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ルビーのブローチを渡すまで逃しません
21.リアムの告白
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「あ、ああ……! ごめんなさい!」
カーラさんが落とした洗面器を受け止めたが、全身ずぶ濡れだ。カーラさんが慌ててタオルで拭こうとしてくれる。だが、どうにも足りないようで私の身体は冷たいままだ。
「タオル、もっと持って来ます!」
行かせてたまるか。私は、彼女の腕を掴んだ。
「ひぇっ……!」
ああ、耳まで真っ赤だ。可愛いな。
なんで私は、彼女の魅力に気が付かなかったのだろう。
「カーラさん……好きです」
「ひぃ! 待って! 待ってください! 早く拭かないと……」
「これくらい大した事ありませんよ。リンゼイ子爵家にいた頃は水をかけられるなんてしょっちゅうでしたし」
「そんな……」
私は性格が悪いな。
こんな事を言えば優しいカーラさんは悲しむに決まっているのに。
少しくらい卑怯でも構わない。彼女を逃すものか。
トムさんの恋人がカーラさんでないのなら、遠慮する必要なんてない。それに、どうやら私はまだ彼女に好かれていたようだ。
良かった……間に合って。
「けど、ちょっと冷えますね」
「ですよね! すぐタオルを……」
「嫌です」
「へ?! ななな……なんで!」
「さっき私が出て行くように言っても、カーラさんは出て行きませんでしたよね?」
「そそそ……そうですねっ! それから……ほっぺたに……その……」
「私は勘違いをしてまして。失恋したと思い込んでいたんですよ。そんな時にカーラさんが無防備に顔を近づけるものだから……我慢できなくて」
「ででで……できなくて?!」
「正直、トムさんが来なかったら危なかったですね」
「あああ……危ないって?!」
「貴女に、口付けをしてしまいそうだった」
「……し、して良かったんですよ?!」
「嬉しいですね。ですが、順番を守りましょう。カーラさん、好きです。愛しています。カーラさんが真面目にお仕事に取り組む姿に惹かれました。お互い仕事ごあるので遠距離になってしまいますが……私は、貴女以外の女性に興味が持てません。私が提供できる全てを貴女に捧げます。どうか、私とお付き合いして頂けませんか?」
「す、全てって……!」
「私が出来る、全ての事です。仕事は大切ですが、カーラさんとの時間も欲しい。カーラさんが仕事熱心なのは重々承知しています。私の知識を貴女にお伝えします。きっとエリザベス様に仕える上で役に立つでしょう。だから……私と過ごす時間を少しだけ頂けませんか?」
「……やっぱり、リアム様は素敵な方ですね。今まで口説かれた男性はみんな、俺についてこいとか、仕事を辞めて尽くしてくれとか言ってました」
「ずいぶん愚かな男達ですね。カーラさんは、働いている時が一番輝いておられる。将来の事は分かりませんが、今のカーラさんに仕事を辞めろと言うなんて……イアンにエリザベス様と別れろと言うようなものですよ」
そう呟くと、カーラさんが笑い出した。可愛いな。彼女が仕事第一なのは分かってる。だから……私と付き合えば仕事をする上で有利だとアピールしてやる。手段なんて選んでられるか。
今しかチャンスはないのだから。
カーラさんはじっと私の目を見て、ポツリポツリと話し始めた。なにかに怯えた様子だ。
「確かに、そうですね。あのっ! 私も、リアム様が好きです。ずっと前から、好きです! だから、今回のお申し出はとても嬉しく思います。けど、私はエリザベスお嬢様から離れる気はありません」
「知っています。私はそんなカーラさんが好きなんです。手紙を書きます。会える時に、たくさん話をしましょう。どうか……私をカーラさんの特別にしてください」
「離れてても良いんですか? 母は……遠距離はうまくいかない事が多いって言って……」
