分からないから絵を見ようと思って!」

「誤魔化しても無駄だよ。文字を拾っているのは分かる。僕が先日ようやく読めるようになった本だ。リーリアの知らない言語もあるはず。クリストファーにもまだ読ませてないんだよ。この本は国に一冊しかないんだ。僕が次期国王で、国一番の魔法使いだから所有を許されている。さっきの様子も、おかしかった。リーリア……君は……過去から戻ってきたんだね? リーリアは魔法が使える。きっと、リーリア以外の誰かが時を戻す魔法を使ったんだろう? 教えてくれ。時を戻すほどの何かが、未来で起きるんだろう?」

「お、お兄様……」

「安心して。時を戻ったとしても関係ない。過去のリーリアも、今のリーリアも大切な僕の妹だ」

「お兄様……! ごめんなさい……全部、わたくしが悪いの……わたくしのせいで……クライブが……クライブがぁああ……」

時を戻り、過去の記憶があっても精神や身体は幼くなっている。リーリアが6年間秘密を隠し通せたのは、支えがあったから。

クライブと再び会う。それを支えにリーリアはつらい修行を重ねてきた。誰にもバレないように、表向きは笑顔を欠かさなかった。だがリーリアは常に魔力に酔っている。常人なら寝込むような気持ち悪さを抱えながら、リーリアは毎日平然と笑って生きてきた。

クライブと約束した5年が経っても、リーリアは修行をやめられなかった。

クライブに会って、褒めてもらいたかった。

クライブに会って、心配してもらいたかった。

本当にこれでいいのか、まだ足りないのか、確認したかった。

理由はいくらでもある。

だが、理由なんてなくても……リーリアはクライブに会いたかった。リーリアはずっと、クライブの事が好きで好きでたまらなかった。

それなのに、自分のせいで大好きな人の全てを奪ってしまった。魔法が使えないのなら、クライブがどれだけ苦しい生活を強いられているか、リーリアは過去の自分を思い出した。

魔法がほとんど使えず、簒奪者に太刀打ち出来ず、したくもない結婚を強いられた過去。いっそ魔力がなければ殺してやったのにと笑った簒奪者の言葉が忘れられない。

貴族も、魔力が高い者が跡取りになる。もしかして、魔力のないクライブは生きていないのではないか。最悪なシナリオを想像したリーリアは兄に縋りついて泣いた。

涙を流すリーリアを、カシムは優しく抱きしめた。
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