27 / 52
ルビーのブローチを渡すまで逃しません
7.カーラのお仕事
しおりを挟む
「お嬢様、いい加減寝て下さい!」
「待って、あとちょっと! もう少しだけ!」
「駄目です! イアン様とポール様にお伝えしますよ!」
「……お願い、あと5分だけ」
エリザベスお嬢様は、狡い。そうやって手を合わせて可愛くお願いされたら、駄目とは言えないじゃないの。
「分かりました。5分だけですからね!」
「ありがとうカーラ! じゃあ、集中するから5分後に声を掛けて!」
そう言うと、エリザベスお嬢様は真剣に机に向かわれた。仕方ない、キリがいい所までは見守ろうと決めて、10分後に声を掛けた。
「終わったわ! 待ってくれてありがとう、カーラ」
「さ、もうお休みになりませんと倒れてしまいますわ」
「そうね。私に付き合ってカーラも眠れないと困るもの。明日は午前中は予定がないから少しゆっくり起きてちょうだい。リアにもそう指示しておくから」
そう言って、エリザベスお嬢様は一枚のカードを書いて私に預けてくれた。私が残業した事と、今の時間、朝を遅めにするようにと書かれていた。
これを、メイドと侍女の統括をしているリアさんの部屋の前にある箱に入れておくと、勤務時間をリアさんが調整してくれる。どうしても時間を調整出来なければ、別途手当が付く。
他の家の使用人をしている友人に話すと、驚かれる。残業になる事は多いけど、手当なんて出た事がないし、時間を調整してくれるなんてありえないらしい。
たくさん働けば後で休みを貰える事はあるそうだけど、それも主人の気分次第だそうだ。
うちは、そんな事ない。
みんなそれぞれ勤務時間が決まっているし、勤務時間を超えたらちゃんと手当が付く。時間を管理してくれていて、働き過ぎを防いで貰えるし、半年毎に働きを査定してもらえる。
私は、エリザベスお嬢様の警備と侍女とメイドの仕事を兼任している。だから、メイドだけの時より給与がかなり上がった。
だけど、誰も私に文句を言ったりしない。他の家ならあいつは狡いと虐められかねないのに。
みんな、カーラが居てくれるから安心だと言ってくれる。それはみんな、満足いく給与を貰えているし、休みもきちんとあるからだ。
以前は、こんなにしっかりしてなかった。うちも、他の家と同じようなものだった。いや、もっと酷かった。以前の旦那様や奥様は気まぐれで、すぐにクビだクビだと使用人を脅す。
その度に、エリザベスお嬢様やポール様がセバスチャンさんやリアさんに命じて、使用人を領地に避難させてくれる。馬番のトムは、エリザベスお嬢様の婚約者を奪い取ったドロシーお嬢様の怒りを買って、領地に避難して来た。
本当はクビだった筈なのに、なんて優しい人なんだとエリザベスお嬢様に心酔している。
ポール様が爵位を継ぎ、我々の主人になってから一気に変わった。あっという間に王都の屋敷の使用人が半分解雇された。解雇されたのはみんな、以前の旦那様や奥様、ドロシー様に媚を売り仕事をしない役立たずばかりだった。
反省した者は引き続き雇われたが、居心地が悪いのか自ら辞めていった。ポール様が爵位を継いで、エリザベスお嬢様がイアン様と婚約する頃には、屋敷の使用人は減ったが、とても働きやすい職場になった。
エリザベスお嬢様とポール様は、以前のように親の目を盗んで動く必要がなくなり、我々の事を今まで以上に気にかけて下さるようになった。
暴力や金切り声に怯えなくて良くなったので、王都の屋敷でも楽しく働けるようになった。
だけど、心配事がない訳ではない。エリザベスお嬢様は、イアン様と婚約した。イアン様は侯爵様だ。しかも、かなり人気がある。
リアム様の仰る通り、エリザベスお嬢様は狙われるようになった。
「……またか」
庭から、エリザベスお嬢様のお部屋の窓を覗いている男を見つけた。即座に捕まえて、話を聞く。
ポール様の同僚のソフィア様は、尋問のプロだ。ごくたまに、私にも手ほどきをして下さる。男がガタガタ震えてるけど、穏便に話をして貰えた。
「リラック伯爵家……、ふぅん、まだ懲りないのね。縁切りした家と婚約するなんてあり得ないでしょ」
次の日の朝、男を引き渡した。
この事は、エリザベスお嬢様には報告していない。だけど、ポール様とイアン様は知っている。
守りを固めるように指示されたので、兄と一緒に警備計画を練り直した。兄は物凄く怒っていた。私も同じ気持ちだ。
我々の女神に手を出すなんて、絶対に許さない。
ポール様が一番怒っていたので、あの家はもう終わりだと思う。案の定、3か月後にリラック伯爵家は取り潰された。
「待って、あとちょっと! もう少しだけ!」
「駄目です! イアン様とポール様にお伝えしますよ!」
「……お願い、あと5分だけ」
エリザベスお嬢様は、狡い。そうやって手を合わせて可愛くお願いされたら、駄目とは言えないじゃないの。
「分かりました。5分だけですからね!」