「そんなの、工夫次第ですよ。たった5日の距離です。イアンなんて、半分の日数で往復したんですよ」
「そんな無茶されたら困ります!」
「カーラさんは優しいですね。手紙だって書けるし休みだって取れます。カーラさんは、三ヶ月に一回はご家族と会っておられるでしょう?」
「は……はい!」
「だったら、私が少し頑張れば二ヶ月に一回は会えますね。長期休暇の時は、一日だけ私に時間をくれませんか? 一緒にデートしましょう」
「一日で……良いんですか?」
「本音を言えば毎日会いたいですよ。けど、今のカーラさんは仕事を覚える時間が必要でしょう? 休日もほとんど仕事に費やしているそうではありませんか」
「……それは……ごめんなさい……」
「なぜ謝るんですか? 貴女くらいの年齢の方は、仕事を覚えるので精一杯です。私もそうでした。カーラさんの実力なら、あと一年もすれば楽に仕事を回せるようになりますよ。困ったら私が支えます。私はそれなりに経験豊富ですから利用価値がありますよ」
「リアム様を利用しようなんて思いません! 私は……リアム様に相応しい人間になりたいんです! もっと、価値のある人になりたくて……!」
「カーラさんは、存在するだけで国宝よりも価値があります。私に相応しい人間とはどのような人ですか?」
「それは……! しっかりしてて、優しくて、可愛くて……仕事も出来て……エリザベスお嬢様みたいな……」
「確かにエリザベス様は素敵な方だと思います。けど私はエリザベス様とカーラさんなら、迷わずカーラさんを選びます」
「私は……女らしくないし……不器用だし……」
「人には得手不得手があります。エリザベス様がカーラさんのように強いわけではありませんよね? 私は、貴女が良いんです。カーラさん以外、考えられないんです。お願いです……私を嫌いでないのなら……少しでも好いてくれるのなら……私の恋人になってください。私の手を……取ってください」
もうあとは懇願するしかない。
頭を下げて、手を出す。
どのくらい時間が経っただろう。諦めかけた時、冷たい手に暖かな温もりが加わった。
カーラさんが落とした洗面器を受け止めたが、全身ずぶ濡れだ。カーラさんが慌ててタオルで拭こうとしてくれる。だが、どうにも足りないようで私の身体は冷たいままだ。
「タオル、もっと持って来ます!」
行かせてたまるか。私は、彼女の腕を掴んだ。
「ひぇっ……!」
ああ、耳まで真っ赤だ。可愛いな。
なんで私は、彼女の魅力に気が付かなかったのだろう。
「カーラさん……好きです」
「ひぃ! 待って! 待ってください! 早く拭かないと……」
「これくらい大した事ありませんよ。リンゼイ子爵家にいた頃は水をかけられるなんてしょっちゅうでしたし」
「そんな……」
私は性格が悪いな。
こんな事を言えば優しいカーラさんは悲しむに決まっているのに。
少しくらい卑怯でも構わない。彼女を逃すものか。
トムさんの恋人がカーラさんでないのなら、遠慮する必要なんてない。それに、どうやら私はまだ彼女に好かれていたようだ。
良かった……間に合って。
「けど、ちょっと冷えますね」
「ですよね! すぐタオルを……」
「嫌です」
「へ?! ななな……なんで!」
「さっき私が出て行くように言っても、カーラさんは出て行きませんでしたよね?」
「そそそ……そうですねっ! それから……ほっぺたに……その……」
「私は勘違いをしてまして。失恋したと思い込んでいたんですよ。そんな時にカーラさんが無防備に顔を近づけるものだから……我慢できなくて」
「ででで……できなくて?!」
「正直、トムさんが来なかったら危なかったですね」
「あああ……危ないって?!」
「貴女に、口付けをしてしまいそうだった」
「……し、して良かったんですよ?!」
「嬉しいですね。ですが、順番を守りましょう。カーラさん、好きです。愛しています。カーラさんが真面目にお仕事に取り組む姿に惹かれました。お互い仕事ごあるので遠距離になってしまいますが……私は、貴女以外の女性に興味が持てません。私が提供できる全てを貴女に捧げます。どうか、私とお付き合いして頂けませんか?」
