婚約破棄された王女は暗殺者に攫われる

編端みどり

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51.冒険者は、依頼を受ける

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「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「つまり……ジルさんは……王子様?」

「みてぇだな。全く記憶はねぇけど」

「それはそうでしょう。ジル王子が行方不明になられたのは2歳の時ですもの。ジルと言う名前はよくありますから、ジルさんが行方不明の王子とは思いませんでした」

「2歳じゃ記憶はないわよね」

「全く無いな。すまん、レミィ。出来ればその呼び方ではなくいつもの呼び方にしてくれ」

「御意」

「うわ! レミィが別人みたいに綺麗に礼をしてる! めっちゃ優雅!」

「良かったな。レミィ。過去は変わんねえけど、ジルさんはレミィの希望だろう?」

「ええ、ガヴァニャ王家の血を引く方は反乱軍に全員処刑されました。私の婚約者だった王子の兄も……。彼は何ひとつ悪い事はしていなかった。いつも、行方不明になったジル王子……失礼、ジルさんの話をしてくれて、生きていると良いと心配していた優しい方だったんです。だから、ジルさんが生きていた事は私の希望なんです。彼は何もしてなかったのに王家の血を引いているというだけで殺されました。私がクリスさんを憎めば、あの反乱軍と同じ事をしている事になります。それに、クリスさんは大事な友人です。先程はそんな事にも気が付かず、飛び出して申し訳ありませんでした。あの人の大事な弟が生きていた……それだけで本当に嬉しいんです」

レミィは涙を拭いながら、嬉しそうに笑った。

「両親は国が滅びたのはリーデェル国のせいだと死ぬまで言っていましたけど、ジルさんの話を聞いているとわからなくなってきました」

「表向きは内乱だけど、リーデェル国が裏で糸を引いていたって街でも噂になってたよね」

「ああ、ここじゃそんな話は聞かねぇけど、元ガヴァニャ国では常識みてぇな感じで街中で聞いたよな」

「内乱で王家を滅ぼした反乱軍は統治の能力がなくて、半年で崩壊したからね。それを引き取ってうまくまとめたのは今の国王。つまりはクリスさんのお父さん。あまりの手際の良さに、実は黒幕だったんだって言ってる人も結構いたよね」

「賢王と言う人も居れば、とんでもねぇ悪党だって言う奴も居る。元ガヴァニャ国では、内乱はリーデェル国が仕組んだって言う奴が圧倒的に多い。それでも上手く統治してるから、表立って文句言う奴は居ないけどな」

「もしかしたら何か裏があるのかもしれませんね。ジルさんは国王は信用出来ると言っていましたし、噂だけでクリスさんのお父様を疑いたくはありません」

「レミィさん……」

「本当は、国王を死ぬまで恨むつもりでした。でも、真実は違うのかもしれない」

「それで本当にクリスさんの父親、国王が悪だったらどうすんだ?」

ガウスが聞くと、レミィは一瞬迷ってきっぱりと言った。

「確たる証拠があるなら、訴えるわ。今は証拠がないから、街でもヒソヒソ噂されるだけだけど、証拠があれば別よ。今の私には、証拠さえあれば国際社会に訴えるコネはあるもの」

「ああ、そういえばレミィ達もゴールドランクになったんだったな」

ゴールドランクの冒険者は、希望すれば簡単に各国の国王と謁見できる。

「ええ、そうです。場合によっては容赦はしません」

「勿論です。父が罪を犯していたのなら、公表にわたくしも協力します。味方は居なくても、わたくしの言葉はそれなりに影響力がありますもの」

「おいおい……良いのかよ。クリスさんの親父さんだろ?」

「ジルは幼い頃に暗殺訓練で死にかけていました。本当なら、そんな暮らしをしなくて良かったのに。レミィさんだって婚約者を亡くされています。そんな悲劇に父が関わってるなんて思いたくありませんが、もし関わっているならそのままにはしておけません。父が心配なのは本当ですし、出来るならすぐにでも会いたい。でも、それとこれとは別です。父のせいなら……」

「ちょっと待て。オレは国王陛下を知ってる。あの人は不器用だし王妃のせいで出来なかった事も多いけど、間違いなくクリスを愛してる。それに、オレにもなんだかんだと親切にしてくれた。絶対に悪い人じゃねぇ」

「過去の罪悪感から、そうしている可能性もありますよ」

そう冷たくレミィが言うと、ジルは頭を掻きながら困った顔をした。

「そんな人じゃねぇ。オレに向ける感情に、罪悪感なんてカケラも無かった。国王陛下は悪くねぇよ。オレの事知ってたのは……その、なんでか分かんねえけど」

「なんでそんなにお父様を信じられるの?」

「クリスの父親だからだ」

「わぉ! 凄い理由ね」

「一流の冒険者なら人の本質を見抜く目くらいはあるだろう?」

「まぁ、そうだな。レミィが飛び出した時点で全員席を立たたなかったのは、なんだかんだ信用してたからだしな」

「そう言う事だ。気になる事はあるし、隠し事はあると思う。でも、王妃達に感じるような嫌な感じは国王陛下からはしないんだよ」

「わたくし、そこまでお父様とお話ししていないから……ジルみたいに思えないわ」

「クリスさんがそんな事言うなんて、余程よね。依頼は受けるんだから詳しく教えて下さいよ」

ファルは、クリステルに弓や野営の技術を教え込んだ。その為か、クリステルを妹のように感じており本心ではクリステルを手助けしたくて仕方なかった。

ファルの言葉に冒険者達は全員同意したのでジルとクリステルは今までの事を全て説明し、今回の作戦を話し合いながら決め始めた。

元公爵令嬢のレミィでしか気が付かない視点もあり、作戦は大幅な修正を余儀なくされたが、ジルは成功率が上がったと大喜びだった。レミィは、それはそれは嬉しそうに笑い、クリステルは僅かな嫉妬心を覚えた。しかし、すぐにジルが気が付き宥められた。

「クリス……可愛い……っ」

「ちょっと! ジル! みんな見てるからっ!」

「いやー、見慣れてるから気にしないでくれ」

「そーそー! クリスさん可愛いー!」

「ホント、ここに割り込める人なんて居ないって」

「私はジルさんに恋愛感情なんて微塵もありません! だからクリスさん誤解しないで!」

気がつけばすっかり以前のように気の置けない関係に戻っていた事が嬉しくなったクリステルは、レミィ達を抱きしめた。

その後、嫉妬したジルの膝に乗せられたまま作戦会議は深夜まで続いた。
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