「ありがとうカーラ! じゃあ、集中するから5分後に声を掛けて!」
そう言うと、エリザベスお嬢様は真剣に机に向かわれた。仕方ない、キリがいい所までは見守ろうと決めて、10分後に声を掛けた。
「終わったわ! 待ってくれてありがとう、カーラ」
「さ、もうお休みになりませんと倒れてしまいますわ」
「そうね。私に付き合ってカーラも眠れないと困るもの。明日は午前中は予定がないから少しゆっくり起きてちょうだい。リアにもそう指示しておくから」
そう言って、エリザベスお嬢様は一枚のカードを書いて私に預けてくれた。私が残業した事と、今の時間、朝を遅めにするようにと書かれていた。
これを、メイドと侍女の統括をしているリアさんの部屋の前にある箱に入れておくと、勤務時間をリアさんが調整してくれる。どうしても時間を調整出来なければ、別途手当が付く。
他の家の使用人をしている友人に話すと、驚かれる。残業になる事は多いけど、手当なんて出た事がないし、時間を調整してくれるなんてありえないらしい。
たくさん働けば後で休みを貰える事はあるそうだけど、それも主人の気分次第だそうだ。
うちは、そんな事ない。
みんなそれぞれ勤務時間が決まっているし、勤務時間を超えたらちゃんと手当が付く。時間を管理してくれていて、働き過ぎを防いで貰えるし、半年毎に働きを査定してもらえる。
私は、エリザベスお嬢様の警備と侍女とメイドの仕事を兼任している。だから、メイドだけの時より給与がかなり上がった。
だけど、誰も私に文句を言ったりしない。他の家ならあいつは狡いと虐められかねないのに。
みんな、カーラが居てくれるから安心だと言ってくれる。それはみんな、満足いく給与を貰えているし、休みもきちんとあるからだ。
以前は、こんなにしっかりしてなかった。うちも、他の家と同じようなものだった。いや、もっと酷かった。以前の旦那様や奥様は気まぐれで、すぐにクビだクビだと使用人を脅す。
その度に、エリザベスお嬢様やポール様がセバスチャンさんやリアさんに命じて、使用人を領地に避難させてくれる。馬番のトムは、エリザベスお嬢様の婚約者を奪い取ったドロシーお嬢様の怒りを買って、領地に避難して来た。
本当はクビだった筈なのに、なんて優しい人なんだとエリザベスお嬢様に心酔している。
ポール様が爵位を継ぎ、我々の主人になってから一気に変わった。あっという間に王都の屋敷の使用人が半分解雇された。解雇されたのはみんな、以前の旦那様や奥様、ドロシー様に媚を売り仕事をしない役立たずばかりだった。
反省した者は引き続き雇われたが、居心地が悪いのか自ら辞めていった。ポール様が爵位を継いで、エリザベスお嬢様がイアン様と婚約する頃には、屋敷の使用人は減ったが、とても働きやすい職場になった。
エリザベスお嬢様とポール様は、以前のように親の目を盗んで動く必要がなくなり、我々の事を今まで以上に気にかけて下さるようになった。
暴力や金切り声に怯えなくて良くなったので、王都の屋敷でも楽しく働けるようになった。
だけど、心配事がない訳ではない。エリザベスお嬢様は、イアン様と婚約した。イアン様は侯爵様だ。しかも、かなり人気がある。
リアム様の仰る通り、エリザベスお嬢様は狙われるようになった。
「……またか」
庭から、エリザベスお嬢様のお部屋の窓を覗いている男を見つけた。即座に捕まえて、話を聞く。
ポール様の同僚のソフィア様は、尋問のプロだ。ごくたまに、私にも手ほどきをして下さる。男がガタガタ震えてるけど、穏便に話をして貰えた。
「リラック伯爵家……、ふぅん、まだ懲りないのね。縁切りした家と婚約するなんてあり得ないでしょ」
次の日の朝、男を引き渡した。
この事は、エリザベスお嬢様には報告していない。だけど、ポール様とイアン様は知っている。
守りを固めるように指示されたので、兄と一緒に警備計画を練り直した。兄は物凄く怒っていた。私も同じ気持ちだ。
我々の女神に手を出すなんて、絶対に許さない。
ポール様が一番怒っていたので、あの家はもう終わりだと思う。案の定、3か月後にリラック伯爵家は取り潰された。
16
あなたにおすすめの小説
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?
雨雲レーダー
恋愛
侯爵令嬢クラリスは、王太子ユリウスから一方的に婚約破棄を告げられる。
理由は、平民の美少女リナリアに心を奪われたから。
クラリスはただ微笑み、こう返す。
「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」
そうして物語は終わる……はずだった。
けれど、ここからすべてが狂い始める。
*完結まで予約投稿済みです。
*1日3回更新(7時・12時・18時)
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。