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ルビーのブローチを渡すまで逃しません

23.カーラへの贈り物

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「着いたぞ。今の時間は貸し切りにして貰ったからゆっくり選ぼう」

「わざわざ貸し切りにしなくて良かったんだぞ」

「明日の夜、エリザベスに渡すアクセサリーも買うんだ。邪魔者がいたら選べないじゃないか」

イアンはエリザベス様一筋なのに、未だに令嬢達から狙われている。イアンが宝石店で令嬢と鉢合わせすると、まとわりつかれるそうだ。エリザベス様の陰口を言う者も多いが、付き合いもあるので式に呼ばないといけないらしい。本当に、貴族様は面倒だ。

そんな面倒な貴族の真似事をしようとする日が来るとは思わなかった。だが、大好きなカーラが憧れていると言うなら、やってやろうじゃないか。

「なぁソフィア。カーラは貴族のブローチのどんなところに憧れているんだ?」

せっかくだから、好きなデザインを渡したいがカーラの好みが分からない。だから、リリアンとソフィアに頼んだのだ。

ちなみに、プロポーズする事はポール様にもイアンにも伝えてある。二人はカーラの雇い主だからな。結婚してからどう過ごすかも、相談してある。カーラの望みを叶えつつ、私の我儘も通させて貰った。

「知らないわぁ。カーラはエリザベス様のブローチが素敵だって言ってただけよぉ」

「おい! 話が違うだろ!」

「違わないわよぉ。リアムから貰ったブローチなら、カーラは肌身離さず持ってると思うわよ。ブローチなら仕事中に着けていても問題ないわ。でも、指輪やネックレスは無理だもの」

カーラはメイドや侍女の仕事もある。ネックレスや指輪は仕事中に着けてはいけないと決まっている。だが、服に着けるブローチだけは許されている。それは、ブローチに特別な意味があるからだ。

「リアム様が渡せばカーラはなんでも喜びますわ」

リリアンが楽しそうにアクセサリーを物色している。だが、買うつもりはないようだ。リリアンの髪飾りは、ポール様からの贈り物だ。ソフィアのイヤリングも、ポール様が贈ったらしい。

最近二人は、ポール様の贈り物ばかり身に付けている。どれもセンスのいい美しい品だ。そんなポール様も、ブローチを贈った事はない。

「それは……そうかもしれんが……それならブローチでなくても良いだろう」

ブローチは、貴族にとって特別な品だ。ブローチを付けている女性は婚約者や夫がいる証。真似をしてブローチを贈る平民もいるが、必須ではない。

「そうねぇ、確かになんでも良いんじゃない? 仕事中は着けられなくても、カーラは喜んでくれるわよ。そういえば、この間またカーラは口説かれてたわよぉ」

「やっぱりブローチにする」

そんな話、聞いてないぞ。カーラと付き合って分かったが、彼女はとても人気がある。使用人仲間だけでなく、下位貴族から求婚された事もあるらしい。

下位貴族に求婚された時は、イアンの権力を頼って断ったそうだ。

ブローチを付けている女性を口説く男はいないだろうから、ブローチを贈る事にしよう。貴族の真似事なんて嫌だと思っていたが、そんなこだわりはもうどうでもいい。

「それならルビーが良いわ」

「ルビー?」

「ええ! リアム様の髪と瞳の色だもの! 絶対喜びますわ!」

リリアンは、幼い頃から面倒を見ていたせいか私の事を尊敬してくれていて身分が違うのに様付けで呼ぶ。何度か咎めたが、尊敬している人に敬意を払うのは当然だと譲らなかった。

……イアンとそっくりだ。

ブロンテ侯爵家は暖かいといつもエリザベス様がおっしゃっている理由が分かる。イアンもリリアンも、私という人間を見てくれる。平民なのに、なんて口が裂けても言わない。

「良いわねぇ。カーラは絶対喜ぶわよぉ」

ソフィアがリリアンと一緒にルビーの棚を物色しはじめた。ソフィアはずいぶん明るくなった。初めて会った時は、誰も信じていない。そんな顔をしていたのに。イアンがソフィアの上司になってからリリアンと親しくなり、ソフィアは人間らしくなった。散々親に利用されていた彼女も、しっかりと自分の意思で歩けるようになった。

ソフィアが明るくなった大きな理由は、ポール様との出会いだろう。状況は違えど親に恵まれなかった二人は、仕事を通じて信頼関係が生まれたようだ。リリアンにすら弱みを見せなかったソフィアが、ポール様の前では年相応の少女になる。

まさかリリアンとポール様を取り合ってキャットファイトをするとは思わなかったがな。ポール様は困っていたそうだが、実はソフィアが自分の意思を貫こうとしたのは初めての事だ。

ポール様の選択によって未来は変わる。選ばれなくても、きっと彼女達なら現実を受け止めて生きていけるだろう。けど……私の我儘だと分かっているが……叶うならばリリアンもソフィアも幸せになって欲しい。

リリアンとソフィアが選んでくれたブローチは、素晴らしい品だった。私は店主にブローチの加工を頼み、店を後にした。
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