婚約破棄された王女は暗殺者に攫われる

編端みどり

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54.貴族は、魅了される

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コックを味方につけて、ひっそりと国王とやりとりをするようになったクリステル達は、国王から信用出来る貴族を教えて貰い、ジルとマリアが調査して問題のない家を絞り込んだ。いくつかの家はヒュー寄りになっていた事が分かったが、変わらず国王に忠誠を誓っている貴族が殆どだったので味方になって貰う事にした。

コックを介して国王に貴族宛の書状を書いて貰い各家に届けて、クリステルが生きている事を知らせた。クリステルから各家に訪問しなかったのは目立たないようにする為と、訪問順で優劣をつけさせず、当主同士が顔を合わせる事でお互いに見張り、裏切らせない楔にする為。全てジルとレミィの作戦だった。

更に、王に書状を頼みクリステルを公爵家に保護させた。クリステルは、貴族が揃うまでは徹底的にか弱いお姫様を装った。ドレスの下には武器を携え、いつでも戦える準備をしているが、知っているのはジルとレミィ達だけ。冒険者ギルドにも掛け合い、クリステルが冒険者であった事実を隠した。そのかわり、ジルの実績は照会があれば包み隠さず言うように頼んでおいた。隣国の国王からのお墨付きもあるゴールドランクの冒険者の頼みを冒険者ギルドは断らない。レミィ達が全面的にジルとクリステルの味方をしたのも大きかった。王族のお墨付きもあり、貴重なゴールドランクが6人も揃えばギルドを動かす事は簡単だった。

案の定、ジルの素性を調べようと何人もの貴族が照会をかけてきた。ジルの実績はあっさり分かったが、更に生まれを調べようと躍起になる貴族達に、冒険者は過去を聞かないのがルールだとギルド長はあしらった。実際、ギルド長も知らないのだから調べようがない。

貴族達に素性を怪しまれていたジルだったが、出会った瞬間に貴族達を魅了した。クリステルが、高貴な生まれだと言うだけであっさり信用された。信頼を得る為に衣装は全てレミィが手配し、見た目を完璧に整えた。元々見目麗しいのだから、整えれば人を惹きつけるようにするのは簡単だった。

他にもレミィは大活躍で、クリステルの教育に作戦の立案と大忙しだった。ジルと一緒に嬉々として計画を立てるレミィは、腹黒い笑みを浮かべていた。

冒険者達は、いつもと違うリーダーを揶揄いながらも頼もしく思っていた。

「レミィ、なんかもう色々計画が大掛かり過ぎて怖いよー……」

「あら、こんなの貴族じゃ当たり前よ」

「まあ、確かにこんなもんだな。オレが影やってた頃に見た貴族はもっとえげつなかった。レミィは優しいぜ」

「そうでしょう?! さすがジルさんです!」

「貴族怖いよー! レミィ、早くいつものレミィに戻ってぇ!」

「大丈夫、今だけだよ」

「仕事じゃしょうがねぇよ。レミィは俺達のリーダーだろ? 貴族に戻ったりしねえよな?」

「もちろん! もう貴族は懲り懲り。こんなの今だけよ。でも、クリスさんを守るにはこれくらい必要なの。ちょっと腹黒いけど、許して」

「分かった! 報酬弾んでよね! ジルさん!」

「任せろ」

そんな会話を繰り広げながら、立てた計画は確実に実を結んだ。

第一目標である味方となる貴族を作る事には成功した。クリステルの笑顔が見たいとクリステルを支持する者も多そうだ。レミィの計画通り、クリステルの笑顔には人を惹きつける魅力があった。レミィは、自分の見る目が正しかったとほくそ笑んだ。

今回の計画は、定期的に集まる国王派の貴族達にどうやってコンタクトを取るかという所から始まった。来て欲しくない国王派ではあるがヒュー寄りになっている貴族は、国王からとある書状を届ける事で動きを止めた。

クリステルとの再開を演出するにも目撃者は多い方が有利だからと、国王に貴族を集めるように提案した。現状で国王が貴族を集めて大事な話をすると言えば、誰もがヒューに王位を譲ると思う。

ヒュー寄りになっている貴族はヒューから睨まれるのを恐れて国王派の貴族の集まりに来ないとレミィは予想した。それは大当たりで、望んだ貴族だけを一気に集める事に成功した。ヒュー寄りの貴族が来る場合は、無理矢理馬車を止める役を担っていたガウスは、ホッと胸を撫で下ろした。

「わたくし、父に会いたいのです。どうかお力を貸して下さいまし。父はわたくしを守る為、わたくしが死んだと偽りましたが、わたくしはご覧の通り生存しております。このままひっそりと夫と生きるつもりでしたが……父の体調が思わしくないと聞いて、いてもたってもいられず……。ですが、死んだと思っていたわたくしが生きていてはお兄様も良い気はしないでしょう。城にわたくしの味方はほとんどおりません。正面から城に戻ってもお父様に会える保証がありませんわ」

「王女様は国王陛下に会えればよろしいのでしょうか?」

「ええ、父の無事を確認したいのですわ。聞きたい事もありますから」

「聞きたい事とは?」

「それは……父と会うまで秘密ですわ。皆様、わたくしが確実に父に会う事は可能でしょうか?」

「我々も国王陛下に謁見出来ておらぬのです。今は一部の使用人しか会っておらぬそうで……そうじゃ! 来週、国王陛下が全貴族を集めます。その時が宜しいかと」

「まあ! そんな予定があるの?!」

「ええ、国王陛下がクリステル様を助ける為に死を偽った事は我々には分かります。ですが、そう思う貴族ばかりではない。情報は一気に広げる方が誤解が起きません。我々は、クリステル王女が生きていた事を心から嬉しく思っております。謁見の間に貴族が全て集まる場まで必ず我々がお連れします。皆が揃った時に国王陛下の御前にクリステル様が現れれば、どのような者でも不埒な事は出来ません」

「そうだ! それが良い!」

「クリステル様には申し訳ありませんが、使用人に扮して城に入るのが確実でしょう。我々の控室は謁見の間のすぐ側です。身を隠すのに丁度良い」

「そうだ! そちらの冒険者の方々にも変装して護衛頂きましょう!」

「その、わたくし夫が側にいてくれるととても心強いのですけれど……」

「もちろん側に居られるよう手配しましょう!」

「皆様、ありがとうございます。わたくし、今まであまり味方がおりませんでしたの。こんなに沢山の方々に助けて頂けるなんて嬉しいですわ。その、我儘を申すようで申し訳ないのですが、どうかわたくしの事はギリギリまで秘密にして下さいまし。お兄様を煩わせたくありませんの」

そう言ってクリステルが見せた笑顔は、貴族達を魅了するには充分だった。貴族達はヒューをあまり良く思っておらず、クリステルの生存が分かれば彼女の命が危ういと分かっていた。

この優しい王女は兄が命を狙うなど思っていなさそうだから、絶対に王女の生存を秘密にして守ろう。貴族達の心はひとつになった。

それが、美しい王女とその伴侶、更に守りを固める冒険者達の望み通りだと気が付く者は居なかった。
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