「す、全てって……!」
「私が出来る、全ての事です。仕事は大切ですが、カーラさんとの時間も欲しい。カーラさんが仕事熱心なのは重々承知しています。私の知識を貴女にお伝えします。きっとエリザベス様に仕える上で役に立つでしょう。だから……私と過ごす時間を少しだけ頂けませんか?」
「……やっぱり、リアム様は素敵な方ですね。今まで口説かれた男性はみんな、俺についてこいとか、仕事を辞めて尽くしてくれとか言ってました」
「ずいぶん愚かな男達ですね。カーラさんは、働いている時が一番輝いておられる。将来の事は分かりませんが、今のカーラさんに仕事を辞めろと言うなんて……イアンにエリザベス様と別れろと言うようなものですよ」
そう呟くと、カーラさんが笑い出した。可愛いな。彼女が仕事第一なのは分かってる。だから……私と付き合えば仕事をする上で有利だとアピールしてやる。手段なんて選んでられるか。
今しかチャンスはないのだから。
カーラさんはじっと私の目を見て、ポツリポツリと話し始めた。なにかに怯えた様子だ。
「確かに、そうですね。あのっ! 私も、リアム様が好きです。ずっと前から、好きです! だから、今回のお申し出はとても嬉しく思います。けど、私はエリザベスお嬢様から離れる気はありません」
「知っています。私はそんなカーラさんが好きなんです。手紙を書きます。会える時に、たくさん話をしましょう。どうか……私をカーラさんの特別にしてください」
「離れてても良いんですか? 母は……遠距離はうまくいかない事が多いって言って……」
「そんなの、工夫次第ですよ。たった5日の距離です。イアンなんて、半分の日数で往復したんですよ」
「そんな無茶されたら困ります!」
「カーラさんは優しいですね。手紙だって書けるし休みだって取れます。カーラさんは、三ヶ月に一回はご家族と会っておられるでしょう?」
「は……はい!」
「だったら、私が少し頑張れば二ヶ月に一回は会えますね。長期休暇の時は、一日だけ私に時間をくれませんか? 一緒にデートしましょう」
「一日で……良いんですか?」
「本音を言えば毎日会いたいですよ。けど、今のカーラさんは仕事を覚える時間が必要でしょう? 休日もほとんど仕事に費やしているそうではありませんか」
「……それは……ごめんなさい……」
「なぜ謝るんですか? 貴女くらいの年齢の方は、仕事を覚えるので精一杯です。私もそうでした。カーラさんの実力なら、あと一年もすれば楽に仕事を回せるようになりますよ。困ったら私が支えます。私はそれなりに経験豊富ですから利用価値がありますよ」
「リアム様を利用しようなんて思いません! 私は……リアム様に相応しい人間になりたいんです! もっと、価値のある人になりたくて……!」
「カーラさんは、存在するだけで国宝よりも価値があります。私に相応しい人間とはどのような人ですか?」
「それは……! しっかりしてて、優しくて、可愛くて……仕事も出来て……エリザベスお嬢様みたいな……」
「確かにエリザベス様は素敵な方だと思います。けど私はエリザベス様とカーラさんなら、迷わずカーラさんを選びます」
「私は……女らしくないし……不器用だし……」
「人には得手不得手があります。エリザベス様がカーラさんのように強いわけではありませんよね? 私は、貴女が良いんです。カーラさん以外、考えられないんです。お願いです……私を嫌いでないのなら……少しでも好いてくれるのなら……私の恋人になってください。私の手を……取ってください」
もうあとは懇願するしかない。
頭を下げて、手を出す。
どのくらい時間が経っただろう。諦めかけた時、冷たい手に暖かな温もりが加わった。
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